岸田総理によるインディアン・エクスプレス紙への寄稿
本日から、私はインドを訪れます。太平洋とインド洋という世界のダイナミズムが交差するこの地を再び訪れることができ、大変うれしく思います。今から1年前の3月19日、ロシアによるウクライナ侵略という国際秩序の根幹を揺るがす事態を前に、私はインドを訪問し、モディ首相と、インド太平洋のみならず、いかなる地域においても、力による一方的な現状変更を許してはならないこと、国際法に基づき、紛争の平和的解決を求める必要があることを確認し、こうした状況だからこそ、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の実現に向けた取組を一層推進していくことが重要であることを確認しました。共にアジアを代表する民主主義国として、日印の揺るぎない信頼と緊密な連携こそが、地域の平和と繁栄の礎であると確信しています。
国際社会は今、歴史的転換期にあります。食料危機や肥料価格の高騰を含め、その影響はインド太平洋地域にも及んでいます。食料安全保障、気候・エネルギー、透明で公正な開発金融等の国際社会が直面する様々な課題に効果的に対応していくためには、G7とG20(金融・世界経済に関する首脳会合)との連携が一層重要です。G7、G20がそれぞれどのような役割を果たせば喫緊の課題を乗り越えることができるのか、本年それぞれの議長を務める者同士、モディ首相と腹を割って議論したいと思います。
また、この機会に、自由、民主主義、人権、法の支配といった価値や原則で結ばれたインドとの二国間関係を多層的に深化させていきたいと考えています。両国民の長きにわたる交流に支えられ、日印関係は様々な分野において進展を見せてきました。特に、日印の旗艦プロジェクトである高速鉄道事業や、昨年両国が発表した5年間で5兆円の官民投融資目標が順調に進展しているのは喜ばしいことです。また、デジタル分野に強みがあるインドのスマートシティ計画は、我が国のデジタル田園都市国家構想と親和性が高く、こうした分野での協力も日印間で更に推進していきたいと考えています。インド北東部の開発協力についても、周辺地域との連結性を高めることで、潜在性を最大限に発揮することが可能になるでしょう。その他、安全保障分野における協力はもちろん、新型コロナウイルス感染症がようやく収束の兆しを見せ始める中、両国の人的交流もより一層促進させていきます。
さらに、今回の訪印では、ICWA(インド世界問題評議会)主催の講演会にて、FOIPについてお話しする予定です。FOIPは、日印が共有するビジョンであり、広く国際社会の支持・賛同を得て、「インド太平洋」の主流化をけん引してきました。そして、この時代の転換期において、国際社会を分断や対立ではなく協調に導くという日印の共通の目標に向けて、FOIPの重要性は更に高まっています。FOIPの始まりの地であるこのインドで、「インド太平洋」の未来について、皆様と語り合いたいと思います。
2014年に安倍総理とモディ首相が日印関係を「特別戦略的グローバルパートナーシップ」に引き上げることを発表した際、両首脳は、両国関係の可能性をアジア及び世界の平和、安定及び繁栄の促進のために最大限に発揮することを誓いました。両国がそれぞれG7及びG20の議長国を務める今、モディ首相と共にこの誓いを改めて果たし、この地域と世界をけん引していくべく、全力を尽くしてまいります。
インドの皆様に1年ぶりに再会できるのを楽しみにしております。