岸田総理によるエル・パイス紙への寄稿文
NATO首脳会合出席に当たっての日本のヴィジョン
ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を踏みにじるのみならず、エネルギーや食料価格の高騰をもたらし、世界経済や人々の暮らしに大きな影響を及ぼしている。今回のマドリードでのNATO(北大西洋条約機構)首脳会合は、ポスト冷戦期の次の時代を占う重要な局面となる。
我々は、ウクライナ危機により、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であることを改めて認識した。「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」との強い危機感の下、日本は、対露外交を根本的に転換することを決断し、同志国と連携して、強力な対露制裁やウクライナ支援に取り組んできた。今回の首脳会合でも、ウクライナ危機への対応について率直に議論を交わし、NATOを始めとしたパートナーとの連携を一層強化していきたい。
さらに、今回の首脳会合は、インド太平洋地域の平和秩序にとっても大きな意義を有する。今回の会合にはインド太平洋地域のパートナーも招待され、私自身、日本の総理大臣として初めてNATO首脳会合に出席する。NATOがこの地域への関与を強めていることの証左であり歓迎したい。今回12年ぶりに改訂されるNATOの「戦略概念」においても、インド太平洋地域への力強いコミットメントが示されることを期待。
ウクライナ危機が続く中にあっても、日本を取り巻く安全保障環境は、一段と厳しさを増している。東シナ海や南シナ海では、国際法に従わず、力を背景とした一方的な現状変更の試みが続いている。さらに、北朝鮮は、新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)を含め、かつてない頻度で、かつ新たな態様での発射を繰り返すなど、安保理決議に違反して核・ミサイル活動を活発化させており、国際社会に対する明白かつ深刻な挑戦。
日本は、ウクライナ危機や東アジアの厳しさを増す安全保障環境も踏まえ、本年末までに新たな国家安全保障戦略を策定し、5年以内に防衛力を抜本的に強化する決意。いずれの国もその国の安全を1か国だけで守ることはできない。私自身、強力に「新時代リアリズム外交」を展開し、外交と安全保障を両輪として動かしていく。
インド太平洋地域の平和秩序を守り抜いていく上で、NATO各国との協力が決定的な役割を果たす。そうした観点から、スペイン政府がインド太平洋大使を任命するなど、地域への関心を高めていることを歓迎。昨年のグアム沖に続き、先般、ジブラルタル海峡沖で、日本の海上自衛隊とスペイン海軍との共同訓練が行われるなど、実践的な協力が進んでいることは喜ばしい。日本は、来年春までに「平和のための『自由で開かれたインド太平洋』プラン」を作成し、同志国との連携を一層強化していく決意。
また、日本は、唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」との理想の旗を高く掲げ続ける。ロシアが行っているような核兵器の威嚇、ましてや使用は、決して許されない。核軍縮の機運を再び高めるため、私自身、リーダーシップを発揮し、現実的な道筋についての議論をリードしていく。さらに、日本は、国連安保理改革を含む国連の機能強化に向けた議論を主導していく。
今回のNATO首脳会合を、日本とNATOの結束、ウクライナへの連帯を世界に示すとともに、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けたNATOとの協力関係を新たな次元に引き上げる機会としたい。