日経リスキリングサミット
令和6年9月4日、岸田総理は、都内で開催された日経リスキリングサミットに出席しました。
総理は、特別スピーチにおいて次のように述べました。
「皆様おはようございます。御紹介いただきました、内閣総理大臣の岸田文雄です。本日はお招きいただきまして、誠にありがとうございます。
このサミットには、2022年から3年連続で参加させていただいております。私の掲げた新しい資本主義の考え方の下で、人への投資は、大変重要な位置付けを占めています。政府として、ジョブ型人事の導入、労働移動の円滑化、リ・スキリングによる能力向上支援、この3つからなる、三位一体の労働市場改革を進めてきましたが、これらの改革を社会に根付かせる観点から、このサミットは大きな役割を果たしています。3年前、初めてこのサミットに出席させていただいた当時、まだリ・スキリングという言葉自体が、日本の経済社会において十分に定着していなかった。こんな雰囲気を考えますときに、この3年間の変化は大変大きなものがあったと思っています。本日も、議論が大いに盛り上がりますことを期待しております。
さて、総理就任以来、新しい資本主義の下で、成長と分配の好循環を目指してきました。過去30年間日本を覆い続けた低物価、低賃金、低成長、縮み志向のデフレ型経済から抜け出し、成長型経済に移行していくこと。これを何としても実現しなければならない、こうした強い思いを持って取り組んできました。
その結果、実に30年ぶりとなる5パーセントを超える春季労使交渉の賃上げ、100兆円を超える攻めの設備投資、海外投資家が評価する企業ガバナンス改革、史上最高値水準の株価、そして名目GDP(国内総生産)も初めて600兆円の大台を超えるなど、新たな経済ステージへの移行の兆しが確実に見えてきています。
このチャンスを逃さない、絶対に後戻りさせない。こうした強い決意をもって、取組を進めていく必要があります。
日本が、この正念場を乗り越えて、成長型経済へと移行していくためには、DX(デジタル・トランスフォーメーション)・GX(グリーン・トランスフォーメーション)などの社会課題解決を成長のエンジンにできるかがカギとなります。
非連続的なイノベーションが絶え間なく起こる、DXやGXの潮流は、個人に必要とされるスキルや、労働需要を、大きく変化させることになります。人生100年時代に入り、就労期間が長期化する一方で、DX・GXによって産業の成長・衰退のサイクルが短期間で進む中、働き方は、大きく変化しています。
キャリアは会社から与えられるものから、一人一人が自らのキャリアを選択する時代となってきました。職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、働き手が自分の意思でリ・スキリングを行え、そして、職務を選択できる制度に移行していくことが重要です。若い方もシニアの方も、年齢にかかわらず、能力を発揮して働くことができる環境整備をしてまいります。
また、今年に留まらず、来年も、再来年も、持続的な賃上げの定着のためには、春季労使交渉における労使の協力に加えて、労働生産性やマークアップ率の向上を通じた、付加価値の拡大が必要となります。
内部労働市場と外部労働市場をつなげ、社外からの経験者採用にも門戸を開き、働き手が自らの選択によって、社内外に労働移動できるようにしていくことが、持続的な賃上げの推進と日本経済の成長のためにも急務であり、ジョブ型人事の導入の重要性がここにあります。
先月末には、ジョブ型人事を先行して導入した20社の企業に御協力いただき、導入範囲、等級・報酬制度、採用・キャリア自律支援などが具体的に分かるように情報提供いただいたジョブ型人事指針を策定し、公表いたしました。
そもそも、我が国では、一旦就職をすると、学び直しをしなくなる傾向がありましたが、その背景には、年功賃金制などの、戦後に形成された人事システムがあります。
従来は、新卒一括採用中心、人事異動は従業員でなく会社主導、企業から与えられた仕事を頑張るのが従業員であり、将来に向けたリ・スキリングがいきるかどうかは人事異動次第。従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくいシステムでありました。
先行企業を見ると、ジョブ型人事の導入により、社員のエンゲージメントスコアが向上し、リ・スキリングの受講者が3倍になった例も見られます。本日、御参加の企業の皆様にも、自社のスタイルに合ったジョブ型人事の導入を検討するに当たって、ジョブ型人事指針を参考にしていただければと思います。
リスキリングサミットの初日は、人的資本経営をテーマに、リ・スキリングに取り組まれている企業の最新事例がいくつも紹介されたと聞いています。
政府としても、三位一体の労働市場改革の取組の中で、個人のリ・スキリングを直接支援する施策の強化や、生活安定性を維持したままでリ・スキリングを推進するための環境整備を進めています。
まず、働く個人が、主体的にリ・スキリングに取り組むことができるように、個人への直接給付である教育訓練給付の給付率を、これまでの最大70パーセントから80パーセントに今年10月から引き上げます。
また、働く個人自らの選択による労働移動の円滑化という観点から、失業給付制度について、自己都合で離職する場合にも、在職中などからリ・スキリングに取り組んだ場合には、会社都合の離職と同様に給付制限期間なく失業給付が受け取れるよう、雇用保険法の改正を行ったところであり、来年4月から施行いたします。
さらに、人手不足が目立つ、自動車運送、建設、製造・加工、介護、観光、飲食といった職種について、業界団体などによる民間検定を政府が認定する新たな枠組みを創設いたしました。既存の公的資格でカバーできていなかった産業・職種のスキルの階層化・標準化を進めるとともに、そのスキルの習得を行う場合には、本年秋から、新たに教育訓練給付の対象に追加し、支援を行ってまいります。
2日目となる本日は、地方創生とリ・スキリングをテーマに、議論が行われると伺っております。
これまでも言われてきたとおり、地方経済では、そもそも雇用機会がない、あるいは、職種に見合った人材がいないがリ・スキリングも難しいといった、深刻な課題があると認識しています。
この課題を乗り越えるために必要なカギが、地方と成長産業の掛け算であると、私は確信しています。
例えば、台湾の半導体メーカーが熊本県に工場建設を決定したことをきっかけに、熊本市に、半導体エンジニアを育成するリ・スキリング施設が設けられました。
また、九州を皮切りに、半導体企業と大学・高専などが参画する産学官連携の半導体人材育成コンソーシアムが、北海道、東北、関東、中部、中国地方など、全国的に次々と組成されております。
こうした取組は、企業の成長や、賃上げ、雇用の拡大にとっても大きな機会になると同時に、地元経済の成長につながることを期待しています。
30年続いた縮み志向から脱却し、日本経済を確実に成長型経済に移行するためには、こうした事例を全国各地で、様々な分野で、増やしていく必要があります。
経済対策で措置した7兆円規模の国内投資支援などをフルに活用して、全国で良質な雇用機会が創出されるよう、政府としても取組を進めてまいります。
日本全体でリ・スキリングを推し進めていくためには、政府、企業、教育機関、そして個々の働き手の意欲が結集して、三位一体の労働市場改革を進めていくことが不可欠です。
本日お集まりの企業、そして個人として参加されている皆様、リ・スキリングによる日本の成長に向けて、共に取り組んでまいりましょう。
結びになりますが、今回の日経リスキリングサミットが、官民を挙げた人への投資の起爆剤となること、そしてお集まりの皆様のますますの御健勝、御活躍を祈念し、私からの御挨拶とさせていただきます。御清聴、誠にありがとうございました。」