障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部
令和6年7月29日、岸田総理は、総理大臣官邸で第1回障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部を開催しました。
会議では、旧優生保護法をめぐる経緯等及び障害を理由とする差別の解消に向けた取組について議論が行われました。
総理は、冒頭の挨拶で、次のように述べました。
「7月17日、私は、旧優生保護法の国家賠償請求訴訟の原告団の方々にお会いし、筆舌に尽くし難(がた)い苦難と苦痛に満ちた経験をお伺いするとともに、政府を代表して、心から謝罪を申し上げました。
訴訟については、その場でお約束したとおり、原告団の方々と直ちに協議に入るとともに、除斥期間による権利消滅の主張の撤回についても既に準備書面の提出を終えるなど、早急な解決に向けた取組を進めています。
17日の面会の場では、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重しながら共生する社会の実現に向けて、最大限の努力を尽くすこともお約束申し上げました。
先週、北海道において、障害のあるお子さんとその御家族を真ん中にして、地域で支えている取組を視察し、今後目指すべき共生社会のモデルケースが根付いていることに感銘を受けました。
同時に、御家族の方から『障害のある子供も、一人一人輝ける場所があってどんなところでも大切にされる、そんな国であってほしい』との切実な声をお聴きいたしました。
共生社会の実現に向けては、憲法違反とされた旧優生保護法に基づく施策が、約半世紀もの長きにわたって合憲とされ、数多くの障害者の個人の尊厳を蹂躙(じゅうりん)し、苦難と苦痛を強いてきた重い事実とその教訓を踏まえなければなりません。
過去において障害者が受けてきた差別、虐待、隔離、暴力、特別視は共生社会においてはあってはならないものです。障害への対処において、その取組の責任を障害者個人に見いだす考え方、そして障害者個人への医学的な働き掛けを常に優先し、それのみを手段とする考え方を過去のものにしなければなりません。
障害者への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であり、社会全体が変わらなければならないと考えるからこそ、障害者・障害児行政を所掌する府省のみならず、全府省庁が参加し、全大臣を構成員とするこの本部を立ち上げました。
障害者に対する偏見差別、優生思想の根絶に向け、政府一丸となって取り組んでまいります。各大臣においては、この本部が持つ重みを御理解の上、御協力をお願いいたします。」
また、総理は、締めくくりの挨拶で次のように述べました。
「まず、加藤大臣と小泉大臣においては、旧優生保護法の国家賠償請求訴訟の係属訴訟について、原告が高齢化している現状及び原告団との協議の状況を踏まえ、和解のための合意書の締結等による早期解決を急いでください。
あわせて、新たな補償の仕組みの具体的な内容について、先日の原告団等との面会で述べた基本方針に沿って早急に結論が得られるよう、議員立法の提出に向けて取り組んでいる超党派の議員連盟との検討・調整を加速してください。
当本部においては、冒頭申し上げた、障害者への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという、障害の社会モデルの考え方を踏まえ、障害者に対する偏見差別、優生思想の根絶に向けて、これまでの取組を点検し、教育・啓発等を含めて取組を強化してまいります。
この際、関係大臣に対し、4点指示いたします。
第1に、結婚、出産、子育てを含め、障害者がどのような暮らしを送るかは本人が決めることを前提として、障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、希望する生活の実現に向けた支援を行うことが必要です。
このためには、障害者の地域生活の支援と併せて、障害福祉や母子保健・児童福祉の関係機関・事業所が連携し、必要なサービスの活用や見守り等の支援体制を構築していくことが不可欠であり、本年6月に示されている事例集の周知徹底を図るなど、取組を推進してください。
第2に、障害者差別解消法に基づき、各府省庁において、職員が適切に対応するために必要な対応要領や、事業者が適切に対応するために必要な対応指針を策定しています。取組の実効性が上がるよう、まずは各府省庁が対応要領に基づきどのような研修・啓発を行っているかを点検するなど、PDCAサイクルを回し、取組を強化してください。
第3に、本日説明があった、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を機に策定されたユニバーサルデザイン2020行動計画における心のバリアフリーの取組等は、東京大会のレガシーと言えるものです。
旧優生保護法をめぐる今日の状況やパリ大会の開催を踏まえ、心のバリアフリーに係る学校教育・企業等・地域における取組、国民全体に向けた取組、さらには障害者自身による取組等について、その実施状況をフォローアップするとともに、新たな課題も取り込みつつ、取組の強化を図ってください。
第4に、当本部を中心に今申し上げた取組を進めていくに当たっては、障害当事者から意見を伺うことが不可欠です。このため、当本部の下に置かれる幹事会において、有識者の協力を得て、障害当事者の方から御意見を伺った上で、当本部の成果を取りまとめる体制を構築してください。
こうした基本方針に沿って当本部の議論を進め、障害者に対する偏見や差別のない共生社会を実現すべく、必要な対応策を検討し、当本部の成果として新たな行動計画を取りまとめてまいります。各大臣の御協力をお願いいたします。」