アジア・ビジネス・サミット

更新日:令和6年7月5日 総理の一日

 令和6年7月5日、岸田総理は、都内で開催された第13回アジア・ビジネス・サミットに出席しました。

 総理は、スピーチで次のように述べました。

「皆さん、こんにちは。日本の総理大臣の岸田文雄です。
 本日は、アジア・ビジネス・サミットが盛大に開催されましたことを、心よりおよろこび申し上げます。
 このアジア・ビジネス・サミットは、2010年に、日本経済団体連合会の呼び掛けにより初めての会合が東京で開催され、今回で、13回目の開催となります。
 2015年以来、実に9年ぶりに、東京で、サミットが開催されました。新型コロナウイルスのパンデミックを乗り越え、こうして再び日本に皆さんをお迎えできたことを大変うれしく思います。Welcome back to Japan!
 ホストを務められた十倉会長始め、経団連の皆様にも、改めて、敬意を表し申し上げたいと思います。
 今、国際社会は、歴史の転換点を迎えています。ロシアによるウクライナ侵略や、中東における緊張の高まり、さらには、大国間の競争の激化。世界は、様々な分断と対立の危機に直面しています。
 しかしながら、これからも、アジアが力強い成長を遂げていくためには、この分断と対立を、アジアに持ち込んではなりません。
 私は、日本ならではのやり方で、アジアを平和と繁栄、そして、協調の地域としていくための取組を、進めていきたいと思っています。
 では、具体的に日本は何をしていくのか。
 本日は、グリーン・トランスフォーメーション(GX)と、デジタル・トランスフォーメーション(DX)。この二つの観点で、日本がどのような役割を果たしていくのか、お話ししたいと思っています。
 まず、GXです。一言で申し上げれば、日本は、アジアの脱炭素化を牽引(けんいん)し、アジアに、巨大な脱炭素マーケットを創出していく。そのための協力を推進していきたいと考えています。
 脱炭素化は、地球規模の課題であり、今や待ったなしです。
 世界中の国々が、産業構造を脱炭素型に組み替えるための投資競争を始めています。
 日本では、2050年カーボンニュートラルと、経済成長の両立を目指し、10年間で、20兆円規模の先行投資支援を行い、150兆円の官民投資を実現する、グリーン・トランスフォーメーション、GXを国家戦略として推進することにいたしました。
 そして、ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心に、アジアの国々もまた、脱炭素化に向けた高い目標を掲げ、その実現に向けた取組を始めようとしています。
 そうした中、今後、アジアが持続的に高い成長を実現していくためには、この脱炭素市場へ投資を呼び込んでいくことが、極めて重要です。
 アジアにおいて、カーボンニュートラルを実現しようとすると、10年間で4,000兆円の資金が必要であるという試算もあります。
 日本は、様々な機会を捉え、脱炭素化に向けては、多様な道筋が重要であるということを世界に訴えてきました。
 前提となるエネルギー構造や、産業構造は、国によって多様だからです。この考えは、私が議長を務めたG7広島サミットで、共同声明に明確化され、昨年のCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)や本年のG7サミットにも、しっかりと受け継がれています。
 電力供給の少なくない部分を化石燃料に依存し、製造業を中心とした産業構造を有する日本と、ASEANを中心としたアジアの国々は、極めて似た状況にあります。
 アジアでは、欧州のように、地域横断的にグリッドをつなぎ、電力を供給しあうことも、容易ではありません。
 だからこそ、私は、日本の脱炭素化の経験を、アジアの皆さんとシェアすることで、日本とアジアは、脱炭素化と経済成長を一緒に実現していけると考えています。
 そのための枠組みとして、インドネシアを始め、高い野心を持ったアジア各国の皆さんと共に立ち上げたのが、AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)です。
 2022年1月、私は、総理大臣になって初めての施政方針演説で、AZECを提唱しました。
 その後、昨年12月には、東京で、初めての首脳会合を開催しました。
 アジア各国の首脳の皆さんと膝を付き合わせて議論を行う中で、AZECへの期待や、日本の技術や知見に対する期待など、大変前向きな声を数多く頂きました。
 私は、このAZECは、アジアの脱炭素化を推進するエンジンとなり、プラットフォームになっていくと確信しています。
 今年の秋には、ラオスで第2回の首脳会合を開催できないか、調整を進めています。
 昨年が、AZEC発足の元年だったとすれば、2年目に当たる今年は、今後10年を見据えた具体的な行動方針を、関係国間で合意する年にしたい。そのように考えています。
 そのため、私は、AZECの今後について、今日3点、提案いたします。
 第1は、電力、運輸、産業部門のゼロエミッション化に向けた、セクター別の協力イニシアティブを立ち上げるということです。
 第2は、それらのイニシアティブを実務面で支えるために、ジャカルタにあるERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)に、アジア・ゼロエミッションセンターを立ち上げるということです。
 ERIAには、言わば、アジアにおけるOECD(経済協力開発機構)のような組織になって欲しいと考えています。
 OECDは、多くのエコノミストを擁し、豊富なデータや分析力をいかし、様々な分野で、ルールやスタンダード形成に貢献しています。
 ERIAも、データの収集や分析を通じ、AZECを、制度面で牽引する機関となって欲しいと考えています。
 そして、第3に、AZECにおけるアジア大での脱炭素のルールなど、越境インフラの整備。いわゆる、面のアプローチを推進することです。
 今後も、日本は、AZEC推進のため、グローバルサウスとの具体的な連携プロジェクトを推進していきます。
 しかし、それだけでは、プロジェクトという点の取組に終わってしまう。
 AZECにとって大事なことは、アジアに一大脱炭素市場を創り出し、世界中の投資、そしてトランジション・ファイナンスを呼び込んでくるということです。
 そのため、サプライチェーンを通じたCO2排出量の見える化に向けた枠組みや、クレジットの取引に関するルールなどの共通のルール整備に取り組んでいきたいと思っています。
 中でも、水素やCCS(二酸化炭素回収・貯留)の協力を進めるための基準の整備に、スピード感を持って取り組んでいきます。 つい先日、日本では、低炭素水素を推進するための法律と、CCSを推進するための法律を成立させました。
 こうした制度の知見をアジアと共有し、アジアに広がる水素サプライチェーンの構築や、国境を越えたCCSのためのCO2輸送などを現実のものにしていきます。
 共通のルールや、インフラによってつながる、共通のアジア市場を創り出していく。これが、AZECが目指す未来であると考えています。
 そして、次にDXについてですが、本日は、DXの中でも、特に、AI(人工知能)分野でのイノベーションをアジアの皆さんと共に進めていきたい。これについて、申し上げたいと思います。
 AIは、産業競争力、さらには、国力そのものを左右する技術であり、世界中で、その開発競争が激化しています。
 AIは、より多くのデータを学習すればするほど賢くなります。
 そのため、テキストデータを活用するLLM、すなわち大規模言語モデルは、英語や、中国語など、より多くのテキストデータが存在する言語で、特に進化が著しい状況となっています。
 もちろん、アジアの我々にとっても、英語や、中国語で学習したLLMを活用することはできます。
 しかしながら、LLMの恩恵を最大限享受しようとすると、やはり、それぞれの国の豊かな言語や文化に根ざしたLLM開発に取り組むべきです。
 日本語は、残念ながら、世界の中ではマイナーな言語で、しかも非常に複雑だと言われています。
 それでも、実は、日本には、そうしたマイナーで、難しい日本語でLLMを開発しているスタートアップが、数多く、存在しています。
 こうした日本のAI技術者のノウハウは、他のアジアの言語でLLMを開発することにも、きっと貢献できるはずです。実際に、日本のAI企業から、アジアに貢献していきたい、という強い意欲が示されています。
 例えば、日本のスタートアップのイライザは、タイ語を学習したLLMを開発し、日本企業とタイ企業のビジネスマッチングに活用していくことを企画中であると聞いています。こうした取組の具体化に向けて、日本政府として支援していきたいと思います。
 さらに、シンガポールやマレーシア、ベトナムなどのアジアの国々の主な企業と、日本のAI企業の連携を促進し、取組の輪を広げてまいります。
 AIをアジアのイノベーションのために活用していく。『AI Innovation for Asia』という理念を掲げ、日本政府としても、しっかりと応援してまいります。
 AI人材の育成についても、私は、アジアと共に取組を進めます。5年間で、10万人の高度デジタル人材育成を行っていくこと、これをお約束しています。
 教育、ビジネスの両面で、日本とアジアの人材交流を進め、AIイノベーションを推進する分厚いコミュニティを、アジアに創り上げていきたい。そして、日本のAI技術で、アジアで、10億人を超える新たなマーケットの創出に貢献していきたい。そう考えています。
 日本とアジアの若者が、切磋琢磨(せっさたくま)しながら、力を磨き、更にAI技術を進化させ、アジアの未来を切り拓いていく。
 そうした時代を共に創っていこうではありませんか。
 そして、AIについて、最も大切なことを申し上げます。それは、AIは人類の発展にとって大きな可能性を秘める一方、大きなリスクもあるということです。
 私は、昨年の広島G7サミットで、広島AIプロセスを立ち上げ、生成AIのリスクに対処するための国際的な取組を前に進めてきました。
 そして、5月には、この広島AIプロセスの精神に賛同する国・地域の皆さんと共に、広島AIプロセス・フレンズグループを立ち上げ、参加者の数は現在53になりました。
 今後、アジアの皆さんとも、安全、安心で信頼できるAIの実現に向けて、ガバナンスの枠組みや技術的なリスク対策について、協力を進めていきたいと考えています。
 本日は、GXとDX、この二つのテーマに絞り、日本が、アジアに平和と繁栄、そして協調をもたらしていくための具体的な行動について、お話させていただきました。
 本日、皆様方から頂いた提言には、GX、DXの他にも、人材交流の促進、ウェルビーイングの実現、さらには、自由で公正な貿易・投資の促進など、アジアの未来を考える際に、大変重要な内容が含まれていると承知しています。
 提言については、しっかりと読ませていただきたいと思います。これらを踏まえて、これからも、アジアの未来のために、共に、取り組んでいこうではありませんか。
 最後に、一つ御紹介させてください。来年、2025年4月には、大阪で、命輝く未来社会のデザインをテーマとする、大阪・関西万博が開幕します。
 日本とアジアの文化が融合する、すばらしい機会になると思いますので、是非、皆様にも、足を運んでいただきたいと思っています。
 結びに、もう一言だけ申し上げるならば、私は、アジアは今や、世界のGDP(国内総生産)の35パーセント近くを占める、グローバルな成長センターだ。アジアの未来は、今や世界の未来を左右する。
 様々な機会で、このようなメッセージを発信しています。
 このアジアの成長を支えておられるのは、本日お集まりになっておられる、ビジネスセクターの皆さんです。
 皆さんには、今日の機会を契機として、アジア全体の更なる発展にますます邁進(まいしん)していただきたいと思っています。
 日本政府のトップとして、日本は、皆さんと共に成長する、良きパートナーであり続ける。
 改めて、このことをお約束し、私の挨拶としたいと思います。
 本日は誠にありがとうございました。」

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