PRI in Person2023

更新日:令和5年10月3日 総理の一日

 令和5年10月3日、岸田総理は、都内で開催されたPRI in Person2023(PRI(責任投資原則)年次会議)に出席しました。

 総理は、挨拶で次のように述べました。

「皆様こんにちは、日本の内閣総理大臣の岸田文雄です。
 投資家の皆様方、日本へようこそお越しくださいました。世界の責任投資を牽引(けんいん)する代表的投資家が集う、PRI in Personを日本で開催できること、大変うれしく思っています。PRI事務局を始め、関係者の皆様の御努力に心から敬意を表し申し上げます。
 9月25日から10月6日までをジャパン・ウィークスとし、このPRI in Personを中心にグローバルなイベントを、連日日本で開催しております。この中で日本において生じつつある大きな変化、とりわけ社会課題の解決と持続的な成長へ向けた、官民の取組を世界に発信したいと考えています。気候変動を始めとする社会環境課題を解決し、持続可能な成長を実現するためには、金融の力が必要不可欠です。
 日本には2,100兆円を超える家計金融資産があります。現在その太宗(たいそう)は貯蓄ですが、これを投資へシフトするための政策パッケージを推し進めています。この投資は、日本のみならず、世界の持続的な成長に貢献するでしょう。気候変動のほかにも、高齢化、災害への対応など、日本が直面する社会課題は実に多岐にわたります。しかし、社会課題は同時に潜在力になりうるものです。正に日本で昔から言うように、「災い転じて福となす」です。
 高齢化は、世界の他の多くの国も、既に、あるいは今後直面する課題です。自然災害への対応は、気候変動の影響が顕在化する中で、世界に緊急性が高まっています。課題先進国としての日本の経験と成果を世界の課題解決のために積極的に提供、貢献していきます。
 鍵となるのは、科学技術を持つ企業の力です。東京大学で、電子情報学を学んだ若い日本の研究者が立ち上げた、スタートアップが伝統的な印刷技術を電子回路基板に応用し、金属材料を7割削減し、CO2排出量を4分の1、必要な水の量、水量を5パーセントにする製品を開発しました。
 こうした新たな技術は、社会課題の解決に不可欠であり、一たび実装されれば、同じ課題に悩む世界の人々の役に立ち、大きな市場を開く可能性があります。世界の課題解決に貢献し、持続的な成長を実現する企業活動と投資を促すための、特に重要な日本の政策を4つ紹介いたします。
 1つ目は、GXすなわちグリーン・トランスフォーメーションです。このグリーン・トランスフォーメーションへの投資です。化石燃料からクリーンエネルギー中心の産業、社会構造への転換は大きな課題ですが、同時に成長の源ともなります。日本では、2050年のネット・ゼロ実現に向け、10年間で150兆円超の官民投資を実現するため、カーボンプライシングの実施方針を含む基本的戦略を本年7月にまとめました。
 まず、世界初の国が発行するトランジション・ボンドを「クライメート・トランジション・ボンド」と名付け、国際基準に適合する形で、本年度から発行いたします。これを通じて、再生可能エネルギーの導入拡大に向けた技術革新、水素等の新たなエネルギー源、鉄鋼、化学、自動車等の産業設備など、民間投資のリード役となる、明確な戦略と先進性を備えた研究開発技術実装等に、20兆円規模の国による先行投資を行います。
 日本企業の技術は、世界の排出削減に貢献するものであり、削減貢献が可視化できるよう、グローバルなルールメイキングもリードしていきます。また、GX経済移行債を皮切りに、トランジション・ファイナンスを更に推進いたします。経済全体を脱炭素に導くトランジション・ファイナンスは、世界の構造転換に必要不可欠であり、本年5月のG7広島サミットでも重要性が確認されました。
 そして、新NISA(少額投資非課税制度)を活用した、日本の一般投資家からグローバルな投資家まで、幅広い投資家層に魅力的なGXに関する投資商品の開発、これを促進していきます。これにより、グローバルな投資家と途上国を含む投資先が、GXに参画する世界を実現してまいります。
 こうした観点から、個人投資家、機関投資家によるGX、ESG投資を、更に進めるための環境整備に向け、金融庁に、サステナビリティ投資商品の充実に向けたダイアローグを年内に設置いたします。
 さらに、アジア諸国を含めた世界のネット・ゼロ実現にも貢献していきます。各国の強みや特性をいかしたトランジション・ファイナンスの実装を進めるよう、GFANZ(グラスゴー金融同盟)日本支部とも連携し、官民でアジアのGX投資を進める、アジアGXコンソーシアムを来年前半に設立いたします。
 2つ目は、社会課題の解決に尽力するスタートアップへの支援です。スタートアップは、社会課題を成長の源に転換する起爆剤となるものです。日本の技術力を支える、今では代表的な製造企業も、戦後直後は20代30代の若者が創業したスタートアップでした。
 世界的な課題解決にチャレンジし、世界と日本の成長をリードするスタートアップを育てるよう、昨年をスタートアップ創出元年として、5か年計画を策定しました。投資額を、5年で10倍の10兆円に拡大していきます。投資推進の一つの鍵がインパクト投資です。
 課題解決へのインパクトに着目し、その実現に必要な技術とビジネスモデルの革新を促す投資であり、投資家のコミットメントが欠かせません。インパクト投資に関する基本的指針を策定し、官民共同のコンソーシアムを本年中に設立するなど、社会変革につながる資金調達の牽引役を果たしていきます。
 実際に脱炭素、水資源、ヘルスケアなど様々な分野で、有望なインパクトスタートアップが生まれています。政府として投資環境を整備し、この動きを更に支援し、グローバルなステークホルダーとともにインパクト投資を有力な市場として発展させたいと考えています。本年設立するインパクトコンソーシアムは、世界に開かれたものであり、皆様の積極的な参画を、是非お願いしたいと考えています。
 例えば、ヘルスケア分野では、G7広島サミットで承認された、「グローバルヘルスのためのインパクト投資イニシアティブ」を、先般の国連ハイレベル会合の機会に立ち上げました。開発期間や民間投資家と連携して、グローバルサウスの課題ニーズに応えていきます。
 3つ目は人的資本の充実です。
 リ・スキリングを始めとする人材育成の充実、大規模な予算の拡充を伴う、こども・子育て世帯の支援、女性の登用拡大など、人的資本の充実は日本と世界の最優先課題です。中長期的な企業価値の向上に不可欠な人的資本の充実について、企業と投資家の対話を促すべく、日本では2023年3月期決算から、上場企業等に人的資本に関する情報開示を求めています。
 さらに、企業による人への投資に対する投資家の関心に応えるため、人的資本などの開示に関する国際的な基準開発の議論に、日本の経験を提供し、積極的に貢献していきます。
 最後に、サステナビリティの取組を促す金融機能の強化です。日本の2,100兆円を超える家計金融資産のうち530兆円程度は、保険や年金として大部分を資産運用業者やアセットオーナーが運用しています。
 また、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資産規模は、約220兆円で世界最大規模となっています。持続可能な社会の実現には、社会課題に応える企業に投資を振り向け、課題に応えない企業には必要な対応を求めること、これが大切です。
 このため、個人の長期投資を預かる資産運用業者や、アセットオーナーの運用力が重要です。これらの運用力向上やガバナンス改善、資産運用業への新規参入と競争の促進など、資産運用立国の実現に向けた政策プランを年内に策定いたします。
 投資を通じて社会課題に取り組むことは、変革に取り組む企業の背中を押し、経済社会の成長、持続可能性を高めることで、資産家の皆様、ひいては皆様に資金を預けた受益者にとっても長期的な収益機会となるものです。正に、受託者責任に基づく、責任ある投資の一環と考えます。
 資産運用業者やアセットオーナーが企業と対話を深め、企業の成長持続可能性の取組を進めるため、資産投資の取組を牽引するPRIへの署名機関が増えること、これは大変有意義です。日本においてもGPIFを始め、多くの機関がPRIに署名しておりますが、更にできるだけ多くの機関が署名することを期待いたします。
 その流れを推し進めるため、政府として所要の環境整備を行い、代表的な公的年金基金、少なくとも7基金、90兆円規模が新たにPRIの署名に向けた作業を進めることをここで表明させていただきます。
 公的年金基金がサステナブルファイナンスへの取組を強化し、その流れを市場全体に波及することを目指してまいります。企業と金融双方が力を合わせ、社会を変える大きなインパクトを生み出し、持続可能で力強い成長を実現していくことは、私の提唱する新しい資本主義の理念に、正に合致するところです。
 トランジション・ファイナンスやインパクト投資を含め、課題解決と成長の両輪を進めるイノベーションへの支援と投資は、理念ではなく実行段階にあります。このため、このアクションを日本政府は、グローバルな投資家の皆様とともに実行していきたいと考えております。御清聴、誠にありがとうございました。」

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