STSフォーラム第20回年次総会
令和5年10月1日、岸田総理は、京都市内で行われたSTSフォーラム(科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム)第20回年次総会に出席しました。
総理は、開会式の挨拶で次のように述べました。
「本日は、お招きいただきありがとうございます。2004年に尾身幸次元財務大臣が創設されたSTSフォーラムは、今年で20年目を迎えると伺いました。小宮山理事長を始め、御出席の皆様とともに、記念すべき節目の年を迎えられることを大変嬉しく思います。
20年という月日の間に、社会や我々の生活様式は科学技術により大きく進歩してきました。引き続き、科学技術の大衆化、つまり、誰もが科学技術の恩恵を受けることができる社会が広がっていくことを期待しています。
例えば、生成AI(人工知能)は、産業、医療、教育などの社会全体に革命的な進歩をもたらす可能性があると言われています。私自身、これまで生成AIの開発企業や若手研究者と対話したり、東京大学でのシンポジウムへ参加するとともに、夏休みを利用して生成AIの演習を受講しました。演習では、日本のAI研究の第一人者である東京大学・松尾豊教授から、大規模言語モデルの開発方法について、自ら手を動かしてプログラミングを実践的に学びました。こうした実体験を通じ、私は、改めて生成AIのポテンシャルを感じるとともに、生成AIが次の時代の科学技術の大衆化をもたらし、更に便利な世の中が実現することを期待しています。一方で、フェイク情報、プライバシーや著作権の保護に対する懸念なども指摘されており、対応が必要です。
そのため、今年5月に私が議長を務めたG7広島サミットでは、信頼できるAIというビジョンに合意し、私から広島AIプロセスを提案しました。信頼できるAIの実現に向けて、ガバナンスや透明性の促進などについて、現在、日本が主導して国際ルール作りを進めています。STSフォーラムでは、G7以外の様々な国からも、生成AIをめぐる課題について、是非御意見をお伺いできればと思います。生成AIに限らず、科学技術には、光と影の側面があり、これはSTSフォーラム創立以来、絶えず議論されてきた重要なテーマと理解しています。今後も、イノベーションの推進と、それに伴う社会への負の影響や倫理的な問題などに対して、真摯に向き合い、持続可能な未来のために科学技術の利用を進めていくことが重要です。
また、気候変動やエネルギー問題などのグローバルな課題の解決に向けて、科学技術を通じた国際協力や人材育成、サイエンス・ディプロマシー(外交のための科学)が不可欠です。そのため、G7広島サミットでは、先端技術、研究インフラ及び高技能な人材ネットワークの開発の支援や、国際的な人材の移動及び循環の促進に合意しました。コロナ禍で滞っていた国際頭脳循環を、今こそ強く推し進めていくことが重要であり、我が国が先陣を切って貢献していくという思いを持っています。
このSTSフォーラムは、世界のオピニオンリーダーが一堂に会し、同じ目線で議論できるネットワーキングの場として、大変貴重なプラットフォームです。今後とも多くの科学者、企業経営者、政策立案者などに参加いただき、科学技術協力の輪を世界中へ広げていってほしいと思います。
ここで、20周年を迎えるに当たり、科学技術の平和利用と国際連携の重要性について、改めて強調したいと思います。G7広島サミットでは、私は世界のリーダーたちと共に、平和記念資料館の視察や、被爆者との対話等を行い、命の大切さと平和の尊さを再確認しました。また、ここ国立京都国際会館は、日本初のノーベル賞受賞者である湯川秀樹博士が、1975年に、核兵器のない世界に向けて世界の科学者が集う、パグウォッシュ・シンポジウム(科学と国際問題に関する会議)を初めて主催した場所です。さらに、この会館は、1997年に、京都議定書が採択され、気候変動というグローバルな問題に、世界が一丸となって取り組み始めた場所でもあります。こうした、平和を追求し、世界的な課題に挑戦する歴史的イベントが行われた土地で、科学技術の未来に向けた議論がなされることを大変嬉しく思います。
私たちは、これまでの20年のレガシーを受け継ぐとともに、今後の20年、更にその先の未来をどう切り拓(ひら)いていくか、考えねばなりません。そして、理想の未来を実現する鍵の一つは、科学技術にあると私は信じています。最後に、皆さんに伺います。皆さんはどのような未来を作りたいですか。そして、それを作るためには、我々はどのように科学技術を育て、使っていくべきでしょうか。皆さんの活発な議論を楽しみにしています。御清聴ありがとうございました。」