令和臨調
令和5年7月22日、岸田総理は、都内で開催された令和臨調に出席しました。
総理は、挨拶で次のように述べました。
「皆さん、こんにちは。内閣総理大臣の岸田文雄です。
本日は、令和臨調1周年を記念するこの会に、お招きいただき、誠にありがとうございます。日本の各界を代表するリーダーの皆様方を前にしてお話しさせていただく機会を頂きましたことに、心から感謝申し上げます。
改めてこの一年振り返りますとき、ロシアによるウクライナ侵略、コロナとの闘い、世界的な物価高騰、またエネルギー危機や半導体不足、さらにはグローバルなサプライチェーンの混乱など、何十年に一度と言われるような事案が次々と起こってきました。そうした課題に懸命に対応する。こうした一年であったと感じています。
こうした重大な事案が次々と襲ってくる、起こってくる、これは、正に経済においても、また国際社会においても歴史の転換点を迎えているからだ、ということだと思っています。この点については、5月に行われましたG7広島サミットの場においても、議論の当然の前提として各国首脳が異口同音に述べていた。これは大変印象的でありました。
こうした中で、私自身、また私の内閣の基本方針として、先送りできない課題に正面から取り組み、一つ一つ答えを出していく。これが我々の歴史的な使命であるという覚悟を持って職務に当たっていく。こうした思いで、様々な課題に取り組んできました。
冒頭は8分、短い時間ですので、3点だけポイントになる点を申し上げたいと思います。経済と外交と、そして日本の社会ということで3点申し上げます。1点目、経済でありますが、この経済につきましては、私はやはりキーワードは持続可能性というものであると思っています。
今、この世界全体、国際社会全体の中で、市場や競争、マーケットや効率に任せていただけでは、資本主義が持続できない格差や、あるいは気候変動など、こうした課題を前にして、持続可能な資本主義の新しいモデルを模索しなければならない。これ世界各国が様々な努力を続けています。
その中にあって、私自身は新しい資本主義ということで、人への投資と、そして気候変動等の課題を成長のエンジンにしていく。二兎(にと)を追うことによって、課題解決と成長を実現して持続可能性を維持していく。こうした2つの取組を柱にして、経済について政策を進めてきました。
実際、こうした取組の中で、30年ぶりの賃上げの動きですとか、100兆円を超える国内投資の動きですとか、33年ぶりの株価の高騰など、この前向きな動きが出ている。これは間違いないところだと思っています。しかしながら、大事なのはこれを持続することができるかどうかという点だと思います。
人への投資を消費につなげ、次の成長につなげ、成長の分配の好循環を実現する。人への投資は大変重要だと思いますが、人への投資これを持続することができるのか。三位一体の労働市場改革等を行うことによって、この人への投資を構造的な賃上げにつなげていく、持続的な人への投資につなげていく。こうしたところがポイントだというふうに思いますし、また気候変動等の課題に対する様々な投資課題を成長のエンジンに変えていく。こういった取組についても、今世界で政策競争と言われるような状況が起こっています。アメリカにおいては、インフレ削減法という法律のもとに、生産量比例型で10年間で大量の投資を行う。こうした取組が進められています。
ヨーロッパ、EU(欧州連合)においては、ネットゼロ産業法という法律のもと、官民合わせて10年間で140兆円という大きな投資が打ち出されています。そして、我が国においても、成長志向型カーボンプライシング構想によって10年間で150兆円の官民の投資を行う。こうした構想が打ち出されました。このように、人への投資、そして課題解決のために成長のエンジンをこの課題に当てて動かしていく。こういった世界的な動きを持続させることができるかどうか。これが1つ課題だと思います。
2つ目の外交ということについて申し上げます。外交におけるキーワードは、対立や分断から協調への動きを再び取り戻すことができるか、こうしたことではないかと思っています。
今、国際社会においては、もともと米中の対立の深刻が指摘されてきたわけでありますが、ロシアによるウクライナ侵略によってロシアと欧米諸国が厳しく対立する。そしてその真ん中にグローバルサウスと言われるような中間国、最も大きな勢力として存在している。こうした構図の中で、国連の安全保障理事会の理事国が隣の国を侵略してしまう。こういった事態が発生し、国際秩序をどう維持していくのか、これが大きな議論になっています。そして、それに対しては、改めて国際社会が寄って立つ根源的な理念、これをもう一度みんなで確認することができるか、そしてもう一つは、国連を始めとする国際的な議論の場を再構築することができるか、この2つに懸かっているのではないかと思います。
5月のG7広島サミットにおいても、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序、こうした理念の下に集まろうということで、G7だけではなくして、インドやブラジル、インドネシアといったこうした中間国、そしてウクライナのトップも同じテーブルについて、この理念の下で一致し、協力をしていく。こういった結論に至ったというところが、歴史的な重みではないかと思っています。そして、あわせて、国連改革についても、安保理改革の動き、今まで消極的であったアメリカですら、ようやく今、この問題に取り組もうとしている。もともと日本はインド、ブラジル、ドイツと共にこの改革に取り組んできたわけですが、この安保理常任理事国の中でもフランスは前向きであります。
また、アフリカ諸国はもともとこの問題について考え方を明らかにしていました。こうした議論から具体的な行動に移していく段階を迎えている。そして、安保理改革だけではなく国連においては、総会ですとか、事務総長の役割ですとか、この国際社会が今、分裂の危機にあると言われている中にあって、国連の改革、これも大変重要ではないか、このように思っています。
そして、3つ目、社会ということで申し上げますと、やはり社会の議論において、キーワードになるのは人口減少だと思っています。そして、この人口減少という国家的な課題に取り組むためには、次元の異なる少子化対策とデジタル社会への変革、この2つを車の両輪にして、経済社会を変革していく。こうした取組が重要だと思っています。
2030年代に入ってしまうと、日本の人口、特に若年層のこの減少のスピードが格段上がってしまう。よって、2030年に至るまでが正念場だと言い続けてきました。そうした危機感を持ちながら、次元の違うこども子育て政策を進めなければならない。
児童手当を始めとする様々な支援。こういった様々な支援策、あるいは様々な制度、これを充実させていく。これはこれまでも次々と行われてきたことではありますが、やはりこうした制度をいかすためには、使いこなすためには、社会自体の意識が変わらなければならないということで、支援や制度の改革と併せて社会の意識も改革しなければならない。
こういった国民運動をスタートしようではないかということで、ちょうど今日の令和臨調が終わった後ですね、政府としても国民運動のキックオフを行う、こういったことを予定しているところです。
そして、こうしたこども子育て政策と併せて、デジタル社会への対応、これを考えていかなければなりません。スマート農林水産業ですとか、観光DX(デジタル・トランスフォーメーション)ですとか、遠隔医療ですとか、遠隔教育ですとか、あるいは今まで多くの先人たちが挑戦してきた地方創生という課題もなかなか乗り越えられなかった課題、これデジタルの力で乗り越える努力をしていこう。こういったことで、デジタル田園都市国家構想を打ち出しているわけですが、あわせてこうした人口が減少するということになってきますと、従来行政においても、あるいは産業においても行われていたサービスを維持できなくなるかもしれない。こういった危機でもあるわけですが、あわせて世界の政府を見ますと、その国民のニーズが多様化する、複雑化する。これに応えていかなければならないということで、どうしても政府が巨大化していってしまう。こういった傾向にあります。
こういったときに、改めて小さくて大きい政府を作ることができるか。これは大きな問題で重要な問題意識だと思っています。
大きくて小さい、矛盾するような言葉ですが、要はですね、効率が良く大きな仕事ができる。こうした政府であります。ですから、こういった政府においては、従来、国があって都道府県があって市町村があって、上意下達のこの行政組織があったわけでありますが、国が国全体にこのデジタルのインフラ、5Gや海底ケーブルや光ファイバー、こうした基本的なインフラをしっかりと敷き詰めて、その上に国民に一番身近な市町村がデジタルを通じた、国民に寄り添った行政サービスを行う。それを都道府県がつないでいく。こうした行政を考えていくべきではないか。こうしたデジタル行財政改革、こうしたものも考えていくべきではないか。こういったことを少子化というキーワードの中でも考えています。
以上、経済、外交、そして社会という課題において、キーワードを中心に要点だけ申し上げさせていただきました。今日もいろいろな御質問をこれから頂くと承知しております。是非、今ポイントだけ申し上げましたが、今言った論点について是非議論を深めさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。ありがとうございました。」