日本経済団体連合会審議員会
令和4年12月26日、岸田総理は、都内で開催された日本経済団体連合会第11回審議員会に出席しました。
総理は、挨拶で次のように述べました。
「皆さんこんにちは。内閣総理大臣の岸田文雄です。
本日は、第11回の日本経済団体連合会審議員会にお招きいただき、誠にありがとうございます。
早いもので、昨年10月に内閣総理大臣に就任してから、1年3か月近くがたちました。
この間、本当に多くのことがありました。昨年11月には、海外におけるコロナ・オミクロン株の爆発的流行に直面し、海外からの外国人入国ストップという前例のない措置を決断しました。
今年2月には、ロシアによるウクライナ侵略が起こり、これまでの我が国の対ロ政策を大きく転換し、G7とともに、即座に厳しい対ロシア制裁に踏み切ることとなりました。
そして、石油、天然ガス、石炭などエネルギー全般に及ぶ歴史上初めてのエネルギー危機にも直面しました。また、世界的なエネルギー・食料の価格高騰にも直面しました。
そして、7月の参議院選挙の投票日直前に、安倍元総理の銃撃という日本人全体に衝撃を与えた事件が起こりました。
さらには、秋の臨時国会では旧統一教会関連の問題が、大きな議論となり、与野党間の喧々諤々(けんけんがくがく)の議論を経て、大多数の野党の賛成も得て、新法を成立させることができました。
こうやって1年間を駆け足で振り返ってみますと、何十年に一度の出来事に次々と直面し、一国の最終責任者として、自問自答を重ね、厳しい評価を頂くことも承知で、苦渋の決断を次々と行わなければならない、こうした1年でありました。
前例のない厳しい状況に次々と遭遇する巡り合わせを覚悟して、内閣総理大臣の職責に向き合っていきます。
そもそも、今なぜ、前例のない厳しい状況が次々と発生し、そうした事態に遭遇するのか。それは、私たちの世界が、歴史的分岐点を迎えているからだと考えます。
この30年間、世界のグローバル化が進展し、世界の一体化・連携は進みました。しかしながら、国際社会におけるパワーバランスの変化などにより、むき出しの国益の競争も顕著になっています。
また、気候変動、健全な民主主義、技術革新、雇用、少子化など広い意味での持続可能性問題についても、各国の置かれた状況は様々ですが、もはや待ったなしの問題となっています。
個々の問題に、歴代の内閣が、最大限の努力を行って対応してきましたが、政治的に極めて難度の高い問題は、積み残されてきました。
私は、先ほど申し上げたような歴史の分岐点において、総理大臣の職にあるとの自覚をもって、先送りできない問題に正面から愚直に取り組み、一つ一つ答えを出していくことに挑戦していくことが、自分の歴史的役割だと覚悟しています。
この覚悟の下で、年末に取り組んだのが、防衛力の抜本的強化でありました。
今、国際社会が分断し、急速に安全保障環境が厳しさを増しています。ヨーロッパにおいても、また、アジアにおいても力による現状変更の試みが、続いている、また、日本周辺においても、北朝鮮の今年の弾道ミサイルの発射、30回に及びました。弾道ミサイルだけで56発発射されました。日本の上空も弾道ミサイルが飛びました。そして、超音速核兵器、宇宙、サイバー、技術の進歩、これも目覚ましいものがあります。こうした中で、国民の命や暮らしを守るために、防衛力強化は、待ったなしの問題です。そして、防衛力の強化は、世界的な変化の中で、シーレーンの確保、サプライチェーンの維持、抑止力強化による市場攪乱(かくらん)リスクの低減など、円滑な経済活動に直接資する面もあります。是非、国民の皆様とあわせて、経済界の皆様にも御理解いただきたいと思っています。
先送りできない問題として、新しい資本主義の実現も、大変重要な課題だと考えています。
官民が連携して、グリーン、デジタル、スタートアップ、イノベーションなどの社会課題に、人とカネを集めることで、社会課題そのものを成長のエンジンへと転換し、持続可能な新しい経済モデルを作っていく。そうした、新しい資本主義の分かりやすい例は、ちょうど、先週、基本方針を取りまとめたGX(グリーン・トランスフォーメーション)です。
今後10年間で、150兆円を超えるGX投資を官民で実現していく。民間投資を引き出すために、国が、20兆円の規模で、エネルギー転換や、抜本的な省エネに対して、大胆な先行投資支援を行っていきます。
さらに、基本方針には、省エネ、再エネ、原子力などのエネルギー政策について、エネルギーの安定供給のためにも、多様なエネルギー源を確保するため、踏み込んだ方針を掲げました。長年の懸案を、一つずつ前に進めていきます。
急速に円安が進む中、国内投資促進も重要な課題です。半導体、グリーン・トランスフォーメーション、次世代の通信技術、さらには、バイオ、宇宙、戦略分野への国内投資について、7兆円規模の補正予算を確保しました。
既に、経済界は、5年後に年間100兆円という設備投資の見通しを示しておられますが、これを更に前倒しできるよう、我々も全力で後押ししてまいります。
さらに、経団連からも御提言いただいているスタートアップの育成にも、特に力を入れていきます。5年でスタートアップへの投資額10倍増を目指し、人材、資金、オープンイノベーションの観点から、あらゆる政策を講じていきます。
そして、成長と分配の好循環の鍵を握る賃上げです。皆さんの御理解・御協力をお願いしたいと思います。
政府も、中小企業への生産性向上支援、さらには、パートナーシップ構築宣言や、業種別にきめ細かな価格転嫁支援を行うなどの取組を進め、物価高に負けない賃上げにつなげていきます。
この賃上げを中長期的に持続可能なものとしていくために、賃上げと、円滑な労働移動、そして、リスキリング等の人への投資、これをパッケージで進めることによって、構造的賃上げを進めていきます。
最後に外交についても一言触れます。来年日本は、G7の議長国を務めます。そして2年間、安保理の非常任理事国を務めることになります。日本の外交力が問われる1年となります。
国際社会が分断される中にあって、国連やG20を始めとする様々な国際的な議論の枠組みが機能不全に陥っていると言われています。
その中で、G7は、自由や民主主義、法の支配、人権といった普遍的な価値を共有する国だけで議論の枠組みを作ってきました。数年前は、G7はもう時代遅れだと言われたこともありましたが、今この混乱の時代を迎えると、改めて数少ない、機能している枠組みが、G7だと言えます。こうした状況の中で、日本がG7の議長国を務める。この責任の重みをしっかりと考えていかなければなりません。国連においても、安保理非常任理事国として、国連の機能を回復させるため、国連改革を進めていく役割を担っていきます。
今後も、日米同盟を基軸としながら『新時代リアリズム外交』を進めてまいります。中国や韓国とも主張すべきは主張しながら、協力と信頼を深めていきます。
そして、来年は、待ったなしの課題として、全世代型社会保障改革があります。少子化、あるいはこども政策、これは社会全体を維持できるかどうかという大きな課題であり、来年、我が国が、先送りできない問題として、しっかりと向き合わなければならない課題だと思っています。
この1年で、コロナを克服し、日本経済の力強いリバウンドを成し遂げ、新たな国際秩序をしっかりと創っていくための布石を打ってきました。防衛力強化、新しい資本主義、GX、新時代リアリズム外交、さらには、少子化、こども政策など、今年打った布石を、実際に稼働させる、動かしていく、これがいよいよ来年の位置づけになると思っています。
未来の世代に責任を持って、我が国の社会を、日本を、引き継いでいけるよう、経団連の皆様方に、引き続き、力強いお力添えをお願いしたいと思います。
経団連の皆様方の1年間の御理解と御協力に改めて感謝を申し上げ、来年の皆様方の御多幸を心からお祈り申し上げて、1年の終わりに当たりまして御挨拶とさせていただきます。本日は、誠にありがとうございました。」