2022特別講演会

更新日:令和4年12月23日 総理の一日

 令和4年12月23日、岸田総理は、都内で開催された2022特別講演会に出席しました。

 総理は、挨拶で次のように述べました。

「皆様おはようございます。内閣総理大臣の岸田文雄でございます。本日は、日経の特別講演会にお招きいただきまして、誠にありがとうございます。
 時間が過ぎるのは早いもので、昨年10月に内閣総理大臣に就任してから、1年以上、1年3か月近くがたとうとしております。今日は限られた時間ですので、その1年余りにつきまして、時系列でその間を振り返ってお話させていただければと思ってまいりました。
 昨年10月内閣がスタートして、まず、直面した課題は昨年11月、コロナ・オミクロン株、これが海外において爆発的に流行したということがありました。それに対して、ワクチン接種が、高齢者にいきわたるまでの時間を稼ぐために、日本の水際対策、外国人の入国をストップするなど、思い切った水際対策を決断した、そうした取組がありました。
 そして、今年の2月には、ロシアによるウクライナ侵略が起こり、日本は、対ロシア政策を大きく転換することとなりました。厳しい対ロシア制裁に踏み切ったということでありました。
 そして、春以降、世界は、石油、天然ガス、石炭などエネルギー全般に及ぶ、歴史上初めてのエネルギー危機に直面した。こうした事態が起こりました。我が国においても、官民あげて粘り強く交渉し、必要なエネルギー権益、あるいは、ガス輸入、こうしたものを確保する、こうした取組を進めました。
 そして、世界的なエネルギー、そして、食料の価格の高騰にも直面いたしました。欧米においては、40年ぶりの高インフレ率となっています。日本においても30数年ぶりの円安水準の中で、物価高が国民生活に深刻な影響を与えています。
 こういった事態に対して、切れ目のない物価高対策を連続して講ずるとともに、明日の日本のメシのタネ、これをしっかり作っていかなければならない、海外への輸出、国内投資、こうしたものも進めていくことを目的とした、39兆円規模の総合経済対策を策定し、既に今月から始動しております。
 7月には参議院選挙投票日直前に、安倍元総理の銃撃という衝撃的な事件が起こりました。
 さらには、秋の臨時国会で、旧統一教会問題について大きな議論となりましたが、多くの野党の賛成も得て、被害者救済のための新法、これを成立させることができました。
 こうやって1年間駆け足で振り返ってみますと、何十年に一度の出来事に次々と直面いたしました。一国の責任者として自問自答を重ね、厳しい評価をいただくことも承知の上で、苦渋の決断を次々と行わなければならない、こうした1年間でもありました。
 ウクライナ侵略が起こった際に、麻生太郎自民党副総裁から『総理大臣には、平時の宰相と有事の宰相がある。あなたは間違いなく有事の宰相である。』と言われました。有事かどうかはさておきまして、前例のない厳しい状況に次々と遭遇する、こうした巡り合わせを覚悟して、総理大臣の職責に向き合っています。
 そもそも、なぜ今、前例のない厳しい状況が次々と発生し、そうした事態に遭遇するのか。それは、経済においても、従来の資本主義のモデル、これが気候変動等の課題を前にして持続可能性が問われている、行き詰っている、また、国際秩序も、今、世界が分断されている、新しい秩序を模索しなければいけないなど、様々な面で歴史的な分岐点を私たちの世界は今、迎えている、こうしたことが背景にあるんだと考えています。
 この30年間、世界のグローバル化、これが進展しました。世界の一体化・連携は進んだと言われてきました。しかしながら、ロシアによるウクライナ侵略等の事態を受けて国際社会におけるパワーバランス、間違いなく変化しました。むき出しの国益の競争、これも顕著になってきました。
 気候変動、健全な民主主義、技術革新、雇用、少子化など広い意味での持続可能性問題、これについても、各国の置かれた状況は様々で、もはや待ったなしの問題になっている、これが現状ではないかと感じています。
 各々の問題に歴代の内閣が、最大限の努力を行って対応してきましたが、政治的に極めて難度の高い問題については、積み残されています。
 私は、先ほど申し上げたような歴史の分岐点において、総理大臣の職にある、この自覚をもって、先送りできない問題に正面から愚直に取り組み、一つ一つ答えを出していく、こうした挑戦を行っていくことが、私の歴史的な役割であると覚悟しているところです。
 この覚悟の下で、年末に取り組んだのが、防衛力の抜本強化でありました。
 今、力による一方的な現状変更が堂々と行われている、この領土や主権が一方的に害されていく、国際法が次々と破られていってしまう、国際社会が分断することによって、国連等も機能不全に陥ってしまっている。
 一方で安全保障をめぐる環境、日本の領空を5年ぶりに今年は弾道ミサイルが通過をいたしましたが、EEZ(排他的経済水域)にも弾道ミサイルが着弾する。さらには、超音速核兵器ですとか、変則軌道ミサイルですとか、ミサイルの技術は画期的に急速に進歩している、こうした、安全保障環境の厳しさの中で日本はどうあるべきなのか、国民の命や暮らし、本当にしっかりと守ることができるのか、こうしたことを、昨年の暮れから1年間かけて議論を行ってきました。
 1年間、様々な有識者の方々の意見もいただきながら、また、与党での議論も積み重ねながら、また、野党からも様々な御提案をいただいてきました。こうした議論の中で、極めて現実的なシミュレーションを行って、今後5年間で43兆円程度の防衛力整備計画を実行していくこととしたということであります。
 そして、増強した防衛力は、その後も維持・強化しなければならない。そのためには、裏付けとなる毎年度4兆円、今から更に4兆円の安定した財源が必要となる、こうしたことです。
 この4兆円の追加の財源につきまして、4分の3は、国において歳出改革等の努力を積み上げ、集め、重ねてなんとか賄う、こうした目途が立ったわけですが、残りの4分の1、1兆円強について、どのように安定財源を確保するのか、様々な議論が行われました。
 私は、内閣総理大臣として、国民の命、暮らし、事業を守るために防衛力を抜本的に強化していく、そのための裏付けとなる安定財源、これは将来世代に先送りすることなく、今を生きる我々が、将来世代への責任として対応するべきものであると考えました。
 防衛力を強化するというのは、端的に言えば、ミサイルを買うということであります。戦闘機を買うということであります。これを私たちの子どもや孫の世代に押し付けてしまうのか、私たちの世代もその責任の一端を担う、そうした覚悟を持てるかどうか、こうしたことではないかということで、財源議論を進め、そして、与党としてこの一定の結論を出した、法人税等の負担をお願いすることとしたわけです。
 防衛力強化は、世界的な変化の中でシーレーンの安全確保、サプライチェーンの維持、あるいは抑止力強化による市場攪乱(かくらん)リスクの低減など、円滑な経済活動に直接資する面、これも大変大きなものがあります。是非、国民の皆さんとあわせて経済界の皆様方にも御理解をいただきたいと思っています。
 また、先送りのできない問題として、新しい資本主義の実現、これも大変重要な課題であると思っています。先ほども少し申し上げましたが、世界が気候変動等の課題に直面し、今の経済モデルでは、資本主義では持続可能性を維持することができないということで、欧米各国が新しい時代の資本主義のモデルを考えなければならない、こういったことで様々な取組を進めています。是非、日本においても持続可能な経済のモデルを作っていかなければならない。
 そのために様々な社会的課題、グリーンですとか、デジタル、スタートアップ、イノベーション、こうした課題そのものを経済成長のエンジンに変えていくことによって、課題解決と成長の二兎(と)を追う、そのことによって持続可能な経済モデルを作っていかなければならない、これが新しい資本主義の基本的な考え方であります。
 グリーン、デジタル、スタートアップ、イノベーション、こういった分野に、官民が連携して、我が国の人と、カネを大きく集中させ、大胆な投資と改革を進めていく、こうした取組を進めていきたいと思っています。
 分かりやすい例が、ちょうど、昨日、基本方針を取りまとめましたGX(グリーン・トランスフォーメーション)です。今後10年間で、150兆円を超えるGX投資、官民で実現してまいります、そのために、国が、20兆円の規模で、エネルギー転換や、抜本的な省エネに対して、大胆な先行投資支援を行ってまいります。
 その投資の財源は、仮称ですが、GX経済移行債という、新たな形の国債発行によって賄うこと、これを考えています。あわせて、成長志向型のカーボンプライシングによって排出量取引制度なども実現してまいります。
 基本方針には、省エネ、再エネ、原子力等について、踏み込んだ方針を掲げました。
 再エネを最大限導入する、こうしたことに向けて、長年の懸案でありました、北海道から本州への海底直流送電の整備、これを進めてまいります。原子力についても、安全性の確保と地域の理解の確保、これを大前提に、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉への建て替えを具体化するなど、これまでの政策から歩みを進めていきます。
 また、デジタルということについても、今、取組を思い切って進めています。
 まず、強調したいのは、マイナンバーカードの普及でありますが、デジタル社会のパスポートだとマイナンバーカードは位置づけられてきました。しかしながら、普及がなかなか進まないことによって、マイナンバーカードの上に様々なデジタルの夢を乗っけなければならないわけですが、そうした歩みが足踏みをしていた、こういった状況でありました。
 私はこういった状況を前にして、まずはマイナンバーカードを普及をしてからその上に夢を描かなければいけないということで、今年の年初には、マイナンバーカードの申請5,000万件でありましたが、今、足下で、8,000万件を超えるところまで普及を進めてきました。年内には、8,100万件の運転免許証の数を超えるということであります。8,100件を超えるということになりますと、日本国において最も普及した本人確認のできるツールになるということであります。
 このマイナンバーカードの普及の上に夢を描かなければならない、行政、医療、金融、さらには、学生証への利用ですとか、買い物時の年齢確認、コンサートのチケット購入など、本人確認が必要なあらゆる公的・民間サービスを簡単・便利に活用できる社会、これを作っていく道筋ができると信じて、まず普及に努め、一方でアナログ規制の一括見直し、4万件の法令を点検いたしました。
 準備が整ったものについて、次期通常国会で法案を提出いたします。さらには、デジタル時代にふさわしい働き方の実現ということで、デジタル庁を先頭に、霞が関全体で、民間人材の活用を図っています。週2日は民間企業、週3日はデジタル庁勤務、このような新しい時代の働き方が、霞が関改革の先導事例になるということで取組を進めています。
 そして、待ったなしの課題としてそれ以外にも様々な課題、新しい資本主義に関して取組を進めています。
 国内投資促進、これも成長のエンジンを稼働させる上で大変重要な取組であります。半導体、グリーントランスフォーメーション、次世代の通信技術、さらには、バイオ、宇宙、こうした戦略分野への国内投資、補正予算でも7兆円規模を確保いたしました。経済界においては、既に5年後を目指して年間100兆円の設備投資を行う、こうした意欲的な見通しを示されておられますが、これを更に前倒しできるように政府としても全力で取り組んでいきたいと思っています。
 それ以外にも、スタートアップへの取組、スタートアップについて、投資額10倍増を目指して、5か年計画をスタートさせました。かつて、戦後創業のスタートアップ、今、日本経済を牽引する大企業も、かつては戦後創業のスタートアップでしたが、是非、第二のスタートアップ創業ブーム、これを実現していきたい、このようにも思っています。
 そして、成長と分配の好循環を握る鍵、これが賃上げだと思っています。
 物価高に負けない賃上げ、是非、実現していきたいと思います。そして、この賃上げを中長期的に持続可能なものにしなければならないということで、賃上げと、円滑な労働移動、そして、リスキリング等の人への投資、これをパッケージで進めることによって、構造的賃上げを進めていく、こうした取組が成長と経済の好循環を実現する上で重要であるということで取組を進めています。
 これらをしっかり進めることによって、日本も世界に遅れることなく、この新しい時代における持続可能な経済モデルを実現していかなければならないと強く思っています。
 最後に、外交について、一言触れます。来年、日本は、G7の議長国を務めます。そして、2年間安保理の非常任理事国、これを務めることになります。日本の外交が問われる1年になるのだと思います。
 今、国際秩序が大きく揺らいでいる、国際社会が分断されている、しかし、一方で大きな課題に直面している。こういった中で、G7の議長国、今、国際社会が分断される中にあって、国連やG20を始めとする、様々な国際的な議論の枠組みが機能不全に陥っていると言われています。
 その中で唯一G7だけは、自由や民主主義、法の支配、人権といった普遍的な価値を共有する国だけで議論の枠組みを作ってきた、こうした歴史があり、数年前には、G7は時代遅れだなどと言われた時代がありましたが、今こういった混乱の時代を迎えていますと、改めて唯一機能しているのがG7の枠組みではないか、こういったことも言われている中で、日本が議長国を務める、この責任の重みをしっかり考えなければならないと思います。
 国連においても、是非、国連の機能を回復させるために、国連改革を進めていかなければならない、こうした役割を担います。
 日米同盟を基軸としながら『新時代リアリズム外交』をしっかり進めていきたいと思います。
 中国とも、主張すべきことは主張し、そして、責任をしっかりと果たしてもらうことを訴えながら、建設的かつ安定的な関係を進めていなかければいけない。
 韓国とも、我が国の一貫した立場に基づき、緊密な意思疎通を図っていきたいと思っています。
 こうした外交を進めていく、これも来年の大きな課題であります。
 そして、来年は、この待ったなしの課題、我が国に先送りできない問題ということで、さらには、全世代型社会保障改革、これがあります。そして、少子化あるいは子ども政策、これは社会全体を維持できるかどうかという大きな課題であり、来年、我が国が、先送りできない問題として、しっかりと向き合わなければいけない課題だと思っています。
 変化の大きな時代だからといって立ち止まることなく、自らを変えることによって、この激動の時代を乗り越える。コロナを克服し、日本経済の力強いリバウンド、これを成し遂げ、新たな国際秩序をしっかりと創っていくための布石を打っていく。歴史的な分岐点にあって、次の時代への歩みを確実に進めていきたいと思います。
 こうした取組について、今年1年で随分と準備が進みました。この用意した様々な布石を実際に稼働させる、動かしていく、これがいよいよ来年の位置づけであると思っています。是非、未来の世代に責任を持って、我が国の社会を日本を引継ぐことができるよう、皆で努力をしていきたいと思います。是非、こうした決意で、来年に向けて臨んでいきたいと存じます。
 多くの皆様方の御理解と御協力をお願い申し上げて、今日の話を終わらせていただきます。御清聴、誠にありがとうございました。」

これまでの総理の一日