2021特別講演会
令和3年12月23日、岸田総理は、都内で開催された2021特別講演会に出席しました。
総理は、挨拶で次のように述べました。
「本日は日経グループの2021年の特別講演会ということで、この後、十倉経団連会長の御講演も予定されておられると承知しております。
また、会場には日本を代表する企業のトップの皆様方、またエコノミストの皆様方、大勢御出席だと聞いております。改めてこの特別講演会の開催をお喜び申し上げるとともに、せっかくの機会ですので、私の今の政権運営の重点項目、どんな思いで政権を動かしているのか、少し紹介させていただきまして、御挨拶に代えさせていただきたいと存じます。
まず、なんと言いましてもコロナ対策です。
私は、コロナ克服のめどをしっかりつけてから経済のV字回復を目指す、こういった順番で政策を展開しております。
コロナと経済、二兎(と)を追うという手法もありますが、私の政権においては、メリハリをつけて、集中治療、早期回復型のアプローチを採るという基本方針の下、仕事をしている次第です。
今回成立させた経済対策ですが、この経済対策については日経新聞、またエコノミストの皆様方からもいろいろ厳しい評価も頂いているわけでありますが、厳しいコメントこそ、聞く力を発揮してしっかり伺いながら対応、そして実施をしていきたいと考えております。
今回の大型経済対策のうち、直接のコロナ対策に支出するのが13兆円、そしてコロナ禍に直撃された、困窮された方々に対する支え、支援ということで17兆円を投入いたします。
未知のウイルスだからこそ十二分なリソースを用意する、そのリソースをコロナとの戦いに集中投入する、危機のときには“too late,too small”より“拙速、やりすぎ”の方がましであると、こういった考え方に基づいて取り組んでいます。
最近は、オミクロン株という全く未知のリスクが戦いの相手に加わりました。感染力は高いが重症化リスクは高くない、という声もあります。160人超となりました我が国の感染者のうち重症者はまだ出てはおりません。
とは言え、情報はまだ断片的です。感染力の高さや、ワクチンの有効性次第では、医療従事者や高リスク群の方々に大きな影響を与え、我が国の医療提供体制に大きなストレスが掛かるということにもなります。
オミクロン株に対する知見がはっきりするまで、慎重の上にも慎重な対応を採ってまいります。
昨日、我が国初のオミクロン株の市中感染が報告されましたが、我が国は水際対策によって得られた時間的余裕を使って、予防・検査・早期治療という一連の流れを強いものにしていく、こういった取組を加速してまいりました。
さらに、病床や宿泊療養施設の確保、医療機関の連携強化、こうしたことについてもこの2か月間、官邸主導で拍車を掛けて、コロナとの戦いに備えてきたところです。
次に、このコロナ禍の先に見据える新しい経済モデル、新しい資本主義というものについて少し触れさせていただきたいと存じます。
人類が生み出した資本主義は、市場を通じた効率的な資源配分と、市場の失敗がもたらす外部不経済への対応という、二つの微妙なバランスを常に修正することで、進化を続け、長い間、世界経済の成長の原動力となってきました。
しかしながら、資本主義のグローバル化に伴い、その弊害も顕著になってきました。
市場に過度に依存し過ぎたことで、格差や貧困が拡大したこと、また自然に負荷を掛け過ぎたことで気候変動問題が深刻化した、こうしたものもその一例です。
そうした中、世界各国で、こうした弊害に対応するために新たな資本主義のモデルの模索が始まっています。
米国におけるビルド・バック・ベター、あるいはEU(欧州連合)の次世代EU、こういった政策は、こうした問題意識に基づく、新たな資本主義モデルの模索の動きであり、私の、この新しい資本主義という考え方も、軌を一にするものであると考えています。
かつて資本主義の進化の動きは、いずれも欧米発の動きでありました。私は、我が国において、新しい資本主義をいち早く実現することによって、今回の進化においては、日本が世界をリードしていきたいと考えています。これから、世界の首脳とも、こうした問題意識を共有して、グローバルな議論に積極的に貢献していきたいと考えています。
岸田政権の新しい資本主義では、市場や競争に全てを委ねるのではなく、市場の失敗や外部不経済を是正する仕組みを、成長戦略と分配戦略、両面から、資本主義の中に埋め込んで、資本主義がもたらす便益を最大化してまいります。
すなわち、市場や競争に全て任せるのではなく、官民協働で、成長戦略においては、気候変動問題等の課題を成長のエンジンに変え、そして分配戦略においては、格差問題に向き合い、これを循環させることで経済の持続可能性を確かなものとしていきたいと考えています。
我が国の新しい資本主義に関する具体的な取組のうち、私が考えるポイントを4つお話させていただきます。
第1が、人への投資です。
デジタル社会への変革の中で、経済の成長力の源泉は人的投資や無形資産投資です。
我が国の経済社会には、デジタル時代以前の、産業時代の高度成長に最適化したシステムが多く残っています。メンバーシップ型主体の雇用システム、企業内OJTに偏重したリスキリング、縦割り産業組織、こうしたものです。
これらをデジタル時代に最適化した形に変えていく鍵は、人への投資の抜本的強化だと考えます。
役所がメニューを用意して、それに合った職業訓練コースを支援するといった前近代的なやり方は通用いたしません。政策企画段階から民間の知恵を入れたデジタル時代に合った仕組みを工夫して、必要な規模の財政投資を投入するつもりです。是非、経済界の皆様方にも御協力をお願いしたいと考えています。
第2のポイントが、子育て世代・若者世代の重視ということです。
成長と分配の好循環を回していくための鍵は、消費性向が高く、生産性向上の余地が大きい子育て世代、そして若者世代の所得増と人的投資増です。
安倍内閣において行われた種々の改革を受けて、女性の労働参加は進みましたが、子育て負担の偏りや、与えられる機会の制約により、十分に持てる力をいかせていない女性がまだまだ多くいます。
いわゆるリケジョが活躍できる環境整備や、副業による実質的な雇用流動化、これもまだまだです。
私は、ここにデジタル時代の日本の成長力の一つの鍵があると考えています。新しい資本主義実現会議でも活発な御議論を頂きたいと考えています。
第3のポイントが、デジタル社会への変革です。
私はデジタル田園都市国家構想を打ち出しました。構想のポイントは、日本全体を地方からデジタルの力で作り変えるというところにあります。先日訪問した会津若松はそのモデルとして横展開できると感じてきました。
政府の役割は、インフラ、規制、行政を三位一体でデジタル社会に適合したものにしていく、こうした全体像を示し、民間投資を呼び込みながら、政策資源を集中投入していくことです。
まず、デジタル臨調において行政が遵守すべきデジタル原則を策定し、そして4万件の法律、政省令、通知、2万の行政手続などの一括見直しを行うこととしています。
そして第4のポイントが、グリーン社会への変革です。
私は、気候変動問題は、新しい資本主義の中核に位置する問題であると捉えています。エネルギー基本計画といった供給側目線での目標を出すだけはでなくして、経済社会や産業全体が直面する数世代に一回の変革を我が国がどう成し遂げることができるか、経済社会変革の全体像と併せて、道筋を丁寧に示していくことが必要です。
炭素中立の方向に経済社会全体を変革していく、事業者それぞれ、国民それぞれが、仕事のやり方、自分の強みを、そして生活のスタイルを変えていく。カーボンプライシングの在り方、ICTと統合した送配電インフラや蓄電池の強化策、再エネを始め非炭素電源と技術革新の統合、炭素中立型の産業構造への転換スケジュールと、そしてそのための労働市場改革の在り方、こうした辺りが主要論点になると考えています。
以上、駆け足ですが、新しい資本主義について4点紹介させていただきました。
経済界の皆様方、エコノミストの皆様方、さらには投資家の皆様方、是非、この新しい資本主義に御理解を頂き、この新しい資本主義は我が国の歴史的な挑戦であると考えています。政府、民間企業、国民それぞれが新しい時代を拓く努力を協調して進めていく、このことのみによって活路が開けると考えております。
是非、主体的にこの挑戦に御参加いただけるようにお願いさせていただき、御挨拶とさせていただきます。
改めて今日の特別講演会の御盛会をお喜び申し上げます。おめでとうございました。」