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放射線と甲状腺の病気の関連性について

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平成24年4月25日

 福島原発事故後、放射線と甲状腺の病気との関連性が話題となっています。チェルノブイリ原発事故において、事故後、甲状腺がんによって死亡する事例があったためです。これについて、専門家として解説いたします。

 甲状腺は、頸部にある小臓器です。海藻など※1の食べ物に含まれているヨウ素を材料にして、「甲状腺ホルモン」を合成しています。甲状腺ホルモンには、新陳代謝を促進する作用があり、胎児の発育や子どもの成長を促します。一度に体内に取り込むことができるヨウ素の総量は決まっていて、過剰なヨウ素は尿の中に排出されます。体内では、血液中の甲状腺ホルモンが常に一定の値を維持できるような仕組みが働いています。

 余談ですが、甲状腺の病気の治療に使われている甲状腺ホルモン剤は、普段からわが国で約60万人が服用しており、日本ではほとんどがいわき市(福島県)にある工場で製造されていました。工場が大震災に被災したため甲状腺ホルモン剤の製造ができなくなり、治療への影響が懸念されていましたが、現在では工場も復旧し、元通りに供給されるようになりました。

 さて、甲状腺の主な病気※2には、自己免疫の異常が原因で起こるバセドウ病、慢性甲状腺炎(橋本病※3)、甲状腺の機能が低下する甲状腺機能異常症、そして、甲状腺の「結節(しこり)」などがあります。甲状腺の結節には良性のものと悪性のものがあり、悪性のものを「甲状腺がん」と呼んでいます。

 これらの病気のうち、《放射線被ばくが原因で発病すること》がチェルノブイリ事故によって確認されたのは、「甲状腺がん」です。自然界に多く存在するヨウ素とは異なる、放射能を持ったヨウ素131が、甲状腺に取り込まれることで、発症が増加します。また、被ばく時の年齢が若いほどリスクが高いことも、明らかになりました。

 甲状腺がんの診断をする際には、自覚症状の確認も重要なため、患者の訴えをよく聞き、皮膚のうえから甲状腺結節に触れる触診を行います。最近では、超音波検査により、触診で見つからないような小さな結節まで見つけることができるようになりました。最終的には、組織のサンプルを採取して、その細胞にがんの特徴があるかどうかを顕微鏡で見て調べる検査(穿(せん)刺(し)吸引細胞診)によって、結節が良性か悪性かを確かめることもあります。多くの甲状腺がんは進行が遅いため、正確に診断して的確な治療を受けることで、ほとんどの場合、元通りの生活が送れるようになります※4

 国連の報告書 によると、チェルノブイリ原発事故後の甲状腺がんの増加には、あの地域の住民の日常的なヨウ素の欠乏も関係しているのはないかとされています。先ほど述べた通り、一度に体内に取り込むことができるヨウ素の総量は決まっています。そこで、海藻類を食べる習慣のない国と、日常的に海藻類を食べてヨウ素を取っているわが国とでは、外界から新たなヨウ素が甲状腺に取り込まれる余地が異なることになります。つまり、放射性物質であるヨウ素131が同じ量だけ環境中に存在しても、福島原発事故で被災した方の甲状腺の内部被ばくの度合い(=放射性ヨウ素の取り込み量)は、チェルノブイリ原発事故で被災した方よりも少ないはずなのです。

 実際に、これまで福島県で行われてきた、甲状腺の被ばく線量を計る検査の結果 を見る限り、今回の事故による内部被ばくが原因で甲状腺がんになる可能性は、極めて低いと考えられます。しかしながら、万が一に備えて、福島県では県民健康管理調査事業の中で、事故当時概ね18歳以下の全対象者に対して、甲状腺検査が行われています。早期診断と早期治療による、万全の「健康見守り事業」と言えましょう。


 (遠藤 啓吾 京都医療科学大学 学長)


(参考)

  1. ※1.日本人は海藻類をよく食べるので、一般的にたくさんヨウ素を摂取します。例えば欧米諸国では、ヨウ素の不足から生じる甲状腺の病気を防ぐために、法律で食事に一定量のヨウ素を入れるように定め、ヨウ素を補っています。
  2. ※2.甲状腺の研究を行う医師が中心となって活動している主な学会として、日本甲状腺学会があります。会員数は2,050名、甲状腺専門医は466名。甲状腺専門医の名前や専門医施設の名称は、学会のホームページ (外部サイト)から見ることができます。
  3. ※3.1912年に橋本 策 博士(はしもとはかる;三重県伊賀市出身)によって初めて発見されました。橋本病(Hashimoto disease)という病名は、世界で通用しています。
  4. ※4.原子力災害専門家グループからのコメント 5月12日 「祖父母の幸せ―放射性物質のもうひとつの顔」
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