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福島県「県民健康管理調査」報告 ~その1~

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平成24年3月14日

 あの原発事故発生から、1年が経ちました。福島県では、この事故による放射線の影響を踏まえ、将来にわたってしっかりと県民の健康管理をしてゆくために、「県民健康管理調査」検討会を事故3ヶ月後から立ち上げています。福島県からの委託を受けて、福島県立医科大学(以下、医大)が中心となって、事業の推進に最大限の努力を続けているところです。

 この調査は、《県民一人一人の健康見守り》事業として位置づけられ、保健医療サービス全般の向上を目指して、「基本調査」と4つの「詳細調査」を進めています。先日(平成24年2月20日)公開された最新情報に基づいて、検討会の座長(山下)と委員(神谷)が連名で、ここに事業概要をご紹介します。

「基本調査」=全県民の“健康基本台帳”作り

 まず「基本調査」とは、事故後、空間線量が最も高かった時期における外部被ばく線量の推計等を行うためのものです。全県民を対象にして、震災後4か月間の行動記録を中心に、問診票で調査しています。原子力災害においては、その後の健康状態と放射線との因果関係などを正しく知るために、「いつ」「どこに」「どのくらい居たか」「どのように移動したか」など、皆さんの行動記録に基づく、《個々人の外部被ばく線量》が最も重要な情報になります。この調査から得られた情報が、将来にわたって県民の健康の維持、増進につなげていくための基本台帳となりますから、多くの方の参加が望まれています。

 今年1月31日現在で205万7千人に対して基本調査問診票を発送し、43万1千人(回収率21%)の回答を得ています。比較的線量が高いことが予想された先行実施地区(川俣町山木屋地区、浪江町、飯舘村)の2万9千名からは、1万5千人(52.1%)の回答を得ました。このうち、すでに1,727人分の「4か月間の外部被ばく線量推定値」を、昨年の12月に公表しました。そして今年2月20日には、さらに10,468人のデータを解析公表しました。

 この解析によると、放射線業務従事経験者以外の方9,747人については、全体の99.3%が10mSv(ミリシーベルト)未満の被ばくでした。最高値は23.0mSv でしたが、昨年12月にまとめられた「低線量被ばくリスク管理ワーキンググループ報告書」※1にもあるとおり、「これによって、放射線による健康被害が出ることは考えにくい」と評価しています。

 そのように評価しつつも念のため、この調査で線量が比較的高いと評価された方々は、後述の「(2)健康診査」によって、さらに詳細に健康状態を見守って行きます。今後も、この基本調査から得られた線量推定値を健康管理に活かすと共に、問診票記入の支援などをさらに充実させて、検診による健康管理を推進し、多くの方々の不安解消に努めていきたいと考えています。

 次に、「詳細調査」では、(1)甲状腺検査、(2)健康診査、(3)こころの健康度・生活習慣に関する調査、(4)妊産婦に関する調査を行っています。

(1)「甲状腺検査」=2年半で対象者一巡へ

 今回の原発事故発生当日時点で概ね18歳以下だった福島県民を対象に、甲状腺(超音波)検査を実施しています。現時点での放射線量等の状況から考えて、健康への影響は極めて少ないと考えられています。

 ただ、チェルノブイリ原発事故後に明らかになった健康被害として、放射性ヨウ素の内部被ばくによる小児の甲状腺がんが報告されています。これは、事故から数ヶ月の間に、放射性ヨウ素で汚染された牛乳を摂取したことによる内部被ばくが原因だとされています。今回の事故では、発生後の3月17日に食品の規制が行われ、その時点での(特に放射線に感受性の高い)小児への被ばく線量を把握するために、同月24日から30日まで、県内の小児1,080人を対象に甲状腺被ばく検査が行われました。

 検査結果は、99%の小児が0.04μSv(マイクロシーベルト)以下と、低いレベルの甲状腺内部被ばくでした。最も高かった1人が毎時0.1μSvで、原子力安全委員会が設定したスクリーニングレベル(被ばく医療対応が必要とされる指標)である「0.2μSv」を超える子どもはいませんでした。

 さらに、現時点での甲状腺の状況を把握し、よりきめ細やかに児童の健康を生涯にわたって見守るため、昨年10月から約36万人に対象を広げて、甲状腺検査を順次実施しています。既に、先行実施地域では本年2月末までに8割を超す児童(3万人以上)が検査を受けており、大部分の児童に異常は見られていません※2

 ただ、言うまでもなく(事故とは関係なく普段から)、どこであろうと多数の人の健康検査を行えば、「全員異常なし」とはなりません。それと同様にこの検査でも、現在までに3765人中26人の児童の甲状腺に、しこり(結節性病変)等が認められています。これらのしこりは、事故以前から存在していた可能性が高いと考えられますが、今回の26人に限らず今後とも、こうした児童には念のため、さらに詳細な二次検査(詳細な超音波検査、採血、尿検査、必要に応じて細胞診等)を実施して、万全を期します。

 今後は、(被ばくの有無にかかわらず)一定の頻度で必ず発見される甲状腺がんに備えて、詳細な対応を行なってゆく予定です。平成24年度からは、福島市から順次県内全域に検診エリアを拡大し、2年半で対象者全員の1回目の甲状腺検診を終了し、同時に県外の受診機関との協力体制も構築していく予定です。

(2)「健康診査」=放射線の影響チェックを超えて

 避難区域等※3の住民と、「基本調査」の結果から必要と認められた方を対象に、「健康診査」を実施しています。全ての年齢区分について、放射線の影響のみならず、健康状態を把握して生活習慣病の予防やがんなどの疾病の早期発見・早期治療につなげていくことを主眼に、検査項目を設定しています。検査内容は、年齢区分によって異なりますが、身長や体重の測定、血液検査などの項目が主な内容です。

 これまでのところ、この健康診査は避難区域等の住民の皆さんを中心に進めており、今後は県外でも受診していただけるように、準備を進めています。

(3)「こころの健康度・生活習慣に関する調査」=チーム連携で対応

 チェルノブイリ原発事故による健康への長期的影響として、心身における変調が指摘されています。福島県でも、放射線への不安や避難生活等により、多くの方々が精神的な苦痛を受けています。また、大震災によって、近親者を亡くしたり、家屋などの財産を喪失したり、恐怖感を体験することにより、心的外傷(トラウマ)を負った県民も多いと見られます。そこで、県民のこころの健康度や生活習慣を把握し、適切なケアを提供するため、「こころの健康度・生活習慣に関する調査」を実施しています。

 避難区域等の住民と、「基本調査」の結果から必要と認められた方(約21万人)を対象に、「現在のこころとからだの健康状態について」「生活習慣について(食生活、睡眠、喫煙、飲酒、運動)」「最近半年の行動について」「東日本大震災の体験について」などの質問に答えていただく、アンケート形式の調査を行っています。

 この調査の結果、相談・支援の必要があると判断された方には、臨床心理士等による「こころの健康支援チーム」が電話相談などを行います。また、このチームが放射線に関する相談を受けて当該専門医師等の対応が必要と判断した場合には、医科大学の教員による「放射線健康相談チーム」に紹介し、対応しています。更に、そうした放射線の影響による健康相談等のうち、直接診察が必要なケースでは、専門医師等による対応を検討することにしています。

 現在は、講習会でこの取組みを説明し、ほぼ調査票の発送は終了しています。2月末現在で、55の医療機関の医師93名が登録し、4月以降、常駐の医師が電話相談などに対応する予定です。また、小児科対応の県内医療機関は、102施設が登録しています。

(4)「妊産婦に関する調査」=県外からの里帰り出産者も含め

 放射線への不安が特に大きい妊産婦の方を対象にした調査も、実施しています。健康状態等を把握して今後の健康管理に役立てていただくとともに、福島県内で分娩を考えている方々へ安心を提供し、更には今後の福島県内の産科・周産期医療の充実へつなげることをも目的にした取組です。

 県内各市町村で母子健康手帳を交付された方々(約1万6千人)と、県外市区町村で母子健康手帳を交付されたのちに県内に転入または滞在して、3月11日以降に県内で妊婦健診の受診や分娩(いわゆる里帰り出産)をした方々が対象です。「震災後の妊娠健康診査の受診状況について」「妊娠経過中の健康状態について」「出産状況について」「妊産婦のこころの健康度について」 などの質問に答えていただく、アンケート形式の調査を行っています。

 回答内容により、支援が必要と判断された方には、医大の助産師・看護師が電話をかけ、相談に応じることにしています。さらに、医師の対応が必要と判断された場合は、かかりつけの産婦人科の医師が対応し、必要に応じ医大の医師等が対応します。県外避難者に対しても、医大の医師等が対応することにしています。また、助産師・保健師が、育児相談をはじめとした心配ごと、その他のご相談に電話やメールで応じるようにしています。

大切なのは、「自分で知る」安心

 以上のような県民の健康の見守り事業を、福島県と福島県立医科大学が中心となって、多岐にわたって展開しています。放射線による健康影響に関する情報が氾濫している現在、県民の方々一人一人が《自らの状況を自分で把握できる》体制が、非常に重要です。今後も、多くの方々の不安や不満に可能な限りこたえるため、健康相談と身近な受診ができる医療支援体制を構築・維持してまいります。そして、県内・県外在住の別なく対応ができるように、日本全国の医師や専門家の方々の協力を得て、説明会や講習会を繰り返していきます。

 《どのくらい被ばくしたか》を、知ること。《定期的な健康状態の確認》を、行うこと。―――それが、復興と再生の一助となることを願います。


 福島県立医科大学副学長 山下俊一
 福島県立医科大学副学長 神谷研二


(参考)

  1. 注1 低線量被ばくリスク管理ワーキンググループ報告書
     国際的な合意に基づく科学的知見によれば、放射線による発がんリスクの増加は、100 ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく、放射線による発がんのリスクの明らかな増加を証明することは難しい。
  2. 注2 5mm 以下の結節性病変(しこり)や、または20mm以下の嚢胞(液体が入っている袋のようなもの)は、現在の診断基準から、二次検査で細胞診(対象部位の細胞を取り出して顕微鏡により異常の有無を判断する)をする必要はないとされております。
  3. 注3 避難区域等
     田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、
    葛尾村、飯舘村、伊達市の一部(特定避難勧奨地点関係地区)
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