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知的財産推進計画2004



2004年5月27日
知的財産戦略本部




知的財産推進計画2004 目次


総論


第1章 創造分野
1.知的財産の創造基盤を整備する
(1)創造性を育む教育と科学技術に重点を置いた教育を推進し、世界に通用する優れた人材を育成する
(2)魅力ある大学を作り、研究人材を充実させる
1)大学を活性化し、国際競争力を高める
2)研究者の流動性・多様性を向上させる
3)研究者を研究に専念させる
(3)その他知的財産を創造する環境を整備する
2.大学等における知的財産の創造を推進する
(1)知的財産の創造を重視した研究開発を推進する
1)大学、公的研究機関において知的財産の創造を重視した研究開発を推進する
2)研究開発において特許情報を活用する
3)研究現場に知的財産担当者を配置する
(2)研究開発評価において知的財産を活用する
1)知的財産に関する総合的な評価指標を用いる
2)社会貢献が研究者の責務であることを明確化し、業績評価において知的財産を重視する
3)大学・研究開発型独立行政法人の評価において知的財産への取組状況を用いる
4)公募型研究費の申請項目及び事後評価項目に追加する
(3)研究者に多様なインセンティブを付与する
1)研究者個人への実施料を還元するルールを明確化する
2)知的財産への取組状況を研究資源の配分に反映させる
(4)知的財産権の取得・管理といった知的財産関連活動に関する費用を充実する
(5)大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)といった、知的財産に関する総合的な体制を整備する
1)大学の知的財産本部を整備する
2)TLOを整備する
3)知的財産取扱指針を制定し、ワンストップ・サービスを提供する
4)対外窓口を明確化する
5)大学における知的財産に関する総合的な体制を整備し、機能を強化する
6)大学知的財産本部・TLOを評価する
7)連携・ネットワーク化を推進する
8)大学の知的財産活動への学生の参加を奨励する
9)大学の知的財産権に関する活動についての情報公開を促す
(6)知的財産に関するルールを明確化する
1)機関一元管理を原則とするとともに研究者の流動化へ配慮する
2)産学官連携に関するルールの整備を支援し、契約締結の柔軟性を確保する
(7)大学発ベンチャーを促進する
(8)国立大学法人によるライセンス対価としての株式取得を認める
(9)円滑な研究活動と知的財産の保護の両立を図る
1)研究者間の自由な意見交換と特許保護の両立を図る
2)研究における特許発明の使用を円滑化する
3)研究マテリアルの使用を円滑化する
3.企業・大学等を問わず質の高い知的財産の創造を推進する
(1)職務発明の相当の対価を取り決める手続について参考事例集を作成する
(2)新規性喪失の例外規定を見直す
(3)国内優先権制度の趣旨及び内容を周知する
(4)研究ノートの導入を奨励する
(5)産学官連携活動における顕著な活動を表彰する
(6)日本版バイ・ドール制度を活用する
1)日本版バイ・ドール制度の利用を徹底させる
2)日本版バイ・ドール制度の適用を拡大する
(7)産業界の意識を改革する
(8)魅力あるデザインの創造を推進する


第2章 保護分野
T.知的財産の保護の強化
1.特許審査を迅速化する
(1)世界最高水準の迅速・的確な特許審査を実現する
(2)従来技術調査機関を育成し、その活用を図る
(3)出願・審査請求構造改革を推進する
(4)従来技術調査のための環境を整備する
2.出願人のニーズに応じた柔軟な特許審査を推進する
(1)ニーズに応じた審査時期を担保する
(2)出願人との意思疎通を密にする
(3)先端技術分野や国際関連出願に重点を置き、審査体制を強化する
(4)料金の電子納付を推進する等、利用者の利便性を向上させる
3.知的財産の保護制度を強化する
(1)医療関連行為の特許保護の在り方を検討する
(2)実用新案制度の利用を推進する
(3)デザイン保護のために意匠制度を整備する
(4)ブランド保護のために商標制度を整備する
(5)地域ブランドの保護制度を検討する
(6)営業秘密等の保護を強化する
1)営業秘密保護強化と技術流出防止を徹底する
2)金型図面等の管理保護等を徹底する
3)医薬品の試験データの保護の強化等を検討する
(7)データベースの保護を強化する
(8)植物新品種の保護を強化する
(9)損害賠償制度を強化する
(10)知的財産権侵害に係る刑罰を見直す
4.紛争処理機能を強化する
(1)知的財産高等裁判所(仮称)に期待する
(2)証拠収集手続を拡充する
(3)特許権等の侵害をめぐる紛争の合理的解決を実現する
(4)裁判外紛争処理を充実する
5.国際的な知的財産の保護及び協力を推進する
(1)世界特許システムの構築に向けた取組を強化する
1)国際的な審査協力を推進する
2)日米欧三極特許庁間で特許の相互承認の実現を図る
3)特許協力条約(PCT)の改革を推進する
4)途上国における権利取得を円滑化する
5)特許制度の国際的な調和を促進する
6)国際的な審査情報ネットワークを構築する
(2)国際的な著作権制度の調和等を推進する
(3)デザインの国際的保護のための審査協力等を推進する
(4)国際的な商標の保護及び協力を推進する
1)商標の国際登録制度の利用を促進する
2)途上国に対する人材育成等の協力を推進する
3)商標制度の国際的な調和を推進する
(5)植物新品種に関する審査協力と制度整備を促進する
(6)国際的な紛争処理に係るルールの整備を促進する
(7)自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)等を活用する
(8)知的財産に関連する法律の英訳を国際的に発信する


U.模倣品・海賊版対策
1.外国市場対策を強化する
(1)侵害発生国・地域への対策を強化する
1)企業・団体等による模倣品・海賊版対策を支援する
2)侵害発生国・地域への具体的要請を行う
3)侵害状況調査を実施する
(2)二国間の枠組みを活用する
(3)欧米との連携を強化する
(4)多国間の枠組みを活用する
(5)アジア諸国の模倣品・海賊版対策の能力構築を支援する
2.水際での取締りを強化する
2−1.侵害判断が困難な貨物の取締りを強化する
(1)特許権侵害品等の侵害判断・差止めを当事者の主張に基づき、専門的かつ簡便・迅速に行う制度を確立する
(2)当該輸入者に関係なく同一製品の輸入を差し止める
(3)裁判外紛争処理(ADR)機関を活用する
2−2.商標権侵害品等の取締りを強化する
(1)模倣品等の流通態様に応じた取締りを強化する
1)模倣品・海賊版の税関での取締りを強化する
2)マーク切除による脱法行為の取締りを強化する
3)部分品・部品取外しによる脱法行為に対する取締りを強化する
4)形態模倣品の取締りを強化する
(2)個人輸入等の取締りを強化する
3.国内での取締りを強化する
(1)インターネットを利用した侵害の取締りを強化する
(2)商品の形態模倣に対する保護を強化する
(3)肖像等を不正に使用した商品を取り締まる
(4)ノウハウ等の海外への流出を防止する
(5)警察による取締りを強化する
4.中小企業・ベンチャー企業の支援と啓発を強化する
(1)中小企業・ベンチャー企業の対策を支援する
(2)国民啓発を強化する
5.官民の体制を強化する
(1)政府内の連携体制を整備する
(2)侵害発生国・地域の当局との当局間の連携を強化する
(3)官民・民民の連携を強化する
(4)民間企業の体制を強化する
6.模倣品・海賊版対策を集中的に処理する


第3章 活用分野
1.知的財産の戦略的活用を支援する
(1)知的財産重視の経営戦略を推進する
(2)知的財産の情報開示を促進する
(3)知的財産戦略指標を策定する
(4)知的財産の価値評価手法を確立する
(5)知的財産の管理及び流動化の促進に向けて信託制度を活用する
(6)知的財産による資金調達の多様化を図る
2.国際標準化活動を支援する
(1)戦略的国際標準化活動を強化する
1)国の研究開発プロジェクト等における研究開発、知的財産権取得、標準化を一体的に推進する
2)産学官による戦略的な国際標準化活動を強化する
3)標準化に関する人材育成のための環境整備を進める
4)標準化に関する研究と産業界への普及を行う
(2)民間の国際標準化活動を促進する
(3)技術標準に関連する知的財産権の取扱いルールを整備する
1)技術標準の策定・普及を妨げる必須特許の権利行使に対する対処方法を検討する
2)技術標準と知的財産権を巡る国際的な議論を促進する
3)パテントプールに関する環境を整備する
3.知的財産活用の環境を整備する
(1)知的財産権のライセンスを安定強化する
1)倒産時等における知的財産権のライセンスの保護を図る
2)オープンソースソフトウェア利用上の法的責任関係を整理する
(2)知的財産を活用したビジネスを振興する
(3)実施許諾の意思を登録する制度(License of Right)を導入する
(4)知的財産の円滑・公正な利用を促進する
(5)知的財産に関する保険を充実・促進する
(6)租税条約を活用し国境を越えた知的財産の利用を促進する
4.中小企業・ベンチャー企業や地域を支援する
(1)中小企業・ベンチャー企業を支援する
1)知的財産の権利取得を支援する
2)海外展開を支援する
3)侵害被害の対応策を検討する
4)戦略策定等を支援する
5)研究開発や事業化を支援する
6)知的財産に関する情報の活用を促進す
7)知的財産に関する教育や研修を充実する
(2)知的財産を活用して地域を振興する
1)地方公共団体の知的財産に関する自主的な施策策定を奨励する
2)地域における知的財産の相談体制を強化する
3)地域における産学官の連携体制を強化する


第4章 コンテンツビジネスの飛躍的拡大
1.業界の近代化・合理化を支援する
(1)契約慣行の改善や透明化に向けた取組を奨励、支援する
(2)経営、法務、財務などにおける専門的人材の活用を奨励する
(3)独占禁止法等の厳正な運用により競争政策を充実させる
(4)弾力的な価格設定など事業者による柔軟なビジネス展開を奨励する
2.資金調達手段の多様化を図る
(1)「完成保証制度」の充実を図る
(2)商品ファンド法による「映画ファンド」等に関する規制緩和の評価等を行う
(3)コンテンツに対する評価手法の確立や情報開示などを促進する
3.コンテンツの制作・投資等を促進するためのインセンティブを付与する
4.人材育成を強化する
(1)「コンテンツ人材(プロデューサーや創作者等のコンテンツに関係する人材)」を育成する
(2)人材育成の諸事業への支援を行う
(3)映像産業振興機関の設立を支援する
5.コンテンツ関連技術の高度化を図る
(1)メディア芸術に関する研究開発等を推進する
(2)コンテンツのデジタル化を促進する
(3)デジタルアーカイブ化に必要な技術基盤の研究開発を行う
(4)ハイビジョン技術の研究開発に対する支援等を行う
6.人材の発掘と顕彰を実施する
(1)有能な人材を発掘する
(2)優れた業績をあげた人材を顕彰する
7.教育や啓発の充実に努める
(1)子供への普及啓発を図る
(2)コンテンツに関するルール及びモラルの向上等を図る
(3)東京国立近代美術館フィルムセンターの充実を図る
(4)文化遺産に関するコンテンツの作成や流通を推進する
8.海外展開の拡大と海賊版対策の強化を図る
(1)日本貿易振興機構(JETRO)、日本貿易保険(NEXI)等を通じた海外展開を支援する
(2)東京国際映画祭の抜本的な強化を図る
(3)国際交流によるジャパンブランドの発信強化を図る
(4)我が国とEUとのワークショップを開催する
(5)あらゆるチャンネルを通じた海賊版の取締りを強化する
9.ブロードバンドなどを活用した事業展開を推進する
(1)デジタル技術を活用した仲介システム開発及び実証実験を行う
(2)コンテンツ流通市場を形成する
(3)コンテンツ流通のためのシステム整備を行う
(4)ビジネスモデルの開発を支援する
(5)コンテンツ利用に係る関係者間の合意形成などを促進する
(6)既存のコンテンツの有効活用を図る
(7)青少年の健全育成への自主的な取組を奨励、支援する
(8)コンテンツを安心して利用するためのシステムの開発、普及を行う
(9)権利者へ利益が還元されるための基盤を整備する
1)技術的側面からの保護を行う
2)権利の付与等により保護を行う
(10)技術的保護手段等の回避等に係る法的規制の対象を拡大する
(11)著作権法を簡素化する
(12)権利者の利益と公共の利益とのバランスに留意する
(13)デジタル時代に対応した法制度の在り方について検討する
(14)国際的な著作権制度の調和を推進する
(15)実演家の活動環境の整備を図る
10.地域等の魅力あるコンテンツの保存や発信強化を図る
(1)地域におけるコンテンツの制作や活用を促進する
(2)フィルムコミッション等の映像制作活動を支援する
(3)大規模な複合映画館の展開を支援する
(4)地域における「コンテンツ戦略」に関する取組を奨励、支援する
11.改革のロードマップを作成する
12.コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律案を的確に運用する


第5章 人材の育成と国民意識の向上
1.知的財産関連人材の養成と知的財産教育・研究・研修を推進する
(1)専門人材を育成する
1)弁護士・弁理士の大幅な増員と資質の向上を図り、知的財産に強く国際競争力のある弁護士・弁理士を充実する
2)知的財産法を司法試験の選択科目にする
3)法科大学院の教育と司法試験との連携を図る
4)迅速・的確な特許審査のための専門人材を育成する
5)ポストドクター等を知的財産専門人材として活用する
6)任期付審査官の活用を図る
(2)知的財産に関する大学院、学部、学科の設置を推進し、知的財産教育を魅力あるものとする
1)夜間法科大学院の開設など知的財産教育を進める環境を整備する
2)知的財産に重点を置いた法科大学院や専門職大学院、技術経営プログラムなど、あらゆる段階における知的財産教育を推進する
(3)知的財産教育・研究の基盤を整備する
1)知的財産教育に関する児童・生徒向け教育及び教員向け研修を推進する
2)知的財産研修に必要な講師を養成する
3)ITを活用した人材育成の情報提供手法を確立する
4)知的財産人材の能力評価に関する民間の自主的な取組を推奨する
5)知的財産専門人材のネットワーク構築を積極的に支援する
6)国際的な研究・研修機能を充実させる
7)知的財産に関する総合的かつ学際的な研究を推進する
8)知的財産関連統計の活用を図る
2.国民の知的財産意識を向上させる
(1)「知的財産権」「産業財産権」へ用語を統一する
(2)啓発活動を強化する



知的財産戦略の一年の歩み


用語集




総 論


1.はじめに


《我が国を取り巻く状況》
  これまで我が国は、欧米の先進的な技術を貪欲に導入し、これを基盤としながらその上に漸進的な改良・改善を積み重ねるとともに、勤勉で良質な労働者のチームワークを如何なく発揮することで、世界に冠たる「ものづくり」のシステムを築き上げることに成功した。この結果、80年代の我が国は、発展途上国のみならず欧米諸国の注目を集める存在であった。
 しかしながら、「失われた10年」と言われる90年代に入って、こうした状況は一変し、いわゆるバブル経済が崩壊して以来、長期化する不良債権問題など数々の要因が複合的に重なり合って、我が国経済は未曾有の不況に陥った。最近では輸出の増加などにより景気の回復が見られるものの、雇用情勢などは依然として厳しく、未だデフレ克服には至っていない状況にある。


《環境の変化とそれへの対応の遅れ》
 90年代初めまで世界のトップであった我が国産業の国際競争力が、近年著しく低下した要因には様々なものが考えられるが、その一つとして、近年の急速な環境の変化の中で、我が国がこれまでの成功体験ゆえに、旧態依然とした制度に甘んじ、従来の「日本型モデル」を大胆に変革することができなかったという側面を挙げることができる。
 例えば、経済活動のグローバル化、世界的な競争の激化・加速化といった環境の変化の中で、我が国産業の事業形態がいまだに総花的であり、国際競争力のある事業分野への「選択と集中」が進んでいないといった問題がある。
 また、アジア諸国が、我が国産業の国際競争力に与える影響も無視し得ない。アジア諸国は、近年の急速な技術水準の向上と格安な人件費などを武器に、低コストで規格化された製品を大量に作り出すという作業において、今や我が国を凌駕しつつある。一定の品質を維持しながら、コスト競争力をいかして競争優位を追求するという我が国産業がこれまで得意としたアプローチは、今日、その有効性が低下している。


《知識経済下におけるイノベーションの重要性と改革の必要性》
 現在の我が国経済を考える上で、上記に加えて、経済成長の源泉に関するもう一つの要因変化に着目する必要がある。それは、今日の先進国の経済成長において、技術革新・イノベーションが果たす役割の重要性が増大しているという点である。「知識経済」という言葉に象徴されるように、今日の経済活動において知識が生み出す付加価値の重要性は、以前に比べて格段に高まっている。現在、企業が直面している競争は、同一製品・サービスをめぐる伝統的な価格競争というよりも、他社とは差別化した革新的な製品・サービスをめぐる、よりダイナミックな競争にその比重が移りつつある。
 このような状況の下では、絶え間なくイノベーションを生み出し続ける必要があり、そのためには、卓越した個人の能力とそれを十分にいかすシステムが重要となる。しかしながら、この点に関する限り、我が国にはまだまだ改善すべき点が多いと思われる。今後、少子高齢化の進展に伴い労働人口が減少し、また、これまでのような旺盛な投資活動にも限界があるとすれば、我が国の経済成長の鍵を握るのは、まさにイノベーションによる生産性向上なのである。
 したがって、今後とも我が国が持続的な経済成長を遂げていくためには、一刻も早く、イノベーションが持続的に生み出される仕組みを整える必要があり、そのために大胆な改革を早急に進める必要がある。幸い、我が国の産業界や大学等には、これまでの経済発展を支えた知的ストックが存在しており、「知識経済」という新たな環境に対応した独創的・革新的な成果を生み出していくことは、決して不可能なことではない。我が国は、勤勉で有能な労働力にあふれている。知識・技術といった無体の資源は、土地やエネルギーといった有体で有限の資源とは異なり、それを創造する独創的な個人が存在する限り枯渇することはないのである。
 また、近年、我が国の映画、アニメ、ゲームソフトといったコンテンツは、世界で高い評価を受けている。国内においても、ブロードバンドを利用したコンテンツビジネスが新しい産業として飛躍する可能性に注目が集まっている。このため、狭義の技術だけでなく、コンテンツの創造、保護及び活用を図ることも重要となっている。


《「知的財産立国」の実現に向けて》
 「知識経済」という新たな環境の下でイノベーションやコンテンツを生み出し、それらを経済成長の糧としていくためには、まず、大学等における知的創造活動を刺激・活性化する必要があるが、それだけでは十分と言えず、その成果を知的財産として適切に保護し、それを有効に活用することによって、初めて経済の活性化が図られる。
 このような認識に基づき、知的財産を戦略的に創造、保護及び活用することにより活力ある経済社会を実現するための国家像として、知的財産戦略会議は、2002年7月に知的財産戦略大綱を取りまとめ、その中で「知的財産立国」を目指すこととした。「知的財産立国」とは、発明・創作を尊重するという国の方向性を明らかにし、「ものづくり」に加えて、技術・デザイン、ブランドや音楽・映画等のコンテンツといった価値ある「情報づくり」、すなわち無形資産の創造を産業の基盤に据えることにより、我が国経済社会の再活性化を図るというビジョンに裏打ちされた国家戦略である。
 米国においては、特許訴訟における控訴審レベルの判決が不統一であり、その弊害が大きくなっていたことから、1982年に特許訴訟を専属的に扱う連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)が設立された。CAFCの設立は判例の統一を主眼としたものであったが、それにより権利の安定性や判決の予測可能性が向上したことで、結果として、特許を重視した事業活動の展開に貢献することとなった。そのため、CAFCの設立は、米国における特許重視(いわゆる「プロパテント」)の流れの中で中心的な役割を果たしたと考えられている。
 また85年には、大統領の諮問委員会により、米国の競争力に関する報告書、いわゆる「ヤング・レポート」が取りまとめられた。その後、米国は、ガット・ウルグアイラウンドにおいて締結された知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)や二国間交渉を通じて、知的財産権の保護が不十分な国において保護水準の引上げを図り、米国企業の海外展開を側面的に支援した。
 このように、米国における80年代の諸般の改革や知的財産を重視するという姿勢への変化が、本格的な情報化時代の到来や知識経済化の進展といった社会経済情勢の変化に呼応した形で、米国産業の国際競争力を回復強化させ、長期にわたる経済成長の実現に貢献したことは確かであると思われる。
 他方、我が国においては、2002年11月に知的財産戦略大綱を受けて知的財産基本法が制定された。2003年3月からは、同法に基づき、内閣に知的財産戦略本部(以下「戦略本部」という。)が設置されている。これにより、知的財産推進計画(以下「推進計画」という。)を策定する体制が整い、「知的財産立国」の実現に向けた新たな一歩を踏み出したこととなる。米国に遅れること20年、今こそ、既存の枠組みや従来の発想にとらわれない推進計画を策定して、知的財産戦略を推進していかなければ、我が国の経済再生は手遅れになってしまうおそれがある。
 ただし、このことは、単に米国の制度をそのまま導入すればよいということを意味するものではない。知的財産制度は国際的な広がりを持つものである以上、それは国際的に通用するものでなければならないのは当然のこと、それにとどまらず、我が国独自の確固たる戦略に基づき構築されなければならない。
 このような認識に立って、今後、戦略本部は大胆な改革を実施できるよう、推進計画に盛り込まれた施策の推進を強力に後押ししていく必要がある。特許やノウハウ、映画・ゲームソフトなどのコンテンツといった知的財産を国富の源泉として、これを最大限に活用することにより、一刻も早い「知的財産立国」の実現を目指すことこそが、我が国経済が持続的成長を続けていく上での喫緊の課題であるといえる。
 そのためには、大学、企業、政府等のあらゆる部門で、従来の制度や慣行をゼロから見直し、世界に通用する制度を作り上げることが必要である。


《知的創造サイクルの活性化》
 知的財産を有効に活用して国富を増大させるためには、研究開発部門やコンテンツの制作現場において質の高い知的財産を生み出し、それを迅速に権利として保護し、そして産業界においてその付加価値を最大化させていくことが求められる。さらに、そうした流れが確固たるものになればなるほど、その流れは骨太かつ盤石なものとなり、より拡大された知的財産の再生産が始まることになる。つまり、そこに好循環(「知的創造サイクル」)が生じることになる。
 「知的財産立国」とは、一部の知的財産に関係する人々の営みによってのみ実現されるものではなく、知的財産によって得られる果実を万人が享受し、そしてその恩恵に啓発されて、万人による知的財産の創造活動が始まる流れの中で実現されるものである。
 そうした意味において、真の「知的財産立国」を実現するためには、創造、保護、活用、そしてそれらの活動を支える卓越した人材の育成など、国民全体の社会的参画の視点を踏まえた上で、それぞれの取組を最大限に行うことはもちろんのこと、それらを一体的、有機的な連携の下に行わなければ、知的創造サイクルを早く大きく展開させることはできない。


《「知的財産立国」により実現される社会》
 「知的財産立国」は、発明や創作を尊重するという国の方向性を明らかにし、「ものづくり」に加えて、技術・デザイン、ブランドや音楽・映画等のコンテンツといった価値ある「情報づくり」によって、我が国経済社会の再活性化を図るということである。
 戦後、荒廃した我が国経済を強力に牽引してきたのは、様々な製造業に代表される「ものづくり」であったが、今後は、他国の追随を許さない我が国独自の「情報づくり」を基盤としていくことになる。また、そうした情報から生み出される付加価値を最大限活用することによって、アジア諸国の急速な追い上げを受けている「ものづくり」も活性化させることが可能となる。
 「情報づくり」とは、これまで我が国を支えてきた「ものづくり」の基盤をなすものであると同時に、新たな事業分野を切り開くものである。したがって、「知的財産立国」の実現により、我が国製造業の技術力・競争力の回復・強化のみならず、新たな雇用機会の創出を通じて、経済を活性化させることも期待できる。
 また「情報づくり」は、我が国産業の国際競争力の強化やその持続的な発展、そこからもたらされる国民全体の所得水準の向上に伴う物質的な豊かさの実現だけに寄与するわけではない。それは同時に、音楽や映画、アニメ等のコンテンツを作ることでもあり、それはとりもなおさず、我が国の「文化」そのものを作ることである。したがって、「知的財産立国」においては、質の高い魅力ある文化が育まれ、それを我々が広くあまねく享受することによって、精神的な豊かさも実現することが期待できるのである。



2.「知的財産立国」実現に向けた取組方針


《3つの視点》
 我が国の知的財産制度は、特許法にせよ著作権法にせよ、その起源は明治時代にまで遡り、今日の経済社会に深く根ざすものとなっている(現行法の枠組みが形成された昭和34年(特許法、意匠法、商標法)、昭和45年(著作権法)からも既に数十年以上が経過している。)。他方で、古くから社会に存在する制度であればある程、その制度が時代の要請に応えているか否かを不断に検証する必要があり、これまでも累次の制度改正が行われてきたところである。
 しかしながら、今日の経済社会の変化のスピードは極めて早く、その変化の度合いはダイナミックである。現在、我が国はいまだ長期にわたる不況から脱することができず、将来に対する明確なビジョンを模索している状態である。「知的財産立国」という目指すべき方向が明らかとなった今こそ、社会経済情勢の変化に受動的に対応するのではなく、これを先取りする改革を行って、早急に経済を再生させる必要がある。
 このため、以下のような方針をもって、「知的財産立国」の実現に取り組むこととする。


(1)「従来の枠にとらわれない、知的財産に関する特例を作る」
 我が国産業の国際競争力を強化し、活力ある経済社会を実現できるよう、知的財産制度の国際調和を推進するとともに、それと方向性を一にしつつ国富の増大に資する制度であれば、従来の既成概念にとらわれることなく、大胆かつ柔軟にそうした仕組みを構築すべきである。


(2)「国際競争力のある、世界に通用する制度を作る」
 今や世界はボーダレスエコノミーとなっており、魅力ある市場環境を求めて、企業が国を選ぶ時代になっている。そして、知的財産戦略を企業経営の中核に位置付ける会社が多くなる中、事業者にとって魅力ある知的財産制度を構築した国は、そこに世界各国の企業が集まり、様々な事業活動が活発となって、結果として国が発展することになる。既に世界各国の間で知的財産制度の競争は激化しつつあり、我が国においても、それに遅れることなく世界に通用する魅力ある制度を構築すべきである。


(3)「時機を逸することなく、迅速に改革を行う」
 「私は、かなり現実に拘泥せずに世界を見つめていたつもりであるが、やはり日本の現状に心をとらわれ過ぎていた。今や世界はものすごいスピードで進歩している。」とは、今から50年前の本田宗一郎氏の言葉である。
 いわんや、現在の世界は、「ドッグ・イヤー」と言われるほど大変なスピードで変化し続けており、その中で淘汰されないためには、時機を逸することなくその変化に適合できるよう、企業もさることながら、国の制度も変化し続けなければならない。


《実施体制》
 「知的財産立国」を実現していく上で、我が国にはもはや一刻の猶予も残されていない。
 推進計画に盛り込まれた施策の実施に当たっては、担当府省が責任を持って取り組むこととする。また、担当府省が複数に及ぶ場合には、互いに緊密な連携を確保することで、実施の推進を図ることとする。このため、推進計画における具体的施策ごとに担当府省が付されている。
 戦略本部は、担当府省の取組状況を恒常的に確認するとともに、施策の取組が遅れている場合などには、その実施を促すものとする。また、担当府省が複数に及ぶ場合などで、意思疎通が十分に図られていない等の理由により、施策の実施が遅れている場合には、戦略本部が総合調整を行うこととする。推進計画における具体的施策の担当府省として、特に戦略本部は明記されていないが、以上のような意味において、戦略本部はすべての施策の実施に関与することになる。
 さらに、重要性の高い政策課題については、担当府省の取組と同時に戦略本部においても調査審議することとする。そのため、知的財産戦略本部令(平成15年2月政令第45号)第2条の規定に基づき、戦略本部に専門調査会を設置する。
 また「知的財産立国」は、広く国民全体が意識を共有することによって初めて実現されるものである。そのため、戦略本部は、広く一般からの意見を不断に求めるとともに、地方における取組を活性化させると同時に忌憚のない意見を聴取するため、全国各地において、知的財産戦略に関する説明会やシンポジウムを開催することとする。



3.「知的財産立国」実現に当たって配慮すべき事項


(1)中小企業・ベンチャー企業への支援
 中小企業は、我が国の産業基盤を支え、地域経済の担い手として極めて大きな役割を果たしている。またベンチャー企業に対しては、新産業の創出の観点から期待が高まっている。昨今の厳しい経済情勢の下、追加的な労働力や十分な運転資金の確保が期待できない今こそ、多様で活力ある成長発展をしていくために、中小企業・ベンチャー企業は知的財産の重要性を改めて認識し、その戦略的な保護・活用に取り組む必要がある。
 しかし中小企業・ベンチャー企業は、多くの場合、事業を支える革新的な技術を有していても、それを知的財産として保護し活用するという意識が乏しく、また大企業に比べて、実施体制も決して十分とはいえない。
 このため政府は、知的財産の創造、保護、活用及び人材育成のあらゆる分野において、中小企業・ベンチャー企業向けの必要な施策を行う必要がある。


(2)地域の振興
 近年、地方分権の流れの中で、地域の特性をいかした特色ある地域社会が実現されつつある。
 そうした中で、地方自治体においても、知的創造の拠点たる大学等を地域の核として、関連研究機関、研究開発型企業との産学連携によって、革新的な技術開発を実現するなど、知的財産に関する取組が本格化しつつある。また、そこで生まれる人的ネットワークを基盤とし、技術情報、経営情報などの経営資源を関係者間で共有することを通じて、地域クラスターを形成し、地域特有の新規事業を開拓するという動きもみられる。
 政府は、今後とも引き続き、全国各地において特色ある発明や創作が生み出され、国全体が知的財産を核として豊かになれるよう、こうした取組を推進していく必要がある。


(3)行政・司法のサービス向上
 「知的財産立国」の実現に向けて、行政や裁判所は真摯にユーザーの要望に耳を傾け、不断にサービスの向上に努める必要がある。
 また、一般の国民にとって、知的財産はその技術的専門性や法律的専門性ゆえに、これまで馴染みが深かったとはいえない状況にある。
 したがって、行政や裁判所は、社会のネットワーク化が進展している状況を踏まえ、知的創造サイクルを早く大きく回すために、国民に対して積極的に一層の情報提供を進め、出願手続きの合理化や、先駆的な発明等の知的財産権に関する紛争処理手続きの見直しなどサービスの向上に努めるべきである。


(4)競争政策の重要性と表現の自由などの重視
 知的財産権の強化は情報化時代の必然である反面、権利の強化には弊害も伴い、具体的には、競争上の弊害と、表現の自由等の現代社会が有している基本的価値との抵触が考えられる。
 競争上の弊害の除去については、独占禁止法を中心とした競争法がその中心をなし、必要に応じてその強化もかかせない。米国においては、知的財産の独占に対しても独占禁止法が厳しく適用されており、そのことが競争を生み出し、その結果として新たな産業の発展につながっている。我が国においても、バランスのとれた適切な対応が必要である。
 また、知的財産の保護があまりに過度となった場合には、公正かつ自由な競争、学問・研究の自由、表現の自由などといった現代社会が有している基本的価値と抵触する可能性がある。したがって、これらの基本的価値に留意しつつ、バランスのとれた知的財産制度を目指す必要がある。
 なお、大学においては、知的財産の創造、活用への期待に応えていくことが求められる一方、大学における本来的な役割である教育・研究を忘れてはならない。さらに、大学における知的財産に関する制度設計は、大学における学問・研究の多様性を踏まえた柔軟なものとすることが肝要である。



4.知的財産戦略の1年の歩み


(1)推進計画の決定
 戦略本部は、知的財産を核に産業の国際競争力を強化し、国富を増大させる「知的財産立国」を実現するため、2003年7月8日に推進計画を策定した。
 推進計画は、従来の枠にとらわれることなく、国際的に通用する制度を迅速に作るという理念の下、関係府省が実施する約270項目に及ぶ施策から構成され、戦略本部を中心として、政府一体となった取組を推進するものとなった。


(2)専門調査会における検討
 推進計画の決定の際に、更に調査検討が必要とされた知的財産政策の重要課題について検討するため、「権利保護基盤の強化に関する専門調査会」、「コンテンツ専門調査会」及び「医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会」の3つの専門調査会が設置された。これらの3専門調査会は、2003年秋から検討を開始したが、権利保護基盤の強化に関する専門調査会は、2003年12月に「特許審査を迅速化するための総合施策について」及び「知的財産高等裁判所の創設について」を、2004年5月には「模倣品・海賊版対策の強化について」をとりまとめた。また、コンテンツ専門調査会は、2004年4月に「コンテンツビジネス振興政策」をとりまとめ、それぞれ戦略本部に報告した。さらに、医療関連行為の特許保護の在り方に関する専門調査会では、患者と医師の信頼関係の下で等しく行われるべき医行為等に悪影響を及ぼさないように十分配慮しつつ、国民の保険医療水準の向上に資する有用で安全な医療技術の進歩を促進する観点から、医療関連行為の特許法上の取扱いについて検討が進められている。
 また、総合科学技術会議「知的財産戦略専門調査会」においては、大学等の研究成果の取扱いについて検討が行われ、2004年5月にとりまとめが行われた。


(3)推進計画の成果
 推進計画にある各種施策については、これまでにいくつかの成果が出始めている。まず、大学では、国立大学の法人化により大学が法人格を取得し、大学運営について大幅な自主性が認められることを契機に、大学における研究成果を原則機関帰属とするとともに、大学の知的財産本部の整備や技術移転機関(TLO)との連携の強化を図る等、産学連携を推進するルールや体制の整備が図られつつある。これによって、大学において産み出された知的財産が適切に保護・管理され、さらに産業の面でも活用されることが期待される。
 また、今後、審査順番待ち案件が80万件に拡大すると予想されている特許審査については、特許審査の迅速化等のための特許法等の一部を改正する法律案の国会提出や任期付審査官の2004年度における98名の増員などの総合的施策が実施に移されつつある。これらの施策を引き続き強力に推進していくことにより、審査の順番待ち期間を最終的にはゼロとすることを目指し、世界最高水準の迅速・的確な特許審査を実現することが期待される。
 知的財産を巡る紛争処理機能については、知的財産に関する事件についての裁判の一層の充実及び迅速化を図るため、これを専門的に取り扱う知的財産高等裁判所設置法案が今国会に提出された。また、これと合わせ、裁判所調査官の権限の拡大及び明確化、侵害行為の立証の容易化と営業秘密の保護や特許侵害訴訟と無効審判の関係の整理などの措置を盛り込んだ裁判所法等の一部を改正する法律案も今国会に提出された。今後、こうした体制の整備により、世界をリードする裁判所として適正・迅速な知的財産訴訟の実現が期待される。
 模倣品・海賊版対策の強化については、知的財産権侵害疑義物品の輸入者・製造者等の情報を権利者に開示すべく、関税定率法が改正され、2004年4月に施行された。これにより侵害認定手続の正確性、透明性等が一層高まるとともに、権利者による侵害発生国や我が国での権利行使が容易になることが期待される。また、ODA大綱やAPEC首脳宣言・閣僚宣言において知的財産権の保護が盛り込まれるなど外国市場対策でも一定の進展が見られる。
 知的財産の活用では、信託業法案が国会に提出され、これが成立した場合、信託という仕組みを利用することにより、企業等が持つ知的財産の管理・活用や知的財産を利用した資金調達の手段の多様化が図られることになる。加えて、知的財産権に関するライセンサーの立場にある企業が倒産した場合に、当該知的財産権のライセンスを受けている企業の保護等を内容とする破産法が2004年5月に成立した。また、企業においても、知的財産を経営戦略の中核に位置づけ、「知財立社」を目指す動きが見られるようになっている。
 さらに、我が国のコンテンツは、近年、海外で高い評価を得ているが、その魅力をビジネスとして十分生かしきれていないのが現状である。このため、上述のコンテンツ専門調査会において、業界の近代化、人材育成、資金調達等に関する「コンテンツビジネス振興政策」が取りまとめられ、また、エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワークの結成、東京大学におけるコンテンツプログラムの公表など、官民一体となった総合的な取組が進められている。
 総合的なコンテンツの振興を図るため、「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律案」(議員立法)が、また、権利者へ利益が還元されるための基盤を整備する観点から、音楽レコードの還流防止措置及び書籍・雑誌の貸与権の付与等を内容とする「著作権法の一部を改正する法律案」が、それぞれ今国会に提出された。
 知的財産の専門人材の育成については、法曹人口の増加の中で、知的財産法に関する研修には多数の弁護士が自主的に参加するなど弁護士の知的財産への関心への高まりが見られる。また、弁理士についても、弁理士人口の量的拡大が進む中で特定侵害訴訟代理人としてのいわゆる付記弁理士が2003年度から誕生している。さらに、2004年4月より設置された法科大学院では、68校全ての法科大学院において、知的財産法に関する授業科目が開設されるなど知的財産に関する教育も着実に進みつつある。このほか、司法試験において知的財産法を選択科目にすることも検討されている。
 以上、推進計画の主要な成果を例示したが、ここで紹介した他にも、多くの成果が生まれており、「知的財産戦略の一年の歩み」としてまとめ、巻末に添付した。



5.知的財産推進計画2004の作成と今後のスケジュール
 我が国の知的財産を取り巻く環境はたえず変化しており、知的財産戦略の工程表である推進計画も、不断に見直していく必要がある。
 このような観点から、戦略本部は、知的財産基本法に基づき推進計画の見直し作業を行い、この度、「知的財産推進計画2004」を取りまとめた。
 見直しに当たっては、既存の施策の一層の具体化を進めるとともに、知的財産戦略全体を俯瞰して、進展が十分でない課題について、施策の追加や新たな課題への取組などを盛り込んだ。この結果、実施すべき施策は約400項目となった。


《今後のスケジュール》
 知的財産推進計画2004策定後の当面の目標は、2004年度中に取り組むべき施策を着実に実施するとともに、2005年に開かれる通常国会に、できる限り多くの知的財産関連法案を提出することとする。
 また、2004年度末を目途に同計画の進捗状況をさらにフォローアップし、必要な施策の追加・拡充を図ることとする。


第1章 創造分野

 知的創造サイクルは、知的財産の創造から開始される。独創的かつ革新的な研究開発成果を生み出し、それを社会に還元するメカニズムを抜きにして「知的財産立国」は実現しない。特に、我が国の研究資源の多くを有する大学・公的研究機関等の役割は極めて大きい。
 今後我が国が「知的財産立国」を目指すためには、大学・公的研究機関等において発明、ソフトウェア、データベース等の優れた知的財産が創出され、それが社会において最大限に活用されるメカニズムを構築するとともに、非凡な才能を有する研究者の創作意欲をこれまで以上に刺激する必要がある。
 以上の認識に基づき、以下の施策を講ずることにより、大学・公的研究機関等における質の高い研究成果の創出を促すとともに、優れた知的財産を創出した研究者を十二分に評価する社会の実現を目指す。


1.知的財産の創造基盤を整備する


(1)創造性を育む教育と科学技術に重点を置いた教育を推進し、世界に通用する優れた人材を育成する
 2004年度も引き続き、創造力の豊かな研究者を育成するため、多様な個性・能力を伸長させる教育環境を整備するとともに、科学技術に力点を置いた教育を推進し、世界に通用する優れた人材を育成する。
(文部科学省)


(2)魅力ある大学を作り、研究人材を充実させる
1)大学を活性化し、国際競争力を高める
i) 2003年度に調査・公表された大学の情報公開の取組状況を踏まえ、2004年度も引き続き同様の調査を行うなど、大学の教育研究業績情報の公開を充実させることを促す。
ii) 国立大学が法人化し、各法人の判断により弾力的な人事制度を導入し得ることとなったことなどを踏まえ、2004年度も引き続き、大学において特許を含めた研究成果の評価を行い、年功序列から真の実力主義に移行することを促す。
iii) 2004年度も引き続き、各分野において優れた教育研究を行う大学を国際的競争力のある大学として育成する。なお、競争的資金の審査においては、大学に過度の負担をかけないよう留意する。
(文部科学省)


2)研究者の流動性・多様性を向上させる
 競争的原理を与える流動性、及び研究者を相互に触発させ、研究活動を活性化させる多様性を向上させるため、以下の施策を行う。
i) 2003年度に研究人材流動化計画の取組状況が調査・公表されたところであるが、総合科学技術会議の「研究者の流動性向上に関する基本的指針」を踏まえ、2004年度も引き続き同様の調査を行い、取組状況を公表し、その定着に向けた措置を講ずるとともに、異動する研究者が経済的に不利益を受けることのないようシステムの改善に向けた検討を行う。
(総合科学技術会議、文部科学省、関係府省)
ii) 文部科学省科学技術・学術審議会の「国際競争力の向上のための研究人材の養成・確保を目指して」を踏まえ、2004年度も引き続き、各大学等において、他大学・民間出身者、外国人研究者、女性研究者の採用目標や採用に当たっての配慮(外国人研究者の招聘を促進するため、研究環境と生活環境を充実させる等)を、各々の主体的な判断により明確化する。
(総合科学技術会議、文部科学省、関係府省)
iii) 民間において、博士課程修了者やポストドクター経験者等の若手研究者の採用が行われるよう、実務・実践能力の習得等のための支援を2004年も引き続き行う。
(総合科学技術会議、関係府省)


3)研究者を研究に専念させる
 研究者初期は、研究者として伸びる時期であり、その時期に研究に専念させる環境作りは重要であるので、大学・大学院教育を充実させ、特に若手研究者を研究に専念させるため、「国際競争力の向上のための研究人材の養成・確保を目指して」を踏まえ、2004年度も引き続き、各大学等が各々の主体的判断により、専任の研究・教育補助者の増加を行うよう促す。
(総合科学技術会議、文部科学省)
(3)その他知的財産を創造する環境を整備する
 2004年度も引き続き、以下の施策を実施する。
i) 研究施設・設備の改善については、文部科学省の「国立大学等施設緊急整備5か年計画」等を踏まえ、一層の推進を図る。
ii) 各地方公共団体等で策定された知的財産戦略を踏まえ、地方公共団体等と大学・研究開発関連独立行政法人との連携を着実に進める。
iii) 企業及び個人から大学への寄附に関する環境整備について、検討を進める。
iv) 学術コンテンツポータルシステムなどにより、学術デジタルコンテンツなど大学における研究情報を体系的に収集する体制の整備や、日本発の電子的な学術雑誌の育成により大学、学協会等からの研究情報発信機能を強化し、研究情報の国際的な流通を促進する仕組みを整備することにより、研究開発成果や研究論文の流通を促進する。
(総合科学技術会議、文部科学省、関係府省)


2.大学等における知的財産の創造を推進する


(1)知的財産の創造を重視した研究開発を推進する
1)大学、公的研究機関において知的財産の創造を重視した研究開発を推進する
i) 2004年度も引き続き、民間の参加も得て、基礎研究段階からその研究成果の応用、技術移転に至るまで一貫して実施する研究開発制度や、国として戦略的に獲得すべき重要な知的財産の取得に向けた研究開発を推進させる。その際には、知的財産の創造、保護及び活用に十分配慮した研究及び評価を行う。
ii) 2004年度以降も、「第2期科学技術基本計画」を踏まえて競争的資金の倍増を目指し、重点的に拡充を図る。
iii) 2004年度も引き続き、競争的資金を用いて先端科学技術機器等の開発・実用化を進める。また、世界最高水準の研究活動を先導する最先端の大型研究施設・設備の活用を促進する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


2)研究開発において特許情報を活用する
i) 論文等の書誌情報と特許情報との統合検索システムの整備に向けてシステムの仕様について検討を行った結果を踏まえ、2004年度にシステムの整備を開始し、2005年度からの運用を目指す。
ii) 特許情報の調査は、重複研究の防止や権利侵害の未然回避につながるため、2004年度中に大学等の研究者に対してその重要性を周知し、研究テーマの調査や研究成果の評価を行う際に特許情報を調査することを奨励するとともに、大学等としてのリスク管理の在り方について検討することを促す。
iii) 2004年度も、特許電子図書館(IPDL)の機能の向上と提供情報の拡充に努めるとともに、国立大学法人への専用回線接続の検討等、大学等への特許電子図書館の普及に対して積極的に支援するなど、大学等研究者が質の高い特許情報等へ容易にアクセスできる環境を整備する。
iv) 2004年度も引き続き、特許情報検索の専門家を派遣するなど特許情報の検索方法、活用方法に関する研修事業を更に進める。
v) 2004年度も引き続き、国の資金による研究開発については、研究課題の選定等において特許情報を活用する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


3)研究現場に知的財産担当者を配置する
 2004年度も引き続き、技術に関する知的財産の創造が想定される分野においては、大学等の研究現場の適切な単位毎に産学官連携コーディネーターなどを知的財産担当者として配置し、当該担当者に対して知的財産に関する研修を行うことを奨励する。
(総合科学技術会議、文部科学省、関係府省)


(2)研究開発評価において知的財産を活用する
1)知的財産に関する総合的な評価指標を用いる
 2004年度以降、知的財産に関する指標を評価、研究費配分その他の研究資源の配分に活用するに際しては、特許等の(出願)件数を参考としつつも、ライセンス実績(件数、収入)、特許出願書類等における特許・論文の被引用度といった質的な側面、さらには共同研究実績、起業実績、コンサルティング件数といった点を重視した「総合的な評価指標」を用いる。
(総合科学技術会議、文部科学省、関係府省)


2)社会貢献が研究者の責務であることを明確化し、業績評価において知的財産を重視する
i) 国立大学法人の業務の一つとして「国立大学における研究の成果を普及し、及びその活用を促進すること」が明確に位置付けられたことなどを踏まえ、2004年度以降、大学等は、知的財産の創造が想定される分野においては、研究者の業績評価として研究論文等と並んで知的財産を重視する。その際、「総合的な評価指標」を用いる。
(総合科学技術会議、文部科学省、関係府省)
ii) 2004年度以降、大学が、透明性・公正性に十分配慮した適正な評価システムをできる限り構築し、学内に周知を図るよう促す。評価システム構築に当たっては、企業における人事システムの例、国内外の大学・研究機関の運用事例等を参考にすることが重要であることから、事例集の発行等必要な情報を大学に提供する。
(総合科学技術会議、文部科学省、関係府省)


3)大学・研究開発型独立行政法人の評価において知的財産への取組状況を用いる
 2004年度以降、大学評価・学位授与機構及び国立大学法人評価委員会において、評価を行う際には、各大学の特性に配慮しつつ、各大学の知的財産の創造、保護及び活用に関する取組状況を踏まえて行い、その結果を公表する。同様に、研究開発型独立行政法人においても、事後評価の指標の一つとして知的財産の創造、保護及び活用に関する「総合的な評価指標」を用いる。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


4)公募型研究費の申請項目及び事後評価項目に追加する
 科学研究費補助金その他の公募型研究費について、公募申請に際して申請者の知的財産に関する状況を申請させることにより、研究課題の採択においては、2004年度以降も評価の参考とし、さらに成果報告においても知的財産に関する状況を報告させる。
(総合科学技術会議、関係府省)



(3)研究者に多様なインセンティブを付与する
1)研究者個人への実施料を還元するルールを明確化する
 2004年度以降速やかに、大学等においては、研究者の研究成果に関する権利を承継し、実施料収入を得た場合に、研究成果を創造した研究者個人に還元すべき金額の支払いルールや、大学においては研究者の所属する学部・学科等に還元する場合の金額の支払ルールを明確化するよう促す。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


2)知的財産への取組状況を研究資源の配分に反映させる
 2004年度以降、知的財産の創造を奨励する一環として、研究資源の配分に当たり、その一部に、知的財産に関する取組状況を反映させる仕組みを設ける。その際、「総合的な評価指標」を用いる。
(総合科学技術会議、文部科学省、関係府省)


(4)知的財産権の取得・管理といった知的財産関連活動に関する費用を充実する
i) 2004年度以降、国公私立を通じた大学やTLOへの海外出願経費及び維持管理経費を含めた特許関連経費の支援を、競争的原理の下で、大学の自主性を尊重しつつ、充実するとともに、各大学に対しても必要な特許関連経費を確保することを奨励する。
ii) 2004年度中できるだけ速やかに、競争的資金については、間接経費の一部を特許関連経費に充当できることを明確化して周知し、その積極的な使用を奨励するとともに、制度の充実を図る。さらに、研究開発の時期と特許関連経費の支出時期のずれを踏まえ、特許関連経費の柔軟な取扱いを行うよう奨励する。
 なお、競争的資金以外の政府研究資金の間接経費についても、同様の措置を講ずる。
iii) 大学等に対する運営交付金の算定において特許収入等分を別枠扱いにするなど、知的財産関連活動へのインセンティブを減じないよう配慮する措置が講じられたところであり、2004年度中に、これを積極的に周知する。
iv) 2004年度以降、大学等が主体的に取り組む共同研究等について、その研究成果を事業化に結びつけるための知的財産の戦略的取得・維持に必要な資金を十分確保する。また、そのため、企業等から提供される研究費のうち、知的財産の取得・維持に必要な経費を間接経費としてあらかじめ確保することを奨励する。その際、繰越や他の研究成果への転用を可能とする等の柔軟な取扱いをするよう促す。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


(5)大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)といった、知的財産に関する総合的な体制を整備する
1)大学の知的財産本部を整備する
i) 特色のある知的財産本部を整備する
 大学知的財産本部が多くの大学に整備されたことを踏まえ、2004年度も引き続き、各大学の創意工夫に基づく知的財産本部の機能の一層の充実・強化を図るとともに、各大学の状況に応じた多様な形態の知的財産管理体制が実現される支援を行う。
ii) 機関一元管理の下での特許等の管理・活用体制を整備する機関一元管理の下で、大学等個々の機関が自らの知的財産ポリシーを明確化し、各研究成果の内容に応じて、特許等としての保護・活用及び論文等による公表等の中からどのような活用方法が最適であるかを迅速にかつ的確に判断するシステム(体制、手続等)を早急に整備するよう、2004年度中に促す。また、特許出願をすべきと判断した場合には、研究者に過度の負担とならないように配慮するなどして、速やかに出願を行えるよう体制を整備するよう促す。
iii) 国際競争力のあるスーパー産学官連携本部を整備する
 2004年度以降できるだけ速やかに、モデルとなる大学知的財産本部の知的財産活動を評価し、特に活発な活動を実施し、国際競争力強化に貢献が期待されるスーパー産学官連携本部を厳選して、その支援を強化する。
iv) 人材情報の整備状況についての周知を行い、情報整備の更なる充実を図る
 日本弁理士会により、弁理士に関する情報を収集整理してデータベース化し、大学の求めに応じて適切な人材の紹介が行われているところであるが、2004年度も引き続き、弁理士、弁護士、産業界それぞれの関係団体の協力を得て、大学知的財産本部の活動に参画できる優秀な人材(民間企業において知的財産に関する知識経験が豊富な者及び高度な実務能力を有する弁理士や弁護士)に関する情報公開の周知、及び更なる充実を図り、大学等の求めに応じて適切な人材を紹介・斡旋できるようにする。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


2)TLOを整備する
i) TLOの整備促進を図る
 2004年度も引き続き、新設されるTLOに対する一定期間の財政支援や海外出願に対する支援を行う。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)
ii) 特定技術分野重点TLOを整備する
 2004年度中に、既設のTLOについて活動評価等を行い、実需の大きい技術分野において技術移転実績が特に優れたTLO(スーパーTLO)を厳選し、これを核とした専門人材の育成・確保等のための支援を重点的に行うことを通じ、我が国の技術移転体制の抜本的強化を図る。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省)
iii) 特許を受ける権利を含めた知的財産権の管理信託事業へのTLOの参入は原則自由とするよう信託業法案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、速やかに、各TLOに対してこれを周知し、積極的活用を奨励する。
(文部科学省、経済産業省)


3)知的財産取扱指針を制定し、ワンストップ・サービスを提供する
 大学知的財産本部が多くの大学に整備され、各大学における知的財産ポリシーが確立されたことを踏まえ、こうした大学の取組を支援し、遅延なく特許出願や技術移転が可能となるよう、関係府省に開設された相談窓口を2004年度以降活用する。
(文部科学省、経済産業省)


4)対外窓口を明確化する
 大学等においては、大学知的財産本部が多くの大学に整備されたことなどを踏まえ、2004年度も引き続き、産学官連携と知的財産管理の機能を集中化し、産業界から見て知的財産活用、共同研究等を申し入れる際の、対外窓口の明確化を進める。
(文部科学省、経済産業省、関係府省)


5)大学における知的財産に関する総合的な体制を整備し、機能を強化する
i) 大学知的財産本部が多くの大学に整備されたことを踏まえ、2004年度においては、各大学において大学知的財産本部とTLOが連携しつつ知的財産の創造、保護、活用を進めるための総合的な体制を構築し、知的財産に関する普及・啓発、各種方針・ルールの策定、共同研究・受託研究に関する調整機能、権利化機能、技術移転機能、デジタルコンテンツに係る権利の移転機能、法務機能、創業支援機能、インキュベーション機能といった各機能について、大幅な強化を図るともに、諸手続きの更なる迅速化を図るよう促す。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)
ii) 2004年度においては、これまで提示された大学内の知的財産に関する組織、TLO等産学官連携組織の有機的連携の在り方に関する複数のモデルを参考にしつつ、大学知的財産本部とTLOの連携による総合的な体制の整備について、以下の点を重点的に進める。
大学の発明が死蔵され、不良資産化することのないよう、大学知的財産本部が研究成果の評価、権利化、マーケティング等を判断する際には、民間の人材や弁護士・弁理士等適切な人材を活用しつつ、TLOに蓄積された知識・経験を積極的にいかす体制を整備する。
大学のTLOに対する出資や取締役兼任等の人的交流については、大学及びTLO関係者に対し、両者の連携・協力の意義・利点を周知する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


6)大学知的財産本部・TLOを評価する
 2004年度も引き続き、大学知的財産本部・TLOの活動に関して毎年フォローアップを行う。また、適切な評価手法を確立し、2004年度以降適宜、それに基づく評価が行われるようにするとともに、評価基準及び評価結果を公表し、評価結果を資源配分に反映させる。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省)


7)連携・ネットワーク化を推進する
i) 移転の見込みのない特許出願・権利化が経済的な自立を困難にさせるという悪循環を防止すべく、2003年に設立された大学知的財産本部とTLOの全国的な連携組織である「大学知財管理・技術移転協議会」の強化・拡充を図るため、2004年度も引き続き、大学及びTLOが相互に連携を取って産学官連携・技術移転に関する成功事例を調査し、情報の交換や共有、情報ネットワークの構築を促すとともに、意見調整や、ケーススタディなどを活用した人材育成等の活動の充実が図られるようにする。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省)
ii) 2004年度も引き続き、全国のTLOが相互に連携をとって、大学等から生じた知的財産を最適の企業等に技術移転することにより有効活用するとともに、大学知的財産本部、TLOが未整備の大学や公的研究機関(地域におけるものを含む)からの技術移転についても対処できるよう、その業務上の連携の抜本的強化を支援し、産学官連携・技術移転組織の更なる拡大、全国的な連携の強化やネットワーク化を推進する。また、デジタルコンテンツに係る権利の移転についても対処できるよう推進する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)
iii) 2004年度も引き続き、@)及びA)と合わせて、大学知的財産本部及びTLOの全国的な連携組織の更なる強化・拡充を図るため、海外の技術移転機関等との連携を推進する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


8)大学の知的財産活動への学生の参加を奨励する
 2004年度も引き続き、大学の知的財産に関する活動に、企業、大学等の関係者に加えて学生の参加を奨励する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省)


9)大学の知的財産権に関する活動についての情報公開を促す
 2004年度中に、各大学の知的財産権に関する活動について、所有する知的財産権、ライセンス件数や特許出願件数等の活動実績、知的財産本部における民間からの人材登用状況及び知財ポリシー等の定期的な公開を促す。
(文部科学省)


(6)知的財産に関するルールを明確化する
1)機関一元管理を原則とするとともに研究者の流動化へ配慮する
i) 多くの大学等において、発明等の帰属について機関一元管理の体制が整備されたところであるが、まだ未整備の大学等においては、2004年度中できるだけ速やかに、知的財産の効率的活用が図られるよう、発明等について原則機関帰属へ切り替え、大学等の機関一元管理の体制を整備するよう促す。また、研究等において用いるマテリアル(微生物、実験動物・植物等の生物資源、化合物や材料のサンプル等)や、ソフトウエア、データベース、デジタルコンテンツ等、発明等と同様に移転の対象となるものについても、大学等において創造されたものについては、原則機関帰属とすべく、その取扱いルールを明確化するよう促す。
 なお、ソフトウエア、デジタルコンテンツ等に係る著作権については、職務著作の考え方を踏まえつつ、その取扱いルールを明確化し、社会に無償開放するものであるのか、そうではないものなのかについても明確化するよう促す。
ii) 多くの大学等において、研究者が研究成果を創出した場合には所属機関(大学知的財産本部等)に届け出る規定が整備されたところであるが、まだ未整備の大学等においては、2004年度中できるだけ速やかに、同様の規定を整備するよう促す。また、大学院生・大学生がなした発明等については、権利の帰属は一般的には大学院生・大学生となると考えられるが、大学の施設を用いてなした発明、指導教員による教育・研究との関連が深く教員と学生との共同発明と考えられるもの等については、大学へ届出ることが望ましい。このような規定を整備した上で、大学等で特許出願等を行わない発明等に関する権利の研究者への返還を可能とするルールの整備を促す。
iii) 2004年度中できるだけ速やかに、研究者が所属機関を異動した場合において、自己の研究の継続が可能となるよう、また、発明者としての適切な還元を受けられるよう、研究者と機関の間のルールを明確化するよう促す。
 なお、原則機関帰属ルールを採用している大学等に所属する研究者が他の機関へ異動した場合の、その研究者の研究成果である発明等の取扱いについては、その発明等が生じた時点で所属している機関の取扱いルールに基づくものとすることが望ましい。
 その際、契約上の工夫等に加えてその他の手段の可能性も広く検討し、研究者が、異動前の大学等に権利帰属された自らの発明等の存在によって、異動後の大学等において研究を継続することに支障が生ずることがないよう、また産学連携プロジェクトとして支障のないよう、柔軟な措置を講ずるよう促す。
 また、研究者が大学等として特別の予算を手当てしている研究プロジェクトや産学連携の研究プロジェクトに参画している等の場合には、異動後の機関が、異動前の研究成果(研究途上の成果を含む)を確認し、秘密保持や異動後の一定期間内の出願については、異動前の機関の確認を得るなどの柔軟な措置を講じておくことが重要である。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


2)産学官連携に関するルールの整備を支援し、契約締結の柔軟性を確保する
i) 大学等が自らの戦略的な知的財産の活用及び共同研究・受託研究の促進を図るために、2004年度も引き続き、大学等が、民間企業との共同研究・受託研究を実施する場合の考え方、取扱いルール(例えば、以下のようなもの)を明確化するとともに、契約書の雛形、運用マニュアル等を自ら整備し、外部に対して積極的に公表することを促す。
営業秘密等秘密情報の取扱い
共同研究成果としての知的財産権の帰属
民間企業等への権利譲渡、ライセンス等に関する考え方
他の大学(国内・国外)等の研究者との連携により知的財産が生じた場合の権利関係等の取扱い
 また、大学等が民間企業との共同研究、受託研究実施ルール等を作成するために必要となる留意事項、例えば不実施主体である大学の特性や企業側における実施化促進といった点を踏まえた契約上の工夫等について、各種方針、事例集等必要な情報を提供する。営業秘密の取扱いについては、大学の職員・教員、並びに大学院生・大学生をも対象に、大学の特性等に配慮して取りまとめられたガイドラインを参考に、各大学が適切な秘密管理を実施することを2004年度中に促す。さらに、知的財産権の帰属に関する大学内における取扱いルールが、教員・職員と大学院生・大学生とでは異なることを外部に対して周知することを促す。
ii) 2004年度中に、産学官連携の推進に伴う研究者の利益相反問題について2003年度にまとめられた参考モデル事例を周知し、各大学等における利益相反ポリシーの作成を促す。また、国立大学法人化などにより研究者個人のみならず大学等の組織としての利益相反の問題が生じうることに十分留意した上で、産学官連携の多様な形態や研究分野の特性を踏まえた利益相反問題への対応が可能となるよう、参考となる事例を作成し、周知する。
iii) 大学知的財産本部が多くの大学に整備されたことを踏まえ、2004年度も引き続き、大学等において、知的財産権の取扱いを含め、企業と大学等の間の協議結果を踏まえた共同・受託研究契約が締結できるよう契約締結についての柔軟性を確保する。
iv) 産業界に対して、大学等が成果を実施する主体ではないこと等、不実施の場合に大学等が置かれる立場に対する理解を深め、契約締結において柔軟性を確保するよう、2004年度中に促す。
v) 2004年度中に、産学連携に関する具体的な進め方について、双方の理解を深め、より良い環境を整備するため、双方の話合いの更なる充実を図るよう促す。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


(7)大学発ベンチャーを促進する
i) 大学知的財産本部が多くの大学に整備され、各大学の知的財産ポリシーが確立されたことなどを踏まえ、2004年度中に、大学等において大学等の発明等を基にした起業の促進を図るため、利益相反に配慮しつつ、起業しようとする研究者の求めに応じて権利の移転や実施権の設定を可能とする柔軟な取扱いを行うよう奨励する。
ii) 大学等における優れた研究成果を着実に企業化、製品化につなげるために、2004年度も引き続き、大学発ベンチャーの創出及び事業展開の支援を充実・強化するとともに、大学発ベンチャーや企業を対象に産学のマッチングによる実用化研究や、実証試験等に対する支援を行う。さらに、大学等の成果で企業化が困難なものを企業等に開発を委託し、企業化を促進することを通じて、大学等の研究成果の移転を促進する。また、大学発ベンチャーにおいては、経営に必要な専門的知識を有した人材の確保が困難であることにかんがみ、弁護士、公認会計士等の専門家派遣を行うとともに、大学発ベンチャー支援者のネットワークを形成するなど、支援環境の整備を図る。
iii) 2004年度中に、大学等の優れた研究成果を広く発信し、円滑に社会に還元するため、大学等と産業界の関係者が一堂に会し全国規模での産学マッチングを図る機会を設ける。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


(8)国立大学法人によるライセンス対価としての株式取得を認める
 2004年度中に、国立大学法人の保有する技術の移転を促進するため、国立大学法人によるライセンス対価としての株式取得を認める。
(総合科学技術会議、文部科学省)


(9)円滑な研究活動と知的財産の保護の両立を図る
1)研究者間の自由な意見交換と特許保護の両立を図る
 研究者間の自由な意見交換により、発明が新規性を喪失するといった問題を解決するため、研究現場に2003年度に配布された特許を受けることができない「公然知られた発明」についての説明資料を活用し、守秘義務の下での意見交換によっては、発明は新規性を喪失しないことを、2004年度も引き続き研究現場に周知する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


2)研究における特許発明の使用を円滑化する
i) 試験・研究についての考え方を整理し、周知する
 2004年度中に、特許権の効力が及ばないとされる試験・研究についての考え方、及び研究を目的とする場合のライセンスの活用や、それを促すための指針、モデル契約等の作成など、特許権の効力が及ぶ場合において特許発明の使用を円滑化するための方策を研究現場に対して周知する。その際、大学等における自由な研究の実施が妨げられることのないよう十分配慮する。
ii) 国費原資の特許発明について契約ガイドラインを策定し、公表する
 2004年度中速やかに、国費を原資として得られた大学等の研究成果に関して、国と大学等との契約ガイドライン等を策定し、公表する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


3)研究マテリアルの使用を円滑化する
i) 2004年度も引き続き、大学等において、研究において用いる物(マテリアル)の移転条件や簡便な移転手続を定めたルールの更なる周知を図り、研究活動での有体物(マテリアル)の使用の円滑化を図る。
ii) 2004年度も引き続き、大学等において作られた有体物(マテリアル)に化体されたノウハウ等の知的財産の帰属関係や必要な管理について、「営業秘密管理指針」も参考にしつつ、明確化を図る。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


3.企業・大学等を問わず質の高い知的財産の創造を推進する

 基本発明の発明者が十分に報われる制度的基盤を整備することにより、発明者の創作意欲を刺激して質の高い知的財産創造へのインセンティブを高めるとともに、企業、大学等を問わず特許戦略の量から質への転換を促し、基本特許の取得意欲を刺激する。


(1)職務発明の相当の対価を取り決める手続について参考事例集を作成する
 職務発明については、特許法の職務発明規定の見直しを含む特許審査迅速化法案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、速やかに、各企業が発明者との間で相当の対価を取り決める手続を行う上で参考となるような事例集を作成する。
 なお、同法案が成立した場合には、その成立後においても、絶えず運用状況や雇用流動性の高まりの変化等を注視し、制度の在り方について、検証した上で、必要に応じ検討を行う。
(経済産業省)


(2)新規性喪失の例外規定を見直す
 論文発表等により、発明の新規性が喪失することを防止するための新規性喪失の例外規定に関し、特許制度の国際的調和の議論の動向を踏まえつつ、新規性喪失の例外が認められる期間(グレースピリオド)の延長をすることの検討、及び特許庁長官の指定する学術団体が開催する研究集会における文書をもって発表という要件を緩和もしくは撤廃し、特許出願前の研究集会での発表を広く新規性喪失の例外の対象として認めることについて速やかに検討し、2004年度末までに結論を得る。
 なお、見直しの結論を得るまでの間は、論文(修士論文、博士論文等)の発表等により発明の新規性が喪失されないような方策について、その利害得失を含め検討する。
 また、この規定があくまでも例外規定であることを研究者等に対して周知するとともに、大学側も、発表会を大学主催とする、発表会参加者が秘密保持契約を結ぶ等、運用面での工夫を行うことも必要であることを周知する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省)


(3)国内優先権制度の趣旨及び内容を周知する
 大学等においては、基本的・原理的な発明がなされる場合が多く、また、その後の追加的な実験や、派生的な研究に基づく改良発明がなされる可能性が高い。これらの発明を漏れなく包括的に保護するために有効な国内優先権制度が理解され活用されるよう、2004年度も引き続き本制度の趣旨及び内容を周知する。
(経済産業省)


(4)研究ノートの導入を奨励する
i) 大学等における研究ノート導入は着実に進められているところであり、2004年度も引き続き、発明者の明確化、共同研究の成果の明確化等に資する研究ノートの積極的導入を図るために、研究ノートの意義、記載方法、管理方法等についての留意点の整理・公表を促進する。
ii) 2004年度も引き続き、大学等においては、研究ノートの記載・管理方法についての研修・教育を実施し、研究ノートの使用を奨励する。
iii) 2004年度も引き続き、企業向け研修プログラム等において研究ノートを取り上げるなど研究ノートの普及・啓蒙を図り企業等における導入を奨励する。
iv) 2004年度も引き続き、電子媒体の活用により研究ノートの機能を代替する可能性や問題点について検討を行う。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


(5)産学官連携活動における顕著な活動を表彰する
 2004年度も引き続き、産学官連携活動の成功事例を選考し、その内容(成功要因)等の発表の機会を設けるとともに、それらのうち特に優れたものに関し、その功績が顕著であると認められる個人又はグループ・団体を表彰する制度を充実させる。
(総合科学技術会議、総務省、文部科学省、経済産業省)


(6)日本版バイ・ドール制度を活用する
1)日本版バイ・ドール制度の利用を徹底させる
 国・特殊法人等の委託による研究開発の成果たる知的財産権を受託者に帰属させることができる産業活力再生特別措置法第30条(いわゆる日本版バイ・ドール制度)の適用は、既に約9割に達しているが、2004年度も引き続き同制度の活用の徹底を図る。
(総合科学技術会議、経済産業省、関係府省)


2)日本版バイ・ドール制度の適用を拡大する
 大学等のみならず産業界も含めた知的財産の帰属に関し、2003年度には、政府向けコンテンツ(教養又は娯楽の範囲に属するもの)の開発事業について、その成果物に関する知的財産権の帰属を受託者又は請負者とできるような法案が提出されたことにかんがみ、2004年度以降、政府向けソフトウエアの開発事業についても、同様に知的財産権の帰属を受託者又は請負者とできるよう、必要な検討をした上で、関連法案を国会に提出する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


(7)産業界の意識を改革する
i) 企業経営者の目利き機能を強化する
 2004年度も引き続き、企業の経営者側が大学等の優れた研究成果の価値を見出す、言わば「目利き機能」の向上を図ることにより、知的財産活用能力の向上を図るよう奨励する。また、各企業の経営者、実務担当者が、大学等の知的財産活動を正しく理解し、得られた研究成果を知的財産として戦略的に保護・活用できるよう、企業の経営者、実務担当者向けの知的財産戦略セミナー、シンポジウムの開催や企業と関係府省との意見交換を行う等の普及啓発活動を行う。
ii) 窓口を明確化する
 産学官連携の構築に関する提言を踏まえ、2004年度も引き続き、大学等と企業との交渉を円滑にかつ効率的に行うため、産業界に対して、各企業の産学官連携の窓口を明確化するよう促す。
iii) 企業の研究開発戦略に産学官連携を位置付けることを奨励する
 2004年度中に、産業界に対して、企業の経営戦略に大学等との連携を積極的に位置付けるとともに、産学官連携の取組や実績等について、積極的に公表することを奨励する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)


(8)魅力あるデザインの創造を推進する
i) 戦略的なデザインの創造が促される環境を整備し、広く国民の優れたデザインへの理解と関心を高めるため、2003年度にはデザイン月間及びデザイン&ビジネスフォーラムを設立したが、2004年度も引き続き、これらの事業の一環でセミナー、シンポジウム等のイベントを開催する。
ii) 魅力あるデザインを創造する人材の育成を支援するため、2004年度も引き続き、専門学校等の教育内容の充実や、デザインマネジメント人材育成等に必要なカリキュラム、教材等の開発、教育実験等を行う。
iii) 特許庁の保有するデザイン関連情報を公開・提供するため、2004年度中に整理標準化データの作成等を行う。
iv) 魅力あるデザインを創造するために有用なデザイン情報を整備し、広範な利用に供するため、2004年度も引き続き、人体寸法を始めとする人間特性に関する基盤整備を行う。
(文部科学省、経済産業省)


第2章 保護分野


I.知的財産の保護の強化


 知的財産創造のインセンティブを確保するとともに、その効果的な活用を図るには、知的財産の適切な保護が不可欠であり、そのための制度や体制は、今後もより一層充実させていかなければならない。新たに生み出された知的財産を、制度の国際的な調和や技術革新の進展も踏まえて適正に保護するとともに、権利取得手続、訴訟手続の充実と迅速化のための体制を整備することによって、知的財産の保護を十全ならしめる基盤の構築を目指す。


1.特許審査を迅速化する

 経済のグローバル化や熾烈な国際競争の中で、従来にも増して権利の早期確定の要請が増大している。権利の早期確定は、重複研究の排除、国内技術開発競争の活性化などを通じ、研究開発投資の収益貢献度を拡大し、我が国企業の国際競争力の向上に資する。また、発明の早期権利化により、積極的に研究開発に取り組むトップランナーが、独創的な高付加価値商品によって優位性を確保することが可能になるほか、革新的な技術を有する中小・ベンチャー企業の競争力強化にも資する。
 他方、特許審査の現状を見れば、審査順番待ち件数は年々増加し、現在、約52万件、特許審査の順番待ち期間は26ヶ月に達している(2003年末)。適切な対策を講じない場合、審査請求期間の変更に伴い、今後、審査順番待ち案件はさらに約80万件まで拡大することも見込まれている。
 このため、特許審査の順番待ち期間を最終的にはゼロとするという最終目標を目指し、審査順番待ち案件の一掃に向けた総合施策の実施に取り組む。


(1)世界最高水準の迅速・的確な特許審査を実現する
 特許審査の迅速化については、特許審査迅速化法案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、以下のとおり特許審査の迅速化を進める。
i) 特許審査の迅速化を着実に実現するため、特許審査の順番待ち期間についての5年間の中期目標及び10年間の長期目標を以下のとおり定める。
 今後審査順番待ち案件が80万件に拡大し、特許審査の順番待ち期間がピークを迎える5年後(中期目標(2008年))においても20ヶ月台に留めるとともに、10年後(長期目標(2013年))には、世界最高水準である11ヶ月を達成する。
ii) 上記中期・長期の目標を実現するため、2004年度から以下の施策を着実に実施する。
a)出願・審査請求に関する取組
 出願取下・放棄制度(請求料の一部返還制度)の利用促進
 特定登録調査機関の利用促進
 実用新案制度の利用促進
 出願件数上位の企業に対する協力要請
b)特許庁の人的体制の充実
 引き続き必要な審査官及び中期目標期間において必要な任期付審査官(注)の十分な確保
 専門補助職員の活用
c)審査効率の向上
 登録調査機関への従来技術調査の外注の拡大
 審査効率の高い外注手法への移行
 情報技術による審査関連情報の共有・分析
d)特許審査迅速化に必要な基盤整備
 審査官に対する研修体制の強化
 従来技術調査人材の育成
 特許情報等の対外提供サービス機能の強化
iii) 経済産業省においては、上記中期・長期の目標を達成するための毎年度の実施計画を策定し、その達成状況について毎年度知的財産戦略本部に報告するとともに公表する。
iv) 知的財産戦略本部においては、上記報告について総合的かつ多面的な検証を行い、必要に応じ、政府内外の関係者に対する情報の提供や協力の要請その他必要な措置を講ずる。
(経済産業省)


(注)任期付審査官については、2004年度は98名を増員。


(2)従来技術調査機関を育成し、その活用を図る
i) 迅速・的確な特許審査の実現に向けて、調査業務の一層の効率化・品質向上が求められる中、特許審査に必要な従来技術調査の特許庁からの外注について公益法人だけでなくそれ以外の者の参入を可能とする特許審査迅速化法案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、2004年度から、登録調査機関の複数化と調査業務の量的・質的拡大を図るべく、民間調査機関の参入を積極的に促進する。また、同法案が成立した場合には、2004年度においては、登録調査機関への新規参入を支援するため、関係機関と連携しつつ独立行政法人工業所有権情報・研修館において従来技術の調査人材の育成体制を整備する。
ii) 登録調査機関を活用した従来技術調査外注において、2004年度も引き続き、審査効率の高い手法(直接対面で説明)への移行を進めることにより、一層の効率化及び質の向上を図る。また、外注業務への情報技術の活用を図るべく、2004年度において検討する。
iii) 出願人が権利化の見通しを立てて審査請求を行うことは、出願人のより適切な審査請求につながると同時に特許庁の調査業務にも資する。このため、特定登録調査機関の交付する従来技術の調査報告書を審査請求時に提示した場合に審査請求料を減額する制度を導入するための特許審査迅速化法案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、2005年度から、これらの制度を通じて出願人による従来技術調査結果の提供を促進する。
(経済産業省)


(3)出願・審査請求構造改革を推進する
i) 2004年度も引き続き、企業経営者や実務家レベル、特に、出願件数上位の経営者に対して、特許登録率の向上のための審査請求の厳選、権利取得の必要性が低下した出願の取下げ、実用新案制度の適切な活用等を含め、出願・審査請求を改善するよう協力を要請する。
ii) 2003年の特許法等の改正により、審査待ち期間中に出願を取下・放棄した場合に審査請求料金を一部返還する制度などが整備された。また、2004年には、特定登録調査機関の交付する従来技術の調査報告書を審査請求時に提示した場合に審査請求料を減額する制度を導入するための特許審査迅速化法案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、2004年度からこれらの制度の周知を図る。
iii) 適正な権利取得と明細書の充実等のために弁理士の役割は極めて重要であることから、産業構造審議会の知的財産政策部会において、2003年度に取りまとめた迅速・的確な審査に向けた弁理士の果たすべき役割を踏まえ、2004年度以降、日本弁理士会の理解と協力を得て、弁理士による特許制度に関する中小企業支援施策の広報、弁理士による従来技術調査に対する指導、出願人が弁理士を選択する際の有益な情報の公表・提供等を図る。
iv) 2004年度も引き続き、企業の出願・審査請求を改善するために必要な分野別出願件数や特許査定率などの情報提供を実施する。
(経済産業省)


(4)従来技術調査のための環境を整備する
i) 特許電子図書館に関し、2004年度においては、サーバーの高機能化等に基づくアクセス性の改善されたサービスを提供する。また、2004年度も引き続き、特許電子図書館の機能向上と提供情報の拡充に努める。
ii) 特許審査の迅速化に必要な情報サービスの機能強化のため、2004年度においては、全国の独立行政法人工業所有権総合情報館(特許審査迅速化法案が成立した場合にあっては独立行政法人工業所有権情報・研修館)の各閲覧室等に配置された専用線を用いた特許電子図書館サービスが効果的に活用されるよう、その普及に努める。
iii) 特許情報に精通した企業の知財部門や、大学、研究機関、技術力を有する中小企業等による特許情報等の積極的な活用を促すため、特許庁が保有するFタームデータ等を利用して従来技術をより高機能かつ高速で検索できる環境を2005年度に整備することを目指し、2004年度においてはその具体策を検討する。
iv) 従来技術調査のための環境の改善・整備に資するため、インターネットによる公報の発行を認める特許審査迅速化法案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、2005年度中にインターネットによる公報の発行を実現すべく、2004年度においては発行方法に関する詳細検討を進める。
V) 研究開発、出願・審査請求等の各段階における十分な従来技術調査の実施を促進するため、特許庁が保有するコンピュータ関連の審査のためのデータベース(CSDB)の書誌的事項データの提供を2003年度に行ったが、2004年度からは、一次文献や抄録についても、著作権者から利用許諾が得られるよう努め、得られたものから順次特許電子図書館にて公開する。
(経済産業省)


2.出願人のニーズに応じた柔軟な特許審査を推進する


(1)ニーズに応じた審査時期を担保する
i) 2004年度も引き続き、大学・TLOや中小企業の出願、外国関連出願、事業化が間近な出願などを優先的に審査する早期審査制度を更に周知し、その活用によって早期の権利化が必要な出願に適切に対応する。
ii) 国際標準に関わる出願や実施化に時間が掛かる出願等に対して、適切な権利取得が図られるよう、分割出願制度を見直すとともに、それと密接に関連する補正制度の在り方について、特許制度の国際調和、審査負担の軽減、出願人間の取扱いの公平性、及び、単一性に関する法改正の下での新しい運用の状況等を踏まえつつ引き続き検討を行い、2004年度中に結論を得る。
(経済産業省)


(2)出願人との意思疎通を密にする
i) 審査予定の出願や審査開始時期等の審査計画情報を出願人に提供するとともに、2004年度も引き続き、審査官等との直接の意見交換の機会に乏しい地方の中小・ベンチャー企業等を対象とした巡回審査・審判を推進するなど、出願人との連絡を密にする。
ii) 2004年度も引き続き、関連する技術分野の特許出願等を一括して審査する関連出願連携審査制度を周知し、企業の戦略的な特許取得に向けた活用を促す。
(経済産業省)


(3)先端技術分野や国際関連出願に重点を置き、審査体制を強化する
i) 2004年度も引き続き、ライフサイエンス分野における審査官を2003年度当初の3倍に拡充するなど、先端技術分野に関する出願や国際関連出願に重点をおいた審査体制を強化する。
ii) 2004年度も引き続き、先端医療等の先端技術の審査・審判、国際的な審査協力の推進等のため、審査官及び審判官の学会派遣や研修等を強化する。
(経済産業省)


(4)料金の電子納付を推進する等、利用者の利便性を向上させる
i) 産業財産権に関する出願手続や各種書類の閲覧が2005年度末までにインターネットでも可能となるよう、2004年度においてはシステム設計・開発などを進める。
ii) 出願料等の手数料の納付が2005年度末までにインターネットでも可能となるよう、2004年度においてはシステム設計・開発などを進める。また、2004年度も引き続き、銀行口座からの自動引落とし、クレジットカード等の活用を含めた決済方法の在り方を検討し、より一層の電子化を推進する。
(財務省、経済産業省)


3.知的財産の保護制度を強化する


(1)医療関連行為の特許保護の在り方を検討する
i) 患者と医師の信頼関係の下で等しく行われるべき医行為等に悪影響を及ぼさないよう十分配慮しつつ、患者がより先進的な医療を受けられるなど、国民の保健医療水準の向上に資する有用で安全な医療技術の進歩を促進する観点から、医療関連行為の特許法上の取扱いについて幅広く検討するための場を設け、2004年度中の早い時期に結論を得る。
(総合科学技術会議、厚生労働省、経済産業省)
ii) 2004年度以降、最先端の生命科学の更なる進歩と医療目的への利用を促進するため、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)等を用いた発明について、生命倫理、科学技術政策、医療政策等の観点から、特許保護の在り方について検討する。
(総合科学技術会議、文部科学省、厚生労働省、経済産業省)


(2)実用新案制度の利用を推進する
 保護期間を10年に延長し、実用新案登録に基づく特許出願を可能とするなど実用新案制度の見直しを含んだ特許審査迅速化法案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、改正後の実用新案制度について、2004年度から、幅広く周知を図るとともにその利用を推進する。
(経済産業省)


(3)デザイン保護のために意匠制度を整備する
 2003年度には、ネットワーク上で利用される操作画面(アイコン等)のデザイン保護の在り方について検討した。2004年度においては、魅力あるデザインを創造し、より価値の高い製品を提供する環境を整備するため、意匠制度の全般的な在り方について広範に検討し、2005年度までに結論を得る。
(経済産業省)


(4)ブランド保護のために商標制度を整備する
 2003年度に産業構造審議会の商標制度小委員会で行った、ブランド戦略の拡大に柔軟に対応した商標制度の在り方についての検討に加え、2004年度も引き続き、魅力あるブランドを活用して、より価値の高い製品・サービスを提供する環境を整備するための具体的方策について、商標制度の在り方を含め検討し、2005年度までに結論を得る。
(経済産業省)


(5)地域ブランドの保護制度を検討する
 農林水産物等の地域ブランドの保護制度の在り方について、産品・製品等の競争力強化や地域の活性化、消費者保護等の観点から、名称が一般化している、あるいは他地域での使用が既に定着している産品・製品等への影響等に配慮しつつ、2004年度に検討を行う。
(農林水産省、経済産業省)


(6)営業秘密等の保護を強化する
1)営業秘密保護強化と技術流出防止を徹底する
i) 営業秘密管理や技術流出防止に関する企業の取組を進めるため、「営業秘密管理指針」や「技術流出管理指針」に記載された組織内マネジメントについて自己適合宣言方式を前提としたJIS化をすべく検討し、2005年度末までに結論を得る。
ii) 2004年度においては、国の研究開発プロジェクトの契約等や公的研究機関の各種指針等において、営業秘密保護や技術流出防止を一層確実なものとするとともに、大学においては、学問・研究の自由を確保しつつ適切な範囲で営業秘密管理が行われるよう促す。また、その際、民間研究機関のみならず公的研究機関における上記JISの活用についても、必要に応じて検討する。
(文部科学省、経済産業省、関係府省)


2)金型図面等の管理保護等を徹底する
i) 金型図面等に含まれる知的財産の管理保護等を内容とした「金型図面や金型加工データの意図せざる流出の防止に関する指針」に加え、金型取引の対象範囲を拡大した改正下請代金支払遅延等防止法のフォローアップ調査を2004年度も継続的に行い、取引実態の把握に努めるとともに、金型製造者及びユーザーの双方に対し、同指針及び改正下請代金支払遅延等防止法の周知徹底を図る。
ii) 2004年度も引き続き、社団法人日本金型工業会の作成した金型図面等に押印する「マル秘マーク」及び「取引基本契約書モデル」の普及等を通じて、金型製造者による知的財産の管理保護についての自主的な取組を促す。
(経済産業省)


3)医薬品の試験データの保護の強化等を検討する
 厚生労働省から新規医薬品の承認を受けるために申請する試験データは、薬事法に基づき、新規医薬品の市販後における品質、有効性、安全性を確保する観点から、6年の再審査期間が設けられ、後から簡略化して行う同等の医薬品の申請に使用できないよう実質的に保護されている。知的財産を保護し、新規医薬品の開発に対するインセンティブを向上させる観点からの保護の強化等について、例えば10年間の保護期間を設定する等、幅広い観点から2005年度末までに検討する。
(厚生労働省、経済産業省)


(7)データベースの保護を強化する
 遺伝子データ等、相当な労力や費用をかけたにもかかわらず、創作性がないために著作権で保護されないデータベースについて、第三者がこのデータベースのデータを不正に複製・流用することを防止するために必要な具体的方策について、欧米における状況等を踏まえつつ検討し、2004年度中に結論を得る。
(経済産業省)


(8)植物新品種の保護を強化する
i) 2004年4月に学識経験者等からなる研究会を立ち上げ、登録品種の収穫物を原料とした加工品にも育成者権の効力を及ぼすこと、育成者権の存続期間や農家に許されている自家増殖の在り方等について検討を開始した。2004年度以降、この研究会の結論とともに、加工品についての品種識別技術の開発状況や国際的な動向も踏まえつつ、法改正の必要性の検討を行い、2005年度末までに結論を得る。
ii) 2003年度には、農林水産省所管の独立行政法人等において、収穫物及び当該収穫物を原料とした加工品を対象としたDNA品種識別技術の開発を実施しており、2004年度も引き続き、侵害品の判定を容易にするためのDNA品種識別技術の開発を促進する。
iii) 独立行政法人種苗管理センターにおいて、2003年度に、育成者権者等の依頼に応じ、育成者権侵害の判定等を支援するための品種類似性試験(比較栽培)を開始したところであり、2004年度においてはそれを継続するとともに、DNA分析による品種類似性試験の実施体制の強化を図る。
(農林水産省)


(9)損害賠償制度を強化する
 侵害がされやすく権利者がそれを未然に防止することができないという知的財産権の特性を踏まえ、権利者を適正に救済し、侵害し得の社会からの脱却を図るため、知的財産に関する損害賠償制度の強化の方策について幅広く検討し、2004年度末までに結論を得る。特に、インターネットによる送信可能化権侵害については、損害の回数や侵害額の立証が困難であることにかんがみ、文化審議会で検討されている損害賠償制度の見直しについて、2004年度も引き続き検討を行い、立証負担の軽減を図る。
(法務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)


(10)知的財産権侵害に係る刑罰を見直す
 知的財産権侵害に対する抑止効果を高めるため、各知的財産法相互間や他の経済法との均衡を踏まえ、刑事罰の引上げの要否について検討を行い、2004年度末までに結論を得る。
(法務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)


4.紛争処理機能を強化する


(1)知的財産高等裁判所(仮称)に期待する
 裁判所における専門的処理体制の充実強化のため、2003年に改正された民事訴訟法により、知的財産事件の東京・大阪地裁、東京高裁への集中が図られるとともに、専門委員制度が導入された。さらに、知的財産に関する事件を専門的に取り扱う体制を名実ともに整えるべく、知的財産高等裁判所設置法案が2004年通常国会に提出されている。また、裁判所調査官の権限の拡大及び明確化を図る裁判所法等の一部を改正する法律案も2004年通常国会に提出されている。これらの法案が成立した場合には、知的財産高等裁判所において、知的財産や技術に精通した専門人材を活用し、経済社会の実態にあった運用を行うなどの各方面の期待に応え、より一層適正・迅速な裁判を実現することが望まれる。


(2)証拠収集手続を拡充する
i) 知的財産関連訴訟における証拠収集手続の機能を強化するため、秘密保持命令、書類提出義務の有無に関する非公開審理手続、営業秘密が問題となる訴訟における公開停止の要件・手続の規定を導入すべく、裁判所法等の一部を改正する法律案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、2004年度は、これらの手続が活用されるよう周知を図る。
(司法制度改革推進本部、法務省、文部科学省、経済産業省)
ii) また、2004年度から、刑事訴訟における営業秘密の保護の在り方について、憲法上の公開原則にも配慮しつつ、産業界等のニーズを調査する。
(経済産業省)


(3)特許権等の侵害をめぐる紛争の合理的解決を実現する
 特許権等の侵害と権利の有効性をめぐる紛争の実効的解決のための制度を整備すべく、裁判所法等の一部を改正する法律案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、2004年度から、この制度を円滑に運用するため、以下の措置を講ずる。
i) 侵害訴訟と特許等無効審判の連携をより円滑化するため、審判合議体が必要に応じて侵害訴訟における特許等の無効に関する抗弁資料を入手することや審判の当事者に侵害訴訟関連情報の積極的な提供を要請すること等により、侵害訴訟との進行調整を充実させる。
ii) 侵害訴訟係属中に請求があった特許等無効審判及び訂正審判については、早期に審理する対象とする。
(法務省、経済産業省)


(4)裁判外紛争処理を充実する
 知的財産に係る紛争処理手段の選択肢を幅広く提供する観点から、裁判外紛争処理(ADR)機関の機能強化・活性化を図るため、2004年度までに、日本弁護士連合会、日本弁理士会等の関係者間で、知的財産の評価や標準化に関する特許権等の判定や紛争処理など、利用の可能性のある分野について検討を行い、所要の措置を講ずるよう要請する。特許庁の判定制度とADR機関との適切な役割分担についても、司法制度改革におけるADRの在り方の検討を踏まえて、2005年度までに結論を得る。
(法務省、経済産業省)


5.国際的な知的財産の保護及び協力を推進する


(1)世界特許システムの構築に向けた取組を強化する
1)国際的な審査協力を推進する
 世界各国で権利を取得する出願人の手続負担を軽減し、各国特許庁の業務負担の軽減を図るとともに、特許法や特許審査基準の国際的な調和を通じた相互承認に向けて、各国特許庁間の審査協力を進める。そのために、2004年度も引き続き、日米欧の三極特許庁間、さらにはその他の先進国との間においても、従来技術調査結果・審査結果を相互に利用するプロジェクトや審査官交流を一層推進する。また、日本の出願人が国際的に権利取得を目指す出願について、PCT制度の一層の活用を促進するとともに早期審査制度の活用を促し、審査結果情報を国際的に早期発信する。
(外務省、経済産業省)


2)日米欧三極特許庁間で特許の相互承認の実現を図る
 世界特許システムの第1段階として、世界の80%の出願シェアを有する日米欧三極特許庁間で相互承認の早期実現を図るため、その前提となる制度・運用の調和や必要なインフラ整備等に関する具体的な工程表を作成すべく、日本がリーダーシップを取り、2004年度から三極特許庁間の作業グループにおいて取り上げ、米欧との検討を進める。
(外務省、経済産業省)


3)特許協力条約(PCT)の改革を推進する
 2004年度も引き続き、世界知的所有権機関(WIPO)におけるPCT改革の議論において、利用者の利便性向上、国際調査機関・国際予備審査機関の先行技術調査や予備審査の一層の活用に向けた議論に精力的に取り組むことにより、国際的な権利取得の円滑化につながる制度構築を進める。
(外務省、経済産業省)


4)途上国における権利取得を円滑化する
 2004年度も引き続き、我が国出願人の海外での権利取得を容易にし、十分な保護を図るため、途上国によるPCTへの加入や我が国において特許となった場合に、その結果に基づき特許を付与する、いわゆる修正実体審査の制度上又は運用上の受入れなどを、二国間や地域的な枠組みを通じて戦略的に推進する。また、途上国における特許法制度の整備や運用の改善に資するべく、専門家の派遣や研修生の受入、現地セミナーの開催、技術協力プロジェクトの実施などを通じて、引き続き人材育成や情報化に関する協力を推進する。
(外務省、経済産業省)


5)特許制度の国際的な調和を促進する
i) 2004年度も引き続き、WIPOにおける実体特許法条約に関する議論に精力的に取り組み、米国における出願公開制度の全面導入、先発明主義の見直しやグレースピリオドの統一を含めた特許制度の国際的調和のための議論を促進する。
ii) 2004年度も引き続き、国際的な権利取得の円滑化を図るために、出願人の母国語による特許出願及びその翻訳文における誤訳の訂正を第三者の利益とのバランスを考慮しつつ可能にする制度が各国において採用されるよう、WIPO等の場において、国際ルール作成の議論を促進する。
iii) 先使用権制度は、企業活動の実情を反映させ利用性を向上させることが望ましいため、2004年度中に、先使用権の権利幅や公証制度など各国制度やその利用実態について調査し、我が国産業界への影響を踏まえて検討する。
(外務省、経済産業省)


6)国際的な審査情報ネットワークを構築する
i) 我が国の審査結果を海外に発信し、日米欧三極特許庁間での審査協力を推進するために、サーチ・審査結果に関する情報を相互利用可能とする審査情報ネットワークの確立を速やかに実現すべく、2004年度中にシステム開発を行う。
ii) 途上国に対する審査協力を推進するため、2004年度中に、アジア産業財産ネットワークに、より詳細な審査関連情報を機械翻訳により英訳された形で提供する機能を追加する。
iii) 我が国の審査関連情報が他国の審査において有効に活用され、我が国出願人の権利取得の迅速化、翻訳負担の軽減に資するため、2004年度も引き続き、英語への機械翻訳用の辞書のより一層の充実を図り、特許庁保有の辞書を外部に公開するなど、産業界での日英機械翻訳の活用を促進する。
(外務省、経済産業省)


(2)国際的な著作権制度の調和等を推進する
i) デジタル化・ネットワーク化に対応して著作権等を適切に保護するため、現在WIPOで検討が進められている視聴覚的実演や放送機関に関する新条約(「放送機関の保護に関する条約(仮称)」及び「視聴覚的実演に関する条約(仮称)」)の早期採択に向けて、2004年度も引き続き積極的に議論に貢献する。
(総務省、外務省、文部科学省)
ii) 2004年度も引き続き、アジア諸国を中心に、二国間や自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)の交渉の場など、様々な機会を利用して、1996年に採択された「著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)」や「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)」への早期加入を働きかける。
(外務省、文部科学省)
iii) 途上国における著作権制度の普及・整備を支援するため、WIPOなどの協力を得て、2004年度も引き続き、途上国の政府職員や集中管理団体の職員を対象とした研修やセミナーの開催、著作権制度及び集中管理制度に関する専門家の派遣を行う。
(外務省、文部科学省)


(3)デザインの国際的保護のための審査協力等を推進する
 我が国で創作されるデザインの国際的保護を図るために、2004年度も引き続き、アジア諸国等に対して、日本の意匠審査結果の提供を通じた審査協力や意匠専門家の派遣や研修生受入を通じた体制整備のための協力を推進する。
(外務省、経済産業省)


(4)国際的な商標の保護及び協力を推進する
1)商標の国際登録制度の利用を促進する
 マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録制度は、商標の国際的な権利取得を容易にする制度であるため、2004年度も引き続き、二国間や地域的な枠組みを通じて、加盟が遅れているアジア地域等の加入を働きかけるとともに、我が国出願人による利用を促進する。
(外務省、経済産業省)


2)途上国に対する人材育成等の協力を推進する
 途上国における商標法制度の整備や運用の改善に資するべく、専門家の派遣や研修生の受入、現地セミナーの開催、技術協力プロジェクトの実施などを通じて、2004年度も引き続き、人材育成や情報化に関する協力を推進する。
(外務省、経済産業省)


3)商標制度の国際的な調和を推進する
i) 2004年度も引き続き、WIPOにおける商標法条約改正に関する議論に精力的に取り組み、商標制度の利用者の更なる利便性の向上につながるよう議論を促進する。
ii) 海外で権利を取得する出願人の手続負担を軽減し、各国特許庁の業務負担の軽減に資するため、2004年度も引き続き、日米欧の三極特許庁間で、指定商品・役務に関する表示の標準化を一層推進する。
(外務省、経済産業省)


(5)植物新品種に関する審査協力と制度整備を促進する
i) アジア地域等における迅速・的確な権利保護を図るため、2004年度も引き続き、中国、韓国等との間で審査官等による定期的な協議を実施し、審査協力を推進するとともに、審査調和のための審査基準の見直しなどを行い、将来的な相互承認制度の導入等を検討する。
ii) アジア地域等における新品種保護制度の整備の充実を図るため、2004年度も引き続き、植物新品種保護国際同盟(UPOV)を通じた制度整備への支援や専門家を養成するための研修を実施するとともに、自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)の交渉の場など、様々な機会を利用して、制度の整備及び充実について働きかけを行う。
(外務省、農林水産省)


(6)国際的な紛争処理に係るルールの整備を促進する
 インターネット等による国境を越えた知的財産権の行使や紛争処理に関する国際ルールを明確化するため、2004年度も引き続き、知的財産権の有効性や侵害等に関する訴訟の国際裁判管轄等に関する議論に積極的に取り組む。
(法務省、外務省、文部科学省、経済産業省)


(7)自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)等を活用する
 自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)や投資協定などの二国間・複数国協定の交渉の機会において、交渉相手国の知的財産制度の整備や実効的なエンフォースメントの確保を促し、我が国産業界等の要望に沿ったTRIPS協定等の規定以上の知的財産の保護が達成されるよう、2004年度も積極的に働きかける。
(外務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)
(8)知的財産に関連する法律の英訳を国際的に発信する
 我が国の知的財産に関連する法律などが国際的に理解され、利用しやすくするため、2004年度以降、関係府省や関係団体と協働しつつ、正確かつ統一された英訳の国際的な発信を推進する。
(司法制度改革推進本部、法務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、関係府省)


U.模倣品・海賊版対策


 中国をはじめとする海外市場においては、模倣品・海賊版により被害を受ける我が国企業があらゆる業種で増加してきている。模倣内容も商標から意匠・特許・種苗にまで拡大し、高度技術化、大規模流通化が進んでいる。模倣品・海賊版は製造国・地域から世界中に拡散し、特に近年、模倣品・海賊版と犯罪組織、テログループとの繋がりが指摘されるなど、模倣品・海賊版問題は世界各国が協力して取り組むべき問題である。また、我が国においても、税関における模倣品・海賊版の輸入差止件数も近年急増していることから、模倣品・海賊版の国内市場への流入も強く懸念されている。 
 模倣品・海賊版の問題は、権利者が本来得るべき利益を奪い、新たな知的財産の創造意欲を減退させるとともに、消費者の企業ブランドへの信頼を低下させ、消費者自身の利益を阻害するものである。また、模倣品・海賊版は国際市場における企業間の適正な競争を著しく阻害するものでもある。
 我が国が「知的財産立国」を目指す上では、国内はもとより海外においても我が国企業を模倣品・海賊版による被害から守るよう、官民挙げて強力な対策を講ずることが強く求められている。


1.外国市場対策を強化する

 海外市場における模倣品・海賊版による被害は近年、高度技術化・大規模流通化が進展するとともに、アジアから世界中に拡散している。我が国企業も自己の利益を守るべく侵害発生国・地域で活動しているが、侵害発生国・地域の当局への取締要請や制度改善要求は、企業の努力だけでは難しい。特に中小企業にとっては手続、人材、費用などの面で負担が過大であり、なすすべを持たないというのが実態である。このため政府による被害実態に応じた適切な支援が強く求められている。
 特に、近年は犯罪組織の模倣品・海賊版の流通への関与が懸念されており、さらには模倣品・海賊版の販売による不正な利益がテログループの資金源となっていることが指摘されるなど、模倣品・海賊版問題は世界各国が協力して取り組むべき課題となっている。
 また、世界の競争秩序の維持、日本の産業競争力強化の観点から、模倣品・海賊版問題を知的財産の保護問題としてとらえることはもとより、世界の通商問題として再認識し対策を強化すべきである。
(1)侵害発生国・地域への対策を強化する
1)企業・団体等による模倣品・海賊版対策を支援する
i) 模倣品・海賊版対策を我が国外交上の重要施策と位置付け、2004年度中に外務省経済局に知的財産権侵害対策室(仮称)を設置する等により、体制の強化を図るとともに、「知的財産権侵害対応マニュアル」を作成し、全ての在外公館に配布して対応を徹底する。また、在外公館においては、大使自ら先頭に立って、また2004年度中に担当窓口も明確にして、我が国企業の個別の被害実態の把握やそれに対する取締当局の対応状況のフォロー、取締当局への要請などの支援活動を積極的に行う。
(外務省)
ii) 2004年度から、企業からの海外での権利取得や権利行使に関する相談に応じ、対応方法や手続等に関する助言や調査会社等の紹介などの具体的な支援を在外公館や日本貿易振興機構(JETRO)等において実施する。
(外務省、経済産業省)
iii) 2004年度も引き続き、模倣品・海賊版被害にあった場合の対応策や事例など、我が国の企業が侵害国において訴訟提起などの権利行使をするために必要なノウハウなどの情報を収集し、まとめた資料を企業へ配布する。
(外務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
iv) 2004年度も引き続き、我が国の企業による諸外国での模倣品・海賊版対策の取組を支援するため、国際知的財産保護フォーラム、コンテンツ海外流通促進機構、不正商品対策協議会等の民間団体の諸外国での活動を支援する。
(警察庁、外務省、文部科学省、経済産業省)
v) 2004年度以降、著作権侵害の摘発活動を容易にするため、コンテンツ海外流通促進機構及び不正商品対策協議会が主体となり検討を進めている、海外輸出統一マークの導入を支援する。
(警察庁、文部科学省、経済産業省)
vi) 2004年度以降、模倣品・海賊版に関する国際的な紛争を効果的に解決するため、民間業界団体等による国際的な仲裁・調停機関の設立を奨励する。
(文部科学省、経済産業省)


2)侵害発生国・地域への具体的要請を行う
i) 2004年度も引き続き、中国をはじめとするアジア諸国などの侵害発生国・地域に対し、税関取締りにおける権利者の負担軽減や再犯に関する厳格な取締りなど、具体的な制度改善や取締りの実効ある強化について閣僚レベルをはじめ様々なレベルで強力に要請を行う。
(外務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
ii) 海外における模倣品・海賊版を撲滅するためには、知的財産を重視する風土を醸成し、自ら模倣品・海賊版を生まない国となることが肝要である。このため、2004年度から、侵害発生国・地域において対策に取り組む当局や団体との連携を強化するとともに、模倣品・海賊版が社会悪であることを侵害発生国・地域の国民が広く認識するよう、啓発活動の支援に取り組む。
(外務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)


3)侵害状況調査を実施する
 政府においては、上記のような海外における活動の基とするとともに、模倣品・海賊版対策を実効あるものとするため、例えば、以下のような項目を内容として、必要に応じ法律の制定等制度整備を、2004年度中に行う。
a)定期調査
 侵害発生国・地域における模倣品・海賊版による被害の実態、当該国における法制度上の問題の有無、エンフォースメントの実効性等を定期的に調査すること。
b)権利者の申立てに基づく調査
 外国政府から不当な取扱いを受けたことにより被害を受けている権利者から申立てがあった場合、政府は一定期間内に必要な実態調査を開始すること。
c)調査結果に基づく交渉等
 上記調査の結果、侵害発生国・地域の政府の対応に問題があると判断された場合には、二国間協議等により問題の改善を要請すること。また、侵害発生国・地域の法制度等にWTO協定上の問題がある場合には、WTO紛争処理手続きを利用し問題解決を図ること。
d)報告書の作成・公表
 定期調査や権利者から申立てに基づく調査等を基に、諸外国の模倣品・海賊版対策に関する報告書を作成・公表すること。
(外務省、経済産業省、関係府省)
(2)二国間の枠組みを活用する
i) 2004年度も引き続き、アジア諸国との自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)や投資協定・税関相互支援協定などの二国間・複数国間協定においては、知的財産関連の法制度の整備のみならず、実効的なエンフォースメントの確保のための条項を盛込むよう積極的に交渉する。
(外務省、関係府省)
ii) 2004年度から、二国間協議においては、我が国企業の被害実態などを取上げての取締りの強化や制度改善の要請など、戦略的かつきめ細かく対応する。
(外務省、関係府省)


(3)欧米との連携を強化する
 2004年度から、侵害発生国・地域への働きかけをより有効に行うため、首脳間、閣僚間をはじめとする日米、日・EU間の定期協議や個別協議などを積極的に活用し、侵害発生国・地域に対し共同して取り組むよう米国、EU・欧州各国との連携を深める。
(外務省、関係府省)


(4)多国間の枠組みを活用する
i) 模倣品・海賊版問題は、特定の国に止まらず世界各国に拡散しており、また犯罪組織やテログループとの繋がりが指摘されている状況にかんがみ、2004年度から、模倣品・海賊版問題を「世界の通商問題」としてとらえ、世界貿易機関(WTO)、世界知的所有権機関(WIPO)、アジア太平洋経済協力(APEC)、アジア欧州会合(ASEM)、G8サミットなどの通商問題や知的財産問題を扱う国際機関・フォーラムにおいて、模倣品・海賊版の拡散を防止するための条約や閣僚宣言の提唱など、模倣品・海賊版問題を積極的に取り上げて、その解決を図るための活動を活発に行う。
(外務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
ii) 2004年度も引き続き、WTOの対中国経過的レビューメカニズム及び知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)の法令レビュー、貿易政策検討制度(TPRM)を積極的に活用し、アジア諸国・地域に模倣品・海賊版を取り締るよう強力に要請する。
(外務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
iii) 2004年度も引き続き、WIPOにおいて、模倣品・海賊版のエンフォースメント問題を主要議題として取り上げ、模倣品・海賊版の取締りをWIPO加盟国が一体となって取り組むべき問題であるとの認識を加盟国間で共有するよう積極的に取り組む。
(外務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
iv) APECにおいて、2003年10月の首脳宣言、閣僚宣言において知的財産権の保護を進めることが盛り込まれ、我が国が提案した知的財産権サービスセンターの設立、「知的財産権包括戦略」が承認された。2004年度は、APECにおいてこの知的財産権包括戦略を着実に推進するとともに、2004年度中に我が国に知的財産権サービスセンターを設置し、各国・地域においてもセンターが早期に設置されるよう、積極的に働きかける。
(外務省、経済産業省)
v) 2004年度も引き続き、ASEM貿易円滑化行動計画の下での知的財産権分野での活動に積極的に取り組むとともに、欧州とも協力し、知的財産保護のためにアジア欧州間で協力する新たな活動を行う。
(外務省、関係府省)


(5)アジア諸国の模倣品・海賊版対策の能力構築を支援する
i) 開発途上国における貿易投資の拡大と経済発展のために知的財産権の適切な保護が不可欠であることにかんがみ、2003年8月に決定されたODA大綱を踏まえ、2004年度は、個別の援助計画において必要性及び優先度に応じ開発途上国の知的財産制度の整備・執行の強化を支援する。
(外務省、関係府省)
ii) 各国政府等に対する各種セミナーなどの能力構築に関する取組を踏まえ、2004年度も引き続き、模倣品・海賊版対策に積極的に取り組むアジア諸国の政府関係者や民間の団体・企業等に対し、各府省が実施している知的財産権の保護に関する能力構築(キャパシティービルディング)を、関係府省の連携の下、我が国企業やJETRO等の関係団体と協力しつつ、一層効果的に実施する。
(警察庁、外務省、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)



2.水際での取締りを強化する

2−1.侵害判断が困難な貨物の取締りを強化する

 侵害発生国・地域において製造された特許権侵害品等が日本国内に流入しており、水際での特許権侵害品等の取締りの強化が緊急の課題となっている。水際取締りに関する制度整備は、2004年の関税定率法の改正により、税関が侵害疑義貨物を発見した場合に、税関から権利者に対し輸出入者等の情報が通知されるようになるなど、着実に進められている。
 しかしながら、特許権侵害品等は製品の外観のみから侵害を判断することは困難な事案が多いほか、輸入者が法的・技術的問題について反論を行う事案もあるため、権利者・輸入者の正当な利益を損なわないように配慮した上で、分解検査、当事者の意見、専門家の関与等により特許権侵害品を効果的に差し止める制度を整備する必要がある。
 また、水際での取締り方法として、税関が簡便・迅速な手続で対応することが必要である。さらに、侵害が認定された製品と同一の他の輸入者の製品についても輸入を簡便・迅速に差し止められることが重要である。


(1)特許権侵害品等の侵害判断・差止めを当事者の主張に基づき、専門的かつ簡便・迅速に行う制度を確立する
 水際での特許権等の侵害品には、外観のみから判断が可能なものから、当事者の主張を基にした専門的な侵害判断を要するものまで、多様な事案が含まれる。また、模倣品・海賊版対策はそのスピードが重要であり、特に中小企業にとっては手続や費用の負担の少ないことが実際上不可欠である。このため、権利者が事案の性質や権利者のニーズに応じて多様な手続を活用できるよう、2004年度中に、以下のような侵害判断の手続につき検討を行い、必要に応じ関税定率法等関係法律を改正するなど制度整備を行う。
イ)税関長による侵害認定
 侵害疑義品の外観、特許庁への意見照会の活用、DNA鑑定の活用により、税関長が侵害を判断する。
ロ)サンプル分解検査制度を活用した侵害認定
 権利者による侵害の立証を容易にするため、一定の要件の下、権利者が税関からサンプルの提供を受け、分解検査を行う。なお、外観から侵害判断ができないような貨物については、税関においても税関長の職権により積極的に分解検査を行う。
ハ)外部専門家を活用した侵害認定 
 侵害認定に必要な法的・技術的事項を判断するため、弁護士・弁理士等の外部専門家を活用して、税関長が侵害を判断する。
ニ)技術判定機関を活用した侵害認定
 侵害認定に必要な技術的事項を判断するため、専門家からなる技術判 定機関を活用して、税関長が侵害を判断する。
ホ)裁判所の仮処分命令を活用した侵害認定
 裁判所の仮処分命令を活用する。裁判所には、水際における迅速な救済の必要性にかんがみ、仮処分命令が迅速になされるような訴訟運営面での対応を期待するとともに、税関長は、侵害認定手続期間内に裁判所の仮処分命令があった場合には、当該命令における侵害判断に基づいて侵害を認定する。なお、仮処分命令と侵害認定との法的関係(法的拘束の可否等)については、さらに検討が必要である。
へ)仮処分申請中の貨物の留置
 権利者が裁判所に仮処分を申請している場合には、一定期間は疑義貨物の通関を認めない。
 なお、税関内審議機関による侵害認定という考え方については、行政機関による簡易・迅速な処理を求めるニーズがある一方、司法手続との重複や費用対効果等の問題を指摘する意見があることから、特許侵害品の水際での取締りの状況等を踏まえ、さらに慎重な検討が必要である。
(法務省、財務省、農林水産省、経済産業省)


(2)当該輸入者に関係なく同一製品の輸入を差し止める
 侵害品差止めの迂回を防止し、その実効を担保する観点から、一旦侵害品と判断された後に、当該侵害品と同一品と疑われる物品が輸入されようとする場合には、同様に差止める必要がある。現在でも、輸入者の如何を問わず、税関が侵害品との同一性やライセンスの有無等を判断することにより輸入を差止めることは、制度的には可能であるが、これが簡便かつ迅速になされるよう、2004年度中に制度改善を行う。
(財務省)


(3)裁判外紛争処理(ADR)機関を活用する
 特許侵害事案の多様性にかんがみ、権利者、輸入者の両当事者が日本知的財産仲裁センター等の裁判外紛争処理(ADR)機関を活用する場合の税関の対応の在り方について検討を行い、2004年度中に結論を得る。
(財務省)


2−2.商標権侵害品等の取締りを強化する

 税関の努力により、最近の偽ブランド品などの知的財産権侵害品の輸入差止実績は大幅に増加している。しかし、税関の努力にも関わらず、様々な流通形態により模倣品・海賊版が国内に大量に流入している。このような状況を打開し、偽ブランド品等の模倣品を水際で締め出すためには、法制度の整備も含め、水際での取締りを抜本的に強化する必要がある。 


(1)模倣品等の流通態様に応じた取締りを強化する
1)模倣品・海賊版の税関での取締りを強化する
 並行輸入や個人輸入と偽った輸入や、個人による小口貨物を利用した輸入が、国内に偽ブランド品や海賊版が氾濫する原因の一つとなっている現状を踏まえ、それらの取締りを一層強化するよう、2004年度も引き続き、税関と権利者との連携の強化、税関の検査設備や情報システムの強化、必要な税関職員の確保、税関職員の能力の向上を進める。
(財務省)


2)マーク切除による脱法行為の取締りを強化する
 商標権侵害品に付されたマークを税関で切除することにより通関する脱法行為を防止するため、TRIPS協定第46条の規定の趣旨に則り、2004年度中に、商標法、不正競争防止法、関税定率法等の関係法律について検討し、必要に応じ法改正等制度改善を行い、税関での取締りを強化する。
(財務省、経済産業省)


3)部分品・部品取外しによる脱法行為に対する取締りを強化する
 意匠権侵害品の部品を税関で取り外すことにより通関する脱法行為を防止するため、2004年度中に、意匠法、不正競争防止法、関税定率法等の関係法律について検討し、必要に応じ法改正等制度改善を行い、税関での取締りを強化する。
(財務省、経済産業省)


4)形態模倣品の取締りを強化する
 形態模倣品や周知表示の混同を惹起する製品、著名表示を冒用する製品の海外からの輸入の税関での取締りを強化するため、2004年度中に、不正競争防止法及び関税定率法等について検討を行い、必要に応じ法改正等制度改善をする。その際、その運用を円滑に行うため、税関での侵害判断を容易にする制度を整備する。
(財務省、経済産業省)


(2)個人輸入等の取締りを強化する
 模倣品は社会悪であることを国民に明確にするとともに、模倣品が氾濫することを防止するため、2004年度中に、偽ブランド品であることを知りながら個人使用目的で所持することの禁止及び税関での輸入の禁止について検討を行い、必要に応じ商標法等の関係法律等を改正するなど制度整備を行う。
(財務省、経済産業省)


3.国内での取締りを強化する

 インターネットオークションサイト等による大量の偽ブランド品の売買や映画や音楽などファイル交換ソフトを用いた著作権侵害が横行しているほか、個人の肖像等を不正に使用した商品の売買などが国内で深刻化している状況にかんがみ、国内においても取締りを一層強化する必要がある。
 また、模倣品・海賊版を海外での製造を防ぐためには、国内においてノウハウ等が流出を防止するための対策について、法制度の整備を含め、強化する必要がある。


(1) インターネットを利用した侵害の取締りを強化する
i) インターネットオークションサイト等を通じた多量の模倣品・海賊版の売買及びファイル交換ソフトや技術的保護手段を回避する機器による著作権侵害の問題の深刻さにかんがみ、それに対する取締りを強化するため、以下の項目を含め、2004年度中に、取締方策について幅広く検討を行い、必要に応じ法改正等制度整備を行う。
a)インターネットオークションサイト等の管理者による出品者の本人確認の徹底、権利を侵害している出品物のサイトからの削除等を円滑にする方策等取締りの強化の方策
(警察庁、総務省、経済産業省)
b)商標法、意匠法等における取締りの強化の方策
(経済産業省)
c)ファイル交換ソフト等を用いた著作権侵害に対する取締りの強化等の方策
(文部科学省)
d)古物営業法における取締り及び犯罪抑止対策の強化の方策
(警察庁)
e)特定商取引法における消費者の混同を招く表示の取締りの強化の方策
(経済産業省)
ii) 2004年度以降、オークションサイト等を通じた模倣品・海賊版の売買、映画ファイル等の無許諾アップロード(送信可能化)の警察による取締りを一層強化するとともに、オークションサイト等を通じて発注される模倣品・海賊版の輸入を税関が積極的に取り締まる。
(警察庁、財務省)
iii) 2004年度も引き続き、インターネット上の違法コンテンツを常時・自動的に監視するシステムの活用を支援する。
(総務省、経済産業省)


(2)商品の形態模倣に対する保護を強化する
i) 商品の内部構造の模倣を不正競争法防止法上の形態模倣品とすることや商品の形態模倣禁止期間の問題などについて2004年度中に検討を行い、必要に応じ不正競争防止法の改正等制度整備を行う。
(経済産業省)
ii) 2005年度から、出願中の案件に関し模倣品が発生したときは、直ちに意匠審査に着手し、出願手続に瑕疵のないものについては1ヶ月以内に一次審査結果を通知する。
(経済産業省)


(3)肖像等を不正に使用した商品を取り締まる
 芸能人、スポーツ選手等の肖像や氏名を不正に使用した商品の売買を取り締まるため、被害の実態を踏まえ、不正競争防止法の保護や刑事罰の対象とすることなどについて2004年度中に検討を行い、必要に応じ法改正等制度整備を行う。
(文部科学省、経済産業省)


(4)ノウハウ等の海外への流出を防止する
i) ノウハウや設計図面などの海外への流出を防ぐため、「技術流出防止指針」等の企業が実施すべきノウハウ等の海外流出を防止するための具体策について、2004年度も引き続き、中小企業をはじめとして広く周知徹底を図るための方策を講ずる。
(経済産業省)
ii) ノウハウ等が技術者等を通じて海外に流出することを防止するため、国外への営業秘密の漏洩などについても、2004年度において、被害の実態を踏まえ検討を行い、必要な対策の強化を行う。
(経済産業省)


(5)警察による取締りを強化する
i) 模倣品・海賊版の供給ルートを遮断するため、2004年度も引き続き、模倣品・海賊版の密売等により不正な利益を得ている犯罪組織の実態を的確に解明し、その取締りを強化するとともに、この種の犯罪と国際テログループの資金源活動のつながりを視野に入れた警察活動を推進する。
(警察庁) 
ii) 3.(1)A)のインターネットを利用した侵害の取締りの強化(54頁)に加え、2004年度も引き続き、街頭における模倣品・海賊版の販売等事犯の取締りを強化する。
(警察庁)
iii) 2004年度も引き続き、不正商品対策協議会をはじめとする各業界団体と警察当局との連携をより強化し、確度の高い情報に基づいた効果的な取締りを実施する。
(警察庁)


4.中小企業・ベンチャー企業の支援と啓発を強化する

 模倣品・海賊版問題は企業にとって死活問題であるのみならず、その対策には人材・費用面で多大な負担を強いられるものであり、特に中小企業にとっては極めて対応が困難な問題であるため、中小企業においても模倣品・海賊版問題に対し十分な取組が可能となるよう、積極的に支援すべきである。
 また、長期的な観点に立って模倣品・海賊版を根絶していくためには、国民一人一人に模倣品・海賊版が社会悪であるという意識を持ってもらうことが最も重要であり、そのための教育・啓発に取り組むべきである。


(1)中小企業・ベンチャー企業の対策を支援する
 中小企業やベンチャー企業については、人材・費用面等で模倣品・海賊版対策を講ずることに実際上大きな困難が伴うことにかんがみ、2004年度から、中小企業・ベンチャー企業については、海外出願・翻訳等の権利取得手続や現地での被害実態調査、公安・行政当局との交渉・要請、訴訟提起等の権利行使に関する活動についての相談・助成をはじめとする具体的な支援を強化するとともに、中小企業に対する諸外国の法制度及びその運用、模倣品・海賊版の被害実態・対策に関する情報の提供などの方策をさらに強力に進める。
(総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)


(2)国民啓発を強化する
 模倣品・海賊版を撲滅するためには、模倣品・海賊版が社会悪であることを国民が広く認識するよう、2004年度も引き続き、消費者である国民への啓発活動を進めるとともに、学校教育等を通じ適切な消費行動等についての教育・学習を進める。
(警察庁、法務省、外務省、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)


5.官民の体制を強化する

 政府の模倣品・海賊版対策の関連府省は多岐に渡り、それぞれの府省が独自に対策を講じている。このため被害を受けている企業にとっては、相談をどこの府省にしたら良いのか不明確であるし、また関係府省間でも被害実態に関する情報の共有や政府一体となった取組が遅れているのが現状である。今後、模倣品・海賊版問題に対し国を挙げて外国市場対策、水際及び国内での取締りを進めていく上では、関係府省がその垣根を越え強力に連携するとともに、企業にとってもより利便性の高い体制を整備することが必須である。
 また、政府のみならず関連団体においても、国内での団体間の連携はもとより諸外国の団体との連携も強化するとともに、政府とも一体となって効果的な模倣品・海賊版対策を実施することが求められている。


(1)政府内の連携体制を整備する
i) 外国市場対策や水際及び国内での取締りに関し、関係府省が一体となって以下のような対策に取り組むよう、経済産業省を一元的な相談窓口とするとともに、2004年度においてできるだけ速やかに、模倣品・海賊版対策に関する総合的な連携を図るため、関係府省局長会議(仮称)を設置する。
a)一元的相談窓口の整備と連携の強化
 権利者や企業等からの相談に対し、迅速に対応するために、政府における一元的な相談窓口を経済産業省に設置するとともに、関係府省が一体となって連携する体制を整備する。
b)関係府省の情報共有
 関係府省で模倣品・海賊版に関する情報を共有できるようネットワークやデータベースを構築する。 
c)取締当局による情報の活用
 外国市場での模倣品・海賊版の製造・流通情報や被害情報等を警察・税関が活用し、当該模倣品等の国内市場への流入防止、国内からの排除を進める。 
d)政府の政策への反映
 国内外で収集・分析した各種情報に基づき模倣品・海賊版対策に関する政策を立案・実施するとともに、その結果等を関係者にフィードバックする。
e)関係府省の政策調整と総合的実施
 外国市場対策、水際及び国内での取締り等に関する法律や制度の改善、取締りや運用の強化等に当たっては、それが効果的かつ効率的に行われるよう、関係府省間で相互に調整をするとともに、密接な連携をとって、総合的に実施する。
(警察庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)   


ii) 権利取得や模倣品対策の助言、現地の弁理士・弁護士・調査機関の紹介、個別案件の相談や関係府省への連絡、侵害国政府当局への要請など、企業の相談に応じるため、2004年度から、JETROを中心に商工会議所や弁理士会等がネットワークを構築し、東京のみならず地方、海外においても企業からの相談を受け付け、対応する体制の整備を支援する。
(経済産業省、関係府省)
iii) 水際取締り及び国内取締りの双方がより効果的に行われるよう、2004年度から、模倣品・海賊版対策情報連絡会議を通じ、警察、税関の情報交換や連携を進める。
(警察庁、財務省)


(2)侵害発生国・地域の当局との当局間の連携を強化する
 侵害発生国・地域の当局(権利付与官庁、警察当局、税関当局)との連携を具体的に強化するため、2004年度も引き続き、日常的な情報交換に加え、相互支援協定の締結や当局間での定期協議などを進める。
(警察庁、外務省、財務省、文部科学省、経済産業省)


(3)官民・民民の連携を強化する
i) 侵害発生国・地域の当局との交渉や働きかけを効果的に行うため、2004年度も引き続き、官民合同ミッションの実施等を通じ官民の連携を強化する。
(文部科学省、経済産業省、関係府省)
ii) 2004年度から、QBPC(商標保護委員会)やBSA(ビジネス・ソフトウェア・アライアンス)といった諸外国の模倣品・海賊版対策団体と国内の模倣品・海賊版対策関連団体間の連携を強化及び国内での関連団体間の連携の強化を積極的に奨励する。
(文部科学省、経済産業省、関係府省)


(4)民間企業の体制を強化する
i) 2004年度も引き続き、模倣品・海賊版対策の重要性や社内体制の強化の必要性についての情報を共有すべく、関係府省がより緊密に連携を取りつつ、企業等を対象にした模倣品・海賊版対策のためのセミナーを東京、大阪をはじめとする主要都市で開催する。
(警察庁、財務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
ii) 2004年度も引き続き、主要業界団体に模倣品・海賊版対策委員会の設置などの組織の充実・強化を奨励するとともに、我が国企業に海外事業拠点の模倣品・海賊版対策のための体制の強化を奨励する。
(経済産業省、文部科学省)


6.模倣品・海賊版対策を集中的に処理する

 模倣品・海賊版問題の緊急性にかんがみ、上述の対策に係る法制定・改正については一括法で対応するなど模倣品・海賊版対策を2004年度に集中的に処理する。
(関係府省)


第3章 活用分野

  知的創造活動により優れた成果が創出され、適切に保護されたとしても、それが有効に活用されなければ、言わば「宝の持ち腐れ」であり、経済の活性化は図れない。しかしながら、我が国においては、権利を取得したものの、利活用されていない未利用特許が多いとされる。また、民間における研究開発投資が必ずしも経済成長に結びついていないのではないかとの指摘もある。「知的財産立国」の実現のためには、企業等の知的財産を有する者が知的財産を事業活動の中で最大限に活用していくことが求められていると同時に、政府もそのための環境を整備していく必要がある。
 このため、以下の施策を講ずることにより、企業等における知的財産の戦略的活用を支援するとともに、知的財産活用の環境を整備する。また、自社の技術の価値を最大限に高めるという観点から国際標準化活動を支援していくこととする。

1.知的財産の戦略的活用を支援する

(1)知的財産重視の経営戦略を推進する
i)企業は知的財産を「企業の将来の経済的便益を生み出す競争優位の源泉」と認識し、知的財産を経営戦略の中核に位置付けはじめ、事業戦略、研究開発戦略、知的財産戦略について三位一体で取り組む先進的な動きが多く見られるようになってきた。更にこのような取組を促進するため、企業が「知的財産の取得・管理指針」「営業秘密管理指針」「技術流出防止指針」(経済産業省2003年1月及び3月公表)の3指針の周知を進め、企業においても当該指針に基づく経営戦略を策定することを2004年度も引き続き奨励する。なお、知的財産を核とした企業戦略の策定に当たっては、企業の自主性も尊重しつつ行う。
(経済産業省)
A)業秘密管理や技術流出防止に関する企業の取組を進めるため、「営業秘密管理指針」や「技術流出管理指針」に記載された組織内マネジメントについて自己適合宣言方式を前提としたJIS化をすべく検討し、2005年度末までに結論を得る。
(経済産業省)
(2)知的財産の情報開示を促進する
 証券市場が個々の企業における知的財産の位置付けを事業との関係で的確に把握し、戦略的に「知財経営」に取り組んでいる企業が、証券市場において投資家と緊密な対話を行うことができるよう、企業による自主的な知的財産の情報開示について、以下の取組を行う。なお、情報開示を行うか否かについては、個別企業の判断に委ねる。
i)特許・技術情報に係る企業と証券市場の対話を促進するため、経済産業省が作成・公表した「知的財産情報開示指針」(2004年1月公表)を踏まえた「知的財産報告書」の作成企業が100社を超えるよう、2004年度は、普及啓発等の支援を講ずるとともに、各企業の「報告書」が広くかつ正確に投資家に評価されるよう投資家や各証券市場に対しても普及啓発を行う。
(経済産業省)
A)研究開発・特許関連情報の有価証券報告書等における任意記載の方式について、「知的財産報告書」の活用を含め、2004年度から検討する。
(金融庁、経済産業省)
(3)知的財産戦略指標を策定する
 企業が知的財産戦略を策定する際には、画一的なルールに従って行うのではなく、各企業が自らの意思で明確に目標として捉え、それに挑戦できるような知的財産戦略指標が有効である。この認識に基づき、2003年度になされた検討内容を踏まえ、2004年度は、知的財産の戦略的活用に関し、各企業が自ら知的財産戦略を策定する上での一助となるような指標の策定を目指して検討する。
(文部科学省、経済産業省、関係府省)
(4)知的財産の価値評価手法を確立する
i)知的財産が有する価値に関し客観的に評価できる基準(定量的分析(金額換算値)あるいは定性的分析)の在り方について、各種民間団体調査機関が設ける手法を参考に、知的財産権の種類や取引毎の特性に応じて2004年度までに検討・整理する。また、今後、本格化すると予想される合併・買収等における特許等の価値評価事例を整理公開することにより、特許等の譲渡に関する相場確立を目指す。なお、最終的に、価値評価は企業の判断や創意工夫に任せる等フレキシビリティを持たせる。
(経済産業省)
A)大学における知的財産の価値評価の在り方について、上記@)の検討・整理を参考にしつつ、企業等の参加も得て、2004年度から検討する。
(文部科学省)
(5)知的財産の管理及び流動化の促進に向けて信託制度を活用する
 信託業の担い手を承認TLOを含めた金融機関以外の者に拡大することや受託可能財産の制限を撤廃すること及びグループ内における信託に関する特例を設けることなどを骨子とする信託業法案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、知的財産信託が円滑に行われるよう、以下の取組を進める。
i)出願前の特許を受ける権利等についても信託が円滑に行われるよう、特許原簿や公示方法等の在り方について、2004年度以降、知財信託の活用状況を把握しつつ、必要な検討を行う。
(経済産業省)
A)グループ企業内における管理信託において、事業を行う親会社が受託者である場合にも信託財産たる知的財産を自ら利用することを可能にする観点から、2004年度以降、受託者の忠実義務に関し、信託法の改正を行う等の必要な制度整備についての検討を行い、2005年度中に結論を得る。
(法務省)
B)知的財産の戦略的な管理や資金調達における信託制度の活用状況を踏まえ、2004年度以降、必要に応じ課題の検討を行う。
(金融庁、経済産業省)
(6)知的財産による資金調達の多様化を図る
i)2004年度も引き続き、エクイティ投資、プロジェクトファイナンスの利用促進、中小企業融資等、知的財産による資金調達制度の多様化を図る。
(経済産業省、関係府省)
A)知的財産権者による新たな発明又は著作物の創作等に資するため、当該知的財産権者の知的財産権を他の事業者に移転、譲渡又は利用許諾等を行う特定目的会社等に対する日本政策投資銀行の融資制度を創設したが、2004年度は、その利用促進を図る。
(総務省、財務省、文部科学省、経済産業省)
B)知的財産を経営戦略上重要と位置付ける中小企業・ベンチャー企業を含む事業者に対して、知的財産を活用した資金調達が円滑になされるよう、2004年度も引き続き、日本政策投資銀行が行う知的財産担保融資の取組を奨励するとともに、民間における同様の取組も積極的に奨励する。
(財務省、経済産業省)

2.国際標準化活動を支援する

(1)戦略的国際標準化活動を強化する
1)国の研究開発プロジェクト等における研究開発、知的財産権取得、標準化を一体的に推進する
i)将来的にその成果の普及が期待され広く社会に影響を及ぼす可能性の高い研究開発については、2004年度も引き続き、早期の段階から標準化戦略(ビジョン)を立て、成果が得られたものについて、逐次標準化活動に取り組む。
(総合科学技術会議、総務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
A)標準化戦略を視野に入れた国の研究開発プロジェクトについては、研究開発の実施計画の中に、知的財産権の取得に関する戦略のみならず標準化に関する戦略を明確に位置付け、2004年度から標準化のための活動の財源の確保を図るとともに、確保した財源を効率的に活用して標準化活動に取り組む。研究開発プロジェクトの責任者は、知的財産権の取得及び標準化に関する戦略についても責任をもって対応することとし、必要に応じて、知的財産や標準化について知見を有する専門家を活用する。
(総合科学技術会議、総務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
B)大学・公的研究機関においては、研究開発に際して、その自主的判断に基づき、専門家も活用するなどして、標準化を視野に入れるべきか等の検討を2004年度も引き続き行う。また、大学・公的研究機関に対して、その特性や自主的判断を尊重しつつ、研究開発成果の普及の観点から、研究開発成果を国際標準化するための活動に主体的に参画する等標準化に関する取組が行われるよう奨励する。
(総合科学技術会議、総務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
2)産学官による戦略的な国際標準化活動を強化する
i)国や企業の研究開発において、国際標準化を目指すに当たって、戦略的に国内規格を国際規格へのステップとして活用できるよう、2004年度も引き続き、国内規格の審議の迅速化を図るとともに、国内標準化活動と国際標準化活動の連携を強化する。なお、2003年度に着手した日本工業規格(JIS)の審議の迅速化のための方策については、2004年度から着実にその活動を推進する。
(総合科学技術会議、総務省、経済産業省、関係府省)
A)日本発の国際標準化を、我が国として一貫性をもった形で迅速かつ効率的に進めて行く。このため、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)及び国際電気通信連合(ITU)といった国際標準化機関への対応に関してそれぞれの機関の役割を踏まえつつ、特に情報通信分野等では、総務省及び経済産業省を始めとする各府省間の連携及び産学官の連携を一層強化するため、2004年度も引き続き、これまで以上に継続的に十分な情報交換・意見交換等を進める。また、諸外国の標準化活動の動向把握・分析や日本国内における国際標準化対応の審議においても、適切な連携を図る。
 なお、大学、公的研究機関及び企業の人材が国際標準化活動へ積極的・継続的に参加し、国際標準化活動で主要な分野における国際幹事等を取得できるよう、2004年度も引き続き国としての戦略的取組を強化する。
(総合科学技術会議、総務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
B)標準化活動の重要性を普及啓発し、特に企業、大学等のトップのレベルにおける標準化活動に対する認識を高める。このため、企業、大学等の経営者・研究者等に対する標準化活動に関するセミナー等を2004年度も引き続き開催する。
(総合科学技術会議、総務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
C)戦略的な国際標準化活動の観点から、我が国と密接な経済関係にあるアジア諸国との国際規格の共同開発を行う等の連携強化を、日中韓の情報通信標準化に関する会合、アセアン基準認証協力プログラム、太平洋地域標準会議等を通じて2004年度も引き続き推進する。
(総合科学技術会議、総務省、経済産業省、関係府省)
3)標準化に関する人材育成のための環境整備を進める
 大学その他の教育機関等において、標準化に関する人材育成が促進されるための環境整備を2004年度も引き続き進める。これを通じて、例えば、特に大学に対して、ビジネスに直結する標準化に関する人材の育成、既存の知的財産専門家コース、技術経営(MOT)コース等においては、標準化に関する教育の提供等が行われるようその自主的な取組を奨励する。
(総合科学技術会議、総務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
4)標準化に関する研究と産業界への普及を行う
 2003年度に着手した国際標準化が産業競争力等に与える経済的効果の分析など標準化に関する研究を引き続き行うとともに、2004年度以降、当該研究で得られた情報を産業界等に対する普及に活用する。
(総合科学技術会議、総務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
(2)民間の国際標準化活動を促進する
i)我が国の技術の国際標準化を進めるためには、企業自身が国際標準化活動に積極的に取り組むことが不可欠である。このため、2004年度以降、企業における国際標準化活動の統轄部署の設置及び知的財産部署との連携や、国際標準化に携わる人材の積極的な評価、国際標準化提案への戦略的な取組等を推奨する。
(総務省、経済産業省)
A)2004年度以降、産業界の国際標準化活動への支援を国の重要課題として位置付け、戦略的に重要な分野における企業の国際標準化活動に対する支援を適切に講ずることにより、民間の国際標準化活動を促進する。
(総務省、経済産業省)
(3)技術標準に関連する知的財産権の取扱いルールを整備する
1)技術標準の策定・普及を妨げる必須特許の権利行使に対する対処方法を検討する
i)技術標準に必須な特許(必須特許)を有する権利者が当該技術標準に基づく製品を製造等する者に対して権利行使をすることにより技術標準の策定又は普及を阻害することを防止するための方法について、例えば、標準化機関等の特許に関する方針(パテントポリシー)の内容及び運用実態、技術標準に関する特許集積(パテントプール)の有無やその形態、権利行使までの過程等、様々なケースを想定して検討することは重要である。このため、このような権利行使に対する技術標準策定前の防止策としてのパテントポリシーの改善等の対応方策、技術標準策定後の対応方策としての特許法(裁定実施権等)の適用可能性について、以下の検討を進める。
a)パテントポリシーの改善等の対応方策については、2003年度に実施した企業等の具体的ニーズの調査結果や国際的な議論の動向調査を踏まえて、検討をさらに進め、2004年度中に結論を得る。また、その成果を踏まえ、2004年度以降、国際標準化機関における議論と並行しつつ、国内の標準化機関のパテントポリシーの内容又は運用の見直しを進める。
(総務省、経済産業省)
b)特許法(裁定実施権等)の適用可能性については、企業等からの具体的ニーズや国際的な議論の動向を踏まえつつ、2003年度に開始した産業構造審議会における検討を進め、2004年度中に結論を得る。
(経済産業省)
A)特許権利者が、共同の標準策定作業に参画しながら、意図的に当該特許の存在を明らかにせず、当該特許を含む技術を必須なものとする技術標準が確立された後になって特許権を主張して訴訟を提起するなどして標準化を著しく阻害する、又はこのような行為を通じて自らの独占的地位の維持を図る行為等に対する独占禁止法の適用可能性について、2004年度以降検討を進める。この検討は、2003年度に実施した国内企業ヒアリング及び2004年度に実施する海外調査の結果を踏まえて行う。
(公正取引委員会)
2)技術標準と知的財産権を巡る国際的な議論を促進する
i)2004年度以降、関係国との協議、国際標準化機関の会議や技術標準に関する国際会議等において、技術標準と知的財産権を巡る問題及び解決の方向性を提起することにより、国際標準化機関のパテントポリシーの内容又は運用の見直し等の解決策について、国際的な議論を促進する。
(総務省、経済産業省)
A)2004年度以降、関係国との協議等において、(3)@A)に記載したような技術標準と知的財産権を巡る問題について国際的な議論を促進する。
(公正取引委員会)
3)パテントプールに関する環境を整備する
i)パテントプールは、複数の権利者が保有する特許を相互に使用可能とすることにより、権利者間の技術交流を促進するなど競争を促進する効果を有し得るものであるとともに、必須特許を広く活用させるために有効な手段の1つである。このため、以下の観点から、パテントプールに関する環境を整備する。
 パテントプールの仕組みを円滑に機能させるため、ライセンス料高額化対策及び必須特許の鑑定やその価値評価認定の仕方についての制度・仕組みに関し、企業等からの具体的ニーズの調査結果や国際的な議論の動向を踏まえつつ、2004年度から具体的な方策を検討する。特に、必須特許の鑑定や価値評価の円滑化に関しては、裁判外紛争処理(ADR)の利用促進に加え、パテントプール参加企業が中立的な専門家(弁護士、弁理士等)による鑑定を利用しやすくできるよう、特許の評価に係る人材の効果的な活用方策についての検討が必要である。
(総合科学技術会議、総務省、経済産業省)
A)複数の権利者が共同して実施するパテントプールの形成・運用には独占禁止法上の問題が発生する可能性があることから、2003年度に実施した国内企業ヒアリング及び2004年度に実施する海外調査の結果等を踏まえ、公正取引委員会作成の「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」に関し、2004年度以降見直しの是非について検討を行う。
(公正取引委員会)

3.知的財産活用の環境を整備する

(1)知的財産権のライセンスを安定強化する
1)倒産時等における知的財産権のライセンスの保護を図る
 知的財産権のライセンス契約におけるライセンサーが破産した場合に、当該ライセンスが第三者に対して対抗力を有することを条件として、管財人の解除権を制限し、ライセンシーの立場を保護する内容を含む新しい破産法が2004年5月に成立した。未登録の通常実施権等、第三者への対抗要件を有しない場合のライセンスも含め、ライセンサーが倒産した場合や、ラインセンサーが当該権利を第三者に譲渡した場合に、ライセンスを保護する制度について、知的財産権法におけるライセンスの保護に関する検討を行い、2004年度末までに結論を得る。なお、著作権ライセンスに関しては、2003年度の文化審議会著作権分科会の結論に基づき、2004年以降、他の知的財産権における同様の検討の結果を踏まえて、利用秩序に関する基盤整備の一環として利用者保護の制度整備について検討を行う。
(文部科学省、経済産業省)
2)オープンソースソフトウェア利用上の法的責任関係を整理する
 オープンソースソフトウェアを活用したビジネスの更なる円滑な発展を図るため、オープンソースソフトウェアを活用してシステム構築を行う際のベンダーとユーザーの間での責任分担についての考え方を整理し、2004年度中に公表する。
(経済産業省)
(2)知的財産を活用したビジネスを振興する
 企業や大学等公的研究機関の知的財産管理や知的財産戦略能力の補完を図る観点から、特許流通・技術移転のための人材、情報のネットワークの構築等知的財産の活用のための基盤整備を図るとともに、特許流通・技術移転の専門家養成、専門家のネットワーク化などを目的とした国際特許流通セミナーの開催、知的財産権取引業者のデータベース化及び公開等について2004年度も引き続き実施する。特許情報検索、知的財産価値評価、知的財産会計、特許マップ作成、知的財産戦略プラン作成、マッチング交渉、ライセンシング交渉等の知的財産ビジネスを活性化するための施策について、2004年度も引き続き検討を行う。
(経済産業省)
(3)実施許諾の意思を登録する制度(License of Right)を導入する
 未利用の特許の活用や流通を図るため、特許権者が当該発明について第三者への実施許諾の用意がある旨を登録できる制度の導入の是非について、2004年度も引き続き、検討を行う。
(経済産業省)
(4)知的財産の円滑・公正な利用を促進する
i)汎用性が高いあるいは実質上代替性の低い上流技術(ライフサイエンス分野の遺伝子関連技術、リサーチツール等)に関する知的財産の円滑な利用を促進するため、特許法(試験・研究の例外規定や裁定実施権等)による対応の可能性、さらにはライセンス契約の円滑化の方策といった点についての調査研究を含めた検討を、企業等からの具体的なニーズや国際的な議論を踏まえて2003年度に開始したが、2004年度も継続して検討を行う。また、2004年度も引き続き、権利の濫用行為等の知的財産権分野における独占禁止法違反について、知的財産タスクフォース(知的財産の専門チーム)を一層活用するとともに違反取締りの体制整備を図り、重点的に同分野における違反に対し迅速かつ厳正に対処する。
(公正取引委員会、厚生労働省、経済産業省)
A)著作権者不明等により著作物の利用許諾契約が締結できない場合に、「著作物の裁定制度」を円滑に利用できるよう、手続きの見直しを行い、その利用マニュアルを2004年度中に整備し、公表する。また、コンテンツの保護を強化する一方で、権利者の利益と公共の利益とのバランスに留意することが必要であり、社会的に必要と考えられる公正な利用を促進する観点から、著作権法の「権利制限規定」の在り方について、2004年度に、検討を進める。
(文部科学省)
B)研究開発成果等については、その適切な管理に加え円滑な流通体制の整備が必要である。このため、研究成果物を含めた植物、動物、微生物等の遺伝資源等を広く収集し、特性評価・保管・提供等を行う体制(ナショナルバイオリソースプロジェクト、ジーンバンク事業、イネゲノムリソースセンター、生物遺伝資源保存施設)を整備し、2004年度以降引き続きその活動を促進する。また、有用遺伝子の単離・機能解明に重要となる研究材料の保存及び民間企業等への提供体制について、2004年度も引き続き充実を図る。
(文部科学省、農林水産省、経済産業省、関係府省)
(5)知的財産に関する保険を充実・促進する
 国内外において知的財産に関する円滑なライセンス活動を促進するために は、知的財産に関する保険の充実が不可欠である。このため、2004年度も引き続き、海外でのライセンス活動についてリスクを補填する独立行政法人日本貿易保険の「知的財産権等ライセンス保険」の利用を促進する。
(経済産業省)
(6)租税条約を活用し国境を越えた知的財産の利用を促進する
 知的財産を含む無体財産権の使用料について源泉地国免税とする内容を含む日米新租税条約が2004年3月に発効したが、知的財産の活用を活性化する観点からも高く評価できる。2004年度以降、他の国々と租税条約を改正していく際には、総合的な観点も踏まえつつ、できる限り早期の締結を図るべく、基本的にはこの新条約の考え方に基づいた議論を行っていく。
(財務省)

4.中小企業・ベンチャー企業や地域を支援する

 中小企業・ベンチャー企業が、革新的な技術に基づき成長、発展していくためには、知的財産は必要不可欠な経営要素である。しかしながら、地域や中小企業・ベンチャー企業は、大企業と比べて、知的財産戦略に対する意識がいまだに十分であるとは言えず、また、資金や人材などを知的財産戦略に対して十分に投入できる状況にない。こうした企業や地域の間の格差を解消するため、政府は、知的財産の創造、保護、活用及び人材育成のあらゆる分野において、中小企業・ベンチャー企業向けの支援策を推進していく必要がある。
 また、地方公共団体は、地域に展開する中小企業・ベンチャー企業や大学等の活性化を通じた地域振興を図るべく知的財産に関する各種取組を始めており、この流れを一層推進するためにも、知的財産を活用した地域振興を積極的に支援することが重要である。
(1)中小企業・ベンチャー企業を支援する
1)知的財産の権利取得を支援する
i)特許料等の減免措置について、2004年度から、手続の簡素化や広報の強化、地域中小企業に対する相談体制の充実による利用の促進など対象拡大のための措置を講ずる。
(経済産業省)
A)2004年度も引き続き、中小企業・ベンチャー企業の国内外での権利取得を促進するために、中小企業・ベンチャー企業に対する研究開発や事業化の支援事業における国内外特許取得関連費用等の助成やコンサルティングの拡充を図る。
(経済産業省)
B)2004年度から、新たな技術を用いて新規事業を行おうとする創業後間もない情報通信分野のベンチャー企業等に対して、特許申請費用や弁理士等の専門家のコンサルティング費用等の助成を行う。
(総務省)
C)2004年度から、中小企業・ベンチャー企業が効率的かつ確実な権利取得ができるよう、審査請求前の特許出願について民間調査機関による従来技術調査の支援を行う。
(経済産業省)
2)海外展開を支援する
 海外で事業展開を行うに際しては、海外での権利取得や模倣品・海賊版対策が必要となるが、このような取組には多大な費用がかかるため、優れた技術を持つ中小企業・ベンチャー企業に対して、2004年度以降、モラルハザードとならないよう配慮しつつ、海外出願や海外における模倣品・海賊版対策などの支援や企業からの相談体制の整備などを抜本的に強化する。
(経済産業省)
3)侵害被害の対応策を検討する
 中小企業・ベンチャー企業が抱える知的財産権の侵害被害等の知的財産に関する諸問題について、2004年度に、実態の把握と必要な対応策の検討を行う。
(経済産業省)
4)戦略策定等を支援する
i)2004年度も引き続き、知的財産等の専門家を中小企業・ベンチャー企業に長期的かつ継続的に派遣し、経営、技術、特許などの中小企業・ベンチャー企業の経営課題、発展段階に応じたタイムリーな特許取得等のアドバイスを行う。
(経済産業省)
A)2004年度から、中小企業・ベンチャー企業に対して知的財産の専門家やコンサルタントを派遣することで知的財産戦略策定等の支援を行うとともに、知的財産の専門人材と中小企業・ベンチャー企業を支援する機関との連携を強化することにより中小企業・ベンチャー企業における知的財産の戦略的な活用モデルの創出や活用事例についての情報提供を行う。
(経済産業省)
5)研究開発や事業化を支援する
i)2004年度も引き続き、大学等の知的財産を活用することで中小企業・ベンチャー企業の技術開発能力の向上を図る観点から、共同研究や実用化研究開発のためのマッチングファンドの充実や運用の弾力化を図る。
(文部科学省、経済産業省)
A)中小企業・ベンチャー企業の研究開発を促進し、新たな知的財産が創造される環境を整備するため、国のプロジェクト等において使用した先端的な研究設備・機器等を、そのプロジェクト等の終了後に、中小企業・ベンチャー企業において容易に使用するための方策について、2004年度中に検討し結論を得る。
(文部科学省)
B)未活用の知的財産を活用したスピンオフベンチャーを支援するため、スピンオフベンチャーに知的財産が円滑に現物出資されるための方策について、2004年度も引き続き、検討を行う。
(経済産業省、法務省)
6)知的財産に関する情報の活用を促進する
i)中小企業・ベンチャー企業と他の企業や大学等とのマッチングの機会を増加させるとともに、このマッチングを円滑に進めるため、2004年度も引き続き、中小企業・ベンチャー企業の活動を支援する産学官連携や知的財産等に係る専門人材によるネットワーク作りを一層推進する。
(文部科学省、経済産業省)
A)2004年度も引き続き、中小企業・ベンチャー企業と大学等との連携を促進するため、大学等における研究者、研究成果、研究活動等のデータベース整備の充実・強化を図るとともに、活用を促進する。
(文部科学省)
7)知的財産に関する教育や研修を充実する
i)中小企業経営者の知的財産に関する知見を深め、経営戦略に活用できるようにするため、2004年度も引き続き、中小企業大学校の経営者及び経営管理者向けの経営戦略コースなどにおいて、知的財産権制度、知的財産権マネジメントに係る講義、先進活用事例研究などを実施する。
(経済産業省)
A)2004年度から、中小企業・ベンチャー企業等の研究者や技術者の知的財産に関する知識の啓発のために、知的財産に関する教育や研修について、各大学等の自主的な取組を促進する。
(文部科学省)
B)2004年度から、中小企業・ベンチャー企業の特許出願を促進するため、中小企業・ベンチャー企業の技術者等を対象とした先行技術調査や特許明細書の書き方など特許出願に関する研修を行う。
C)2004年度から、特許権侵害に対する中小企業・ベンチャー企業の対応力を高めるため、特許をめぐる紛争に関する研修を模擬体験等を含めて行う。
(経済産業省)
(2)知的財産を活用して地域を振興する
1)地方公共団体の知的財産に関する自主的な施策策定を奨励する
i)政府の「知的財産立国」への取組にあわせて、地方公共団体においても知的財産を活用した地域振興についての取組が始まったところであり、2003年には、北海道、東京都、愛知県、大阪府、福岡県など一部の地方公共団体で、知的財産戦略本部を設置し、知的財産戦略大綱や実施計画の策定に取り組むなど、積極的な動きが出てきている。地方公共団体において、知的財産の創造、保護及び活用に関し、その区域の特性をいかした自主的な施策を策定するため、知的財産戦略本部の設置及び知的財産戦略大綱の策定等の取組を、2004年度も引き続き、奨励する。
(総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省)
A)2004年度から、地方公共団体が自主的に連携し知的財産の戦略策定に向けた情報共有や知的財産政策の共同調査研究などに取り組むことを奨励する。
(総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、関係府省)
2)地域における知的財産の相談体制を強化する
i)2004年度も引き続き、中小企業・ベンチャー企業の権利取得等を支援するため、地域の経済産業局等に「地域知財戦略本部」を整備し、産業クラスターとの連携を図りつつ、全国各地域において知的財産権制度に関する相談、産業財産権の取得方法や特許情報の検索方法に関する相談などの窓口機能の充実を図るとともに、専門家による個別相談を実施する。
(経済産業省)
A)中小企業・ベンチャー企業が知的財産に対する理解を深め、戦略的に活用できるような環境を整備するため、知的財産支援事業や各種中小企業・ベンチャー支援事業に関する弁理士・弁護士等の知的財産人材のネットワーク化、また、それぞれの支援事業窓口の一本化や知的財産に関する相談窓口の明確化・機能強化といった地方公共団体の取組を、2004年度も引き続き、支援する。
(文部科学省、経済産業省)
B)2004年度から、地域の中小企業・ベンチャー企業や大学等の活動を支援する観点から、ライフサイエンス等の先端技術分野に強い弁理士の育成や弁理士活動の地域展開や地域の弁理士に対する研修といった日本弁理士会の取組を推奨する。
(経済産業省)
3)地域における産学官の連携体制を強化する
i)2004年度も引き続き、地域の大学等の知恵を活用し、地域主導の下で、各地域の研究能力に応じた産学官の連携による研究開発や成果の事業化等を促進するとともに、弁理士・弁護士等の専門人材の活用を図ることにより、地域産業の育成・発展、地域における新規事業の創出等をもたらす知的財産を創造する。
(文部科学省、経済産業省)
A)2004年度も引き続き、地域主導の下で、地域において独自の研究開発テーマと研究開発能力を有する大学、公的研究機関等を核とし、世界水準での技術革新の展開を可能とする研究開発機能の集積(知的クラスター)の形成のための取組を支援することにより、地域に国際競争力をもたらす知的財産を創造する。
(文部科学省)
B)2004年度から、地域における独創的研究成果の育成・企業化を図るため、地域で活動している科学技術コーディネータを活用して、地域において知的財産を発掘する取組を強化する。
(文部科学省)
C)地域における中小企業・ベンチャー企業の新技術開発等を支援するため、大学等の施設や設備を中小企業・ベンチャー企業が円滑に活用できるようにするための方策について、その可否を含め検討し、2004年度中に結論を得る。
(文部科学省)
D)2004年度に、地域における中小企業・ベンチャー企業の活性化に資するよう、大学知的財産本部(スーパー産学官連携本部)やTLO(スーパーTLO)の活用方策について検討し、その機能の充実化を図る。
(文部科学省、経済産業省)
E)産業クラスター計画の下で、知的財産を有する中小企業・ベンチャー企業が、大企業等を含む他企業等との共同技術開発に円滑に取り組めるよう、2004年度も引き続き、セミナーの開催、専門家の派遣等を行うとともに、中小企業・ベンチャー企業が共同研究等をする場合の知的財産への対処法を内容として2003年度に作成した秘密保持マニュアルの周知普及を図る。
(経済産業省)
F)2004年度に、地域における大学等の資源を活用し、地域産業の新規事業創出や商品開発の革新を図るよう、商品デザインの開発を促進するための方策を検討する。
(経済産業省)


第4章 コンテンツビジネスの飛躍的拡大

 我が国のコンテンツ(映画、音楽、アニメ、ゲームソフトなど)は世界的に高い評価を受けているが、これまで共通した理念の下に関係者が一致団結してその振興に取り組んできたとは言えなかった。
 そのため、我が国のコンテンツビジネスの規模は、娯楽系事業だけで約11兆円に及ぶものの、対GDP比でみると2%に過ぎず、国際平均の3%を下回る状況となっている。
 しかしながら、コンテンツビジネスは事業規模が大きく、かつ関連する産業分野が幅広いことから、我が国経済の牽引役として期待されるばかりでなく、海外における我が国のイメージ向上にも大きな役割を果たしており(いわゆる「ソフトパワー」)、国家戦略を考える上で重要な分野である。
 今後、コンテンツビジネスが成長発展を遂げる上で、達成すべき課題としては、「業界の更なる近代化・合理化」「活躍する者や産業としての重要性に対する評価・社会的認識」「海外・新分野への展開」が挙げられる。我が国コンテンツ産業が、諸外国との競争に打ち勝つとともに、日本文化の発信を通じて海外における日本理解の増進を図るため、コンテンツビジネスの振興を国家戦略の柱として明確に位置付け、関係者が一体となって以下の施策を迅速かつ強力に展開する必要がある。
 このため、今後3年間を「集中改革期間」として、改革を先送りすることなく初年度から積極的に取り組むことにより、諸課題を速やかに達成する。

1.業界の近代化・合理化を支援する

(1)契約慣行の改善や透明化に向けた取組を奨励、支援する
i)漫画家等のコンテンツ創作者と流通事業者などの間の契約について、関係者の共通理解に基づく契約慣行の改善や透明化に向けた取組を奨励・支援する。
(文部科学省、経済産業省)
ii)放送番組については、2004年度も引き続き、放送事業者の策定した制作委託に関する自主基準(「番組制作委託取引に関する民放連指針」など)の遵守徹底を促進するとともに、2004年3月に関係者の共通理解を得て取りまとめられ、契約による著作権の扱いを公正な協議により取り決める等の内容も盛り込まれている「放送番組の制作委託に係る契約見本」の活用状況のフォローアップを促すことにより、制作体制の公正性や透明性をより一層高めるための自主的な取組を奨励する。
(総務省)
iii)著作権の所在を明確にし、様々な二次利用に対応した多様な契約形態慣行が定着するよう、2002年にとりまとめられた「アニメモデル契約」の活用の奨励や先進的な海外の契約例の調査等を実施する。
(経済産業省)
iv)コンテンツの制作委託契約については、2004年以降、必要に応じて、著作権の所在や扱いにおける問題を含めた下請代金支払遅延等防止法に係る書面調査を行うとともに、取引慣行の改善や透明化に向けた関係者の自主的な取組を奨励する。
(公正取引委員会、総務省、経済産業省)
v)2004年度も引き続き、興行収入等の透明化を図る観点から、実際の映画館を活用して実証実験を行うなど、簡易POS型発券業務管理システムの導入を容易にするための施策を講ずる。
(経済産業省)
(2)経営、法務、財務などにおける専門人材の活用を奨励する
i)2004年度から、法律や財務、営業などの専門知識に加え、コンテンツビジネスに関する経営感覚を併せ持つ者の活用を支援する。
(経済産業省)
ii)2004年度から、「エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク」の活用など、法律家と事業者や創作者などとの交流活動を奨励・支援する。
(文部科学省、経済産業省)
(3)独占禁止法等の厳正な運用により競争政策を充実させる
i)2004年3月に改定した役務取引ガイドライン及び2003年に改正された下請代金支払遅延等防止法の普及啓発に努めるとともに、2004年度中にコンテンツ制作に係る下請取引を行う事業者に対して書面調査を実施する。
(公正取引委員会、経済産業省)
ii)コンテンツ業界における独占禁止法違反を迅速に発見するため、必要な審査専門官の確保など知的財産タスクフォース(知的財産の専門チーム)の体制を整備することにより、公正取引委員会の調査・情報収集活動の強化を図る。
(公正取引委員会)
iii)2004年度も引き続き、独占禁止法及び下請代金支払遅延等防止法に係る相談対応の充実を図るとともに、両法に違反する行為に対して、両法の厳正かつ迅速な適用を図る。
(公正取引委員会、経済産業省)
(4)弾力的な価格設定など事業者による柔軟なビジネス展開を奨励する
 2004年度も引き続き、消費者利益の向上を図る観点から、事業者による書籍・雑誌・音楽用CD等における非再販品の発行流通の拡大及び価格設定の多様化に向けた取組を奨励する。
(公正取引委員会、文部科学省、経済産業省)

2.資金調達手段の多様化を図る

(1)「完成保証制度」の充実を図る
完成保証制度」による資金調達スキームの活用を図るべく、2004年度中に、関係金融機関等に働きかけるとともにその運用に伴って顕在化する問題点等について検証を行う。
(総務省、財務省、文部科学省、経済産業省)
(2)商品ファンド法による「映画ファンド」等に関する規制緩和の評価等を行う
映画等の制作に係る資金調達の円滑化を図る観点から、2004年3月、ファンド組成に係る人的構成要件の緩和が図られたところであるが、商品ファンド法を活用した資金調達が一層進展するよう、その効果について評価を行うとともに、それを踏まえて、2004年度中に制度の見直しについて検討する。
(金融庁、経済産業省)
(3)コンテンツに対する評価手法の確立や情報開示などを促進する
映画等のコンテンツの制作・投資を促進するため、諸外国の制度も参照しつつ、コンテンツに対する評価手法の確立やディスクロージャー(公開手法)方法の体系化などの環境整備について、2004年度も引き続き、検討を行う。
(文部科学省、経済産業省)

3.コンテンツの制作・投資等を促進するためのインセンティブを付与する

 コンテンツの制作・投資等を促進するためのインセンティブについて、2004年中に検討を行う。
(総務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)

4.人材育成を強化する

(1)「コンテンツ人材(プロデューサーや創作者等のコンテンツに関係する人材)」を育成する
i)2004年度も引き続き、「コンテンツ人材」の育成に向けて、専門職大学院(法科大学院を含む)その他大学における自主的取組(組織の設置などを含む)への支援を一層充実するとともに、当該機関に対し、海外の人材育成機関との提携を推奨するほか、大学と産業界の連携・協力の促進など、大学における教育の充実のための環境整備を行う。
(文部科学省、経済産業省)
ii)センスと技能に恵まれた若いプロデューサーや創作者が海外の先進事例に触れ、自らの才能を存分に伸ばすことができるよう、2004年度も引き続き、海外留学や海外研修を支援する。
(文部科学省、経済産業省)
iii)創作者等の動機や能力を高めるため、2004年度も引き続き、世界の第一線で活躍するプロデューサーや創作者等を招聘し、セミナー、シンポジウムなどを開催する。
(総務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
iv)ブロードバンドの普及が飛躍的に加速する中、高品質なデジタルコンテンツを制作する優れたプロデューサーや創作者の養成や技能向上を図るため、2004年度に、人材育成のための支援を行う。
(文部科学省)
v)2004年度も引き続き、資金調達から権利許諾、販売先の確保までを総合的にコーディネートできる「プロデュース機能」を備えた人材を育成するため、教育機関等との連携協力の下、経済産業省において2003年に策定した冊子「プロデューサー養成カリキュラム」等の使用や評価を行う。
(経済産業省)
vi)2004年度に、創作者の技能向上のため、創作者に必要とされるスキルが体系化されたスキルマップ(技能案内図)の策定やスキルアップ(技能向上)を目指した教材等の作成を行い、それにより高度な人材養成に関する取組の支援を行う。
(経済産業省)
vii)2004年度も引き続き、映画などの映像作品を制作するためのデジタル編集設備の効果的な活用及びそれに伴う人材養成の方策について調査研究を行う。
(文部科学省)
(2)人材育成の諸事業への支援を行う
i)2004年度も引き続き、情報通信に関する人材研修事業の一環として、放送番組などコンテンツ制作等の専門的な知識又は技術の向上を図るための研修事業に対する支援を行う。
(総務省)
ii)2003年に策定した人材育成のためのプログラムを効果的に活用することにより、教育機関の人的シーズとコンテンツ業界の人的ニーズとのマッチングが円滑に行われるよう、2004年度に、そのためのコーディネート機関設立に向けた取組を支援する。
(経済産業省)
iii)2004年度に、映画関係団体等が学校や制作現場などと連携して行う、制作現場における実践的な実習を支援し、専門性の高い職能人材の養成を行う。
(文部科学省)
(3)映像産業振興機関の設立を支援する
 2004年度、米国のAFI(American Film Institute)や英国のThe Film Councilのように、大学等の教育機関へのサポートなど、大学等との連携・協力を図りつつ映像産業全体の振興に向け制作助成等の諸事業を推進する民間機関の設立を支援する。
(総務省、文部科学省、経済産業省)

5.コンテンツ関連技術の高度化を図る

(1)メディア芸術に関する研究開発等を推進する
i)メディア芸術の高度化を支える先進的科学技術の創出に関する研究開発を科学技術振興機構における2004年度新規研究領域の一つとして設定し、2004年度にその取組を推進する。
(文部科学省)
ii)実用的な意義が大きく、革新性の高い独創的な技術開発を推進するため、科学技術振興機構における研究課題の一つとして、文化財関係の公開・展示技術等を対象分野とし、2004年度にその取組を推進する。
(文部科学省)
(2)コンテンツのデジタル化を促進する
 2004年度中に、産学官の有識者が参加する「デジタルシネマ推進フォーラム(仮称)」を設置するなど、欧米の取組状況も参考にしながら、デジタルシネマの普及拡大に向けた諸課題(技術標準の在り方、設備機器の導入等)に関する総合的な検討を行う。
(総務省、文部科学省、経済産業省)
(3)デジタルアーカイブ化に必要な技術基盤の研究開発を行う
 2004年度中に、教育、文化や芸術分野における知的資産の電子的な保存や活用など(デジタルアーカイブ化)に必要なソフトウェア技術基盤の構築のための研究開発を開始する。
(文部科学省)
(4)ハイビジョン技術の研究開発に対する支援等を行う
 2004年度も引き続き、映像技術の高度化を図る観点から、高精細度画像関連技術の研究開発を支援するとともに、ハイビジョン技術の海外への普及を促進する。
(総務省)

6.人材の発掘と顕彰を実施する

(1)有能な人材を発掘する
 2004年度も引き続き、類稀なる才能をもった「埋もれた宝」を発掘し、我が国の「コンテンツ人材」の層を厚くするとともに、斬新かつ優れたコンテンツを供給できるよう、映画、音楽、アニメ等の各種コンペティションの取組を支援する。
(総務省、文部科学省、経済産業省)
(2)優れた業績をあげた人材を顕彰する
 2004年度も引き続き、コンテンツビジネスに携わる人材の社会的認知の向上を図り、才能溢れる人材をこの分野に惹きつけることができるよう、優れた業績を残した人材を顕彰する取組を幅広く支援する。
(総務省、文部科学省、経済産業省)

7.教育や啓発の充実に努める

(1)子供への普及啓発を図る
 2004年度も引き続き、子供がコンテンツの持つ魅力や素晴らしさを享受できるよう、学校等の自主的な取組等により、映画や演劇等を鑑賞する機会の拡大を図る。
(文部科学省)
(2)コンテンツに関するルール及びモラルの向上等を図る
 国民生活においてコンテンツは不可欠なものになってきていることにかんがみ、コンテンツの制作や利用等に関するルールの認知及びモラルの向上を図るべく、2004年度も引き続き、著作権に関する教育の充実を図るとともに、一層の啓発に努める。
(文部科学省)
(3)東京国立近代美術館フィルムセンターの充実を図る
 映像コンテンツ制作の環境整備を一層促進するため、フィルムセンターにおける映像コンテンツの保存機能、普及や上映機能の充実を図るとともに、新たに人材養成機能や製作支援機能を付加することについて引き続き検討を行い、2004年度中に結論を得る。
(文部科学省)
(4)文化遺産に関するコンテンツの作成や流通を推進する
 2004年度も引き続き、文化遺産のオンライン構想を推進することにより、情報通信技術を活用して有形及び無形の貴重な文化遺産を幅広く公開や活用ができるよう、そのためのシステム構築など所要の措置を講ずる。
(総務省、文部科学省)

8.海外展開の拡大と海賊版対策の強化を図る

(1)日本貿易振興機構(JETRO)、日本貿易保険(NEXI)等を通じた海外展開を支援する
i)2004年度も引き続き、コンテンツ海外流通促進機構への支援、海外見本市への出展や海外映画祭への出品の際に必要となる字幕作成のための支援等を行うことにより、コンテンツ産業の海外市場への進出を支援する。
(外務省、文部科学省、経済産業省)
ii)2004年度も引き続き、JETROによる海外市場調査など公的機関の情報収集機能を強化するとともに、映画、放送番組、アニメ、音楽、ゲームソフト等のコンテンツ関連企業が海外進出する上で留意すべき事項(判例や規制等)をまとめたハンドブックを作成するなど、必要な情報提供を行う。
(総務省、外務省、文部科学省、経済産業省)
iii)コンテンツ事業の多面的な海外展開を促進するため、映像コンテンツ分野を中心として、様々な媒体を活用した海外流通チャネルの多様化に向けたモデル事業を2004年度中に実施する。
(経済産業省)
iv)海外においてコンテンツビジネスを展開するためには、知的財産に関する保険の充実が不可欠である。このため、2004年度も引き続き、海外でのライセンス活動についてリスクを補填するNEXIの「知的財産権等ライセンス保険」の利用を促進するとともに、訴訟の当事者となった場合に訴訟費用(弁護士費用を含む)の一部を補填する保険組成の在り方について、2004年度から検討を行う。
(経済産業省)
(2)東京国際映画祭の抜本的な強化を図る
 東京国際映画祭が3大国際映画祭に比肩する高い国際評価を得ることができるよう、2004年度に、映画祭にマーケット機能を付与してその場での商取引を可能にすることを支援するとともに、開催時期に合わせ地域映画の上映やシンポジウムなど映画関連の各種イベントを集中して実施することを支援するほか、ゲーム、音楽その他のコンテンツ関連イベントも併せて開催することを支援することで、東京国際映画祭の抜本的な強化を図る。
(文部科学省、経済産業省)
(3)国際交流によるジャパンブランドの発信強化を図る
i)2004年度に、我が国において海外映画制作が行われることによる経済波及効果や国際マーケットへの進出の観点から、海外諸国との合作協定や交流促進協定(相互の映画祭支援や映画人教育交流支援等)締結の促進、創作者等の国際交流を行うなど国際共同制作を促進する。
(外務省、文部科学省、経済産業省)
ii)日本の漫画やアニメ等の貴重な資料の散逸を防ぐとともに、海外からの視察者等への一元的な情報提供の場を確保する観点から、2004年度中に、漫画やアニメ関係資料の収集保存の在り方を検討する。
(文部科学省)
iii)我が国のコンテンツをいかして国家イメージを向上させるため、国際交流基金、ODA等を通じた我が国コンテンツの海外発信支援について、2004年度も引き続き推進する。
(総務省、外務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
(4)我が国とEUとのワークショップを開催する
 コンテンツビジネスの一層の発展と国際交流による質の向上等を図るため、2004年度にコンテンツビジネス振興に関する日・EUワークショップを開催する。
(外務省、関係府省)
(5)あらゆるチャネルを通じた海賊版の取締りを強化する
「第2章 保護分野 U.模倣品・海賊版対策」参照

9.ブロードバンドなどを活用した事業展開を推進する

(1)デジタル技術を活用した仲介システム開発及び実証実験を行う
 十分な上映機関のない地域において、デジタル映像技術を活用しつつ、新たな地域上映ルートを立ち上げるため、2004年度も引き続き映画配給者と上映事業者との仲介及び各地域の公的施設等での上映実証実験を行い、2005年度までにその実用化を図る。
(経済産業省)
(2)コンテンツ流通市場を形成する
 コンテンツ制作者が多様な流通経路の中から選択的にコンテンツを発信できるよう、コンテンツの仲買機能を果たす「目利き役」が存在する流通市場の創設について、2004年度も引き続き、海外における先進事例の調査研究等を行う。
(総務省、経済産業省)
(3)コンテンツ流通のためのシステム整備を行う
i)コンテンツに係る権利を利用する者が迅速かつ簡便な方法でそれを検索できるよう、2004年度も引き続き、著作権クリアランスの仕組みの開発や実証を推進する。特に権利関係が複雑な映像コンテンツについては、2004年度中に、その権利や内容等の属性情報(メタデータ)に関するデータベースの整備推進に努める。
(総務省、経済産業省)
ii)各権利者団体や業界団体によるコンテンツIDを付与する取組や、コンテンツに係る権利情報の整備に関する取組に対して、2004年度も引き続き、映画など映像素材に関する権利情報の集中管理等による安全かつ効率的な管理の観点から必要な支援を行う。
(総務省、文部科学省、経済産業省)
iii)ユビキタスネットワーク社会においてデジタル放送やインターネットが連携するなどコンテンツの所在や流通手段が多様化する中、ユーザーが嗜好するコンテンツを誰でも簡単な操作により利用できる使いやすいユーザーインターフェイス環境の整備など、ブロードバンドネットワークにおけるコンテンツの円滑な利用を促進するためのコンテンツ流通技術の研究開発や関係者による実証を2004年度も引き続き推進する。
(総務省)
iv)権利者、コンテンツの所有・管理者が安心してブロードバンドにコンテンツを提供できるよう、2004年度も引き続き、「安全な利用専用端末(機器)」の機能に関する標準化を促す。
(総務省、経済産業省)
v)著作物の創作やその円滑な流通を促進させるため、2004年度に、主として一般人同士の契約を対象として、契約内容の多様性にも配慮した標準著作権契約書式の在り方について研究するとともに、国民がインターネットを通じてそれを利用できるよう、標準著作権契約書作成システムを開発する。
(文部科学省)
vi)映画上映に係る簡便性や省力化等により、全国の公立文化施設や公民館など非映画館での映画上映が可能となるよう、2004年度も引き続き、映画のデジタル化に向けた取組を推進する。
(文部科学省、経済産業省)
vii)コンテンツの配信、認証、課金、利益分配、違法コンテンツの流通管理までを権利者が総合的に管理や運用ができるよう、2004年度も引き続き、各種情報技術を組み合わせた「コンテンツ流通管理システム」の開発を支援する。
(総務省、経済産業省)
viii)ブロードバンド、デジタルテレビなどの新たな流通媒体が登場し、それぞれの特性に応じたコンテンツの開発が必要であるとの観点から、2004年度も引き続き、革新的技術の研究開発など事業者による自主的な取組を促進するとともに、著作権権利処理システム、大容量コンテンツの流通技術、個人間における適切なコンテンツ流通技術等のブロードバンド・コンテンツ流通技術に関する開発や実証実験を行い、2005年度中の実用化を目指す。
(総務省、経済産業省)
ix)ユビキタス時代に向けて、コンテンツの権利を的確に保護しつつユーザーの利便性も確保し、家庭でダウンロードしたコンテンツを携帯電話に移動して視聴するなどの多彩なコンテンツ流通形態や利活用形態を可能とするコンテンツ流通の仕組みの構築を2004年度以降図る。
(総務省)
x)より多くの地域における多様な作品の上映を可能とするため、2004年度以降、映画作品に関する情報提供や映画製作者と上映事業者等との交流の場として、インターネット上に日本映画情報システムを設け、広く国内外への作品紹介を支援するとともに、上映事業者や映画祭主催者が上映事業や映画祭を企画する際の作品選定などに活用できるようにする。
(文部科学省)
(4)ビジネスモデルの開発を支援する
 著作権クリアランスの仕組みの開発や実証、ブロードバンド・コンテンツ流通技術の開発や実証を推進するとともに、コンテンツ保護や管理技術及びネットワーク環境に適合した契約システムを盛り込んだ新たなビジネスモデルの開発に向けた取組を2004年度も引き続き支援する。
(総務省、文部科学省、経済産業省)
(5)コンテンツ利用に係る関係者間の合意形成などを促進する
i)映画や放送番組などのコンテンツが、インターネット配信の手段により有効に活用されるよう、2004年度も引き続き権利者等の関係者間の協議を奨励するとともに、法的・技術的環境の整備についても国際的な動向を踏まえつつ必要に応じ検討する。
 また、こうしたコンテンツがブロードバンドサービスを利用した電気通信役務利用放送において有効に活用されるよう、2004年度も引き続き権利者等の関係者間の協議を奨励するとともに、著作権法上の位置付けについて、市場や国際的な動向を踏まえつつ2004年度に検討する。
(総務省、文部科学省、経済産業省)
ii)新たな流通経路を活用したビジネス展開が阻害されることのないよう、契約内容に関し合意に至らなかった場合の解決手順について、協議や調整の場の提供、仲裁制度、裁定制度などの手段を柔軟に組み合わせる方向で検討を行い、2004年度中に結論を出す。
(総務省、経済産業省)
iii)著作権者不明等により著作物の利用許諾契約が締結できない場合に、「著作物の裁定制度」が円滑に利用できるよう、手続きの見直しを行い、その利用マニュアルを2004年度中に整備し、公表する。
(文部科学省)
(6)既存のコンテンツの有効活用を図る
i)過去に放送された番組の二次利用に係る契約を促進する仕組みの構築に向けて、放送関係団体、実演家団体、レコード製作者団体などによる協議を引き続き促進し、2004年度の早い時期に結論を得るとともに、具体的な問題の解決を得るため2004年度以降引き続き関係者間の議論の促進を図る。
(文部科学省)
ii)上記@)に加え、過去に放送された番組の二次利用に係る契約を促進する仕組みの構築に向けて、2004年度も引き続き、関係者による研究会の議論を併せて促進する。
(総務省)
iii)既存の教育番組の二次利用を推進するため、2003年度に課題の抽出や調査等により検討を実施してきたが、2004年度も引き続き、NPOの活用も視野に入れつつ、教育現場における需要や利用形態を十分に踏まえ、番組保有事業者の保有の在り方について検討を行う。その上で、2005年度までに必要に応じ所要の措置を講ずる。
(総務省、文部科学省)
(7)青少年の健全育成への自主的な取組を奨励、支援する
i)一部のコンテンツが青少年を含め社会全般に悪影響を及ぼしているとの指摘があることを踏まえ、健全なコンテンツの普及拡大を図る観点から、2004年度に、有害なコンテンツから青少年を守るための業界による自主的な取組や、一部のコンテンツが身体に及ぼす影響も含めて、業界等による定量的な調査研究等の取組を支援する。
(警察庁、総務省、文部科学省、経済産業省)
ii)2004年度も引き続き、青少年の健全育成に資するため、漫画、CD、ゲーム等の万引きを防止するための関係業界による自主的な取組を支援する。
(警察庁、関係府省)
(8)コンテンツを安心して利用するためのシステムの開発、普及を行う
i)自由に利用できる範囲等を権利者があらかじめ意思表示するシステムの普及拡大に向けて、2004年度も引き続き、あらかじめ定められた範囲の利用を認める自由利用マークの普及に努めるとともに、このマークの定着状況や他の団体での同様の取組状況等を総合的に見極めた上で、権利者の多様な意思を詳細に表示できる標準的な意思表示システムについて、2004年度以降必要に応じ検討を行う。
(文部科学省)
ii)利用者が安全なコンテンツを容易に選択できるよう、2004年度も引き続き、コンテンツの安全性を事前かつ容易に判断できるようにするためのマーク制度の創設に向けた検討を行い、2005年度までに結論を得る。
(総務省)

(9)権利者へ利益が還元されるための基盤を整備する
1)技術的側面からの保護を行う
 権利者がコンテンツから適切に利益の還元を受けることが可能となる技術の実用化を促進するため、2004年度も引き続き、電子透かし、権利管理システム(DRM:Digital Rights Management)、課金システムなどの技術開発や普及を促進するとともに、安全かつ多様な流通を実現するためのメタデータ(属性情報)フォーマットの標準化を支援する。
(総務省、経済産業省、関係府省)
2)権利の付与等により保護を行う
i)例外的に無許諾でできる非営利・無料・無報酬の上映の限定
 権利者に対価を還元させることを確保しつつ、「公衆向けビデオ上映会」を行える具体的な範囲を「学校における場合」などに限定することについて引き続き検討を行い、2004年度以降著作権法の改正案を国会に提出する。
(文部科学省)
ii)私的録音録画補償金制度
 音楽CD複製機能を備えたパソコンや技術的保護手段を備えたCDなど多様なデジタル録音・録画のための機器・媒体が商品化されている状況を踏まえ、関係者間で実態に適応した制度への見直しについて協議が進められているが、その結論を得て、2004年度以降、必要に応じ同制度の改正を行う。
(文部科学省)
iii)著作物等の保護期間
 映画の著作物については、その保護期間が「公表後50年」から「公表後70年」に延長されたが、映画以外の著作物等に係る保護期間の在り方についても、関係者間協議の結論を得て、2004年度以降必要に応じ、著作権法の改正案を国会に提出する。
(文部科学省)
iv)ゲームソフト等の中古品流通の在り方
 中古業者によりゲームソフト等が広範に取り扱われ、それが発売後間もない新盤市場に影響を及ぼしていると指摘されていることから、権利者への利益の還元の在り方について関係者間協議の結論を得て、消費者利益等の観点を含めて検討を行い、2004年度以降必要に応じ、所要の措置を講ずる。
(文部科学省)
v)出版物に関する「版面権」
 出版物の複製に係る出版社の報酬請求権の是非に関する関係者間協議の結論を得て、2004年度以降必要に応じ、著作権法の改正案を国会に提出する。
(文部科学省)
vi)音楽レコードの還流防止
 音楽レコードの還流防止に関する著作権法の改正案が2004年通常国会に提出されているところであり、同改正法案が成立した場合には、これを円滑に実施するとともに、法施行後一定期間後に、還流実態その他の実情を調査の上必要に応じ所要の措置を講ずる。
(文部科学省)
vii)インターネットを利用した侵害の取締りの強化
「第2章 保護分野 U.模倣品・海賊版対策」参照
viii)肖像等の不正使用商品の取締り
「第2章 保護分野 U.模倣品・海賊版対策」参照
(10)技術的保護手段等の回避等に係る法的規制の対象を拡大する
 技術的保護手段の有用性を担保する観点から、接続管理(アクセスコントロール)回避行為への刑事罰の導入、接続管理回避サービス(技術的保護を解除する特定情報(シリアルナンバー等)の公衆への提供など)、放送受信機器におけるコピー制御信号への無反応問題等について、将来の管理技術開発への影響等を踏まえつつ、法的措置の必要性の有無について2004年度以降も引き続き検討を行う。
(総務省、法務省、文部科学省、経済産業省)
(11)著作権法を簡素化する
 パソコンやインターネットの普及など「情報化」の進展に伴い、著作権に関する知識がすべての人々にとって不可欠なものになってきていることから、著作権法の規定が一般の人々にとってできるだけ分かりやすいものとなるよう、「権利の統合」など著作権法の規定ぶり(権利の拡大や縮小とは別に)について簡素化の可能性を引き続き検討し、2005年度中に結論を得る。
(文部科学省)
(12)権利者の利益と公共の利益とのバランスに留意する
 コンテンツの保護を強化する一方で、権利者の利益と公共の利益とのバランスに留意することが必要であり、社会的に必要と考えられる公正な利用を促進する観点から、著作権法の「権利制限規定」の在り方について、2004年度に、検討を進める。
(文部科学省)
(13)デジタル時代に対応した法制度の在り方について検討する
 音楽配信サービスの普及や技術的保護手段を備えたCDの商品化など、情報技術の進展によりコンテンツの多様な利用方法や記録機器及び記録媒体が出現している状況を踏まえ、今後さらに進むデジタル時代に対応した法制度の在り方について、2004年度から検討を進める。
(文部科学省、関係府省)
(14)国際的な著作権制度の調和を推進する
「第2章 保護分野 T.知的財産の保護の強化」参照
(15)実演家の活動環境の整備を図る
i)プロダクション等に所属しない実演家等が、安全で安心して活動に取り組めるよう、実演家等の事故災害補償の在り方や労働契約によらない場合の出演契約の書面化の促進について検討した上、2004年度以降必要に応じ所要の措置を行う。 
(文部科学省、厚生労働省)
ii)子役が出演する演劇等において、子役が出演する公演時間の多様化について、2004年度も引き続き検討を行う。
(文部科学省、厚生労働省)

10.地域等の魅力あるコンテンツの保存や発信強化を図る

(1)地域におけるコンテンツの制作や活用を促進する
i)地域におけるデジタルコンテンツの制作や流通等の取組を促進するため、2004年度についても地域の映像番組を制作、放送するケーブルテレビの番組制作施設等の整備を支援するとともに、地域映像コンテンツのアーカイブ化におけるケーブルテレビの役割について課題を整理、分析の上、必要な支援を検討する。また、2004年度に、全国的に先進的な事例の収集や分析を行い、地元自治体との連携など自主制作番組の充実策について、行政、関係業界、自治体等による支援の体制構築について検討する。
(総務省)
ii)地域における伝統・文化デジタルアーカイブの拡充やネットワークの利活用を推進するとともに、2004年度も引き続き、地域におけるデジタルコンテンツの制作や流通等の促進方策について検討を行う。
(総務省、文部科学省、経済産業省)
iii)2004年度も引き続き、ホームページなどウェブ情報として存在する、散逸しやすい有用なデジタル情報のアーカイブ化や、その情報の利活用を促進するための技術や仕組みの構築及び実証を行う。
(総務省)
iv)コンテンツの制作を委託等するに当たり、当該コンテンツの有効な活用を促進するため、当該コンテンツに係る権利について、一定の場合には、受託者から譲り受けないことができる(「コンテンツ版バイ・ドール」)制度を導入するコンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、地方公共団体においても自主的に適用できるよう、2004年度中に各地方自治体に周知する。
(総務省)
(2)フィルムコミッション等の映像制作活動を支援する
i)映像制作のロケーションについての手続きが円滑に進むよう、フィルムコミッションの要望も踏まえ特区制度も活用しつつ、2004年度中に全国の関係行政機関等に対し、映像制作及び道路や公的施設の円滑な利用についての理解増進に向けた働きかけを行うとともに、地域における大規模ロケーション施設や撮影所等の保有や活用の在り方について2004年度に検討を行う。
(文部科学省、経済産業省、関係府省)
ii)日本映画の創造活動を活性化させるとともに、地域文化の振興に資するため、2004年度に、各地のフィルムコミッションが持っているロケーションに必要な情報をインターネット上に集約してデータベースを構築し、撮影関係者がより多くの場所で円滑に撮影を行うことを可能とする。
(文部科学省)
(3)大規模な複合映画館の展開を支援する
 地域の実情やニーズに応じ、大規模な複合映画館を質的・量的に拡充することが可能となるよう、デジタルシネマの導入を含めた必要な施策について2004年度に検討を行う。
(文部科学省、経済産業省)
(4)地域における「コンテンツ戦略」に関する取組を奨励、支援する
i)国民が地域に存在する有用なコンテンツを広く享受できるよう、2004年度も引き続き、各地方公共団体における知的財産本部などの取組を推進するとともに、地域における優れたデジタルコンテンツへの顕彰制度を支援する。 
(総務省、文部科学省、経済産業省)
ii)2004年度も引き続き、地域の魅力あるコンテンツの効果的な活用を通じた地域経済の活性化等を図る観点から、地方公共団体が自主的に行うコンテンツをいかした地域づくりやまちづくりのための戦略策定や実施に向けた取組の奨励を行う。
(経済産業省、関係府省)


11.改革のロードマップを作成する

 今後3年間の改革を実効あるものとするため、速やかに改革に向けたロードマップを作成し、関係府省の取組の促進を図るとともに、目標の達成状況について毎年度点検を行う。
(公正取引委員会、警察庁、金融庁、総務省、法務省、外務省
財務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、関係府省)


12.コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律案を的確に運用する

 コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律案が2004年通常国会に提出されている。同法案が成立した場合には、同法案を的確に運用する。
(関係府省)


第5章 人材の育成と国民意識の向上

 あらゆる制度を支えるのは人である。「知的財産立国」の実現には、知的財産創造の担い手を育成することに加え、その権利化や紛争処理、知的財産ライセンス契約等の高度な専門サービスを提供する専門家の増員及び養成が急務である。

 このため、以下の施策により、知的財産に強く国際競争力のある、弁護士・弁理士を始めとした専門人材の充実を進める。また、高度な知的財産専門人材を輩出すべく、質・量ともに充実した知的財産教育を推進するとともに、法律・技術・経営など各領域の知識に通暁した「融合系人材」の養成を推進する。さらに、知的財産教育を推進するために、知的財産実務に精通した学者・研究者を大量に養成することを目指す。

 加えて、研究者、児童・生徒、大学生、社会人それぞれに対して知的財産に関するきめの細かい教育を行って国民の知的財産に対する理解を深めていく。


1.知的財産関連人材の養成と知的財産教育・研究・研修を推進する

(1)専門人材を育成する
1)弁護士・弁理士の大幅な増員と資質の向上を図り、知的財産に強く国際競争力のある弁護士・弁理士を充実する
i) 2004年度も引き続き、法曹人口の大幅な増加を図る。その中で、知的財産に強い弁護士を増加させる。
(司法制度改革推進本部、法務省)
ii) 知的財産法に関する研修には、多数の弁護士が自主的に参加しているところであり、2004年度も引き続き知的財産に関する研修への参加や講義の受講等弁護士の自己研鑽を通じて、知的財産に強い弁護士が増加することを期待する。また、2004年度に、弁護士が企業内で知的財産実務に直接携わることができるよう意識の改革や環境の整備を促す。
(法務省、関係府省)
iii) 現行制度下の特定侵害訴訟代理人としてのいわゆる付記弁理士については、2003年度から特定侵害訴訟代理業務試験に合格した付記弁理士が誕生し始めている。新たな制度の運用状況や弁護士・弁理士の活動状況などの実情も踏まえ、特定侵害訴訟における単独受任等の検討も含めた弁理士の積極的活用等について、2004年度以降検討を行う。
(司法制度改革推進本部、法務省、経済産業省)
iv) 弁理士の量的・質的拡大を図るため、2004年度から、弁理士試験の在り方や弁理士試験合格者の実務能力を担保する方策等について、知的財産専門職大学院等の活用も含めて速やかに検討を行う。
(文部科学省、 経済産業省)
v) 高度な専門性、国際性等を備えた弁理士を多数育成するために、知的財産専門職大学院等の活用による、 弁理士又はいわゆる付記弁理士のための研修の在り方について、2003年度に行った産業構造審議会における弁理士の人材育成に関する議論も踏まえ、2004年度も引き続き検討を行う。また、2004年度から、独立行政法人工業所有権総合情報館(特許審査迅速化法案が成立した場合にあっては独立行政法人工業所有権情報・研修館)において審査基準や特許請求の範囲の理想的な記載方法等をテーマとし、弁理士・弁護士・企業の知的財産部員による討論研修を実施する。
(文部科学省、経済産業省)
vi) 米国における守秘特権(attorney-client privilege)と日本の弁理士の業務との関係につき、日本弁理士会の協力を得つつ調査を行い、関係法令による対応の可能性を含め、今後の方策につき2004年以降検討を行う。
(経済産業省)
vii) 2004年度から、弁理士等知的財産専門人材に関する現状の把握と将来のニーズの分析を踏まえ、人材育成や活用の在り方について検討を行う。
(経済産業省、関係府省)
2)知的財産法を司法試験の選択科目にする
 知的財産法の重要性や2004年から開講された68校全ての法科大学院において知的財産法関連科目が開設されている状況等を踏まえ、2006年から開始される新司法試験において知的財産法を選択科目とすることについて速やかに検討を行い、2004年度の早い時期に結論を得ることとし、選択する科目により、著しい不公平が生ずることがないよう、出題の在り方を検討する。
(司法制度改革推進本部、法務省)
3)法科大学院の教育と司法試験との連携を図る
 法科大学院における知的財産に強い法曹の養成を実現するため、2004年度も引き続き、法科大学院における教育内容と司法試験との有機的連携の確保を図る。
(司法制度改革推進本部、法務省、文部科学省)
4)迅速・的確な特許審査のための専門人材を育成する
i) 今後大量に採用が予定される任期付審査官を、通常より短期間で的確に育成していく必要があるため、2004年度から、審査・審判実務の経験者を含む外部人材の活用を含め、研修機能の強化のための体制整備を早急に講ずる。
(経済産業省)
ii) 特許庁からの従来技術調査の外注を登録調査機関において円滑に実施するためには、従来技術文献の調査を行う人材(サーチャー)の育成が急務であることから、2004年度からサーチャーの育成体制の整備を早急に進める。
(経済産業省)
5)ポストドクター等を知的財産専門人材として活用する
 科学技術に精通したポストドクター等の中には、知的財産に関する知見を習得すれば、優れた知的財産専門人材として活躍できる人材もいるものと思われ、2004年度において、このような人材が知的財産関連の知識・経験を習得することを支援するための検討を行う。
(総合科学技術会議、文部科学省、関係府省)
6)任期付審査官の活用を図る
 任期付審査官は、特許審査の経験を有する貴重な人材であることから、2004年度以降、中小企業支援など、任期終了後の知的財産人材としての具体的な活用方策を明らかにする。
(経済産業省)
(2)知的財産に関する大学院、学部、学科の設置を推進し、知的財産教育を魅力あるものとする
1)夜間法科大学院の開設など知的財産教育を進める環境を整備する
i) 2004年度も引き続き、法科大学院、技術経営(MOT[マネージメント・オブ・テクノロジー])プログラム、知的財産専門職大学院、知的財産を専攻する学部・学科について、夜間及び休日専門の法科大学院の創設や夜間の講座の拡充等、社会人教育や実務家教員の参画を容易にするための各大学の取組を促すとともに、大学の特性に基づきそのような取組を適切に評価することを促す。
(総合科学技術会議、文部科学省)
ii) 2004年度において、法科大学院、知的財産専門職大学院、MOTの学生の経済的負担の軽減に資する措置を実施する。
(文部科学省、関係府省)
iii) 2004年度も引き続き、知的財産分野に必要な技術と法律・経営といった文理融合型の人材や法科大学院、知的財産専門職大学院、MOTの各プログラムを総合的に理解した人材の充実を図るため、各大学におけるジョイント・ディグリーの取組を奨励する。
(文部科学省)
iv) 2004年度も引き続き、知的財産分野に精通し、研究開発、経営、起業等に豊富な知識・経験を有する民間企業等の人材を、法科大学院、知的財産専門職大学院、MOT、知的財産を専攻する学部・学科の教員又は講師として積極的に活用するよう促す。
(総合科学技術会議、文部科学省)
v) 企業知的財産部門や特許事務所で学生・大学院生が知財実務を経験する等、キャンパス以外での知的財産関連業務についての教育(インターンシップの活用等)を積極的に推進する。そのため、大学の実情を踏まえてこのような外部での学習についてもインセンティブを与えるための具体的施策について2004年度に検討する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)
2)知的財産に重点を置いた法科大学院や専門職大学院、技術経営プログラムなど、あらゆる段階における知的財産教育を推進する
ア)大学や大学院における知的財産教育を支援する
 2004年度においても引き続き、競争原理に基づいて優れた取組を選定し財政支援を行う各種のプログラムにおいて、知的財産の分野を支援する。その上で、国公私立を通じ、知的財産教育に取り組む法科大学院や、知的財産専門職大学院、更には技術経営プログラムなどにおける優れた取組を促進し、高等教育機関における知的財産教育を充実させる。
(文部科学省、関係府省)
イ)法科大学院における知的財産教育を推進する
i) 2004年度も引き続き、法科大学院の教員資格については、法学部の教育経験にとらわれず、実務経験をも重視して、専任教員に関する審査を行う。
(文部科学省)
ii) 2004年度も引き続き、知的財産に重点を置いた法科大学院の設置が可能となるよう、設置の審査においては、理工系大学を含めて、各大学の創意工夫に基づく科目の開設や必修単位の設定を尊重する。
(文部科学省)
iii) 2004年度も引き続き、各法科大学院の入学者選抜方針に基づく入学試験における理系出身者への配慮や、法科大学院の学生が他の大学院等における技術系科目を受講できるようにするといった法科大学院の自主的な取組を促す。
(司法制度改革推進本部、文部科学省) 
iv) 2004年度に、法科大学院の入学者選抜状況に関する調査分析を行い、その結果を公表して法科大学院にも周知することにより、法科大学院の自主的な取組を促す。
(文部科学省) 
v) 2004年度に、法的素養を有する者が技術的素養を習得して知的財産人材として活躍できるよう法科大学院と理系大学院との連携を促す。
(文部科学省)
vi) 2004年度に開講された法科大学院は、全68校全てが知的財産法の教育に取り組んでいるが、2004年度以降、知的財産に重点を置いた教育を行うなど知的財産法に関する教育を一層充実させる法科大学院の自主的な取組を促す。加えて、米国LLM(法学修士コース)なども参考にして、知的財産専門家の教育を充実させる法科大学院の自主的な取組を促す。
(文部科学省)
vii) 2004年度に、弁護士、弁理士その他の社会人が、リカレント教育の一環として、知的財産についての基本的な知見を習得したり、知的財産についてのより一層専門的な研究を行うために、法科大学院において知的財産法の講義を受講したり、研究を行うことができるよう、法科大学院の自主的な取組を促す。
(文部科学省)
ウ)技術経営(MOT)プログラムを推進する
i) 2004年度も引き続き、科学技術の事業化を戦略的にマネジメントでき、国際的にも通用する専門家を養成するため、技術系大学卒、技術者を主な対象に、文理融合による実践的教育を行うMOTプログラムを実施する各大学の自主的な取組を促す。
(総合科学技術会議、文部科学省)
ii) 2003年度には約1,000人であったMOTプログラムの受講者を2007年度までに年間1万人とすることを目指し、各大学におけるMOTの教育プログラムの開発支援を行う。その際、技術の標準化や知的財産管理に関する内容を盛り込むよう各大学の自主的な取組を促す。
(総合科学技術会議、経済産業省)
エ)知的財産専門職大学院等における知的財産教育を推進する
 2004年度も引き続き、弁護士、弁理士に限らず、広く知的財産に携わる専門家を目指す者に対して、実務、ビジネス、知的財産政策、国際面を含めた教育を施し、知的財産ビジネスを多方面で支援できる知的財産専門家を育成する知的財産専門職大学院を設置する等大学の自主的な取組を促す。また、その際、将来における知的財産専門職大学院修了者の多様な活躍に向けて、大学等に対する関連情報の提供等を行う。
(総合科学技術会議、文部科学省)
オ)大学における知的財産教育を推進する
 2004年度も引き続き、弁護士、弁理士等の高度専門職業人のみならず、企業や大学等の知的財産関係者、研究者等に対する知的財産に関する知識の啓発を図り、学生に対して知的財産の創造や知的財産の尊重等知的財産マインドの醸成を図るため、学部・学科レベルの優れた知的財産教育を推進する。
(文部科学省、経済産業省)
カ)海外の大学等との連携を進める
 知的財産を巡る問題は国際的な色彩を一層強めていることを踏まえ、各国の知的財産制度などに精通し、国際的にも通用する知的財産人材を育成するため、2004年度から、大学がそれぞれの目的・理念等に応じ、海外の大学等との連携を進め、海外の知的財産専門家などを活用することを促す。
(総合科学技術会議、文部科学省)
(3)知的財産教育・研究の基盤を整備する
1)知的財産教育に関する児童・生徒向け教育及び教員向け研修を推進する
 小学校の早い段階からの各段階において、知的財産の創造や知的財産の尊重等知的財産マインドの醸成を図るため、必要な教育を推進する。このため、特許権や著作権などの知的財産を尊重する意識を身に付けさせるべく、2004年度も引き続き、特許権や著作権などの知的財産教育プログラムを策定するとともに、学校での知的財産教育を支援するため、初等中等教育向けの教材の作成・提供、教員向けの研修等の実施や手引書の作成、学校における知的財産教育の具体的手法の研究開発など、知的財産に関する教育事業を実施する。
(文部科学省、経済産業省)
2)知的財産研修に必要な講師を養成する
 今後、大学や民間企業など広範な分野において知的財産関連人材の育成のための研修等に関するニーズが高まることが予想されているため、2004年度も引き続き、最新かつ実践的な情報提供や集中的な研修を実施するなどにより、知的財産研修に必要な講師を養成する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省)
3)ITを活用した人材育成の情報提供手法を確立する
 eラーニングは、いつでもどこでも効率よく自己研鑽を図る手段として、知的財産の多様な研修機会の提供に資するものであることから、2004年度から、特許庁職員に対する研修から導入を開始し、順次、産官学の人材育成においてその導入を進める。
(総合科学技術会議、経済産業省)
4)知的財産人材の能力評価に関する民間の自主的な取組を推奨する
 2004年度に、知的財産関連人材への動機付けを高めるとともに、そのような人材を求める側のニーズに応えるべく、知的財産に関する実務者や翻訳者などの能力を評価することによって知的財産人材の育成に資する民間の自主的な取組みを推奨する。
(経済産業省、関係府省)
5)知的財産専門人材のネットワーク構築を積極的に支援する
 知的財産関連業務は広範にわたっており、一人で全ての専門分野に精通することは不可能である。広範にわたる知的財産関連業務に迅速かつ的確に対応できるよう、2004年度に、知的財産専門人材のネットワーク構築を積極的に支援する方策を検討する。
(総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省、関係府省)
6)国際的な研究・研修機能を充実させる
 2004年度も引き続き、アジアの知的財産人材育成の推進、及び我が国の実務者の国際競争力の向上等を図るため、官民の適切な役割分担の下で、知的財産研究・研修機能の充実を図る。
(文部科学省、経済産業省)
7)知的財産に関する総合的かつ学際的な研究を推進する
 情報学や環境学の発達によって、情報(IT)産業や環境関連産業が発達したことにかんがみ、2004年度も引き続き、法学、技術、経済学等の多様なアプローチに基づき、知的財産に関する総合的かつ学際的・横断的な研究を推進する。
(文部科学省、経済産業省)
8)知的財産関連統計の活用を図る
 2004年度も引き続き、7)の研究を促進するほか、ユーザーの多様なニーズに対応した政策展開に資するよう、知的財産政策の企画立案の基礎となる知的財産関連調査統計の幅広い活用を図る。
(総務省、経済産業省)


2.国民の知的財産意識を向上させる

(1)「知的財産権」「産業財産権」へ用語を統一する
 物を対象とした所有権法とは異なり、知的財産法は情報を対象としており、所有権法とは異なった情報独自の法体系が必要となりつつある。このことが広く認識されるよう、法令・条約等において使用されている「知的所有権」という用語を可能な限り「知的財産」「知的財産権」に統一することとする。このため、2004年度も、可能な限り必要な法令及び条約・協定の訳文の改正等を行う。また、日本語が正文の条約・協定については、今後、条約・協定の改正の機会をとらえ可能な限り改正等を行う。
 また、「工業所有権」に替えて「産業財産」「産業財産権」という用語を2004年度も可能な限り使用する。
(外務省、文部科学省、経済産業省、関係府省)
(2)啓発活動を強化する
i) 2004年度も引き続き、児童・生徒、大学生、社会人一般、実務者向けに、民間の知的財産の専門家をも活用しつつ、それぞれの特性を踏まえた知的財産に関するセミナーの開催を行うとともに、国民から募ったキャッチフレーズのキャンペーンを行うなど普及・啓発事業を充実させる。
(文部科学省、経済産業省)
ii) 2004年度も引き続き、著作権講習会(一般、都道府県事務担当者、図書館職員)の開催及び多様な現場からの様々な質問にインターネットを通じて答えるシステムの構築などの事業を実施する。
(文部科学省)


1.創造分野
(1)大学知財本部の整備 2003年7月、文部科学省において、大学の知的財産の管理・活用を戦略的に実施する体制の整備を図るため「大学知的財産本部整備事業」として34機関が採択され、「特色ある知的財産管理・活用機能支援プログラム」として9機関が選定された。
(2)TLOの整備 大学等の研究成果を企業等に移転するTLOについて、2003年度新たに承認TLOが5法人、認定TLOが2法人、2004年度にこれまで各1法人が追加されたため、全国の承認TLOは37法人、認定TLOは6法人となった。
(3)機関帰属を始めとする学内ルールの整備 2004年4月に国立大学が法人化したことを受け、各国立大学が産学連携の取組や大学の研究成果の運用等を独自の判断で行っていくため、機関帰属原則の採用をはじめとする各種のルールが整備されつつある。
(4)大学発特許出願件数及びロイヤリティの増加 TLOを通じた大学の特許出願件数及びロイヤリティ収入は着実に増加している。
       出願件数  ロイヤリティ
2000年度   618   128百万円
2001年度  1,145   300百万円
2002年度  1,334   410百万円
2003年度  1,679   554百万円
(5)「大学知財管理・技術移転協議会」の発足 2003年8月、大学知的財産本部の参加も可能になるよう、従来の「TLO協議会」が改組され「大学知財管理・技術移転協議会」が発足した。
(6)職務発明 2004年2月、当事者間で契約、勤務規則等の定めにより職務発明の対価について定める場合、定める際の手続等を考慮してその対価を支払うことが不合理と認められるものでなければその対価を尊重する等の内容を盛り込んだ特許法第35条の改正を含む「特許審査の迅速化等のための特許法等の一部を改正する法律案」が国会に提出された。
(7)日本版バイドール制度の活用・委託研究の88%にバイドール制度が適用(2002年度)。2003年度は更なる拡充を実施した。
・2004年5月、政府向けコンテンツ(教養又は娯楽の範囲に属するもの)に係る知的財産権も受託者又は受請者に帰属させることができる法案「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律案」が国会に提出された。

2.保護分野
(1)特許審査迅速化 2004年2月、従来技術調査を行う調査機関の公益法人要件撤廃、実用新案制度の見直し等を内容とする「特許審査の迅速化等のための特許法等の一部を改正する法律案」が国会に提出された。
 また、特許庁において任期付審査官の大幅増員(平成16年度分98名)等を実施した。
(2)著作権侵害への刑罰の強化 2004年3月、著作権侵害の罰金刑や懲役刑の上限を引き上げるとともに、これらの併科を可能とする「著作権法の一部を改正する法律案」が国会に提出された。
(3)知的財産高等裁判所の設置 2004年3月、裁判所の専門的な処理体制を整備する観点から、知的財産高等裁判所を創設するため、「知的財産高等裁判所設置法案」が国会に提出された。
(4)紛争処理機能の強化 2004年3月、知的財産関連訴訟の処理機能を強化するため、「裁判所法等の一部を改正する法律案」が国会に提出された。
・知的財産事件における裁判所調査官の権限を拡大・明確化。
・知的財産の侵害訴訟の審理における営業秘密の保護強化及び侵害行為の立証の容易化。
・特許権等の侵害に係る訴訟と特許等の無効審判の関係の整理。
(5)模倣品・海賊版対策の強化・2004年2月、輸入者情報等を権利者に通知する制度の導入を盛り込んだ「関税定率法等の一部を改正する法律案」が国会に提出された。当該改正法は、同年3月に成立し、4月に施行された。
・2003年8月、外務省において政府開発援助大綱の改定が行われ、知的財産権の適切な保護への協力等を通じ、開発途上国の持続的成長を支援することが盛り込まれた。
・2003年10月のAPEC首脳宣言
・閣僚宣言において、知的財産権の保護が盛り込まれた。その際、我が国が提案したIPRサービス・センターの設立、知的財産権包括戦略が承認された。

3.活用分野
(1)知的財産を受託可能財産とする等の信託制度の整備 2004年3月、知的財産権を含めた財産権一般を受託可能財産とすること、グループ企業内での信託業や承認TLOによる信託業を原則自由とすること等を内容とする「信託業法案」が国会に提出された。
(2)ライセンシーの保護強化 2004年2月、第三者対抗要件を備えている知的財産ライセンス契約について、破産法59条(管財人の解除権行使)の適用除外とする「破産法」が2004年5月に成立した。
(3)日米租税条約の改正 2004年3月、知的財産を含む無体財産権の使用料について源泉地国免税を含む日米租税条約の国会批准・発効(2004年7月から源泉徴収される租税について適用開始)が行われた。
(4)知的財産の情報開示の促進 2004年1月、企業の知的財産への取組が投資家等によって適切に評価されるよう、企業による自主的な知的財産の情報開示のための「知的財産情報開示指針」が策定された。
(5)知的財産関連情報へのアクセスの利便性の向上 2003年度において、意匠公報DB(英語版)等の提供等のサービスの拡充を行うとともに、特許庁の特許電子図書館(IPDL)の有する特許情報へのアクセス改善を実施した。
(6)地方自治体の取組 知的財産戦略本部の設置後、各地の地方自治体において、地域版知財戦略の策定等の取組が実施された。
○「島根県知的財産活用戦略」(2003年3月)
○「福岡県農作物知的財産戦略」(2003年3月)
○「中小企業の知的財産活用のための東京戦略」(2003年8月)
○「大阪府知的財産戦略指針」(2004年2月)
○「あいち知的財産創造プラン」(2004年3月)
○「大阪市知的財産活用推進計画」(2004年4月)
○「北海道知的財産戦略推進方策(仮称)」(2003年度に策定開始(策定中))

4.コンテンツビジネス振興
(1)コンテンツビジネスの振興 2004年5月、コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関し、国、地方公共団体及び関係者が、その基本理念を共有し、一体となって、関連する施策の総合的かつ効果的な推進を図ることを目的とする「コンテンツの創造、保護及び活用に関する法律案」(議員立法)が国会に提出された。
(2)音楽レコードの還流防止措置及び書籍・雑誌の貸与権の付与 2004年3月、我が国の音楽文化の海外普及を積極的に促進するため、日本における販売を禁止した音楽レコードの海外からの還流を防止するとともに、我が国の出版文化が衰退することなく発展できるよう書籍・雑誌に貸与権を付与すること等を内容とする「著作権法の一部を改正する法律案」が国会に提出された。
(3)法律家と事業者や創作者との交流活動の奨励・支援 2004年4月、法律家と事業者や創作者との交流活動のため、「エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク」が設立された。
(4)役務取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針(役務取引ガイドライン)の改定 2004年3月、コンテンツ業界の取引適正化のために、取引上優越した地位にある委託者が、コンテンツに係る権利の譲渡を委託者に事実上強制した場合や一方的に受託者のコンテンツの二次利用について制限等を行った場合等には独占禁止法違反となることが公正取引委員会の「役務取引ガイドライン」に明確化された。
(5)映画等の制作を促進するための新たな融資制度の創設 2004年度から、日本政策投資銀行において、コンテンツ等の知的財産権を流動化する手法を用いた資金調達制度(「知的財産有効活用支援事業」)が創設された。
(6)大学等におけるコンテンツに関する取組 2004年3月、東京大学において「コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム」を公表した(2004年秋開講予定)。また、コンテンツに関係する専門人材を育成する専門職大学院が本年4月に開校した。
(7)デジタルコンテンツやメディア芸術の創造のための研究開発の促進 2004年度より、科学技術振興調整費の研究対象課題として、「デジタルコンテンツ創造等のための研究開発」を設定しており、審査の結果、2004年5月に「デジタルシネマの標準技術に関する研究」が採択された。
(8)文化遺産に関するコンテンツの作成・流通の推進 2004年4月、 国民の貴重な財産である文化遺産の積極的な公開等を促進するため、文化遺産オンラインを一般公開するなど、「文化遺産オンライン構想」を推進した。

5.専門人材の育成・普及開発活動
(1)法科大学院の設置 2004年4月より全国に設置された68校の全ての法科大学院において、知的財産法関連の授業科目が開設。
(2)推進計画の普及啓発 知的財産推進計画について、これまで全国各地で100会場以上、約2万人に説明を実施。


アーカイブ文書や記録を集積すること
アクセスコントロール接続管理
インセンティブ動機づけ
インターネットサービスプロバイダーインターネットへの接続サービスを提供する事業者
インターンシップ就業体験
ウェブくもの巣状に分散した情報システム
エクイティ株主持ち分(=株主資本)期間内利益に応じて配当が受けられるもの
エンフォースメント権利執行
オープンソフトウェアライセンスオープンソースソフトウェア(ソフトウェアのソースコード(人間が読むことができるプログラムの内容)を開示するとともに、その自由な複製や改変を認めているもの)に関するライセンス(実施許諾)
ガイドライン指針
キャパシティービルディング能力構築
コンテンツ映画、アニメ、ゲームソフトの著作物等
グレースピリオド新規性喪失の例外が認められる期間
研究ノート研究者・発明者の研究・開発活動を自らの手で記録するためのもの。発明日・発明内容・発明者等の立証に必要な証拠書類にもなる。
コンサルティング専門的な助言を与えること
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ジョイント・ディグリー一定期間に複数の学位を取得できる履修形態
スキルアップ技能向上
スキルマップ技能案内図
スピンオフベンチャー親元企業の従業員が、自らの研究成果等を基にして独立起業したベンチャー
知的財産ポリシー各大学等で策定する知的財産の取扱に関する基本方針
知的財産マインド知的財産を尊重し、関心を持つこと
ディスカバリー米国における、法廷外で当事者が互いに事件に関する情報を開示し収集する手続
デジタルコンテンツコンピュータを用いて作成された映像、データベース、ソフトウエア等
デジタルシネマ映画の撮影から上映までを、フィルムを使わずにデジタルデータで行うこと。 
ネットバンキングインターネット経由で、銀行などの金融機関のサービスを利用すること
バイ・ドール制度政府資金により得られた研究成果の知的財産権を、受託先に帰属させることができる制度
パイロットモデル試験的に作成された雛型
パテントプール特許集積
ファイル交換ソフトインターネットを通じ不特定多数のコンピュータ間でファイル(記録された情報・データのまとまり)を共有するためのソフト
フィルム・コミッション自治体を中心に設立された野外撮影を誘致・支援する非営利組織
フォローアップ物事や計画の徹底のため、その展開を調査すること
フレキシビリティ柔軟性
ブロードバンド広帯域・高速の通信の普及で実現される次世代コンピューターネットワーク
プロジェクトファイナンス完成後の施設の稼動による利益で借入れの元利を返済する事業融資方式
ポータルサイトインターネット上の総合窓口サイト
ポストドクター主に博士課程修了後、引き続き大学等の研究機関で研究業務に従事する者。任期を付して雇用される場合が多い。
マーケティング市場調査
マッチング組み合わせること
モラルハザード経営倫理の欠如
ユーザーインターフェイスユーザーへのコンテンツ等の情報の表示方法や、ユーザーからのデータ入力方法といった、システム全体とユーザーとの間のやりとり部分
ユビキタスネットワーク「いつでも、どこでも、誰でもアクセスが可能」なネットワーク環境。なお、ユビキタスとは「いたるところに遍在する」という意味のラテン語に由来した言葉
ライセンサー許諾者
ライセンシー被許諾者
ライセンシング実施許諾
リカレント教育社会人が、職場から学習の場に戻って、生涯にわたって繰り返し学習すること
ワンストップサービス窓口一元化
ASEMアジア欧州会合
ADR裁判外紛争処理
AFIアメリカ映画協会
APECアジア太平洋経済協力
Attorney-client privilege米国における守秘特権
CSDB特許庁が保有するコンピュータ関連の審査のためのデータベース
DRM権利管理システム
e−ラーニングインターネットなどの利用による教育研修
EG細胞胚性生殖幹細胞
EPA経済連携協定
ES細胞胚性幹細胞
Fターム特許審査のための従来技術調査を効率的に行うために、機械検索用に開発された技術分類
FTA自由貿易協定
IEC国際電気標準会議
IPDL特許庁の電子図書館
ISO国際標準化機構
ITU国際電気通信連合
JETRO日本貿易振興機構
License of Right実施許諾の意思を登録する制度
LLM法学修士コース
MOT技術経営
NIH米国国立衛生研究所
PCT特許協力条約
RILO地域情報連絡事務所
TLO技術移転機関
TPRM貿易政策検討制度
TRIPS協定知的所有権の貿易関連の側面に関する協定
UPOV植物新品種保護国際同盟
WCO世界税関機構
WCT著作権に関する世界知的所有権機関条約
WIPO世界知的所有権機関
WPPT実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約
WTO世界貿易機関