▽平成十年人口移動の概要………総 務 庁
環境白書のあらまし
<序 章> 二十世紀の環境問題から得た教訓は何か
<第1節> 環境問題の変遷と対策の系譜
二十世紀は、前世紀からの局地的な鉱害などの問題が続く中で産声を上げた。我が国では、明治維新後、殖産興業の号令の下で積極的な工業化が進められた。工業化に伴い健康等への被害があることが認識されたものの、十分な対策は講じられなかった。以後、特に戦争の時期に至ると、環境行政はほとんど省みられることがなかった。戦後、経済の復興に最も高い優先度が与えられ、高度成長期に入ると、激甚な公害問題が生じた。
こうした激甚な公害への対策として、昭和四十五年の公害国会(第六十四回国会)では、公害関係十四法が制定・改正されるとともに、体系的な環境行政の必要性が強く認識され、昭和四十六年、環境庁が設置された。これ以降、環境庁を中心として政府では、各種の環境保全施策を講じていくこととなった。昭和五十年頃以降になると、いわゆる都市・生活型の公害への対応が求められるようになった。
<第2節> 地球化時代の環境問題と対策の進展
昭和末から平成の頃になると、地球温暖化やオゾン層の破壊の問題など、次第に地球規模化した環境問題の重要性が国際的にも認識されるようになり、環境行政もまた新たな行政需要に応じて、大きな変化・拡充を見せた。平成五年には、地球環境時代に対応した新たな環境政策を総合的に展開していく上での大きな礎となる「環境基本法」を制定し、翌年、「環境基本計画」を策定するなど、環境行政そのものも、新たな時代を迎えたと言える。さらに九年以降「環境影響評価法」、そして「地球温暖化対策の推進に関する法律」などが次々と制定され、新たな枠組みの下で、新たな環境政策が展開されていくこととなった(第1表参照)。
<第3節> 二十世紀の教訓
〜次世紀の持続的発展に向けた環境メッセージ
▽激甚な公害経験から学んだこと
一 環境問題から得た教訓を分かち合い、反省とともに受け継いでいくこと
明治期の鉱毒事件など、振り返ってみると警鐘を鳴らす声があったにも関わらず、対策が遅れ、あるいは不十分であったりしたために、二度と戻らなかった人命や健康があった。こうした過ちは、人類全体の教訓として受け継いでいく必要がある。
▽都市・生活型公害から学んだこと
二 環境問題の複雑な原因に合わせて様々な対策を実施していくこと
多数者の日々の生活と関わりの深い都市・生活型の公害には、従来からの対策が必ずしも効果的ではなかった。このため、様々な対策をうまく組み合わせていくことが必要である。
▽地球規模の環境問題から学んだこと
三 地球環境問題において国際的なイニシアティブを発揮し、環境協力を推進すること
地球環境問題は、各国のそれぞれの事情から、時に利害が真っ向から対立することがある。我が国は、アジアの一員であること、経済的に大規模な活動を営む国であることなどの特性を活かし、積極的な役割を果たしていくべきである。
▽自然保護に関して学んだこと
四 生物多様性という考えで自然環境を保全していくこと
珍しいもの、すぐれたもの、美しいもの、といった価値を基準にして、それらを守るということだけでは不十分であった。「生物の多様性」という概念で自然環境保全の問題を考えていくべきで、そのためには、個体、種、生態系という、それぞれの多様性の保全に向けた取組が重要となる。
五 人間の与える負荷と自然環境の許容量を踏まえた共生を図っていくこと
私たちの活動が自然環境へ与える影響を予め正しく予測することが必要である。人と自然との共生の確保には、環境の許容量を知って自然とのふれあいを促進すること、自然の大切さを学ぶことが大切である。
▽経済社会の変遷を通じて学んだこと
六 最適生産、最適消費、最少廃棄型の経済社会への変革を図っていくこと
大量生産という二十世紀の画期的な生産方法も、大量消費そして大量廃棄という問題をもたらし、経済社会の持続的な発展を危うくしている。従来の生産、消費、廃棄を、環境に負担をかけないようなものにしていく必要がある。
七 行政、事業者、国民それぞれが適切な役割分担により環境保全を組み込んでいくこと
行政、事業者、国民それぞれが環境の価値を重視した判断を行い、お互いに役割を分担しながら協力し合って環境問題への対策をとることが大切である。
▽計画的な環境対策に関して学んだこと
八 将来像を踏まえて環境政策の方向を明らかに示していくこと
科学的な技術評価に基づいて、政策主体が明確な意思表示をすることにより、技術革新など対策の進捗が期待できる。
九 未然防止や早めの対策を心がけていくこと
環境問題に気づき、対策が講じられ、その効果が現れるまでには、時間がかかる。環境問題への対策は、未然防止や早めの対策という考え方で進めていく必要がある。
十 統一的な組織の下で計画的に施策を進め、目標の設定と事後評価を適切に行っていくこと
環境保全に関する政策は、統一的な組織の下で、計画的、体系的に行われる必要がある。また、環境行政の目標はできる限り数値で分かるものとして、目標が達成できたかどうかをチェックすることが大切である。
<第1章> 経済社会の中に環境保全をどう組み込んでいくのか
<第1節> 環境面から考察する産業構造の変化
▽我が国の産業構造の変化と環境保全とのかかわり
我が国の産業構造と環境への影響は、以下のように変遷してきた。
・第T期 軽工業を中核とした近代産業の確立と重化学工業化の進展
(明治中期〜第二次世界大戦)
工場等からのばい煙や排水等による公害が発生。
・第U期 傾斜生産方式による石炭と鉄鋼等の素材供給型の産業の育成
(戦後復興期)
各種の公害現象の顕在化、公害への認識の高まり。
・第V期 重化学工業化、エネルギー転換等による経済成長
(一九五〇年代後半)
広域的な大気の汚染等の深刻な公害問題が発生。公害防止に係る法制度が整備され、企業は公害対策のための設備投資等を実施。
・第W期 オイルショックに伴う素材型産業から、組立産業への進展
(一九七〇年代〜八〇年代)
産業活動の省エネ・省資源の取組が進展。一方、未規制物質使用の増大による新たな公害も発生。
・第X期 サービス・情報産業やエコビジネスの進展
(一九九〇年代)
地球環境問題や廃棄物問題等の様々な環境問題の顕在化に伴う、エコビジネス(環境関連産業)や産業活動における環境保全の取組が進展。
▽我が国の産業構造と物質収支に関する考察
我が国の産業構造は、第一次産業のウエイトが低下、第二次産業はほぼ横ばい、第三次産業は一貫してウエイトを高めている状況にある。
また、我が国の物質収支をみると、経済活動に投入される総投入物質量や総廃棄物発生量は両者とも年々増大傾向にあり、依然として大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済構造が維持されている。国内の物質フローは、循環性が低く、資源採取から廃棄に向かう一方通行の流れとなっている。
加工貿易を基礎に成り立っている我が国の経済構造は、国内需要に加え、輸出需要に対応した大量の物質・エネルギーフローを生む構造になっており、一方、海外での資源採取等の段階で、相当程度の環境負荷を与えている。したがって、産業活動における環境保全の内在化を進めていくことが重要である。
<第2節> 産業活動における環境保全の内在化の動き
▽持続可能な経済社会を構築する産業活動の方向性
持続可能な経済社会の条件は、資源や環境負荷の側面からみると、次のように整理できる。
@経済活動へ投入される物質量や一次エネルギーの供給量の削減
A投入物質やエネルギー供給源の質の転換(地下資源の消費から地上資源の活用へ)
B自然界への物質の排出量(総廃棄物発生量)の削減、無害化や最終エネルギー消費量の削減
また、持続可能な経済社会を具体化する、以下の概念が国際的に注目されている。
(一) 環境効率性
環境効率性とは、環境、経済両面での効率性を追求するための概念で、同じ機能・役割を果たす財やサービスの生産を比べた場合に、それに伴って発生する環境への負荷が小さければ、それだけ環境効率性が高いということになる。
持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)では、環境効率性の概念を具体化し、その普及活動を行っている。
(注) WBCSDの環境効率性の七つのガイドライン
・製品、サービスの物質集約度(material intensity)の低減
・製品、サービスのエネルギー集約度(energy intensity)の低減
・有害物質の排出の抑制
・材料のリサイクル可能性の向上
・再生可能資源の最大限の持続可能な活用
・製品の耐久性の向上
・製品の利用密度の向上(共同利用、多機能化、機能拡張)
(二) 豊かさを増大させながら、資源消費を削減〜ファクター10・4について
「ファクター10」とは、持続可能な社会を実現するためには、今後五十年のうちに、資源利用を現在の半分にすることが必要であり、人類の二〇%の人口を占める先進国がその大部分を消費していることから、先進国において、資源生産性(資源投入量当たり財・サービス生産量)を十倍向上させることが必要であることを主張するもので、一九九一年(平成三年)に、ドイツのヴッパータール研究所により提唱された。
さらに、一九九五年には、「豊かさを二倍に、環境に対する負荷を半分に」することを目指す「ファクター4」の報告が行われ、ファクター4が技術的に可能であり、かつ巨額の経済的収益をもたらし、社会を豊かにすることができることが示された。
(三) 持続可能な経済社会の四つの条件(ナチュラル・ステップ)
スウェーデンの環境保護団体の一つで、一九八九年に設立された「ナチュラル・ステップ」という団体が、持続可能な社会の構築のための条件として、以下の四つのシステム条件を提案しており、企業経営の中に取り入れられるようになっている。
@地殻の物質をシステム的に自然界に増やさない
A人間社会で生産した物質(例えば化学物質)をシステム的に自然界に増やさない
B自然の循環と多様性を支える物理的基盤を守る
C効率的な資源利用と公正な資源配分が行われている
ここでは、環境保全への配慮を段階的に組み込んでいくことを「グリーン化」と呼ぶこととする。産業活動の持続可能性を高める方向性を整理すると、産業活動における環境効率性を向上させ、一単位の資源から得られる豊かさを四倍、十倍にするよう努めることにより、地上資源を有効に活用し、地下資源や自然界に異質な物質の利用の必要性を下げていくことであると考えられる。
この方向性に沿って、グリーン化の具体的な取組を「食」を支える産業、「モノ」づくりを中心とした産業、「マネー」の流れを調整する産業の観点から整理する。
▽「モノ」づくりを中心とした産業の取組
環境経営の取組姿勢として、第一のタイプ=規制対応型、第二のタイプ=予防的対応型、第三のタイプ=機会追求型、第四のタイプ=持続可能型の四つの対応が考えられるが、第一のタイプから第四のタイプヘ向かう時系列的な進化を経る事業者が多くなっている。
「モノ」づくりの産業活動においては、原材料調達、製造、流通・販売、製品利用、廃棄・リサイクルの各段階において、環境負荷を低減させることが重要である。
また、環境効率性を一層高めるためには、ライフサイクル全体を見渡した原材料の選択、製品設計、生産システムの構築を行う「環境設計」が必要である。
前項で紹介した三つの概念を基に、環境設計のキーワードは、次のように整理できる。
物質集約度の削減、エネルギー集約度の削減、有害物質の利用・排出の削減、製品の耐久性の向上、利用密度の向上、再生可能資源の持続的な利用、再使用・リサイクル可能性の向上
環境設計の推進は、修理等の新たなビジネスを生み出し、モノの所有からリース・レンタルへと利用形態に変化をもたらし、また、再生可能資源の利用が、国内の農林水産業の振興や自然環境の保全に資するなど、持続可能な経済活動への転換にもつながると考えられる。
このようなキーワードを基に、リサイクル工程から発想した製品設計、生産システムの構築を目指した「インバース・マニュファクチュアリング」の構想が、東京大学によって提唱されている。
▽「食」を支える産業の取組
「食」を支える産業である農業は、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全等の多面にわたる機能を持っている。一方、化学肥料、農薬の不適切な使用による水質汚濁等の環境負荷も生じている。
農業のグリーン化のためには、合理的な輪作、土づくり、畜産と耕作との結合等による農薬や化学肥料の節減や、露地栽培の推進や、自然エネルギーの利用等により、持続可能な農業生産を実現する環境保全型農業を進めていくことが必要である。このような取組を推進するためには、伝統的な日本の食生活を見直すこと、地域住民の参加型農業や食を介して、第一・二・三次産業間の連携を進めていくこと等により、地域の活性化と一体となった取組を進めていくことが重要である。
▽「マネー」の流れを調整する産業の取組
「マネー」の流れを調整する産業である金融業は、事業者への資金供給を通じて間接的に環境へ大きな影響を及ぼしている。そこで、金融業は、融資の際の投資事業の環境リスクの確認や、グリーン化を進める事業者への積極的な投資等を行っていくことにより、事業リスクの削減だけでなく、事業者のグリーン化を促すことができる。また、保険業については、契約事業者の環境保全に資する環境汚染賠償保険等の商品開発やコンサルティング等の取組が行われることが望まれる。
<第3節> 環境保全と地域経済の融合に向けて
▽経済のグローバル化と地域経済
経済のグローバル化は、環境保全に資する技術や情報の流通、ISO一四〇〇一等の環境保全に係るグローバルスタンダードの普及等を進める一方、大量生産システムの進展や輸出入の増大に伴うエネルギー利用量の増大、過度の資源採取等の環境への悪影響をもたらすことが懸念されている。
経済のグローバル化が進む現在、環境保全と密接にかかわる地域経済の動向に注目したい。
▽地域経済を形成する産業活動の在り方
〜地域内資源活用の取組
地域の活性化と環境保全との両立を図る取組の事例をみると、再生可能な地域資源や再生資源の地域内での活用が、資源供給、活用側双方の産業や新規産業の振興をもたらし地域経済を活性化させている。また、人々や情報の交流を活発化させ、地域の固有の生活文化を形成することにもなる。さらに地域における信頼と輸送コストの削減等を競争力にして発展している例もある。
▽地域の環境保全を支える「人、情報等」の活性化を促進する取組
地域資源活用型の産業活動を進めるには、それを支える人、情報等の交流を促進することが重要である。生活クラブ生協のワーカーズコレクティブ等や市民事業は、この意味で注目される。また、地域の資金循環を調整する地域金融の活躍や、地域内で財・サービスをやり取りする「LETS」システムの導入等により、地域内での経済循環を活性化させることで、地域内での物質循環を実現し、経済活動に内在化されていない環境の価値を評価する試みもみられる。
▽環境保全と地域経済の融合に向けて
以上のことから、地域内での「モノ」の循環を進め、それを支える「人・情報」の交流や地域の経済循環を促進する取組を展開すること等により、地域経済を活性化し、グローバル経済と地域経済が相互に補完し合いながら、環境保全上望ましい形で展開されることが必要である。
<第4節> 環境保全を内在化した経済社会の実現に向けて
▽環境保全型の経済社会についての将来像
環境保全型の経済社会の構築に当たっては、現在の経済社会に存在する財貨の存在量を重視し、それを最大限活用して効用を得るストック活用型経済社会へ転換し、環境効率性を最大限向上させていくことが重要である。
また、第一次産業は、環境保全機能を維持・増進しエコ(再生可能)資源を供給する主体として、第二次産業は、環境効率性を追求し、リサイクルの循環回路を形成する主体として、第三次産業は、ストック活用の媒体・非物質系循環の推進主体として、それぞれ持続可能性を高めていくとともに、相互にバランスをとりつつ連携を強めていくことにより、循環促進型の産業構造への移行を図っていくことが重要である。
日本経済の発展やグリーン化の推進力となり得るエコビジネスの発展も大いに期待される。さらに、経済を構成する新たなセクターである、市民事業やNPO等の「協」的セクターの活躍が期待される。
持続可能な産業活動の進展のためには、「規模の経済性(スケールメリット)」の追求だけでなく、他の主体との連携を軸にした「範囲の経済性(スコープメリット)」や、「連結の経済性」及び「合意の経済性」などの多様なアプローチを使い分けていくことが重要であろう。
▽環境保全の内在化を進めるために
環境保全の内在化を進めるためには、以下のことが必要不可欠であると考えられる。
(一) LCA、環境報告書、環境会計等の「環境情報の社会インフラ」を整備することにより、環境効率性を高める企業行動を推進すること。
(二) 消費者、投資家、労働者としての国民の経済行動に、環境合理性(環境価値を重視した行動規準)を定着させること。
(三) 地域の資源を活用するなどにより、地域主導による環境保全と地域経済の融合を図っていくこと。
(四) 環境保全型の経済社会に関するビジョンを提示しつつ、積極的な環境投資を推進していくこと。
(五) 規制的手法、経済的手法等の各種手法の組合せにより、経済社会全般に及ぶグリーン化の推進を図っていくこと。
これらの取組を進めていくために、環境政策の果たすべき役割はますます重要になっていく(第2表参照)。
<第2章> 環境に配慮した生活行動をどう進めていくのか
<第1節> 利便性を追求する生活行動と環境への負荷
▽二十世紀の利便性向上の歴史と環境問題
・第T期 科学技術の急速な進歩と都市型消費生活の始まり
(一九〇〇年代〜二〇年代)
大衆車の大量生産方式の実現を始めとして、諸外国で科学技術が急速に発達した。我が国も、一九一〇年代後半ごろから都市的な消費生活が始まるものの、まだ萌芽にすぎなかった。
・第U期 利便性の追求と大量消費・大量廃棄パターンの始まり
(一九四〇年代半ば〜六〇年代)
電気洗濯機、電気冷蔵庫、白黒テレビといった「三種の神器」が急速に普及し、また自動車保有台数が増加する一方で、モデルチェンジが頻繁に行われるようになった。こうした中、買い換えによる大量消費が進むとともに、まだ使用可能な製品が大量に廃棄され始めた。
・第V期 生活者による環境保護運動の進展
(一九六〇年代〜七〇年代)
戦後の急速な経済成長とそれに続く高度経済成長の裏側で、水俣病を始めとする産業公害による健康被害が表面化し、住民運動が活発化していった。また、ローマクラブが「成長の限界」を発表するなど、地球規模でも環境に対する危機感が高まり、環境保護運動が進展していった。
・第W期 地球環境問題等の表面化と生活様式に対する問題提起
(一九八〇年代以降)
都市・生活型公害や地球温暖化問題等にみられるように、利便性の追求の結果、これまで被害者であった国民は加害者とも位置付けられるようになった。こうした中、消費段階で環境保全を意識したり、環境家計簿等を利用して消費生活を見直すなど、自らの生活様式を変える取組への機運が高まりつつある。
▽利便性を追求する生活様式と環境負荷
<消費生活等から見た生活様式の変化>
平成八年の家計の消費水準は、三十年前に比べ約一・六倍になっている。この間、自家用車の普及に伴う自動車関係費や耐久消費財の大型化・高級化に伴う支出が増加するとともに、エネルギー使用の増加に伴う光熱・水道費が増加しており、生活者の利便性の追求・快適志向がうかがわれる。
また、例えば食料費に占める中食(調理済み食品)費、外食費の割合がこの二十五年間で倍増しているように、消費のサービス化が進行している。
<日常生活における環境負荷>
私たちの生活は、大量の資源・エネルギーを消費することで便利になったが、他方では様々な環境負荷が生じている。例えば、全国で約五百五十万台が普及している自動販売機のうち、飲料自動販売機は家庭一世帯の消費電力のおおよそ六割の電力を消費している。
また、耐久消費財の大型化・高級化や大量普及により、技術開発による一台当たりの環境負荷が低減されても、全体としてCO2の排出量が増大している。
一般廃棄物の一人一日当たりの排出量もこの十五年で八・四%増えており、生活様式の変化を反映して、時間と手間を節約でき便利な使い捨て商品や食べ残し、容器包装類等が増加している。また、いわゆる生活排水は、海や河川、湖沼の有機汚濁や富栄養化を引き起こす原因の一つとなっている。
また、私たちの日常生活は、自動車の利用を前提としているといえる。自家用乗用車は、バスや鉄道という公共交通機関にはない利便性を備え、便利で快適な生活を支えているが、燃料の燃焼に伴って、地球温暖化の原因となるCO2を排出する。輸送機関別のエネルギー消費量の推移をみてみると、自家用乗用車のエネルギー消費が大きな割合を占めるとともに、著しく伸びている。
<第2節> 化学物質による環境問題
▽化学物質に依存する現代社会と環境問題
私たちの身の回りにはありとあらゆる用途に対応した多様な化学物質が存在し、それらは私たちの生活を便利にしてきた。その一方で、生産・使用・廃棄等の仕方によっては、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼす恐れのあるものもある。その背景には、利便性を追求し、多種多様な化学物質を大量に生産、消費、廃棄している社会経済活動や生活様式を、私たちが受け入れてきたという事実がある。
化学物質による環境問題に対しては、そのつど対策が取られてきた。最近では、新しい化学物質問題の現れとして、内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題と、ダイオキシン問題への関心が高まっている。
▽内分泌かく乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題の台頭
近年、いろいろな分野の研究者等によって、野生動物等に、化学物質による内分泌かく乱作用の影響が出始めている可能性があるという報告がなされている。特に、シーア・コルボーンらによって一九九六年(平成八年)三月に発刊された『奪われし未来』は、それまで個別に行われてきた野生動物などの生殖異常に関する研究報告を、内分泌かく乱化学物質がそれらの異常の原因ではないかという、一本のストーリーでつなぎ合わせたものである。この本をきっかけに、内分泌かく乱化学物質、いわゆる環境ホルモンが、従来になかった新しい環境問題の出現として世界的にクローズアップされることとなった。
(注) 内分泌かく乱化学物質
動物の生体内に取り込まれた場合、本来動物の生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響を与えるおそれのある化学物質のこと。
内分泌かく乱化学物質がホルモンの正常な作用をかく乱するメカニズムは、必ずしも解明されていないが、内分泌かく乱化学物質が、本来ホルモンが結合するはずのレセプター(受容体)に結合することによって、女性ホルモンが分泌されたと錯覚させたり、男性ホルモンが結びつくのを妨げたりすると考えられている。
内分泌かく乱化学物質問題についての本格的な調査研究は、まだ始まったばかりである。今後も引き続き調査研究体制の充実を図るとともに、有識者などによる検討会や、国際シンポジウムの開催を通じて、この問題に積極的に取り組んでいく必要がある。
▽ダイオキシン問題について
ダイオキシン類とは、人工物の中で最も強い急性毒性を持つといわれる化学物質である。意図せずに生成されるため、環境中に極めて低い濃度で拡散しているのが特徴で、一度に大量に身体に取り込まれることはほとんどない。長い期間接することによって生じる毒性により、人の健康に害を与えるのを未然に防ぐため、主な発生源である廃棄物焼却施設からの排出を抑制する措置がとられている。
ダイオキシン類については、我が国では当面の許容限度としての耐容一日摂取量(TDI)10pg/kg/日と、人の健康を保護するうえで望ましい値としての、「健康リスク評価指針値」5pg/kg/日が提案されているが、世界保健機関のTDIの基準の見直し(10→1〜4pg/kg/日、コプラナーPCB含む)を受けて、見直しを行っている。
また、土壌中のダイオキシン類濃度については、社会的関心の高まりを受け、環境庁において、土壌一g当たり一千pgTEQの暫定ガイドラインが提案されている。
政府としても、ダイオキシン問題の広がりに対応するため、「ダイオキシン対策関係閣僚会議」で、総合的にダイオキシン対策を進める「ダイオキシン対策推進基本指針」を策定するなどの対策を進めている。
▽化学物質による環境汚染の未然防止のための新たな手段について
従来の化学物質による環境問題への対策は、個別の物質に着目する方法、規制を厳格にしていく方法が取られてきた。しかし、化学物質が複数の経路を通じて人の健康に影響を及ぼす恐れがあること、多数の化学物質について、科学的に確実な裏付けを持った維持すべき環境保全上の目標を定量的に設定するためには、膨大な経費と時間を要することなどから、これまでの対策に加えた、新しい対策の枠組みが必要となっている。
化学物質による環境を保全するうえでの支障を総合的、効果的に低減、管理するための方策として、PRTRへの取組が国際的に進んでいる。この制度は、一九九二年の地球サミットで採択されたアジェンダ21やリオ宣言で導入が推奨された。
(注) PRTR
Pollutant Release and Transfer Registerの略称で、環境を汚染する可能性を持つ化学物質が、どのような発生源から、どの程度環境中に排出されているか、また廃棄物になっているのかというデータをまとめたもの。
我が国では、環境庁がPRTRの導入について検討を行い、百七十八の化学物質を対象としたパイロット事業を実施した。産業界でも、通商産業省の支援の下、PRTRに関する取組を実施している。
また、化学物質管理に必要な情報を、化学物質の供給者から取扱事業者に提供することで、その管理を促進する手法として、MSDSの重要性が指摘されている。MSDS(Material Safety Data Sheet)とは、化学物質ごとに有害性を始めとする物質性状や、その安全な取扱方法等を記載した、化学物質安全性データシートのことをいう。
政府は、これらの検討結果や審議会の答申等を踏まえ、PRTRとMSDSの制度化を主な内容とする「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律案」を平成十一年三月十六日に閣議決定し、国会に提出した。
<第3節> 環境に配慮した生活行動に向けて
▽生活行動における環境配慮の分類
<(環境リスクに対する)回避行動>
(例) 環境リスクの高い製品は購入しない
<環境負荷抑制行動>
(例) 省エネ、省資源に関する生活行動
<環境保全目的行動>
(例) リサイクル、環境保全団体への寄付
なお、環境負荷抑制行動と環境保全目的行動を合わせて、「環境保全行動」という。
(生活行動において環境配慮を欠くケース)
@情報等が限られるため、冷静な環境リスクに対する回避行動がとれない
A環境負荷を削減するインセンティブを欠くため、環境保全行動につながらない
▽リスク・コミュニケーションを通じた回避行動の必要性
今日の化学物質による環境問題については、長期にわたる微量の化学物質の曝露による健康や生態系への影響の問題が中心となっている。これらによる影響を未然に防止するには、環境リスクの考え方で問題をとらえた上で、有害な物質を個別に規制していくだけでなく、化学物質によるリスク全体を効率的に減らしていく取組が必要である。
また、環境リスクを効率的に低減していくには、国民、事業者、行政などの間の適切なリスク・コミュニケーションが必要である。
(注) 環境リスク
環境基本計画においては、生産、使用、廃棄等の仕方によっては人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすおそれのある化学物質が、環境の保全上の支障を生じさせるおそれを示す概念。(影響の大きさ)×(発生の不確かさ)で評価。
▽環境保全における意識と行動のギャップの解決
<環境意識と行動のギャップ>
環境庁が実施した調査では、生活者の多くが、地球環境問題に対する危機感を持っているものの、具体的な行動は自らの便益を損なわない程度で行いたい、という考えが読み取れる。こうした自らの便益を最大化する行動パターンは、社会全体、さらには生活者自身の便益を失わせる可能性がある。
<ギャップを埋めるための解決方策>
意識と行動のギャップを埋めるためには、生活者の努力に期待するだけではなく、社会システムを変え、生活者に対し環境に配慮した生活行動を実践しようとするインセンティブを与えることが必要である。
@解決方策その一
〜生活者が置かれている「社会的条件」の変更
特に地球温暖化対策のうち、生活者とのかかわりの深い二酸化炭素排出抑制対策を中心に考えると、以下の対策が考えられる。
ア 「地球温暖化対策の推進に関する法律」や「エネルギーの使用の合理化に関する法律」等を適切に組み合わせることにより、総合的な地球温暖化対策の枠組みが構築されることが期待される。また併せて、技術開発や排出抑制を誘導するような経済的措置の活用も重要である。
イ サマータイム(夏時間)制度の導入は、地球環境にやさしい生活様式への転換を図る契機となる可能性がある。
ウ 都市部における自動車の排気ガスによる大気汚染対策として、公共交通機関への需要の誘導、円滑な自動車走行の確保といった自動車交通需要を調整する施策が有効である。
A解決方策その二
〜社会的条件に対する生活者の「認識」の深化
ア 学校、地域社会や家庭など、多様な場において、体験的な学習・活動を重視しつつ、環境教育・環境学習が総合的に推進されることが必要である。そのためには、プログラム等の体系化、人材の育成、情報提供体制や拠点の構築・整備が必要である。
イ 環境ラベルの活用により、「環境への負荷」等を分かりやすく表示したり、グリーン購入を通じて、環境負荷の少ない製品等の市場の成長を促すことが有効である。
B解決方策その三
〜環境重視の「価値観」や「行動規準」の生活者への定着
生活者を中心とした「生活の質」を重視した経済社会への転換が進むに伴い、生活者に自らの健康やそれを支える環境に対する価値に重きを置く行動規準(「環境合理性」)が定着することが望まれている。こうした考え方のベースとして、グリーンGDP等、新しい指標の開発が行政、NGO等により積極的に進められている。
▽環境に配慮した生活行動に向けて
環境問題とその対策の流れを「フィードバック機能」に例えるならば、現在はフィードバック機能が有効に働いていないといえる。このため、この機能の中枢を担う行政が、生活行動に起因する環境問題を把握するとともに、それに見合ったレベルの対策が講じられているかを常にチェックし、改善を施すことが必要である(第1図参照)。
<第3章> 途上国のかかえる環境問題にどうかかわるべきか
環境問題は、この四半世紀のうちに地球規模の広がりをみせ、国際的な注目を集めるようになった。持続可能な発展のためには、我が国も取り組むべき課題は多く、同時に地球規模の環境問題を考える場合、途上国が持続可能な発展を続けていくことも重要である。
<第1節> 地球的視野から見た途上国の環境問題
▽環境問題をめぐる国際的議論の推移
人間活動に起因する環境問題、とりわけ地球規模の広がりをみせるものに対処していくには、すべての国が共通の目標に向かって努力をしていかなければならない。しかし、国際的合意の形成は必ずしも容易なものではなく、特に先進国と途上国の環境問題に関する立場の違いが障害となってきた。
(一) 国連人間環境会議(一九七二年)
国連人間環境会議は、一九七二年六月五日からスウェーデンのストックホルムで開催された。当時の社会的背景には、先進工業国の急速な経済発展に伴う環境負荷の急速な増加、開発途上国の貧困が問題となっていた。この会議では、開発が環境汚染や自然破壊を引き起こすことを強調する先進国と、未開発・貧困などが最も重要な人間環境の問題であると主張する開発途上国とが鋭く対立した。
(二) ナイロビ会議(一九八二年)
ナイロビ会議(UNEP管理理事会特別会合)は、一九八二年五月に、ケニヤのナイロビで開催された。会議で採択されたナイロビ宣言では、「環境、開発、人口、資源の間の密接かつ複雑な相互関係等を重視した総合的で、かつ、地域ごとに統一された方策に従うことは、環境的に健全であり、持続的な社会経済の発展を実現させる」、また、「環境に対する脅威は、浪費的な消費形態のほか貧困によっても増大する」と述べている。このようにして、先進国と開発途上国との環境と開発をめぐる議論について、共通の土俵ができた。
(三) 国連環境開発会議(一九九二年)
国連環境開発会議(地球サミット、UNCED)は、一九九二年六月に、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された。この会合では「環境と開発に関するリオ宣言」が、全世界的なパートナーシップを構築し持続可能な開発を実現するための行動原則、環境と開発をめぐって先進国と開発途上国の間で交わされた議論の到達点を集約したものとして採択された。
それまでの対立の論点には、@環境問題の責任論、A開発の権利の問題、B資金、技術移転の問題等があった。
(四) 国連環境開発特別総会(一九九七年)
国連環境開発特別総会は、一九九七年、ニューヨークで開催された。日本はこの場で、政府開発援助の「一九九二年度からの五年間で一兆円を目途として拡充する」という目標を、四割以上の超過をもって達成したことを報告し、我が国の環境協力政策を包括的に取りまとめた「二十一世紀に向けた環境開発支援構想(ISD構想)」の推進を宣言した。
しかし、具体的な環境問題への対策に関しては、一九九七年に開催された京都会議(COP3)、一九九八年に開催されたブエノスアイレス会議(COP4)においても、相変わらず先進国と開発途上国の姿勢の違いが、温暖化問題の取組の障害となっている。このように南北間の議論は前進しているが、数多くの問題が残っており、一歩ずつお互いの立場を理解し、協力して取り組むようになることが必要である。
▽アジア太平洋地域の環境の将来予測
それでは開発途上国の環境問題はどのように見込まれているのか、予測を紹介する。
アジア太平洋地域の人口は既に世界の半分以上を占め、今後も増加は続くと予測されている。人口増加は経済成長ともあいまって、エネルギー消費の増大を導く。この結果、二酸化硫黄等の大気汚染物質や二酸化炭素等の温室効果ガスが、大気中に大量に放出されることになると予測される。
人口増加と経済活動の拡大は、土地利用にも影響し、農地の増加に伴う森林の減少は、ボルネオ島やインドシナ半島の北部で著しいと予想される。このような変化は、生物多様性の減少、温室効果ガスの排出につながり、自然災害の危険が増す恐れもある。
また、途上国の環境問題を論ずるに際し、環境衛生問題への配慮も欠くことはできない。健康のリスクは社会基盤の整備に伴って、伝染性の疾病等からいわゆる現代の病気へ移行する。しかし、途上国では衛生問題の解決をみないまま大気汚染や水質汚濁等の公害が発生している。また、土壌劣化、森林減少等の自然環境破壊の影響は、貧困の増大につながっている。こうした現状が衛生問題への対処をますます後手に回すこともあり、悪循環から抜け出せずにいるという現状がある。
このようにアジア地域の環境問題の予測結果は厳しいものである。そのため、解決に向けて我が国も真摯(しんし)に取り組む必要がある。
<第2節> 途上国における環境問題等の現状とその対策
▽アジア太平洋地域の環境問題の多様性
アジア太平洋地域は、極めて多様な自然環境を有している。これらの地域が抱える環境問題は、土壌の劣化や森林破壊から産業公害や都市環境問題、廃棄物の問題まで、実に多岐にわたる。とりわけ森林破壊は、多くの国で深刻な問題とされている。
一方、アジア太平洋地域の途上国は、人口増大や工業化の進展が急速であるため、発展段階に応じて発生するこれらの環境問題が、短期集中的に発生し、同時並行的に対処することを迫られていると言える。また、人口増大や経済活動の拡大は、森林や海洋等の自然環境劣化の問題にもつながっており、環境問題への取組を一層困難なものにしている。
▽アジア太平洋地域の環境問題の現状
土壌は食料生産を始めとして、人間や動物の生存に必要なものを提供する重要な天然資源である。現状は人間活動に伴う影響や負荷が土壌の回復能力を超えており、劣化が進行している。
アジア太平洋地域の森林は、世界最大規模のマングローブ林を始め、熱帯降雨林、熱帯季節林、温帯林などを擁している。しかし、この地域の森林減少は世界で最も速く、中でも東南アジア地域の島嶼部(とうしょぶ)において、急激な森林減少が見られる。
淡水の存在は、地理、気候などの地域性に大きく依存する。中央アジアでは降水量が少なく蒸発が多いため、利用可能な水資源はそれ程多くない。アジア地域は比較的降水が多いが、降水が雨期に集中する等の事情のため、利用可能な水資源はごく一部となっている。
アジア地域では、都市の急激な発展に伴って、産業活動や交通システムから大量の大気汚染物質が放出されている。品質の悪い燃料や自動車の使用により、二酸化硫黄、窒素酸化物、ばいじん等による大気汚染が進行している。
アジア太平洋地域の海洋環境では、豊富な沿岸地域や地理的な利便性のため大都市が形成されてきた。人口集中は家庭、産業、農業等の排水による汚染を進行させている。
都市部においても、スラム街や不法占拠地に居住する貧困層の大部分は、不十分な水供給、衛生問題、廃棄物問題に苦しんでいる。不法占拠に対しては、行政側も衛生改善等のサービスを提供しにくいため、改善が困難なのが現状である。
また、この地域は、砂漠、草原、森林、湿地帯、山脈、海洋といったあらゆる生態系を含むため、生物多様性は比較的豊富である。しかし、生息域の消失等のため、生物多様性の減少が急速に進んでいる(第3表参照)。
▽日本とアジア地域との関わり
我が国は、大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済社会活動の基盤を、海外からの資源・エネルギー等の輸入に依存しており、特にアジア諸国と深くかかわっている。
枯渇性資源(原油、鉄鉱石等)や再生可能な資源の採取に伴って環境への負荷が懸念されている。
例えば、木材供給について見れば、約八割が外材に依存しており、食料自給率についても供給熱自給率で四一%まで下がるなど海外との貿易に大きく依存している。また、マングローブ林の開墾による生態系への影響など、森林資源や水産資源などの大量の輸入消費により、これを生産する途上国の地域の人々の生活や生態系そのものへ影響を及ぼしていることに注意が必要である。
▽アジア地域の環境対策の現状
アジア地域の国々においては、生活の基盤である環境が破壊されていくのを、何とかくい止めようと地道な努力が重ねられてきた。基本的な枠組みとして、環境保全を位置づける憲法や個別法等の整備と、それを支える組織が整備されている。また、環境に関する計画の策定が行われ、アジェンダ21や環境管理計画制度が、国際機関の支援などのもとに策定されている。環境基準や排出基準に基づく規制的手法が、かなり多くの国で実施されている。しかし、依然解決が困難な環境問題を抱えているため、環境対策の実効性を高めることが、途上国政府に求められる課題である。また、排出賦課金や、ごみ・森林のデポジット制度の導入など、先進諸国における経済的手法などの環境政策を先例として、先進的な施策を導入しているケースもある。
今後とも規制的手法や経済的手法の両方の施策を効果的に組み合わせて、的確に政策として活用していくことが必要である。その他、多くの国で環境アセスメント制度を整備している。
▽アフリカ・中南米地域の環境の現状等
アフリカ地域は、貧困・人口・環境というトリレンマの問題構造の悪循環がある。貧困からの脱出に向けた取組が中心だが、砂漠化の防止に向けた取組などを実施している。
また、中南米地域では、アマゾン地域の生物多様性の喪失など、様々な問題を抱えている。ブラジルでは、アマゾン地域への配慮について憲法で明確にするなど、様々な取組を行っている。
<第3節> 途上国の持続可能な発展に果たす我が国の役割
▽我が国の環境協力等の現状
我が国の途上国への国際協力は、途上国の自立的な取組を促進するという観点から、要請に基づいて行われている。しかし、環境対策に対する途上国の要請の優先度は必ずしも高くない。一方で、近年の援助の考え方は、「要請主義」から「共同形成主義」ともいえる新たな考え方にシフトしつつある。これは、途上国の自助努力を尊重しつつ、援助国側も自らの援助方針を示し、共同して援助計画を策定し、適切な案件を探っていくというものである。
こうした考え方に基づき、政府は、政策対話、政府開発援助や関連機関を活用した環境協力に取り組んでいる。具体的には、無償・有償の資金協力のほか、専門家の派遣、研修員の受け入れ、地域の公害対策計画づくり等のための開発調査などの技術協力等を行っている。
また、地方公共団体、事業者、NGO等も途上国に対して、様々な環境協力に取り組んでいる。
地方公共団体は、四日市市や北九州市等、自らの公害経験を生かして公害対策を中心とした環境協力を進めている。
事業者による途上国の環境保全に関する取組としては、@非営利的活動として、社会的貢献として行われる環境協力のほか、A途上国内での事業活動における環境配慮を通じた、環境保全のための技術移転・環境教育・意識啓発、B環境保全のための事業活動として、エコビジネス(環境関連産業)の技術移転が挙げられる。また、C環境ODAの案件の発掘や実施においても民間事業者が大きな担い手となっている。
NGOの環境協力に関する活動形態は様々な分野にわたり、各種の調査・分析、技術移転、情報の普及・啓発のほか、植林や砂漠化防止のように、環境の回復そのものを活動内容とするものもある。こうした国民参加型の援助を支援する制度として、我が国には「NGO事業補助金」や「草の根無償資金協力」等の制度があり、その取扱いは年々増加している。
▽今後の効果的な環境協力の実現に向けて
地球規模で環境問題が意識されるようになってから、途上国と先進国の間では、環境問題への取組に関して様々な対立が存在した。一九九〇年代に入り、持続可能な開発というキーワードにより、全体として一致点がみえてきているが、温暖化問題など個別の課題で具体的な取組になると、やはり対立が鮮明になる。
途上国側の反発の第一の理由は、環境対策が自国の発展を阻害するものではないかという懸念である。我が国を含む先進国は、環境対策は持続可能な開発の実現という視点から行われることを改めて明確化して、途上国の貧困の解消や発展を抑制するものではなく、むしろ望ましい経済社会を構築するものであることを、具体的な環境協力によって示し、理解を求めるべきである。
途上国の反発の第二の理由は、先進国側の環境負荷にある。先進国自身の大量生産・大量消費・大量廃棄による環境負荷は依然として大きく、持続可能な経済社会とは大きな隔たりがある。我が国も国内的取組を一層進める必要がある。
また、先進国の途上国に対する貿易や投融資による途上国の経済社会に与える影響は大きく、これを通じた環境への影響も大きいと考えられる。今後これらについても、途上国の持続可能な開発の観点から検討され、必要な取組がなされるべきである。
こうした途上国への働きかけや、先進国内での取組は、先進国政府のみで実現できるものではなく、先進国や途上国の中央政府、地方公共団体、民間事業者、NGO、消費者等並びに、国際機関・団体が協力して取り組むことが大切である。
このような、様々な主体がそれぞれの特徴と役割を発揮し、また、相互に連携するという、複線的パートナーシップの構築が、二十一世紀の持続可能な開発の実現に向けて重要であるといえる。
<第4章> 環境の現状
▽地球温暖化
地球温暖化の問題とは、人為的影響により温室効果ガスの濃度が上昇し、地表の温度が上昇する結果、気候、生態系等に大きな影響を及ぼすものである。温室効果ガスの温暖化への寄与度は、CO2が六四%を占めており、CO2の発生源対策が急務となっている。温暖化の兆候は、平均気温の上昇、海面水位の上昇という形で現れており、今後も、気象、生態系等に様々な影響を及ぼす恐れがある。
▽オゾン層の破壊
オゾン層破壊の問題とは、CFC(クロロフルオロカーボン)等が成層圏で分解されて生じる塩素原子等によりオゾン層が破壊され、有害な紫外線の地上への到達量が増加し、人の健康や生態系に悪影響を及ぼすものである。南極上空では、毎年南極の春に当たる時期に、成層圏のオゾン層が著しく少なくなる「オゾンホール」と呼ばれる現象が起きている。一九九八年は、過去最大のオゾンホールが確認された。しかし、南極ではCFC等の大気中濃度の増加率は低下し始めており、CFC等に由来する対流圏中の塩素等の濃度は一九九五年に減少に転じたことが確認されている。
▽酸性雨
酸性雨は、硫黄酸化物や窒素酸化物等の大気汚染物質を取り込んで生じる酸性度の高い雨や雪及び粒子状・ガス状の酸のことである。酸性雨のために、湖沼、河川等が酸性化し水資源開発・利用等や魚類等に影響を与えたり、土壌が酸性化し森林に影響を与えたり、文化財への沈着がその崩壊を招いたりすることが懸念されている。
第三次酸性雨対策調査の取りまとめによれば、我が国でも、森林や湖沼等の被害が報告されている欧米並みの酸性雨が観測されており、酸性雨が今後も降り続けば将来影響が現れる可能性もある。
▽窒素酸化物等大気汚染汚染物質による汚染
我が国の大気汚染は、二酸化硫黄、一酸化窒素については近年は良好な状況であるが、二酸化窒素、浮遊粒子状物質については大都市地域を中心に環境基準の達成状況は低水準で推移している。また、ダイオキシン類のように意図せずに生成され大気中に排出される有害化学物質については、平成八年に改正された大気汚染防止法に基づいて対策が進められている。
▽騒音・振動・悪臭・ヒートアイランド・光害等の生活環境に係る問題
騒音・振動・悪臭は、主に人の感覚にかかわる問題であるため、生活環境を保全するうえでの重要な課題となっている。それぞれの苦情件数は、全体的に年々減少傾向にあるものの、各種公害苦情件数の中では大きな比重を占めており、発生源も多様化している。
この他に、首都圏などの大都市では、地面の大部分がアスファルト等に覆われているため水分の蒸発による温度の低下がなく、夜間に気温が下がらない「ヒートアイランド」と呼ばれる現象や、必要以上の照明により、夜間星が見えにくくなったり、生態系への影響が懸念される「光害(ひかりがい)」と呼ばれる現象が起きている。
▽水質汚濁
水質汚濁に係る環境基準の達成率は、河川については渇水の影響で低下した平成六年から引き続き改善されつつある。しかし、湖沼・内湾などの閉鎖性水域では、依然として達成率は低い状況である。海域については、平成九年度は河口付近海域の水質の低下や局所的な赤潮の発生等もあり、前年度と比べて低下した。
我が国の水質汚濁は、工場、事業場排水に関しては、排水規制の強化等の措置がとられている。一方、生活排水も環境への大きな負荷になっており、住民の意識啓発や実践活動の推進が重要となっている。
▽土壌汚染・地盤沈下
土壌の汚染には、汚染状態が長期にわたる、人の健康に間接的に影響する、一般に局所的で現地ごとに多様な態様を持つ、という特徴がある。農用地の汚染については、汚染の検出面積七千百四十ヘクタールに対して、対策事業の完了面積は五千五百七十ヘクタールであった(平成十年十月末)。市街地土壌の汚染については、近年、工場跡地や研究機関跡地の再開発等に伴い、有害物質の不適切な取扱い、汚染物質の漏洩等による汚染の事例が増えている。
地盤沈下は、地下水取水制限等により、長期的には沈静化に向かっている。平成九年度の年間四センチメートル以上の地盤沈下地域の面積は、昭和四十三年以降、初めてゼロとなった。ただし、一部では依然として沈下が続いている。
▽廃棄物
ごみの排出量の削減や、ごみの再資源化と再利用は、緊急の課題となっている。平成八年度の我が国の一般廃棄物の総排出量(推計値)は、五千五百十万トン(国民一人一日当たり一千百十グラム)、産業廃棄物の総排出量は約四億五百万トンで横ばいの状況が続いている。リサイクルの現状については、市町村による資源化と集団回収を合わせたリサイクル率は、上昇傾向にあるものの、平成八年度は一〇・七%と依然低い水準にある。
▽自然環境
我が国は、国土の九二・五%が自然植生や植林地等、何らかの植生で覆われており、森林は国土の六七・一%を占めている。これは海外と比較しても高い水準である。自然植生は国土の一九・一%であり、このうちの五八・八%が北海道に分布している。近畿、中国、四国、九州地方では、小面積の分布域が山地の上部や半島部、離島等に存在しているに過ぎない。
また、湖沼、河川、海岸等についての自然状況の調査では、いずれも人工化の進行が明らかになった。
▽海外の自然環境
森林は世界の陸地の約四分の一を占め、CO2の吸収、生物多様性の保全等に重要な役割を果たしている。近年の熱帯林の急速な減少は、森林資源の枯渇だけでなく、生息する生物種の減少が懸念されている。また、森林減少による大量のCO2の放出が、地球温暖化を加速させることも懸念されている。また、国連環境計画(UNEP)によると、世界の陸地の四〇%近くを占める六十一億ヘクタール以上の乾燥地で、世界の約五分の一の人々が生活している。そのうち九億ヘクタールがいわゆる砂漠で、残りの五十二億ヘクタールの一部でも人間の活動による砂漠化が進行している。
▽日本の野生生物種
我が国には、気候的、地理的、地形的条件により、亜熱帯から亜寒帯まで広がる多様な生態系が存在する。種の数は、熱帯林を擁する国々と比べると少ないが、先進国、特にヨーロッパ各国と比べると豊かな水準である。しかし、開発による自然環境の改変や都市化、希少な動植物の乱獲・密猟・盗掘等により、多くの種が存続を脅かされるに至っている。
我が国は、緊急に保護を要する動植物の種の選定調査を実施し、『日本の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータブック)』を発行しているが、これによると、我が国に生息する哺乳類、両生類、汽水・淡水魚類の二割強、爬虫類、維管束植物の二割弱、鳥類の一割強の種が存続を脅かされている。
▽生物多様性の保全
今日の種の絶滅は、自然のプロセスではなく人間の活動が原因であり、地球の歴史始まって以来の速さで進行している。このため、種の絶滅は地球環境問題の一つとして捉えられ、「ワシントン条約」「ラムサール条約」等により国際的な取組が行われている。また、地球上の生物の多様性を包括的に保全するための国際条約として、「生物の多様性に関する条約」が締結されている。これを受けて、我が国は生物多様性国家戦略を策定した。この中では、生物多様性の現状を把握し、生物多様性の保全と持続可能な利用のための長期的目標を定めている。
むすび
二十世紀は「大量生産・大量消費・大量廃棄」という言葉で表されることがある。その結果、今や地球的規模で、資源・エネルギーの枯渇や環境への負荷の増大などが人類の存続を脅かしている。その一方で、次の世紀での持続的な発展に向けて、環境の保全を支える新しい息吹や、力強い胎動も起きている。
私たちが二十一世紀を「環境の世紀」として迎えるため、「どうしたら持続的に発展が可能な経済社会が実現できるか」という視点で環境政策が問い直されている。このような時代背景を踏まえ、今年の環境白書では、二十世紀における環境行政の歩みを振り返ることを通じて、持続していく可能性を高めるために環境政策が今後どうあるべきか考えてみた。
我が国の経済社会は、食糧や資源・エネルギーの多くを諸外国からの輸入に頼っており、将来にわたって持続していくためには弱い基盤に立っている。このため、限られた食料や資源・エネルギーの輸入量と国内調達量から最大限の効用を引き出す創意工夫を重ねなければならない。同時に、他国のニーズも満たす付加価値を生み出せるような、地球的視野でみても、資源の効率的な利用を最大限に高め、環境負荷を最小限に抑えた経済社会の在り方を求めなければならない。これが、世界に誇るべき美しい自然環境と豊かな文化を大切にするという意味も含め、我が国が「環境立国」に向かう道なのである。
我が国にとって、二十一世紀は、「環境立国」として国際的な地位を固め、地球全体が持続的に発展していくための役割を果たしていくための極めて重要な世紀である。
一 移動者総数
移動率は昭和二十九年の調査開始以来最低
平成十年の全国における市区町村間の移動者の総数は六百二十七万七千五百十二人で、前年に比べ十四万七千百七十八人(二・三%)減少した。
移動者総数は、我が国の経済が高度成長期にあった昭和三十年代から四十年代半ばにかけて急速に増加し、四十八年には八百五十三万八千八百二十人と最多を記録した。しかし、昭和四十八年の第一次石油危機以降減少に転じ、六十一年までほぼ一貫して減少が続いた。昭和六十二年以降は、六百五十万人前後でほぼ横ばいで推移したが、平成十年は、八年、九年に引き続き減少し、三年連続の減少となった。
また、移動率(当該地域の十月一日現在の日本人人口に対する移動者数の比率。以下同じ。)は五・〇一%と、前年に比べ〇・一三ポイント低下し、平成八年、九年に続き三年連続の低下となり、統計をとり始めた昭和二十九年以来、最も低い値となった(第1図、第1表参照)。
二 都道府県内移動者数及び都道府県間移動者数
都道府県内移動者数は三年連続して減少
移動者総数のうち都道府県内移動者数は三百三十五万四百八十人(五三・四%)で、前年に比べ十三万七千九百四十九人(四・〇%)の減少となった。
都道府県内移動者数の推移をみると、昭和四十九年以降平成三年まではほぼ一貫した減少を続け、四年から七年までは増加が続いたが、八年には再び減少に転じ、九年、十年と三年連続の減少となった。
都道府県内移動率は二・六七%と、前年に比べ〇・一二ポイント低下し、平成八年、九年に続き三年連続の低下となった。この都道府県内移動率は、統計をとり始めた昭和二十九年以来最も低い値であった平成三年及び四年の二・六六%に次ぐ低い値である(第1表参照)。
都道府県間移動率は、昭和二十九年の調査開始以来最低
都道府県間移動者数は二百九十二万七千三十二人(移動者総数の四六・六%)で、前年に比べ九千二百二十九人(〇・三%)の減少となった。
都道府県間移動者数の推移をみると、昭和四十九年から六十年まではほぼ一貫して減少が続き、昭和六十一年から平成二年まではほぼ横ばいで推移したものの、その後、再び減少傾向に転じている。平成八年には三百万人を割り込み、十年も九年に引き続き減少となり、三年連続の減少となった。
都道府県間移動率は二・三四%となり、統計をとり始めた昭和二十九年以来、最も低い値となった(第1表参照)。
三 都道府県別転出入の状況
二十七道府県で転入率が低下
都道府県別に他の都道府県からの転入者数をみると、東京都への転入者が四十四万百四十六人と最も多く、神奈川県(二十五万五千四百八十六人)が二十万人台でこれに続き、次いで埼玉県、大阪府、千葉県、兵庫県、愛知県、福岡県の六府県が十万人台となっている。これら八都府県への転入者数の合計は百六十三万八千一人となり、都道府県間の移動者数の五六・〇%を占めている。
都道府県別に転入率(当該地域の十月一日現在の日本人人口に対する転入者数の比率。以下同じ。)をみると、東京都の三・七八%が最も高く、次いで千葉県が三・一三%、神奈川県が三・〇八%と三%を超えている。そのほか、埼玉県、滋賀県、京都府、宮城県、奈良県、香川県、福岡県、兵庫県が全国平均(二・三四%)を上回っている。
なお、転入率は奈良県、埼玉県、茨城県などの二十七道府県で前年に比べて低下し、五県で横ばい、上昇したのは沖縄県、山形県、滋賀県などの十五都府県となっている(第2表参照)。
二十六道県で転出率が上昇
一方、都道府県別に他の都道府県への転出者数をみると、東京都からの転出者が四十万八千八百二十七人と最も多く、神奈川県(二十三万七千四百八十六人)、大阪府(二十一万六千五百七十九人)が二十万人台でこれに続き、次いで埼玉県、千葉県、愛知県、兵庫県、福岡県の五県が十万人台となっている。これら八都府県からの転出者数の合計は百五十七万九千五百十五人となり、都道府県間移動者数の五四・〇%を占めている。
都道府県別に転出率(当該地域の十月一日現在の日本人人口に対する転出者数の比率。以下同じ。)をみると、東京都の三・五一%が最も高く、次いで千葉県が三・〇一%と三%を超えている。そのほか、神奈川県、埼玉県、京都府、奈良県、長崎県、大阪府、宮城県など十二府県が全国平均(二・三四%)を上回っている。
なお、転出率は神奈川県、東京都などの十五都府県で前年に比べて低下し、六府県で横ばい、上昇したのは宮城県、長野県、鹿児島県などの二十六道県となっている(第2表参照)。
東京都は二年連続で転入超過に
転入者数から転出者数を差し引いた転入超過数を都道府県別にみると、東京都が三万一千三百十九人と最も多く、これに、神奈川県(一万八千人)、兵庫県(一万一千六百五十八人) が続いている。転入超過となった都道府県数は、平成九年には十七都県であったのに対して、十年には十四都県となっている。
なお、東京都は、昭和六十一年以来、転出超過が続いていたが、平成九年には十二年ぶりに転入超過(一万七千二百九十一人)に転じ、十年も引き続き転入超過となった。
また、転入超過率(当該地域の十月一日現在の日本人人口に対する転入超過数の比率。以下同じ。)をみると、滋賀県が〇・四五%で最も高く、これに、東京都(〇・二七%)、神奈川県、兵庫県(共に〇・二二%)、福岡県(〇・一五%)が続いている。転出超過から転入超過に転じた沖縄県を除く転入超過県十三都県について、転入超過率を前年に比べてみると、七都県で上昇し、五県で低下、滋賀県一県で横ばいとなっている。
一方、転出超過となったのは三十三道府県となっており、転出超過数が最も多かったのは大阪府の二万八千四百六十四人で、これに、北海道の九千六百三十二人が続いている。また、転出超過率(当該地域の十月一日現在の日本人人口に対する転出超過数の比率。以下同じ。)は長崎県が〇・四五%と最も高く、これに、大阪府(〇・三三%)、宮崎県(〇・二二%)、青森県、秋田県、島根県、愛媛県(いずれも〇・二〇%)が続いている。転入超過から転出超過に転じた群馬県、長野県、奈良県及び岡山県の四県を除く転出超過県二十九道府県について,転出超過率を前年に比べてみると、十九道府県で上昇し、六府県で低下、山形県、和歌山県、広島県及び高知県の四県で横ばいとなっている(第2表・第3表、第2図参照)。
四 都道府県間移動者(転出者)の主な移動先
東京都を一位の転出先とするのは十八道県
都道府県間移動者(転出者)の主な転出先別割合を都道府県別にみると、東京都への転出が一位となっている県が十八道県で最も多く、東日本に多い。中でも東京都に隣接する埼玉県(同県転出者総数の三五・六%)、神奈川県(同三三・四%)、山梨県(同三一・八%)及び千葉県(同三一・六%)で東京都への転出割合が三〇%を超えており、そのほか、新潟県(同二五・三%)、長野県(同二三・七%)、茨城県(同二三・四%)でも高くなっている。東日本以外の県では、沖縄県、福岡県の二県で東京都への転出が一位となっている。また、東京都が転出先の上位三位以内に入るのは三十四道府県で、全都道府県の約四分の三に達している。
次いで、大阪府への転出が一位となっている県が九府県で、近畿地方、四国地方に多い。中でも和歌山県(同四〇・八%)及び奈良県(同三一・八%)で大阪府への転出割合が三〇%を超えており、次いで兵庫県(同二九・三%)及び京都府(同二一・八%)となっている。
また、福岡県への転出が一位となっている県は前年同様、九州地方の六県で、中でも佐賀県(同四二・五%)の割合が際立って高くなっている(第3図参照)。
そのほか、岐阜県から愛知県へ転出する割合(同四二・一%)が高いのが目立っている。
五 東京圏、名古屋圏、大阪圏の転出入の状況
東京圏は三年連続して転入超過
三大都市圏(東京圏、名古屋圏及び大阪圏)における転出入の状況をみると、東京圏は六万二千四百十三人、名古屋圏は三千四百四十七人の転入超過、大阪圏は一万九千九百十四人の転出超過であった。
東京圏は、昭和二十九年の調査開始以来、転入超過が続いていたが、平成六年、七年と転出超過となり、八年以降再び転入超過となっている。東京圏は三年連続の転入超過となったが、平成八年、九年が転出者数の大幅な減少が転入超過の要因となったのに対し、十年は転入者の増加が直接転入超過の要因となっている。
名古屋圏は、調査開始以来、昭和四十九年までは転入超過、五十年から五十九年は転出超過、六十年以降は平成八年に一時的な転出超過があったが、転入超過が続いている。ただし、昭和五十年以降は転入者数と転出者数がほぼ同数となっている。
大阪圏は、調査開始以来、昭和四十八年までは転入超過が続いたが、四十九年以降は一貫して転出超過が続いている。平成七年には阪神・淡路大震災の影響を受けて一時的に大幅な転出超過となっている(第4図参照)。
六 十三大都市の転出入の状況
東京都特別区部は大幅な転入超過に
十三大都市(東京都特別区部及び十二の政令指定市)のうち、平成十年に転入超過となったのは九都市で、転入超過数は東京都特別区部が二万七百四十四人で最も多く、次いで横浜市(一万七千五十四人)、福岡市(六千百三十六人)の順となっている。
なお、東京都特別区部は昭和三十八年以来、転出超過が続いていたが、平成九年に三十四年ぶりの転入超過(八千四百六十六人)に転じ、十年も引き続き転入超過となった。転入超過数は前年に比べて大幅に増加している。また、東京圏の他の三大都市はいずれも転入超過数が増加している。転入超過率は、横浜市が〇・五一%と最も高く、次いで福岡市(〇・四七%)、川崎市(〇・三七%)の順となっている。
一方、転出超過となったのは四都市で、転出超過数は大阪市が八千四百二十人で最も多く、次いで京都市(三千三百九十二人)、北九州市(三千二百九十四人)の順となっている。転出超過率は、大阪市が〇・三四%と最も高く、次いで北九州市(〇・三三%)、京都市(〇・二四%)の順となっている。このうち大阪市は、平成七年には阪神・淡路大震災に伴い兵庫県からの転入者数が増加したため、三十三年ぶりに転入超過となったが、八年には再び転出超過となり、九年、十年と引き続き転出超過となっている(第4表参照)。
七 兵庫県及び神戸市の転出入の状況
阪神・淡路大震災前の水準に戻った兵庫県の人口移動
平成七年一月に発生した阪神・淡路大震災から四年が経過した。平成六年以降の人口移動の動きを兵庫県についてみると、移動者総数では、兵庫県に係る数は、七年は四十七万六千六百六十八人と震災の影響で前年比一四・八%増と大きく増加したが、八年以降減少を続け、十年は四十万九千七百八十五人となり、震災前の二〜六年の平均(四十万一千九百二人)とほぼ同じ水準となった。
兵庫県の移動者数の全国の移動者総数に占める割合(六・五%)も、平成七年には七・二%と、前年に比べて約一ポイントの上昇をみたが、八年以降は三年連続で六・五%となっており、これも、二〜六年の水準とほぼ同レベルとなっている。
次に、都道府県内移動者数についてみると、平成七年の十八万五千四百四十六人をピークに八年以降減少を続け、十年の兵庫県内移動者は十六万四千五百三十三人となっている。
さらに、都道府県間移動者数についてみると、兵庫県への転入者数は、平成七年は十一万五千七百九十八人で、前年比一二・六%減と大きく減少したものの、八年以降は二〜六年の平均をやや下回る水準で推移しており、十年もほぼ前年と同水準の十二万八千四百五十五人(前年比〇・二%減)となっている。
一方、転出者数は、平成七年に十七万五千四百二十四人で、前年比四三・七%増と大きく増加したが、八年には二〜六年の平均(十二万七百四十六人)の水準にほぼ戻り、九年、十年と減少し、十年は十一万六千七百九十七人となっている(第5表参照)。
転出入を合わせてみると、平成七年には阪神・淡路大震災の影響で大幅な転出超過(五万九千六百二十六人)となったが、その後の復興に伴って、八年には転入超過(四千六百九十四人)に転じ、九年(九千九百七人) に引き続き十年も転入超過(一万一千六百五十八人)となっている。
平成十年の転入超過数は、二〜六年の平均とほぼ同水準となった(第6表参照)。
神戸市は二年連続して転入超過に
神戸市の転出入の状況をみると、平成七年には阪神・淡路大震災の影響で十五年ぶりに大幅な転出超過(四万二百五十四人)となったが、その後の復興に伴って、八年には転出超過数は縮小して三千百二十二人となり、九年には転入超過(四千百二人)に転じ、十年も引き続き転入超過(三千五百二十人)となっている。平成十年の転入者数、転出者数とも二〜六年の平均とほぼ同水準となった(第7表参照)。
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