官報資料版 平成9年9月24日




公害紛争処理白書のあらまし


―公害紛争等の現状と処理―


公害等調整委員会事務局


<はじめに>
 平成九年版「公害紛争処理白書」は、公害等調整委員会が、平成九年八月五日、内閣総理大臣を経由して国会に対し「平成八年度公害等調整委員会年次報告」として報告したものである。同白書は、公害等調整委員会の平成八年度(平成八年四月一日から平成九年三月三十一日まで)の所掌事務(公害紛争の処理に関する事務及び鉱業等に係る土地利用の調整に関する事務)の処理状況をまとめたもので、昭和四十七年に公害等調整委員会が発足して以来、二十五回目のものである。
 平成九年版「公害紛争処理白書」のあらましは、次のとおりである。

公害紛争処理法に基づく事務の処理概要

【公害等調整委員会における公害紛争の処理状況】

 公害等調整委員会(以下「委員会」という。)は、公害紛争処理法(昭和四十五年法律第百八号)の定めるところにより、公害に係る紛争について、あっせん、調停、仲裁及び裁定を行っている。
 平成八年度中に委員会に係属した事件は、新たに申請のあった十件(調停事件四件、裁定事件六件)に前年度から繰り越された十四件(調停事件七件、裁定事件七件)を加えた計二十四件である。
 このうち、平成八年度中に終結した事件は、金属加工工場騒音・振動被害調停申請事件四件であり、残り二十件が九年度に繰り越された。
 なお、公害紛争処理法の施行(昭和四十五年十一月一日)以降、委員会(四十七年六月三十日以前は中央公害審査委員会)に係属した公害紛争事件(あっせん、調停、仲裁、裁定及び義務履行勧告申出)は、七百二十七件であり、そのうち終結したものは七百七件で ある(第1表参照)。
 平成八年度中に委員会に係属した調停事件は、新たに申請のあった四件と前年度から繰り越された七件を加えた計十一件である。このうち、金属加工工場騒音・振動被害調停申請事件四件については調停が成立し、終結した。


 平成八年度中に委員会に係属した事件の概要は次のとおりである。

一 水俣病損害賠償調停申請事件
<事件の概要>
 熊本県から鹿児島県にまたがる不知火海の沿岸の漁民等が、チッソ株式会社水俣工場からの排水に起因した水俣病にかかり、これによって精神上、健康上の被害及び財産上の損害を被ったとして、チッソ株式会社を相手方(被申請人)として、賠償金の支払等を内容とする調停を求めたものである。
 現在の調停手続では、患者グループとチッソ株式会社との間の補償協定で水俣病患者の症状等に応じて定められたA、B、Cの三ランクのいずれに該当するかの判定を委員会に求めることとした患者について、ランク付けを行い、各ランクに応じて個々人の補償額等の決定、家族の補償等を中心とした調停を行っている。
<事件処理の経過>
 昭和四十八年四月の最初の調停以来、平成八年度末までに一千四百五十八人について調停を成立させてきた。なお、六年度ないし八年度には、調停申請を受け付けていない(第2表参照)。
 また、調停の成立した患者のうち、Bランク及びCランクの生存者の場合には、調停条項の中に、将来、申請人の症状に慰藉料等の金額の増額を相当とするような変化が生じたときは、これを理由として、調停委員会に対し、当該金額の変更を申請することができるものとする旨の条項があり、これに基づいてなされた慰藉料額等の変更申請を、平成八年度末までに四百八十六件受け付け、四百八十件を処理した(第3表参照)。

二 液体洗剤水質汚濁被害等調停申請事件
<事件の概要>
 平成五年三月二十三日、静岡県、長野県及び東京都の住民十七人から、プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インクを相手方(被申請人)として、静岡県公害審査会に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は、次のとおりである。
 被申請人会社は、同社製造の液体ミューズに自社基準を上回る雑菌が発見されたとして、全国の小売店や病院などから未使用の液体ミューズを自主回収したものの、消費者に渡った開封後の液体ミューズに関しては、各家庭での処分という形で消費者に処分方法を委ねたため、各家庭では同製品を下水に流したり、地面に穴を掘って捨てたり、あるいはゴミの回収に出したりと、個別に処理することを余儀なくされた。
 その結果、地下水や河川の汚染、土壌汚染が懸念され、また、一般ゴミとして廃棄された場合には、各自治体の廃棄物処分場が汚染されるおそれがあり、処理の過程でダイオキシンが発生する危険性も否定できず、大気汚染を引き起こす可能性も極めて高く、人体や環境への影響が憂慮される。
 これらを理由として、被申請人会社に対し、@全製品を回収すること、A既に回収された製品に関しては(今後回収される製品も含めて)水質汚濁等環境破壊を引き起こさない形で処分すること、B雑菌が混入した経緯等の詳細な報告と資料の提出を行うことを求めるというものである。
<事件処理の経過>
 本事件は、いわゆる県際事件であり、静岡県公害審査会から通知を受けた静岡県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、関係都県知事(東京都知事、長野県知事及び兵庫県知事)と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成五年七月七日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を委員会に送付した。
 委員会は、平成五年七月九日、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに本事件の調停委員会を設け、これまで十二回の調停期日を開催するなど鋭意手続を進めている。

三 豊島産業廃棄物水質汚濁被害等調停申請事件(三件)
<事件の概要>
 平成五年十一月十一日、香川県小豆郡土庄町豊島在住の住民四百三十八人から、廃棄物処理業者、廃棄物排出業者及び香川県ら計二十七名を相手方(被申請人)として、公害紛争処理法第二十七条第一項の規定に基づき、香川県知事に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は、被申請人らが共同して、産業廃棄物の違法な処理等を行ったため、有害物質を含有している膨大な量の産業廃棄物が放置され、その結果、申請人らに生活上、健康上及び精神上の被害等が生じていることを理由として、被申請人らに対し、@共同して香川県小豆郡土庄町豊島家浦字水ケ浦三一五一番地の一外四十九筆の土地(面積約二八・五ヘクタール)に存在する一切の産業廃棄物を撤去すること、A連帯して、申請人各自に対し金五十万円を支払うことを求めるというものである。
 その後、平成五年十一月十五日、同一原因による被害を主張する豊島の住民百十一人から同趣旨の調停を求める参加の申立てがあり、調停委員会は、平成六年一月二十四日、これを許可した。
 また、平成八年十月二十三日、平成五年の申請人五人から国(代表者厚生大臣)を相手方(被申請人)として、委員会に対し調停を求める申請があった。
<事件処理の経過>
 本事件は、産業廃棄物の処理を委託した被申請人会社等の事業所の所在地が福井県、大阪府、兵庫県、鳥取県、岡山県、愛媛県、香川県に及ぶことから、いわゆる県際事件であり、香川県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、前記関係府県知事と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成五年十二月二十日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を委員会に送付した。
 委員会は、平成五年十二月二十一日、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに本事件の調停委員会を設け、これまで現地調停を含む十六回の調停期日を開催した。
 その過程で、産業廃棄物の実態についての認識の食い違いのため、当事者の主張に大きな隔たりがあることが判明したことから、調停委員会は、第四回調停期日において、三名の専門委員を選任して産業廃棄物不法投棄地の実態調査を行い、その結果に基づいて調停を進めることとした。
 実態調査は平成六年十二月十三日から七年三月末まで行われ、その結果を踏まえて、専門委員において科学的・技術的知見に基づいた産業廃棄物の撤去及び環境保全に必要な措置並びにこれらに必要な費用の検討が行われた。
 その後、前記調査検討結果を当事者に示した上で、各々の主張を聴取するなどした結果、第十四回調停期日において、香川県が、自らが主体となって処分地に存する廃棄物及び汚染土壌について、無害化するための中間処理を施す方向で検討する旨の意向を示し、申請人もこれを受け入れたため、現在、更に細部について合意を図るべく鋭意手続を進めている。

四 金属加工工場騒音・振動被害調停申請事件(四件)
<事件の概要>
 平成六年一月十八日、東京都足立区の住民六人から、埼玉県川口市の鍛造事業者二社を相手方(被申請人)として、公害紛争処理法第二十七条第一項の規定に基づき、東京都知事に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は、被申請人の工場から発生する騒音・振動により被害が生じ、生活権が侵害されていることを理由として、被申請人に対し、申請人が居住する第二種住居専用地域に適用される規制基準を超える騒音・振動を規制することを求めるというものである。
 その後、平成六年四月二十六日、同一原因による被害を主張する東京都の住民三人から参加の申立てがあり、調停委員会は同年五月十六日、これを許可した。
<事件処理の経過>
 本事件は、いわゆる県際事件であり、東京都知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、関係県知事(埼玉県知事)と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成六年二月二十四日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を委員会に送付した。
 委員会は、平成六年二月二十五日、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに本事件の調停委員会を設け、振動測定や当事者双方からの意見の聴取、四回の調停期日の開催など合意形成に向け手続を進め、平成八年六月十二日には、各被申請人に係る手続を分離した。そして、一社については、同年六月二十六日に、また、他の一社については、同年十一月二十一日に、いずれも被申請人会社が防振装置を設置すること等を内容とする調停がそれぞれ成立し、本事件は終結した。

五 中海本庄工区干陸事業水質汚濁被害等調停申請事件(二件)
<事件の概要>
 平成七年八月九日、島根県及び鳥取県の住民三十五人から、国(代表者農林水産大臣)を相手方(被申請人)として、島根県知事に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は、被申請人国に対し、@国が計画している中海干陸事業が実施された場合、災害、水質汚濁及び生態系の破壊を招くおそれがあるので全面干陸を行わないこと、A水質及び生態系の回復を目指し、森山堤防及び大海崎堤防の一部を早期に開削するなど、必要な措置を講ずることを求めるというものである。
 その後、平成八年一月十九日、同一原因による被害を主張する島根県の住民一人から参加の申立てがあり、調停委員会は同日これを許可した。
<事件処理の経過>
 本事件は、いわゆる県際事件であり、島根県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、関係県知事(鳥取県知事)と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成七年九月五日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を委員会に送付した。
 委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに本事件の調停委員会を設け、五回の調停期日を開催するなど鋭意手続を進めてきた。その後、本件事業について平成九年度から二年間農林水産省において調査研究を行い、工事の再開についてはその結果に基づいて判断することとなったことから、その間は、必要に応じて両当事者との連絡をとることにとどめ、手続はその調査結果を待って進めることとなった。

六 松枯れ対策農薬空中散布大気汚染被害等調停申請事件
<事件の概要>
 平成八年五月二十七日、島根県及び山口県の住民三人から、島根県益田市、島根県、山口県田万川町、山口県及び農林水産省を相手方(被申請人)として、公害紛争処理法第二十七条第一項の規定に基づき、島根県知事に対し調停を求める申請があった。
 申請の内容は、被申請人益田市と田万川町が松枯れ対策事業として農薬の空中散布を行うことにより、散布区域及び周辺の広範な区域の大気、水及び土壌が汚染され、健康被害が生じていることを理由として、被申請人益田市及び田万川町に対し、@農薬の空中散布を行わないこと、A松枯れ対策として農薬空中散布以外の方法を選択すること及び、被申請人島根県及び山口県に対し、それぞれ益田市及び田万川町に対し、農薬空中散布の中止及び農薬空中散布以外の方法の選択を指導すること並びに、被申請人農林水産省に対し、@島根県及び山口県に農薬空中散布の中止及び農薬空中散布以外の方法の選択を指導すること、A農薬空中散布において使用している農薬の安全性を科学的に立証すること、B「松くい虫被害対策特別措置法」の有効期間を延長しないことをそれぞれ求めるというものである。
<事件処理の経過>
 本事件は、いわゆる県際事件であり、島根県知事は、公害紛争処理法第二十七条第三項の規定により、関係県知事(山口県知事)と連合審査会の設置について協議したが、協議が整わなかったため、平成八年八月二十日、同条第五項の規定により、本事件の関係書類を委員会に送付した。
 委員会は、本事件の関係書類の送付を受けた後、直ちに本事件の調停委員会を設け、二回の調停期日を開催したほか、期日外の打ち合わせを多数回開いて、農薬空中散布の方法等に関し、当事者双方の主張を聴取するなどして、鋭意手続を進めている。


 平成八年度中に委員会に係属した裁定事件は、新たに申請のあった六件と、前年度から繰り越された七件を加えた計十三件である。
 その概要は次のとおりである。

一 小田急線騒音被害等責任裁定申請事件(十一件)
<事件の概要>
 平成四年五月七日、東京都世田谷区の住民三百二十五人から、小田急電鉄株式会社を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は、被申請人は、小田急小田原線において鉄道事業を営むものであるが、昭和三十二年頃から、車両のスピードアップ、増発、営業時間の延長などにより、騒音、振動及び鉄粉じんによる被害を沿線住民に及ぼしてきているため、申請人らは睡眠を妨げられ、日常生活における会話や電話、テレビ・ラジオ等の聞き取りにも不自由し、不快感、不安感(いらいら)等を感じるほか、屋根瓦のずれ等の物的被害も生じており、これらは受忍限度の範囲を超えた違法なものであることを理由として、被申請人に対し、申請人一人につき、@平成元年五月八日(本裁定申請日の三年前)より四年五月七日(本裁定申請日)までの損害に対する賠償として、金五十万円及びこれに対する裁定申請書送達の日の翌日から支払完済の日まで年五%の割合による遅延損害金の支払、A四年五月八日(本裁定申請日の翌日)から本件公害による被害が解消されるまで、一日当たり金五百円の割合による金員の支払を求めるというものである。
 その後、平成四年七月以降、同様の被害を主張する小田急小田原線沿線住民から、十回にわたり計三十八人の参加申立てがあり、裁定委員会はこれまでに、三十四名の参加を許可し、残る四名の申立てについて検討している。なお、平成九年三月末までの間に、計三十八人の申請人から申請の取下げがあり、現在の申請人・参加者は三百二十一人となっている。
<事件処理の経過>
 委員会は、本責任裁定申請を受け付けた後、直ちに本事件の裁定委員会を設け、二十三回の審問期日及び二回の証拠調期日を開催した。その間、裁定委員会は、申請人居宅等について平成六年五月に騒音測定を、七年五月に振動測定をそれぞれ実施するとともに、六年十一月には騒音に関する専門委員を、七年三月には振動に関する専門委員を選任して、それぞれの専門分野について意見を求めるなど、鋭意手続を進めている。

二 飯塚市廃棄物悪臭被害責任裁定申請事件
<事件の概要>
 平成八年四月二十四日、福岡県飯塚市の住民五人から、飯塚市を相手方(被申請人)として、責任裁定を求める申請があった。
 申請の内容は、被申請人が、昭和四十五年ごろから平成四年までの間に、同市大字目尾一一六一番地外二十筆等の土地に投棄したし尿汚泥等による悪臭の発生により、申請人らは、日夜悪臭に悩まされ、終日窓を閉めた生活を余儀なくされる等の被害を被ったことを理由として、被申請人に対し、申請人一人につき金三百六十万円の損害賠償を求めるというものである。
<事件処理の経過>
 委員会は、本責任裁定申請を受け付けた後、直ちに本事件の裁定委員会を設け、三回の審問期日を開催するなど鋭意手続を進めている。

三 飯塚市し尿処理場等悪臭被害原因裁定申請事件
<事件の概要>
 平成八年四月二十四日、福岡県飯塚市の住民四人から、飯塚市を相手方(被申請人)として、原因裁定を求める申請があった。
 申請の内容は、被申請人が設置管理するし尿処理場及びそれに隣接する下水道終末処理場から発生する悪臭により、申請人らは、終日窓を閉めた生活を余儀なくされる、外に出ると「つん」と鼻をつき目を刺激して涙が出る、子供たちを外で遊ばせることができない等の生活上の被害を被っているが、被申請人が悪臭の発生を否定していることを理由として、被申請人によるし尿処理場及びそれに隣接する下水道終末処理場の設置管理とこれらの被害との間に因果関係があるとの原因裁定を求めるというものである。
<事件処理の経過>
 委員会は、本事件の原因裁定申請を受け付けた後、直ちに本事件の裁定委員会を設け、三回の審問期日を開催するなど鋭意手続を進めている。

【都道府県公害審査会等における公害紛争の処理状況】

 都道府県に設置されている都道府県公害審査会等(平成九年三月末現在で、公害審査会を置いているのは三十八都道府県、公害審査委員候補者を委嘱しているのは九県である。以下「審査会等」という。)において、公害に係る紛争について、あっせん、調停及び仲裁を行っている。
 公害紛争処理法施行以降、審査会等に係属した公害紛争事件は、七百七十一件であり、そのうち終結したものは七百十件である。平成八年度には四十二件の事件を新たに受け付け、これと前年度からの繰越しとを合わせた九十三件の事件が係属した。このうち三十二件が同年度中に終結し、六十一件が九年度に繰り越された(第4表参照)。
 近年の事件の特徴としては、次の点が挙げられる。
@ 環境基本法第二条に定める公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下及び悪臭をいう。以下「典型七公害」という。)のみでなく、日照阻害、通風阻害、景観等を併せて主張する傾向が強くなり、それらを含めた紛争の一体的、総合的な解決を求める事件が目立っている。
A 申請人数の多い大型事件が増加している。
B 将来発生するおそれのある被害の未然防止を求める事件が多くなってきている。
C 加害行為とされる事業活動は、件数の多いものから、廃棄物・下水等処理関係、製造・加工関係、交通・運輸関係、建築・土木関係等となっており、発生源の変化・多様化の傾向が著しい。
D 国、地方公共団体、公団等が発生源側の当事者に含まれる事件が増加している。


 平成八年度中に新たに受け付けた四十二件について、典型七公害の種類別にみると、騒音に関するものが二十八件、大気汚染に関するものが二十二件、振動に関するものが十七件、悪臭に関するものが十六件、水質汚濁に関するものが十四件、土壌汚染に関するものが八件、地盤沈下に関するものが二件となっている(重複集計)。
 また、加害行為とされる事業活動の種類をみると、廃棄物・下水等処理関係が十三件、製造・加工関係が七件、交通・運輸関係(道路建設に係るものを含む。)が五件、建築・土木関係が四件、精錬・採石関係が一件、その他が十二件となっている。


 平成八年度中に終結した三十二件の内訳は、調停が成立したものが九件、調停を打ち切ったものが二十一件、調停申請を取り下げたものが一件、その他(調停申請却下)が一件である。
 また、申請受付から終結までの期間をみると、三か月以内に終結したものが一件、三か月を超え六か月以内に終結したものが二件、六か月を超え一年以内に終結したものが十五件、一年を超え一年六か月以内に終結したものが七件、一年六か月を超え二年以内に終結したものが一件、二年を超えているものが六件となっており、約四分の三が一年六か月以内に終結している。
 なお、制度発足以来の全事件の平均処理期間は、一五・七か月である。
 平成八年度において調停が成立した事件のうち、幾つかの概要を以下に示す。

一 東京都平成八年(調)第二号事件
<申請の概要>
 東京都の住民二人から、平成八年一月、東京都公害審査会に対して、建設会社を相手方(被申請人)として、
@ 午前八時以前及び午後五時以降は材料置場での土木作業を行わないこと
A パワーショベルを低騒音の機器に切り替え、振動が発生しないよう作業上の工夫又は作業員の指導を徹底すること
B 前記@及びAの措置が不可能な場合は、材料置場を移転すること
を求める調停申請がなされた。
<申請の理由>
 被申請人の行う土木作業から発生する騒音、振動により、感覚的・心理的被害を受けており、生活費を得るための執筆活動が、振動により中断を余儀なくされるなどの影響を受けている。
<調停の内容>
 調停委員会は、申請受付以来、現地調査及び五回の調停期日の開催等、調停成立に向け手続を進めた。その結果、平成八年九月、次のような内容の合意が成立した。
 被申請人は、
@ 残土等の搬出入時及び動力ショベル稼動時には、極力、騒音及び振動を発生させないように作業を行うこと
A 平日の午前八時以前及び午後六時以降は、作業を行わないように努め、日曜日及び祝日の作業は原則として行わないこと
B 一日当たり通算四時間を超える作業を行うときは、申請人に文書で予告すること
C 前記@及びAの事項について、従業員及び材料置場を使用する業者に周知徹底し、遵守させること
D 材料置場をなるべく早期に移転するよう努めること
E 当事者双方は、A市立会いの下に、本調停条項遵守の状況等の報告、確認、協議等のための会合を年二回開くこと

二 大阪府平成六年(調)第四号事件
<申請の概要>
 大阪府の住民四十四人から、平成六年十月、大阪府公害審査会に対して、ごみ焼却施設の設置団体であるA組合及びその組合の構成団体であるB市を相手方(被申請人)として、申請人の住所地の周辺地域にごみ処理施設を建設しないことを求める調停申請がなされた。
<申請の理由>
 被申請人が建設計画中のごみ処理施設が操業した場合、窒素酸化物、硫黄酸化物、ばいじん及びダイオキシン等の有害物質が排出され、申請人に健康被害が生じるおそれがある。また、ごみ処理運搬車両による交通事故の増加、開発に伴う周辺の自然環境の悪化等のおそれがある。
<調停の内容>
 調停委員会は、申請受付以来、現地調査及び十五回の調停期日の開催等、調停成立に向け手続を進めた。その結果、平成八年十二月、申請人と被申請人は、C清掃工場の稼動に関し、次のような内容の公害防止協定を締結する内容の合意が成立した。
@ 本協定は、本件公害調停に係るC清掃工場稼動に関し、公害の発生を防止し、地域住民の生活環境の保全を図ることを目的とする。
A 次期清掃工場の建設計画に当たっては、B市以外の地域で検討する。
B A組合及びB市は、ごみの資源化と減量化を図るため、循環型社会構築に向けて積極的に取り組む。
C A組合及びB市は、市道D線及び市道E線を、F町会周辺のごみ収集のために通行する以外、C清掃工場へのごみの搬入ルートとして使用しない。
D A組合は、公害の発生を防止するため、汚染物質の排出量について、次の基準値を設定する。




E A組合は、前項の基準値を遵守するため、あらゆる措置を講ずる。
F A組合は、公害防止設備の故障、破損、その他の事故により、基準値を遵守できない恐れが生じたときは、補修及び設備改善を行い、速やかに適正な措置を講ずる。




H A組合は、C清掃工場稼動後、定期的にDの汚染物質排出量の測定を行う。
I A組合は、C清掃工場稼動前一年及び稼動後一年の二年間において、次の場外大気質測定を行う。
  ただし、稼動前一年の測定結果によって、稼動後一年の測定頻度について協議する。
 ア 申請人の指定する一箇所において行うものとする。
 イ 場外大気質測定項目は、風向・風速・HCl・NO・NO2・ダイオキシンとする。
 ウ 測定頻度は、風向・風速・HCl・NO・NO2は、四季(一週間/季)とし、ダイオキシンは年一回とする。
J 申請人の代表者又は指定者は、C清掃工場に対し、同工場の稼動に支障のないかぎり、A組合及びB市立会いの下に立入調査することができる。ただし、A組合は危険防止のための措置並びに指図をすることができる。
K A組合は、本協定に基づいて測定した資料を申請人に公開する。また、申請人から要求がある場合は、操業に関する資料(汚染物質量の自動測定の結果を含む。)についても同様とする。
L A組合及びB市は、申請人からC清掃工場に関し協議の申入れを行ったときは、誠実にこれに応じる。
M この協定に定めのない事項が生じたときは、A組合、B市、申請人が協議の上、定める。

【地方公共団体における公害苦情の処理状況】

 公害紛争処理法は、地方公共団体が関係行政機関と協力して、公害に関する苦情の適切な処理に努めるべきことを規定している。また、都道府県及び市区町村に公害苦情相談員を置くことができることとしている。
 公害苦情相談員は、公害に関する苦情について、住民の相談に応じ、その処理のために必要な調査を行うとともに、関係行政機関と連絡を取り合って、当事者に対し改善措置の指導、助言を行うなど、苦情の受付から解決に至るまでの一貫した処理に当たっている。
 なお、地方公共団体が行う公害に関する苦情の処理については、公害苦情の適切妥当な処理が公害紛争全体の解決にとって不可欠であることにより、委員会が指導等を行うこととされている。
 平成七年度の地方公共団体の公害苦情相談窓口における公害に関する苦情の動向及びその処理状況は、次のとおりである。


 ―公害苦情件数は減少―
 平成七年度に全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口が受け付けた(新規に受け付けたもの及び他の機関等から移送されたもの)公害苦情件数は、六万一千三百六十四件で、前年度に比べて五千百九十二件減少した(第5表参照)。
 公害苦情件数を、典型七公害に係るものと、典型七公害以外に係るものとに分けてみると、平成七年度の典型七公害に係る苦情は四万二千七百一件、また、典型七公害以外に係る苦情は一万八千六百六十三件となっている。
 なお、典型七公害に係る苦情件数の推移をみると、昭和四十七年度の七万九千七百二十七件をピークにして、減少傾向を示しながら、五十四年度から六十三年度までは五万件台で推移していたが、平成元年度に五万件を割り、五年度においては約四万三千件まで減少、六年度には四万五千件台と増加に転じていたものの、七年度は四万二千件台まで再度減少している(第6表参照)。


 ―騒音苦情が最も多い―
 典型七公害の苦情件数を公害の種類別にみると、平成七年度は騒音が一万三千四百九十二件(典型七公害苦情件数の三一・六%)と最も多く、次いで悪臭が一万百三十一件(同二三・七%)、大気汚染が一万十三件(同二三・四%)、水質汚濁が六千七百六十三件(同一五・八%)、振動が二千六十件(同四・八%)、土壌汚染が二百十三件(同〇・五%)、地盤沈下が二十九件(同〇・一%)となっており、前年度に比べると、振動及び土壌汚染に係る苦情は増加したが、それ以外に係る苦情は減少した(第7表参照)。
 次に、典型七公害以外の苦情件数を公害の種類別にみると、平成七年度は、廃棄物の不法投棄に関するものが四千六十五件(典型七公害以外の苦情件数の二一・八%)と最も多く、次いで害虫等の発生が二千七百四十九件(同一四・七%)などとなっている(第8表参照)。


 ―製造事業所が最も多い―
 典型七公害に係る苦情件数を発生源別にみると、平成七年度は、製造業が九千三百五十八件(典型七公害の苦情件数の二一・九%)と最も多く、次いで建設業が八千二百九十二件(同一九・四%)、サービス業が五千二百九十三件(同一二・四%)、卸売・小売業、飲食店が四千二十八件(同九・四%)、家庭生活が三千四百五十六件(同八・一%)などとなっている(第9表参照)。


 平成七年度において、全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口が取り扱った苦情件数(六年度以前に受け付けたが、処理されず七年度に繰り越されたものを含む。ただし、他の機関へ移送したものを除く。以下「公害苦情処理取扱件数」という。)は、六万七千三百三十五件である。
 平成七年度の公害苦情処理取扱件数六万七千三百三十五件のうち、公害苦情相談窓口において直接処理した件数(以下「直接処理件数」という。)は、五万六千三百七十三件であり、その割合は八三・七%となっている。
 直接処理件数を、苦情の申立てから処理までに要した期間別にみると、「一週間以内」が三万六百三十三件(直接処理件数の五四・三%)と最も多く、次いで「一か月以内」が七千八百四十七件(同一三・九%)、「三か月以内」が五千五百八十五件(同九・九%)、「六か月以内」が五千二百八十八件(同九・四%)、「一年以内」が二千五百四十六件(同四・五%)、「一年超」が一千四百三十八件(同二・六%)となっており、一か月以内に約七割が処理されている(第10表参照)。
 また、直接処理件数から、典型七公害以外の苦情で、かつ公害主管課(保健所を含む。)以外で処理された苦情件数等一千八十九件を除いた苦情件数(以下「公害主管課等処理件数」という。)を苦情の処理結果に対する申立人の満足度の状況別にみると、「一応満足」が一万八千七百九十件(公害主管課等処理件数の三四・〇%)と最も多く、次いで「満足」が九千七百七十三件(同一七・七%)、「あきらめ」が三千三百三十件(同六・〇%)、「不満」が一千八百九十九件(同三・四%)となっており、このうち「満足」と「一応満足」を合わせると五一・七%となっている(第11表参照)。


 地方公共団体において公害苦情の処理に関する事務に従事している職員は、平成七年度末で、一万二千八百九十人であり、このうち、二千七百二十一人(二一・一%)が公害紛争処理法第四十九条第二項に定める公害苦情相談員である。

【地方公共団体に対する指導等】


 委員会及び審査会等は、公害紛争処理法によって定められた管轄に従い、それぞれ独立して紛争の処理に当たっているが、紛争の円滑な処理のためには、委員会及び審査会等が相互の情報交換・連絡協議に努めることが必要である。
 このため、委員会は、平成八年度においても、第二十六回公害紛争処理連絡協議会等の会議を開催し、また、参考となる情報・資料の提供を行った。


 公害紛争処理法では、公害苦情の処理は地方公共団体の責務とされ、また、委員会は地方公共団体が行う公害に関する苦情の処理について指導等を行うこととされている。
 このため、委員会は平成八年度においても公害苦情処理に関する指導等を行うため、第二十四回公害苦情相談研究会等の会議の開催、公害苦情調査結果報告書の作成等により、参考となる情報・資料の提供等を行った。

鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律等に基づく事務の処理概要

 委員会は、鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律(昭和二十五年法律第二百九十二号)、鉱業法(昭和二十五年法律第二百八十九号)、採石法(昭和二十五年法律第二百九十一号)等の定めるところにより、鉱区禁止地域の指定、鉱業権設定の許可処分、岩石採取計画の認可処分等に関する不服の裁定を行うとともに、土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)に基づく建設大臣に対する意見の申出等の事務を行っている。


 本制度は、各大臣又は都道府県知事の請求に基づき、委員会が、通商産業大臣の意見を聞き、公聴会を開いて一般の意見を求め、利害関係人を審問した上で、請求地域において鉱物を掘採することが一般公益又は農業、林業その他の産業と対比して適当でないと認めるときは、当該地域を鉱区禁止地域として指定し、また、同様の手続によりその指定を解除する制度である。
 平成八年度中に委員会に係属した事件は五件であり、そのうち一件について鉱区禁止地域の指定をし、残り四件については九年度に繰り越された。
 なお、本制度が施行された昭和二十六年一月から平成八年度末までに指定した鉱区禁止地域は、二百三十六地域、総面積六十五万四千七百三ヘクタールとなっている。これらの地域を指定理由別にみると、ダム及び貯水池の保全を理由とするものが百四十五地域と最も多い(第1図参照)。


 鉱業法、採石法、砂利採取法等の規定による不服の裁定については、鉱業、採石業又は砂利採取業と一般公益又は農業、林業その他の産業との調整を図るため、鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律の定めるところにより、専ら委員会が準司法的な手続で行うこととなっている。
 平成八年度中に委員会に係属した事件は、新たに申請があった一件と前年度未済であった六件の計七件であり、そのうち終結したものは、五件であり、残り二件は、九年度に繰り越された。
 なお、本制度が施行された昭和二十六年一月から平成八年度末までに委員会が受け付けた裁定事件は百十件であり、そのうち処理済みのものは、百八件である。これを関係法律別にみると、採石法関係(三十三件)が最も多く、鉱業法関係(三十一件)がこれに次いでいる。


 土地収用法に規定する事業認定、収用裁決等の処分に対する不服申立て等に関し、主務大臣は、裁決等を行うに際し、あらかじめ委員会の意見を聞かなければならないこととなっている。
 平成八年度中に委員会に係属した事案は、新たに意見を求められた五件と前年度未済であった三件の計八件であり、すべて土地収用法の規定によるものである。
 これらの事案のうち、平成八年度中に三件について意見を申し出て、一件は取り下げられ、残り四件については九年度に繰り越された。
 なお、本制度が施行された昭和二十六年十二月以降、平成八年度末までに、土地収用法に基づく建設大臣に対する意見の申出は、四百八十二件となっており、その内訳は収用委員会の裁決を不服とするもの四百十五件、事業認定を不服とするもの六十七件(処分庁が都道府県知事であるもの十八件、建設大臣であるもの四十九件)となっている。
 また、その他のものとしては、森林法に基づく農林水産大臣に対する意見の申出が二件、鉱業法に基づく鉱業権に係る承認が一件、採石法に基づく採石権に係る承認が四件となっている。









目次へ戻る

消費支出(全世帯)は実質四・七%の減少


―平成九年六月分家計収支―


総 務 庁


◇全世帯の家計

 全世帯の消費支出は、平成八年十二月、九年一月と二か月連続して実質減少となった後、二月は実質増加となり、三月は消費税率引上げを控えた駆け込み需要もあって大幅な実質増加となった。四月は前月の反動による需要の低下がみられたこともあって実質減少となり、五月、六月も引き続き実質減少となった(第1図第2図第1表参照)。

◇勤労者世帯の家計

 勤労者世帯の実収入は、平成八年七月以来十一か月ぶりの実質減少
 消費支出は、平成九年一月以降三か月連続の実質増加となったが、四月以降三か月連続の実質減少(第1図第2表参照




◇勤労者以外の世帯の家計

 勤労者以外の世帯の消費支出は二十七万七千九百二十六円で、名目〇・四%、実質二・六%の減少

◇財・サービス区分別の消費支出

財(商品)は実質七・一%の減少
 <耐久財>実質三一・〇%の減少
 <半耐久財>実質八・四%の減少
 <非耐久財>実質二・一%の減少
サービスは実質二・三%の減少

 就業構造基本調査
  〜統計で 働く姿を 見つめよう〜

 就業構造基本調査は、国民の就業および不就業の状態を調査し、全国および地域別の就業構造に関する基礎資料を得ることを目的に実施するものです。昭和三十一年から実施され、平成九年十月一日に十三回目の調査が実施されます。
 この調査は、@就業・不就業に関する全国・地域別の基本的な統計を作成する、A縁辺労働者の実態を明らかにする、B就業異動の実態を明らかにする、C就業の地域構造と常住地移動との関係を明らかにすることを基本的なねらいとしています。
 今回の調査では、近年の経済・社会情勢を踏まえ、従来から作成してきた基本的な統計に加え、高齢者や女子の就業・不就業および就業異動に関する集計の充実を図ることとしています。
 調査は、都道府県知事から任命された調査員が調査世帯ごとに調査票を配り、後日集める方法によって行います。
 調査対象は、全国から抽出された約四十三万世帯に住んでいる十五歳以上の世帯員です。
 調査結果は、中長期にわたる経済計画、雇用基本計画の策定、国民経済計算における国民所得推計の基礎資料、経済白書、労働白書などにおける就業構造の現状分析などに利用されます。
 今回の調査結果は、平成十年九月までに公表され、その後、順次報告書が刊行されます。
 調査世帯に選ばれた十五歳以上の方のご協力をお願いします。(総務庁)







 
    <10月1日号の主な予定>
 
 ▽都道府県・政令指定都市の
  広報広聴活動の実態調査…………自 治 省 

 ▽統計からみた我が国の
  高齢者………………………………総 務 庁 
 



目次へ戻る