▽消費者物価指数の動向(八月)……………総 務 省
平成15年度版
第1章 世界経済をめぐる主な動向
第1節 世界経済の現状
1 世界の実質経済成長率の推移
一九九〇年代以降の世界経済をみると、東アジアは高い経済成長を維持してきている。アジア通貨危機でASEAN及びNIEsはマイナス成長に陥ったものの、翌年にはプラス成長に回復した。この時期の世界経済を支えたのは堅調な米国、欧州経済で、特に米国経済は一九九二年以降、プラス成長が続き、旺盛な輸入によってNIEs、ASEANをはじめとする国・地域の輸出を支えてきた。しかし、その米国経済も二〇〇一年は失速し、二〇〇二年は緩やかな回復をみせたものの、秋以降、イラク情勢が緊迫する中で先行き不透明感から回復力が弱まった。欧州経済も、二〇〇一年以降は減速し、低い伸びにとどまっている。こうした中で中国が旺盛な内需を背景に高い経済成長を維持してきたが、二〇〇三年はSARS等の影響が懸念されている。
2 世界経済における地域別の構成比
世界経済における地域別の構成比の推移をみると、一九八〇年から二〇〇〇年までの二十年間で、先進工業国が世界の総GDPに占める割合はほぼ横ばいまたは低下となった。これに対して、東アジアの占める割合は約二・四倍に上昇した。また、購買力平価ベースでみると、二〇〇〇年の東アジアのGDP規模はEUに迫るほどの水準に達しており、東アジアが世界経済の中で大きな地位を占めるようになってきていることがうかがわれる。
3 地域別動向
米国経済は、株価上昇、低金利を背景とした旺盛な個人消費、設備投資に支えられ、高い経済成長を維持してきたが、二〇〇〇年にナスダックに代表されるハイテク株の下落とともにバブル崩壊が始まり、二〇〇一年は経済成長が落ち込んだ。二〇〇二年は緩やかな回復をしていたが、秋以降、イラク情勢が緊迫する中で、先行き不透明感から回復力が弱まった。
欧州経済は安定的な経済成長を続けてきたが、二〇〇一年以降、景気が減速している。特にドイツの減速が著しく、二〇〇二年はゼロ成長近くまで成長率が低下した。フランス、イギリスにおいても、二〇〇一年、二〇〇二年の経済は減速した。
NIEs、ASEANは一九九〇年代、アジア通貨危機まで高い経済成長を維持してきた。アジア通貨危機では一時マイナス成長に陥ったが、一九九九年にはプラス成長に回復した。二〇〇一年、二〇〇二年は米国経済の影響等で成長率の鈍化、回復を経験し、二〇〇三年は再び米国経済減速の影響等が懸念されている。
中国経済は、旺盛な内需を背景に一九九〇年代を通じて高い経済成長を達成し、二〇〇〇年代に入っても七〜八%の成長率を維持している。二〇〇三年も七%前後の成長が見込まれているが、米国をはじめとする世界経済の先行きやSARSの流行による悪影響が懸念されている。
一九九〇年代の日本経済は、米国、EUに比べて総じて低い経済成長にとどまった。二〇〇〇年以降の動きをみると、一九九九年一月を景気の谷として回復を続けてきた日本経済は、二〇〇〇年十月(暫定)に景気の山を越え、景気後退局面に入った。二〇〇一年は生産が低下するとともに、デフレも進行した。二〇〇二年に入り、生産は下げ止まり景気は底入れしたものの、失業率は過去最高水準を更新しており、力強い回復はみられず、二〇〇三年の景気は引き続き緩やかな成長が見込まれている。
財政収支は、一九九〇年代を通じて、政府の財政出動、社会保障関連費用の増加、長期にわたる景気低迷や減税実施等による税収の減少によって財政赤字となっている。
また、中長期的な日本経済を考える上では、少子・高齢化が懸念材料となっている。二〇〇〇年から二〇五〇年までの我が国の出生率は一・三一〜一・三九にとどまり、生産年齢(十五〜六十四歳)人口は一九九五年をピークに減少、老年(六十五歳以上)人口は増加、総人口は二〇〇六年をピークに減少過程に入ると推計されている。
第2節 中国経済の成長と今後の課題
1 プレゼンスを高める中国経済の沿革
中国では、一九七八年に改革・開放路線へと転換して以来、特に一九九二年以降「社会主義市場経済」のスローガンの下に、市場経済メカニズムが導入され、漸進的に市場経済を拡大させていくことにより経済改革を進展させてきた。改革・開放の進展により、一九七八年以降のGDP成長率は平均九%以上を達成するなど高成長を持続させている。
2 躍進する中国経済の最近の状況
近年目覚ましい進展をみせているのは直接投資や貿易などの対外経済関係である。特に、海外からの直接投資は、一九九二年の「南巡講話」を契機に契約件数及び契約金額が急速に増加している状況であり、中国に進出した外資系企業が中国の持続的な経済成長に果たしている役割は大きい。都市と農村の所得格差等克服すべき課題も多いが、巨大な人口を抱える中国市場が今後とも更に拡大する可能性は極めて大きい。
二〇〇三年第1四半期のGDP成長率は九・九%に達しており、一九九七年のアジア経済危機以降では最も高い伸び率を記録した。ただし、二〇〇三年三月以降広東省、北京市を中心に新型肺炎SARSの感染が急速に拡大しており、今後の情勢次第では、中国経済へ悪影響が生じてくることも懸念される。
3 成長を持続させていく上での課題
中国経済が今後とも持続的に発展していくためには、後記のような成長制約要因を克服していくことが重要な課題である。
(1) 国有企業問題
計画経済期には中国経済において圧倒的な地位を占めていた国有企業は、改革・開放を経て、工業生産総額に占めるシェアを大幅に低下させており、また、国有企業全体に占める赤字企業の比率は上昇している状況である。一九八〇年代半ばから本格的に実施されてきた国有企業改革は、結局、国有企業の経営状況の改善をもたらさなかったと言える。この背景として、競争激化と国有企業自体の抱える構造的な負担が挙げられる。
また、現在、大多数の国有企業は民営化の方向に向かいつつあるが、特に、株式会社への改組・上場が行われた大型国有企業に関し、大きく二つのコーポレート・ガバナンス上の問題が存在する。一つは、ガバナンスを効かせる主体に関する問題であり、もう一つは、近年の資本市場の動きに併せて整備されてきた会計制度が抱える問題である。
(2) 不良債権問題
国有企業の経営悪化は、国有企業に長年融資を行ってきた金融機関、特に四大国有商業銀行に多額の不良債権を発生させた。このような金融機関の不良債権の増大を受けて、政府は四大国有商業銀行に対して資本注入を行うとともに、大々的な不良債権対策を講じた。しかし、二〇〇二年四月末時点においても四大国有商業銀行の不良債権比率は二四・五%と高く、中国における不良債権問題は長期的な様相を呈している。
(3) 直接金融市場の未発達
中国の株式市場は、家計の金融資産残高の増大と、その金融資産蓄積の構成変化を背景にして活性化している。とは言え、中国株式市場時価総額の対GDP比は依然低い水準にあり、中国の株式市場はなお発展途上段階にあると言える。一方で、近年、間接金融の資金仲介機能も低下しつつあるが、中国企業、特に国有企業は、依然として間接金融に大きく依存せざるを得ない状況にある。
(4) 財政赤字問題
中国の国家財政は慢性的に赤字状態にあり、特に、一九九八年以降はアジア通貨危機を受けた内需拡大策の実行による長期建設国債の大量発行に伴って、赤字幅が拡大傾向を強めている。今後も、西部大開発をはじめとした大型プロジェクト、不良債権処理に伴う追加負担等に巨額の資金が必要となっており、財政負担の増加は不可避である。経済成長を持続させていくためにも、当面積極財政に依存せざるを得ないが、財政赤字がこのまま拡大を続ければ、経済成長が抑制されることが懸念される。
(5) 地域格差問題
主に都市部の経済発展の豊かさを享受できるようになった層と、主に農村部の貧困のまま取り残された層との所得格差が急速に拡大している。さらに、経済格差は沿海部(東部)と内陸部(中部及び西部)のエリア間においても同様にみられる。このような地域間格差是正のため、政府は「西部大開発プロジェクト」の推進等、中西部の発展を重視する政策に転換し、地域間のバランスのとれた経済発展を目指す方針を打ち出している。これにより、短期的には政府による中西部への財政支出が求められ、それが国家財政に一層の負担をかけていくことが予想される。
(6) デフレ問題
中国では、製造業等の過剰生産力が顕在化し、更に一九九七年のアジア通貨危機による景気減速が重なった結果、一九九八年に物価はデフレ状態に陥った。二〇〇〇年にデフレはいったん解消されたものの、二〇〇二年に入ると、再度デフレ状態に陥った。中国のデフレ現象の要因として、景気循環的な側面に加え、農村部等における余剰労働力の存在や、国有企業を中心とする過剰生産能力、需要にマッチしない製品供給等、構造的な側面が挙げられる。デフレの継続は不良債権問題の解決を遅らせ、消費を減速させ、経済成長の鈍化へつながることも懸念される。
(7) 中国人民元の自由化問題
中国人民元は、一九九四年初めに管理変動相場制へ移行し、その後輸出入等、経常取引に関する自由化が行われた。しかし、経常黒字と直接投資流入によるドル余剰状態にもかかわらず、広範な資本取引規制や中国人民銀行による人民元売り・ドル買い介入によって、一九九四年以降人民元は事実上ドル・ペッグを維持している状態となっている。今後、人民元が中国の経済実態に合わせて調整されることは、@資本取引の自由化が進むであろう中国にとっても、A我が国を含めた諸外国にとっても、中国との間で適切な国際分業を進める上で、望ましいと言える。
第3節 企業を取り巻く経済システムの変化―企業システムの多様性とその改善の方向性における共通性―
1 各国企業を取り巻く経済システムの変化
企業を取り巻く経済システムの現状と改善策の両面において、各国ごとに多様性がみられる。こうした多様性は、各国の発展段階、企業と政府との関係、企業の資金調達構造や株式保有構造等の金融構造、労使関係、経営者市場の状況、CSR(企業の社会的責任)に関する考え方、といった各国ごとの事情を反映したものであると考えられる。一方で、システム改善の方向性には共通性がある。すなわち、相互牽制の確保等によるガバナンスの改善、及びそのための基盤メカニズム(必要な情報の共有、あるいは企業情報の公開)の改善という方向性)は、いずれの国においても共通であり、様々なステークホルダーの観点を踏まえた長期的な企業価値の最大化を目標として、各国は企業システムの改善に努めている。
(1) イギリス
イギリスでは、一九九〇年前後の企業不祥事等を背景に、社外取締役の活用や取締役会会長とCEO(最高経営責任者)の分離等を中心とした、取締役会をより効果的に機能させようとする改革が進んでいる。その施行は、法規制による強制ではなく、規範を制定し遵守勧告を行うという特徴がある。また、機関投資家には、コーポレート・ガバナンス上で有用な役割を果たすことが強く期待されている。
(2) 米国
米国の資金調達構造は、直接金融中心である。そこでは、企業の所有と経営が高度に分離しており、株主を保護するために社外取締役が監督機能に大きな役割を果たしているとされている。しかし、CEOが取締役会会長を兼任するケースが多く、その強力な経営権に対して社外取締役や監査法人が有効に機能せずに、近年の企業不祥事の一因となったとの反省が生じた。このため、これらの点についての改善を柱とする企業会計改革法を二〇〇二年七月に成立させる等、一層の改革に取り組んでいる。また、イギリスと同様に主要な株式保有主体である機関投資家の役割が積極的に議論されている。
(3) ドイツ
ドイツでは、間接金融優位の金融構造の中で、ハウスバンクと呼ばれる銀行が経営監視に一定の役割を果たしてきたのと同時に、ドイツ独自の企業文化である、従業員が経営に直接関与する「共同決定制度」を特徴としていた。近年はグローバル化の進展の中で、株主価値重視(SV志向)の経営手法の導入等、変化の兆しもみられる。
(4) 韓国
韓国では、アジア通貨危機を契機として、経営の非効率化の原因ともされていた財閥の改革を柱として改革に取り組んでいる。取締役会の監督機能の強化、ビッグディール(大規模事業交換)による過剰多角化の解消等が進められているが、今後においても、こうした諸問題への真摯な取組みを継続していくことが強く求められている。
2 日本企業を取り巻く経済システムの変化
各国ごとで多様性がみられつつも、企業システム改革が進んでいる中、日本も同様に企業システムを中心として経済システムに改革の動きがみられる。
(1) 制度面の変化
法制度の面では、国際基準に準じた新会計基準の導入をはじめとして情報開示に改善がみられ、また、持ち株会社の解禁に代表される経営の機動性を高める改革が行われた。そうした中、二〇〇二年の商法改正(二〇〇三年四月一日施行)では、委員会方式を取り入れたコーポレート・ガバナンスシステムの選択が可能となった。
(2) 実態面の変化
実態面でも、企業とメインバンクとの関係が変容しつつあると言われている中で、企業のバランスシート調整もあって、資金調達構造において銀行の役割が少なくとも大企業では低下している。株式保有構造においては、近年、金融機関や事業法人の保有比率が低下しており、これは従来の日本でみられた持ち合い株式や安定株式が解消され始めている結果と考えられる。持ち合い株や安定株の受け皿の一つとしては外国人投資家を含めた機関投資家が挙げられる。今後はこうした機関投資家にも企業の経営監視に対する役割が期待されている。M&AやIPOの動向を英米と比べてみると、一時期のITブーム後の日本の落込みは相対的に小さい。今後、事業再編や事業再構築の場面ではM&A、新規の資金調達の場面ではIPOを積極的に活用していくことも期待される。労使関係においては、成果、業績を重視した給与体系、通年採用の動きが浸透する等、柔軟で厚みのある労働市場が出現してきている。
(3) 今後の展望
「失われた十年」のフレーズのもと、日本経済は停滞状態にあって、日本は変化していないとの論調もみられることも多いが、着実な進展が一九九〇年代半ば以降実現しており、企業を取り巻く経済システムには変化の兆しが感じられる。厳しい経済環境にあっても、経営の革新に不断の努力を続け、高いパフォーマンスを示している企業も存在する。これらの企業の中には、企業活動において社会との関係にも大きな関心を払ってきている企業も少なくなく、今後CSRをはじめとして、より広範な観点を含む議論が展開されていくことが期待される。
東アジアにおいても、各国の多様性を維持しつつも共通の方向性を持った改革が行われており、今後一層経済のグローバル化が進展する中で、企業の競争力維持向上の観点から、また、企業が市民社会の一員として健全に発展していくため、日本も含めて不断の改革への努力が求められる。
第2章 東アジアにおける経済関係の深化と我が国企業の活動
第1節 東アジアにおける経済関係の深化
1 貿易面における関係の深化
東アジアにおいては、過去二十年の間に域内の貿易額が量的に拡大するとともに、質的にも多くの地域間で貿易結合度が上昇し、緊密化が進んだ。また、東アジアにおける製造業の発達により、一般機械や電気機械をはじめとして産業内貿易が拡大し貿易面における相互依存関係が深まった。
2 投資面における関係の強化
一九九〇年代、東アジアに対する域内からの直接投資は金額ベースで堅調に増加しており、投資面においても関係が強まった。また、東アジアにおける経済関係の緊密化が進む中で、日本企業の立地選択における意識のグローバル化が進み、かつては大きなリスクが伴い国内立地に比べて相当の覚悟が必要であった海外立地が、もはや国内立地と区別されなくなってきている。企業の立地選択要因をみると、輸出比率、人件費比率、研究開発費比率は、海外立地にプラスに働き、利益率は、海外立地にマイナスに働く。海外に立地する場合の地域ごとの選択要因をみると、研究開発費比率、利益率の高い企業ほど、東アジアより、北米、EUを選択する確率が高い。
3 金融市場の統合
金融市場の統合を国内投資と国内貯蓄の関係からみてみると、まず、一九九〇年以降にEU十五か国の国内投資が国内貯蓄の制約から離れ、国際的な資本移動の自由化が急速に進んだと考えられる。次に一九九五年以降にOECD二十四か国がEU十五か国に続いた。アジア主要国の場合は、一九九八年以降、国内投資が国内貯蓄の制約を離れつつあり、国際的な金融市場への統合が進んでいることがうかがわれるが、そのレベルはOECD諸国に比べてまだ低い水準にあると考えられる。
4 地方発の東アジア連携へのイニシアティブ
最近、九州をはじめ東アジアへの地理的優位等を活かして、積極的に東アジアとの交流を促進し、経済連携を進める地方のイニシアティブがみられるようになってきている。例えば、九州地域の取組みとして、九州と韓国との間で、定期的に「九州・韓国経済交流会議」を開催して、貿易・投資セミナー、産業技術交流ミッション等を実施してきている。
第2節 東アジア地域における日本企業の収益状況
1 日本企業の東アジア地域への進出状況
日本企業の海外事業活動は東アジア地域を中心に拡大している。東アジア各地域への進出を詳細にみると、NIEs4、ASEAN4が依然高水準であるものの、近年は中国の割合が急速に高まっている。また、各地域進出の構成をみると、NIEs4への進出は化学等現地産業用途向け、ASEAN4は自動車産業等すでに蓄積が進展している産業向けという特徴がある。中国については繊維等労働集約工程における低コスト活用目的の進出という特色がみられていたが、近年では、電気機械、輸送機械、一般機械を中心とした機械産業へのシフトの動きが顕著である。
2 日本企業の海外事業活動による収益状況の地域別比較
日本企業の海外事業活動による収益状況をみると、過去約十年間、逆輸入を含めた輸出拠点型の活動が日本企業の収益獲得に貢献している。しかし、近年、国内消費市場の低迷とは対照的に中国消費市場の拡大を背景として中国のプレゼンスが急速に高まっている。
現時点においても、アセアン地域における収益額は中国に比べて相対的に依然優勢にあるのは確かである。ただ、中国における現地販売型の活動はそれまでの輸出拠点型の活動に比べ、その収益性は低迷していたが近年改善の傾向が表れている。
3 米国企業の東アジア地域における活動状況との比較
日本企業の東アジア各地域における活動を直接投資収益率で米国企業と比較した場合、東アジア全体では総じて改善しており若干の格差が存在している程度に留まるものの、中国においてその格差が依然顕著である。つまり、日本企業は、東アジアの中で今後も拡大が見込まれる中国市場において、その需要の獲得に向けた取組みを拡大させているが、米国企業と比較すればいまだ十分な収益を獲得できていない状況にある。
第3節 東アジア地域における日本企業の事業活動の課題と戦略
1 東アジア地域における日本企業の事業活動の特徴と事業環境整備等
(1) 日本と東アジア各地域貿易における比較優位構造
日本と東アジア各地域貿易における比較優位構造をみると、中国との関係においては、製品・半製品分野が低下傾向にある中で、素材・部品の一部については、むしろ比較優位が向上している。これは、日本と中国との国際分業関係がNIEs4及びASEAN4と同様の深化を示しているとも考えられ、当該関係からすれば、今後とも日本に立地する企業の戦略としては、キーコンポーネント等の付加価値の維持と東アジア向け供給戦略が重要であるといえる。
(2) 日本企業の東アジアにおける事業活動の特徴と対応すべき課題
日本企業の東アジアにおける事業活動の特徴と対応すべき課題として、まず、@東アジア地域への進出動機や事業展開の状況からみた特徴については、日本企業は外資系企業と比較すると、中国における研究開発機能の取扱いや中国とASEANの生産機能に関するバランスを重視する姿勢等に相違点がみられている。
次に、A本社コストの対価及び利益の回収状況については、日本企業の海外事業活動に係る本社コストの対価や利益の回収は、円滑に行われていない場合があり、日本企業側においても本社コスト等に対する適正な対価の回収という視点を重視する必要があるとともに、政府側においても各種制度運用に係る基準の制定・明確化等が必要である。
また、B事業コスト面でのメリットの活用状況、C現地経営体制の状況、及びDR&D活動の状況については、現地調達、現地対応、現地R&Dに関わる諸点について、事業の態様に応じ様々な効率化の手法を適切に取捨選択しながら、現地企業経営体制の効率化・最適化を図っていく必要がある。
最後に、E中国市場開放に伴う日本企業の取組みについては、中国のWTO加盟による流通市場の開放に伴う事業機会の拡大に対して、製造企業、流通企業それぞれ様々な取組みが行われている。製造企業については、中国企業との間で互恵的な関係が進展してきている。また、流通企業については競争が激化する中、特徴的な事業展開によりその事業を拡大する企業も存在し、今後もその一層のプレゼンスの拡大に資するよう、中国流通市場における制限撤廃約束の履行について、注視する必要がある。
(3) 東アジア地域における最適な経営体制構築の必要性
東アジア地域をめぐる急速な状況変化の中、日本企業には現地企業活動において、その成長市場のメリットを最大限享受するとともに、東アジアの優れたコスト競争力等を最大限取り込み、自らの競争力を一層向上させ得るよう、事業の態様に応じた最適な経営体制の構築を図ることが必要である。特にこのことは、ASEANについて言える。日本の直接投資残高の地域別割合をみてみると、ASEAN4の割合は減少しつつあるものの、東アジア地域の中でも、とりわけASEANは日本企業の早期からの進出の結果、他国企業に比べ自動車、電子部品産業を中心としたサポーティングインダストリーの形成等一定の優位性が存在することから、我が国にとってASEANは中国への一極集中リスク等回避の観点からもその重要性は高い。そのため、ASEAN全体を面としてとらえた「ASEAN最適」を実現する経営体制を構築するとともに、早急な実効性あるAFTAの形成や経済連携の推進等、日本企業が障害なく経済活動を行うための事業環境の整備が必要である。
2 東アジア地域における日本企業の戦略的な取組み
東アジア地域をめぐる状況変化の中で、差別化等による新需要開拓や東アジア大の最適な生産・分業体制の構築等戦略的な取組みを通じ、利益獲得に成功している企業も少なくない。これら各企業の戦略的な取組みに共通している点は、拡大する東アジア経済をチャンスとしてとらえ、新需要や優れたコスト競争力を積極的に活用するための経営体制の構築という視点である。成長する東アジア経済が世界企業競争の主戦場となる中、今後、日本企業は東アジアの活用の視点を一層多様化し、東アジア大の市場としての観点も含め、メリットを最大限享受し得る最適な経営体制の構築を図ることが必要である。
第3章 日本経済の活性化に向けての取組み
第1節 海外の優れた経営資源の活用―対内直接投資
九〇年代以降、世界的な貿易投資の自由化、技術革新の発展、国境を越えた企業間競争の激化等を背景とした世界の直接投資及びM&Aの拡大は、投資受入国における経済活性化という側面だけでなく、より深い結びつきへと向かっている世界経済の発展に大きく寄与している。
我が国の投資環境は近年の対内投資促進のための様々な制度改革などによって整備されつつあるが、外国投資の水準は国際的にみて極めて低い状況にあり、対内直接投資を国内産業の再生及び活性化の手段として十分に活かしきれていない。
海外からの直接投資は、新しい技術や革新的な経営ノウハウをもたらすとともに、新商品・サービスの供給やリスクマネーの提供を通じて、雇用機会の確保にもつながるなど、投資先企業の経営革新のみならず、国内全体の構造改革を進め、日本経済を活性化させる観点からも有効な手段となり得る。
政府は、二〇〇三年一月の小泉総理施政方針演説において、今後五年間で対内直接投資の残高を倍増にする目標を表明しており、今後とも、対日投資会議で決定した具体的な投資促進施策の着実な実施及び充実や、これらの取組みに対する海外投資家等への積極的な広報活動などを通じて、更なる対日投資の促進を図っていく必要がある。
第2節 海外の優れた人的資源の活用―国際的な労働力移動
1 国際的な労働力移動の必要性
我が国が今後も経済成長を続けていくためには、イノベーションの活性化を通じて経済を発展させていくことが不可欠であり、そのためには国内のみならず世界中の経営・研究・技術分野における優秀な人材が我が国においても活躍することが重要である。また、経済のグローバル化が進行し企業活動の舞台が国際的に一層拡大するような状況下において、海外取引の円滑化のために外国人労働者が我が国で活躍することも期待される。
2 我が国と諸外国における国際的な労働力移動の現状
外国人労働者流入の実態については各国により大きく異なるが、我が国の外国人労働者の割合は近年増加傾向にあるものの国際的にみてもその割合は低い。
例えば、欧米諸国は基本的には専門的・技術的労働者については外国人労働者の受入れを行い、それ以外の労働者については国内で確保できない場合のみ受入れを行っている。また、近年、高度な人材へのニーズの高まりから、欧米諸国はこれらの人材に対する積極的な受入れ政策を展開してきており、高度な人材の獲得に向けての競争が激しくなっている。
我が国とアジア諸国との所得格差は非常に大きく、労働移動が生じる潜在的な可能性は非常に高いと言える。そのアジア諸国の中でもフィリピンは海外雇用庁(POEA)を中心として政府が積極的な国外への労働力移動政策を展開しており、実際の労働力移動も他のアジア諸国と比べ際だって多くなっている。
3 労働力移動がもたらすインパクト
外国人労働者、特に専門的労働者の受入れは経済活動の高度化に資するものであり、基本的には経済厚生を高める。ただし、国内の労働市場に対する影響、教育、医療、住宅等の新たな社会的費用の発生等が予想されるので、これらのインパクトを考慮しながら、外国人労働者受入れを行っていく必要がある。
4 我が国の外国人労働者に対する施策のあり方
我が国が今後、より積極的に高度な人材を獲得していくためには、諸外国における積極的な取組みを参考にしつつ、労働力移動の制度的阻害要因を除去し、さらには国内の労働市場や生活環境を外国人労働者にとっても魅力あるものに変えていく必要がある。
具体的には、第一に、専門分野における資格の相互認証が考えられ、例えば、IT技術者試験の相互認証の締結国の拡大(インド等とは締結済み)とそれに伴う入国管理制度の緩和等が挙げられる。第二に、年金通算制度を可能にし、国際的な労働力移動を円滑にするための社会保障協定に関する締結国の拡大も重要である。第三に、奨学金の充実や低廉な留学生宿舎の確保等の留学生に対する支援を行い、高い専門性と我が国との親和性を兼ね備えた人材の確保等が考えられる。
第3節 イノベーションシステムの改革と知的財産戦略
1 我が国のイノベーションシステムの改革
我が国の経済を活性化し、経済成長の自律的回復を図っていくためには、産業競争力の強化と研究開発を通じた技術シーズを事業化につなげるイノベーション(技術革新)が重要な役割を果たす。また、国内はもとより世界の潜在ニーズに的確に応えるイノベーションを積極的に生み出し、世界でいち早く新市場を開拓することが必要である。これによって、需要を開拓するとともに、需要を喚起しつつ供給構造の改革を一体的に行うことによって、「イノベーションと需要の好循環」を構築することが可能となる。この「イノベーションと需要の好循環」を構築し、我が国経済の再生につなげていくためには、@民間企業の研究開発を含む日本全体のイノベーションの創出環境を抜本的に改革し、これを活性化するとともに、事業化に円滑に結びつくようなシステムを構築すること、Aイノベーションの活性化によって生み出された成果(知的財産権等)を適切に保護・活用できるシステムを構築すること等の取組みが必要である。
2 我が国の知的財産戦略
我が国の持続的な成長を維持していくためには、イノベーションから生み出される発明や著作物等の知的財産を活用することにより、我が国経済を高付加価値化していくことが重要である。「知的財産立国」に向けて付加価値の高い知的財産の創造を経済活性化のための原動力としていくためには、質の高い知的財産を生み出す仕組みを整え、知的財産を適切に保護し、知的財産が社会全体で広く活用され、再投資により新たな知的財産を創造する力が生み出されてくるという社会的仕組み、すなわち「知的創造サイクル」の確立が求められており、その好循環を一層拡大・発展させていくための総合的な知的財産戦略を策定することが重要である。また、我が国のものづくりを担う製造企業がグローバルな事業展開を加速している状況を踏まえると、当該企業の不利益を回避する観点から、特に、模倣品・海賊版等対策が重要である。模倣品・海賊版等の氾濫は、我が国企業にとり、海外市場における潜在的利益の喪失、消費者に対するブランドイメージの低下、製造物責任をめぐるトラブルの増加等の悪影響をもたらすものであり、海外における事業活動に従事するにあたり、当該国・地域において知的財産権が適切に保護されるよう官民一体となって積極的に模倣品・海賊版等対策に取り組む必要がある。
第4節 内外に向けた我が国サービス分野における活動の拡大
1 サービス経済化の進展とサービス分野における活動の拡大の重要性
先進諸国では、経済活動あるいは雇用に占めるサービス産業の割合が上昇する、いわゆる「サービス経済化」が進展している一方で、生産性の向上・雇用の拡大が課題となっている。諸外国の例をみてみると、サービス経済化の進展した九〇年代の米国では、サービス産業の発展は雇用の拡大に大きく寄与するとともに、製造業のアウトソーシングがサービス産業の発展をもたらし、発展するサービス産業が製造業の更なる競争力強化をもたらすという、製造業とサービス産業の機能分化・相互依存関係の深化を引き起こした。
2 国内におけるサービス産業の活性化に向けた現状と課題
我が国におけるサービス需要の拡大は、あらゆるサービスの質的変化を促すという意味で、サービス産業自身の活性化をもたらす。また、事業支援分野等の活性化を通じ、相互依存関係にある製造業の競争力強化に資するものでもある。今後、国内のサービス産業をより活性化させてゆくに際しては、@競争促進と規制改革、AIT、サービステクノロジーの開発、活用、B起業促進、コミュニティビジネス振興の促進、C柔軟な雇用、人材育成システムの整備等の取組みが必要となる。
3 サービス輸出の拡大に向けた現状と課題
我が国サービス分野には日本企業や国民へのサービス提供に留まらず、世界の企業や国民を視野に入れた国際的な活動の拡大、中でもコンテンツ・観光分野における活動の拡大が期待されている。新たな経常収支の源泉となるサービス分野での経済活動の拡大を通じ、我が国は「ゆとりと豊かさを実感できる社会」を実現するとともに、「ものづくり」を中心とした工業大国・経済大国として強くイメージされがちな我が国に対する多様な理解を国際的に広げ、世界に誇り得る国家イメージの構築を目指していくことが必要である。そのような幅広い視点から、我が国はサービス分野の競争力を強化するとともに、サービス輸出を拡大していくことが必要である。
(1) コンテンツ産業の効用
世界のアニメーションの六割が日本製と言われているが、このようなコンテンツ産業は世界全体、特に、アジア地域において人気を博している。コンテンツ産業はアジア地域におけるデジタル・コンテンツ流通インフラの整備の進展を背景に、ビジネスチャンスの拡大が見込まれている。キャラクター、アニメーション、音楽、映画等をはじめとしたコンテンツ産業の海外展開は、我が国コンテンツ産業自体の付加価値の増大に加え、我が国が有する多様な文化的側面の理解を通じて、我が国全体の産業競争力の向上と我が国のブランド価値の向上に寄与するものと考えられる。
(2) 観光産業振興の必要性
我が国が提供する様々なサービスの貿易において、特に旅行収支は大幅な支払超過となっている。しかしながら、観光産業は世界貿易に占める割合も高く、その高い産業波及効果に加え、国際相互理解の増進、地域経済活性化等の多様な意義をかんがみれば、我が国としても積極的にその振興を図るべきであると考えられる。我が国には、固有の自然、歴史、文化に加え、温泉、祭り等の豊かな観光資源が存在する。また、テーマパーク等にも根強い人気があり、これらを活用しつつ、観光産業の競争力を高めていくことが必要である。
第4章 我が国の対外経済政策の課題と挑戦
第1節 東アジア大の課題への取組み
1 東アジアのエネルギーをめぐる現状と課題
世界的なレベルでの供給源の分散化等により、国際的なエネルギー・セキュリティは全般的に向上してきた一方で、東アジア地域においてはエネルギー需要増と域外依存の上昇がみられる。今後も経済成長に伴いこの傾向は高まり、リスク顕在化の場合の影響が拡大するおそれが指摘される。
また、近年の東アジア地域における急速な経済成長により、この地域におけるエネルギー起源CO2排出量は増加傾向にある。今後東アジアにおいては、エネルギー・セキュリティを高めていくと同時に、地球温暖化問題にも十分配慮する必要がある。
東アジア地域におけるエネルギー需要の増大や域外依存の高まりを抑制し、リスクを低減させていくためには、まずは、天然ガス・石炭等域内資源の有効利用やエネルギー利用効率の向上を図るべきである。ただし、経済成長等に伴い石油需要が増大し、その大部分を中東地域からの供給に依存することは避けられない状況である。こうした状況において、東アジア地域でのエネルギー・セキュリティ確保のためには、ASEAN+3等多国間枠組みや二国間枠組みを活用しつつ、域内資源利用、エネルギー利用効率向上、緊急時対応策等について認識の共有化、協力案件の実施等に我が国としても今後更に取り組んでいくべきである。
2 通貨金融システムの安定化
東アジア地域において貿易や投資等の面での緊密化が進展・加速化している現在の状況では、通貨金融システムの安定が重要となる。通貨金融システムが不安定な状況では、為替リスクの増大により企業のグローバルな活動が萎縮してしまいかねず、ひいては東アジアのダイナミズムが阻害されてしまう可能性がある。
この点で、一九九七年に発生したアジア通貨・経済危機は、我々の記憶に新しいところである。アジア通貨・経済危機に見舞われた国々では、外貨建ての短期資金によって長期の国内信用が担保されていた。すなわち、外貨建て資金による国内信用供給という「通貨」のミスマッチ、及び短期資金による長期信用供給という「期間」のミスマッチという二つのミスマッチ(ダブルミスマッチ)が生じていた。そのため、バブルの崩壊によって短期資本の逃避が急速に始まると、銀行及び企業のバランスシートを介して深刻な信用収縮が生じた。
こうしたアジア通貨・経済危機の要因に対する認識の下、このような事態を二度と起こさせないという反省から、国際的な取組みが行われてきた。アジア通貨危機支援に関する新構想(新宮澤構想)、チェンマイ・イニシアティブ等がその例である。
しかしながら、東アジア諸国の資本市場育成状況、長期資金供給能力については、まだまだ疑問を呈する意見も多い。こうした中で、アジア大における資本市場の育成と長期資金供給の確保のため、アジア債券市場イニシアティブという取組みが進められている。そこでは、多数の発行体による市場への参加の促進、バスケット通貨建て債券を含む多様な債券の発行の促進、市場育成に向けての環境整備等が盛り込まれている。
第2節 東アジアとの経済連携強化と多層的アプローチによる対外経済政策の推進
1 東アジアビジネス圏の制度化に向けた具体的な取組み
我が国企業の活動は東アジアに大きく軸足を移しつつあり、利益の源泉も、東アジアによるところが大きくなってきている。この利益の源泉であるという点をより確実にし、かつ強化していくためには、既に実態上の連携関係が構築されてきている東アジアにおいて、その連携関係を事実上のものから制度化されたものにすることが効果的である。
こうした制度化は、東アジアにおける市場の確保と域内の取引コストの削減を通じて、我が国企業の利益を確実かつ強固なものにし、我が国企業の評価を上昇させ、それがグローバル競争における競争力向上にも寄与し、また、株価の上昇を通じて我が国経済に活性化の糸口を与える。このため、欧州や北米における地域経済統合の経験も学びつつ、東アジアビジネス圏の制度化に向けた具体的な取組みを進めることが重要である。
東アジアビジネス圏を制度化する上では、WTOを中心とした多角的貿易体制を通じて実現されるルールをベースとしつつ、カバレッジや自由化・制度調和の程度においてそれを上回る地域での制度化を行っていくことが必要であり、より機動的な対応が可能なFTAを含み幅広い分野をカバーする経済連携協定が重要なツールとなる。
我が国は、将来的に東アジア全体の経済連携を実現することを視野に入れつつ、まずは、ASEAN全体、タイ、フィリピン、マレーシアなどのASEAN各国及び韓国との取組みを先行して進めることが重要である。将来的には、こうしたASEAN及び韓国との経済連携に向けた取組みを、日中韓やASEAN+3の取組みに広げ、また台湾・香港との連携にも結びつけ、より広い東アジア大の地域的経済統合を実現していくことが、今後の戦略的な課題である。
また、こうした我が国の取組みとともに、最近では、東アジアにおいても法的拘束力のある経済連携協定や自由貿易協定の締結に向けた諸外国の取組みが加速化しており、ASEAN自由貿易地域(AFTA:ASEAN Free Trade Area)の深化、中国等の対ASEAN FTA、二国間・地域間のFTAなどの動きが活発化している。
2 東アジアにおける経済連携の経済効果の分析
経済連携の経済効果に関する分析がいくつか行われているが、東アジア全体の分析によると、貿易自由化に加えて、技術の収斂効果や国際生産資本移動を織り込んだアジア地域における地域自由貿易協定は、参加国に一層の利益を与えることが明らかになっている。
また、日アセアン経済連携の効果分析においても、日本及びASEANに現存する関税等の障壁の除去が、市場参入機会の拡大等を通じて両地域間の貿易を拡大するとともに、長期的には、相手国の所得増加や、輸入や対内直接投資の増加がもたらす競争促進や技術伝播の生産性向上効果により、更なる貿易拡大が生まれるとされている。
なお、我が国初の経済連携協定である日シンガポール新時代経済連携協定(JSEPA)は昨年十一月に発効したところであるが、既に、両国間の輸出入額が増加するといった効果が現れてきている。
3 WTO、APEC等の多国間・地域間の取組みや二国間の取組みの活用
東アジアにおける経済連携の制度化を進めていく上で、WTOにおける取組みやAPECのような地域レベルでの取組み、二国間の取組みなども戦略的に活用し、より円滑に東アジアビジネス圏を実現していくことが望ましい。
すなわち、東アジアにおける経済連携を制度化していくに当たって、ミニマムリクワイアメントとしての共通の土俵作りをするWTO、地域的な制度化の一層の展開を促進するASEAN+3等の東アジア域内の地域協力やAPEC等の東アジアを包含する広域的な地域協力、さらにはより機動的な取組みが可能な二国間の取組みをそれぞれの特性を活かす形で組み合わせて活用することにより、東アジアビジネス圏の実現に向けてより効果的な取組みを進めることができると考えられる。
4 我が国が持つ政策ツールであるODAの戦略的活用
我が国はこれまでODA(政府開発援助)の半分以上を東アジアに投入し、経済・産業基盤整備に重点を置いて支援を行ってきた。一方で、ODAを取り巻く最近の状況をみるとODAの重要性が再認識されているのに加え、国内的には厳しい経済・財政状況の下、予算も削減傾向にあり、本年中頃に向けては、ODA大綱の見直しも行われようとしている。
こうした中、東アジアとの経済連携を強化するため、ODAの戦略的、効果的な活用の方策を再検討する必要性がでてきた。すなわち、知的財産権、エネルギー、通貨・金融など東アジアにおける貿易・投資促進に資するインフラ・制度等の整備を進めるために、ODAを政策ツールとして活用することが求められる。具体的には、途上国の持続的経済発展に必要な、環境・エネルギー、通信、道路、金融制度等の経済基盤強化に努めるほか、知的財産の制度構築、裾野産業の支援等も含めた貿易・投資環境整備にODAを重点的に投入していくことが必要である。
また、我が国の国益の観点からは、「要請主義」の見直しも重要であり、今後は、我が国が主体的にODAを実施するため、被援助国に我が国の経済協力政策上の優先度を積極的に提示し、理解を求め、それに沿った要請が行われるよう政策協議を強化していくことが必要である。
むすび
1 分析の視角
今回、主として用いたのは、経済に関する「制度」である。通商白書二〇〇三では制度に関係していない箇所の方がまれであるが、中でもとりわけ、第1章第3節「企業を取り巻く経済システムの変化―企業システムの多様性とその改善の方向性における共通性―」、第3章「日本経済の活性化に向けての取組み」及び第4章「我が国の対外経済政策の課題と挑戦」は、フォーマル、インフォーマル両面の制度について論じた部分である。
なお、制度に関しては昨年もその重要性にかんがみ多くの言及を行ったが、通商白書二〇〇二の主たる分析の視角は「集積」であった。特に、第1章第2節「我が国の地域経済構造の変化と東アジアにおける経済集積間の競争と連携」及び第4章第3節「魅力ある経済集積の形成に向けて」では、「集積」をキーワードに分析を行った。
2 今年のメッセージ
「経済システムの改善の方向性には、相互牽制の確保や必要な情報の共有という共通の方向性が存在する。他方、その態様には各国ごとの多様性があるのであって、「ある唯一のシステムが優れており、そのモデルに収斂する」というわけではないと考えられる。よって、何かを模倣すれば済むということでもなく、また、「我々のシステムは今のままで良い」ということでもない。結局、いずれの国家であっても、自らを見つめ、自ら考え、自ら実行するしかない。日本もこのことを自覚し、努力を続けなければならない。」
「実は、日本も無自覚に拱手しているわけではない。懸命に努力を続けている。失われた十年と言われるが、着実な変化が生じている。東アジア地域におけるしたたかな日本企業の活動とその戦略的な取組みをみてみても、また、目を凝らすまでもなく、日本企業を取り巻く経済システムにおける力強い変化をみてみても、それは明らかである。」
「日本は、これからも自らの課題について着実な対応を行う。まず、外に開かれた存在として、海外の優れた経営資源や人的資源の活用を進める。それと同時に、イノベーションシステムの改革と知的財産戦略を進め、また、サービス分野における活動の拡大を図る。そして、こうした自らの課題のみならず、エネルギー・セキュリティ、通貨金融システムの安定等東アジア大の課題について、真摯に取り組みリーダーシップを発揮する。」
「以上の取組みを進める観点から、東アジアとの経済連携を強化し、多層的アプローチによる対外経済政策を推進する。」
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景気予測調査
<はじめに>
財務省では、企業経営の現状と見通しを調査し、景気の動向を的確に把握することを目的として、金融・保険業を除く資本金一千万円以上(電気業、ガス・水道業は資本金十億円以上)の営利法人約百二十万社のうち約一万二千社を対象として、四半期ごとに財務省景気予測調査を実施している。
以下は、平成十五年八月に実施した第八十二回調査結果の概要である。今回の調査では一万一千六百二十社を対象とし、九千三百三十六社(回収率八〇・三%)から回答を得ている。
なお、本調査における大企業とは資本金十億円以上の企業を、中堅企業とは資本金一億円以上十億円未満の企業を、中小企業とは資本金一千万円以上一億円未満の企業をいう。
平成十五年七〜九月期の景況判断BSI(前期比「上昇」−「下降」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも引き続き「下降」超となっている。
先行きを全産業でみると、大企業は十五年十〜十二月期に「上昇」超に転じる見通し、中堅企業、中小企業は「下降」超幅が縮小する見通しとなっている。
◇売上高(第2表参照)
平成十五年度上期の売上高は、全産業合計で前年比〇・〇%の横ばい見込みとなっている。
これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業は増収見込み、中小企業は減収見込みとなっている。
業種別に前年比でみると、製造業では、窯業・土石製品、繊維工業などが減収となるものの、精密機械器具、電気機械器具などが増収となり、全体では一・二%の増収見込みとなっている。
非製造業では、卸売・小売、映画・娯楽などが増収となるものの、建設、不動産などが減収となり、全体では〇・五%の減収見込みとなっている。
十五年度下期の売上高は、全産業合計で前年比〇・一%の減収の見通しとなっている。
これを規模別に前年比でみると、大企業、中小企業は減収の見通し、中堅企業は増収の見通しとなっている。
業種別に前年比でみると、製造業では、輸送用機械器具、石油製品等などが減収となるものの、電気機械器具、精密機械器具などが増収となり、全体では〇・七%の増収の見通しとなっている。
非製造業では、卸売・小売、映画・娯楽などが増収となるものの、建設、電気、ガス・水道などが減収となり、全体では〇・四%の減収の見通しとなっている。
十五年度通期の売上高は、全産業合計で前年比〇・一%の減収の見通しとなっている。
これを規模別に前年比でみると、大企業は横ばいの見通し、中堅企業は増収の見通し、中小企業は減収の見通しとなっている。
◇経常損益(第3表参照)
平成十五年度上期の経常損益は、全産業合計で前年比五・一%の増益見込みとなっている。
これを規模別に前年比でみると、大企業、中小企業は増益見込み、中堅企業は減益見込みとなっている。
業種別に前年比でみると、製造業では、食料品、パルプ・紙・紙加工品などが減益となるものの、一般機械器具、金属製品などが増益となり、全体では四・七%の増益見込みとなっている。
非製造業では、電気、ガス・水道、事業所サービスなどが減益となるものの、卸売・小売、不動産などが増益となり、全体では五・四%の増益見込みとなっている。
十五年度下期の経常損益は、全産業合計で前年比一七・九%の増益の見通しとなっている。
これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも増益の見通しとなっている。
業種別に前年比でみると、製造業では、出版・印刷、輸送用機械器具などが減益となるものの、電気機械器具、食料品などが増益となり、全体では一一・一%の増益の見通しとなっている。
非製造業では、建設、放送が減益となるものの、卸売・小売、不動産などが増益となり、全体では二二・三%の増益の見通しとなっている。
十五年度通期の経常損益は、全産業合計で前年比一二・四%の増益の見通しとなっている。
これを規模別に前年比でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも増益の見通しとなっている。
◇中小企業の設備投資(第4表参照)
設備投資については中小企業のみを調査対象としている。今回の調査における平成十五年度の全産業の設備投資計画額を前年比でみると、土地購入費を含む場合(以下「含む」という)で〇・一%減、除く場合(以下「除く」という)で一・三%増の見込みとなっている。なお、前回調査時に比べ、「含む」で一〇・六%ポイントの上方修正、「除く」で三・五%ポイントの上方修正となっている。
十五年九月末時点の設備判断BSI(期末判断「不足」−「過大」社数構成比・季節調整済)をみると、全産業は「過大」超となっている。
先行きについては、全産業でみると「過大」超で推移する見通しとなっている。
◇中小企業の販売製(商)品在庫
平成十五年九月末時点の在庫判断BSI(期末判断「不足」−「過大」社数構成比・季節調整済)をみると、製造業、卸売業、小売業いずれも「過大」超となっている。
先行きについては、製造業、卸売業、小売業いずれも「過大」超で推移する見通しとなっている。
◇中小企業の仕入れ価格
平成十五年七〜九月期の仕入れ価格判断BSI(前期比「上昇」−「低下」社数構成比・季節調整済)をみると、製造業、卸売業、小売業いずれも「上昇」超となっている。
先行きについては、製造業、小売業は「上昇」超で推移するものの、卸売業は十五年十〜十二月期に「低下」超に転じる見通しとなっている。
◇中小企業の販売価格
平成十五年七〜九月期の販売価格判断BSI(前期比「上昇」−「低下」社数構成比・季節調整済)をみると、製造業、卸売業、小売業、サービス業いずれも「低下」超となっている。
先行きについては、製造業、卸売業、小売業、サービス業いずれも「低下」超で推移する見通しとなっている。
◇雇用(第5表参照)
平成十五年九月末時点の従業員数判断BSI(期末判断「不足気味」−「過剰気味」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「過剰気味」超となっている。
先行きについては、大企業、中小企業は「過剰気味」超で推移する見通し、中堅企業は十六年三月末に「不足気味」超に転じる見通しとなっている。
十五年七〜九月期の臨時・パート数判断BSI(前期比「増加」−「減少」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「増加」超となっている。
先行きについては、大企業、中堅企業は「増加」超で推移する見通し、中小企業は十六年一〜三月期に「減少」超に転じる見通しとなっている。
十五年七〜九月期の所定外労働時間判断BSI(前期比「増加」−「減少」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業が「増加」超、中堅企業、中小企業は「減少」超となっている。
先行きについては、いずれの規模においても「減少」超で推移する見通しとなっている。
◇企業金融(第6表参照)
平成十五年七〜九月期の金融機関の融資態度判断BSI(前期比「ゆるやか」−「きびしい」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「きびしい」超となっている。
先行きについては、いずれの規模においても「きびしい」超で推移する見通しとなっている。
十五年七〜九月期の資金繰り判断BSI(前期比「改善」−「悪化」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「悪化」超となっている。
先行きについては、中小企業は引き続き「悪化」超で推移するものの、大企業は十五年十〜十二月期に「改善」超に転じ、中堅企業は十六年一〜三月期に横ばいとなる見通しとなっている。
十五年九月末時点の金融機関からの設備資金借入判断BSI(前期比「増加」−「減少」社数構成比・季節調整済)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「減少」超となっている。
先行きについては、いずれの規模においても「減少」超で推移する見通しとなっている。
◇中期的な経営課題(第2図参照)
中期的な経営課題(一社二項目以内回答)を全産業でみると、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「国内販売体制、営業力の強化」をあげる企業が最も多く、次いで、大企業、中堅企業は「新技術、新製品の開発、製品(サービス)の高付加価値化」、中小企業は「後継者、人材の確保、育成」の順となっている。
業種別にみると、製造業では、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「新技術、新製品の開発、製品(サービス)の高付加価値化」が最も多く、次いで、大企業、中堅企業は「国内工場・営業所の再編、生産・流通工程の見直し等によるコストの低減」、中小企業は「国内販売体制、営業力の強化」の順となっている。非製造業では、大企業、中堅企業は「国内販売体制、営業力の強化」、中小企業は「後継者、人材の確保、育成」及び「国内販売体制、営業力の強化」をあげる企業が多い。
津波は遠方まで伝播し、日本近海でおきた地震による津波でも時には、外国に影響することがあります。
その例として、一九九三年の北海道南西沖地震では津波により奥尻島で多くの犠牲者や被害がありましたが、日本海沿岸のロシアや韓国などでも被害が発生しました。
これとは別のケースで、日本から遠く離れた海域で発生した地震による津波でも、その規模が大きいと日本に被害を及ぼすことがあります。歴史上、最も顕著な例として、一九六〇年のチリ津波があります。南米のチリ沿岸で発生した巨大地震により発生した津波は太平洋を約一日かけて伝播し日本の太平洋沿岸に襲来、各地に多大な被害をもたらしたのです。日本のみならず、太平洋沿岸の各国で被害が発生しました。
チリ津波が契機となって、太平洋津波警報組織国際調整グループ(ICG/ITSU)という国際組織ができ、日本も加盟しています。
気象庁はこれまでこの組織の下に、ハワイにある太平洋津波警報センター(PTWC)や周辺の国々と連絡を密にし、地震や津波に関する情報交換を行ってきました。太平洋全域に影響を及ぼす津波の到達予想時刻などの情報については、PTWCが太平洋諸国に対して提供するという役割を担っています。しかし、日本海のように、太平洋全体からすれば縁海にあたるような海域に発生した地震による津波情報の提供はしていません。
北海道南西沖地震の後、最初に開催されたICG/ITSUの会議の席上、韓国から、日本海で発生した地震による津波に関する予測情報を日本海沿岸諸国に提供してほしい旨の提案がありました。日本はこの提案を受け、二〇〇一年一月十五日から日本海で発生する地震に伴う津波について、予想される津波の高さ、到達予想時刻の情報を国外へ提供することを開始しました。これは、量的津波予報などの新しい技術によって可能となったものです。
現在、ICG/ITSUから、気象庁が北西太平洋津波情報センター的な役割を担うこと、すなわち北西太平洋域(概ねオホーツク海からインドネシア沿岸に至る海域)に発生する地震に対して、沿岸諸国に津波予測情報を提供することを求められています。気象庁はこれに応えるべく、日本から遠く離れた所で発生した地震の震源と規模を正確に決定し、発生する津波の高さと到達時刻を正確に予測する技術の開発等を進めるとともに、同センター業務を実施するために必要な体制のあり方も検討しています。このことは、日本の高度な津波予報技術を用いた国際貢献であるばかりでなく、遠方で発生した津波に対する日本への津波予報の精度向上にもつながるものと期待されています。
(気象庁資料から転載)
◇八月の東京都区部消費者物価指数の動向
一 概 況
(1) 総合指数は平成十二年を一〇〇として九七・五となり、前月比は〇・二%の上昇。前年同月比は〇・六%の下落となった。
なお、総合指数は、平成十一年九月以降四年連続で前年同月の水準を下回っている。
(2) 生鮮食品を除く総合指数は九七・七となり、前月比は〇・三%の上昇。前年同月比は〇・三%の下落となった。
なお、生鮮食品を除く総合指数は、平成十一年十月以降三年十一か月連続で前年同月の水準を下回っている。
二 前月からの動き
総合指数の前月比が〇・二%の上昇となった内訳を寄与度でみると、教養娯楽、交通・通信の上昇が要因となっている。
なお、被服及び履物、食料などは下落した。
[主な内訳]
●教養娯楽
教養娯楽サービス(四・二%上昇)…外国パック旅行など
●交通・通信
交通(二・四%上昇)…航空運賃など
●被服及び履物
シャツ・セーター・下着類(二・五%下落)…婦人ブラウス(半袖)など
●食料
生鮮野菜(六・三%下落)…えだまめ、なすなど
三 前年同月との比較
総合指数の前年同月比が〇・六%の下落となった内訳を寄与度でみると、食料、住居、教養娯楽などの下落が要因となっている。
なお、保健医療などは上昇した。
[主な内訳]
●食料
生鮮野菜(一一・七%下落)…トマトなど
●住居
家賃(〇・五%下落)…民営家賃(木造中住宅)など
●教養娯楽
教養娯楽用耐久財(一五・二%下落)…パソコン(デスクトップ型)など
●保健医療
保健医療サービス(一一・〇%上昇)…診療代など
◇七月の全国消費者物価指数の動向
一 概 況
(1) 総合指数は平成十二年を一〇〇として九八・〇となり、前月比は〇・二%の下落。前年同月比は〇・二%の下落となった。
なお、総合指数は、平成十一年九月以降三年十一か月連続で前年同月の水準を下回っている。
(2) 生鮮食品を除く総合指数は九八・一となり、前月と同水準。前年同月比は〇・二%の下落となった。
なお、生鮮食品を除く総合指数は、平成十一年十月以降三年十か月連続で前年同月の水準を下回っている。
二 前月からの動き
総合指数の前月比が〇・二%の下落となった内訳を寄与度でみると、被服及び履物、食料の下落が要因となっている。
なお、教養娯楽、諸雑費などは上昇した。
[主な内訳]
●被服及び履物
衣料(四・四%下落)…背広服(夏物)など
●食料
生鮮果物(一三・二%下落)…さくらんぼ、すいかなど
●教養娯楽
教養娯楽サービス(一・九%上昇)…外国パック旅行など
●諸雑費
たばこ(八・二%上昇)
三 前年同月との比較
総合指数の前年同月比が〇・二%の下落となった内訳を寄与度でみると、食料、教養娯楽、被服及び履物などの下落が要因となっている。
なお、保健医療などは上昇した。
[主な内訳]
●食料
生鮮魚介(二・九%下落)…かつおなど
●教養娯楽
教養娯楽用耐久財(一五・四%下落)…パソコン(ノート型)など
●被服及び履物
衣料(二・五%下落)…男児ズボンなど
●保健医療
保健医療サービス(一一・一%上昇)…診療代など
畳の手入れ
風を通して湿気をとる
夏涼しく、冬暖かな畳の感触。フローリングの流行で畳の部屋のない住まいが増えていますが、畳の心地よさを捨てがたいと感じる人もたくさんいるようです。
畳は本来、湿気を吸ったり放出したりして、湿度を調節する優れた性質を持っています。しかし、現代の住宅は機密性が高く、湿気がこもってしまいがち。畳をダニやカビの温床にしないためには、注意が必要です。
まず、水ぶきは畳が汚れやすくカビの原因にもなるので、なるべく避けてください。特に畳が新しいうちに水ぶきをすると、イグサを染めている染土(せんど)(注)が落ち、早く傷みます。
普段の手入れは掃除機を畳の目に沿ってかけ、週に一度ぐらい、やはり畳の目に沿ってきれいなぞうきんで空ぶきすれば十分です。化学ぞうきんは畳の表面に油分が残り、かえって汚れやすくなるので厳禁です。
足の裏の皮脂や、掃除しきれないホコリなどで汚れが目立ってきたら、住宅用洗剤を薄めたぬるま湯でぞうきんを固くしぼり、手早くふきましょう。ぞうきんは数枚用意して、常にきれいな面を使うようにし、最後に空ぶきをします。
終わったら、風通しをよくして乾燥させます。扇風機を利用するのもいいでしょう。早く乾燥させるため、畳の手入れは天気のよい日を選んでください。
ダニや湿気防止のために、年に一、二回は畳を上げ、半日くらい日光の下に干し、中にたまったホコリもたたき出しましょう。干す時は、畳が日に焼けないように表側を裏にして二枚一組を山型に立てかけます。畳を外に運べない、干す所がない、という場合は、下に空き缶などをはさんで畳を浮かせ、風を通すだけでも効果があります。
(注) 染土・イグサの色つやと強度を高めるために塗られている。
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