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科学技術白書のあらまし
第一部 これからの日本に求められる科学技術人材
第一章 科学技術創造立国に向けた科学技術人材の育成・確保
第一節 今後の我が国における科学技術人材の育成・確保の重要性
(世界の先駆者として)
我が国は、欧米の追従から脱却し、世界の先駆者として、科学技術の分野を切り開いていかねばならない立場になったと言われてから久しいが、実際には未だ先頭に立っているとは言えないばかりか、先端的な技術領域や境界領域では逆に米国等に引き離されつつあるのが現状である。さらに、中国等の追い上げによって、これまでよりも更に高い付加価値を創造し続けていかなくては、日本は生き残っていけなくなってきている(第1図参照)が、追従者であった時代と比べ、先駆者の一員となった現在では研究開発投資に対する営業利益の比率は低下傾向にある(第2図参照)。
二十一世紀に入っても、我が国では深刻なデフレ不況が続いており、閉そく感が国全体を覆っている。このような状況を打破するためには、新たな知を生み出し、新たな産業を創出していくことが不可欠とされている。そのためには、知の創造を担う人材や創造された知の成果を社会に活かす役割を担う人材を育成・確保していくことが大きな課題となっている。
(少子高齢化の影響)
我が国では、急速に少子化・高齢化が進展しており、社会の活力の減退が憂慮されている。科学技術に係る分野は、創造性が重要な分野であり、特に若年層の活力の低下は、そのまま科学技術分野のポテンシャルの低下につながる可能性がある。
(知識を基盤とする職業の重要性の増加)
知識基盤社会の中で、知の生産をはじめとするあらゆる活動の基礎となるのは、知識を創造し、活用する「人」である。知識を基盤とする職業の重要性が世界的にも高まっており、知的労働に優秀な人材を確保することが各国とも国としての重要課題となっている。
我が国が今後一層豊かな社会を構築していくためには、新たな知を創造し、その成果を社会に活かすことのできる優秀な人材を育成・確保していくことが不可欠である。しかしながら、今後の少子高齢化の進展にかんがみれば、引き続き科学技術にかかる人材を量的に増大させることは簡単なことではない。このため、優秀な人材を科学技術の世界に惹きつけるとともに、その能力を最大限に発揮させる環境を整備することが緊急の課題となっている。そのためにも、科学技術に携わる人たちが、その努力や培ってきた能力によって報われる社会を構築していくことが急務である。
第二節 期待される科学技術人材
本書では、「科学技術人材」を科学技術を基盤とした仕事を担う人材の総体と定義することとする(第3図参照)。これらの科学技術人材の協働による総合力こそが、我が国の科学技術活動の水準、ひいては我が国の国力を支えていくものと考えられる。
(様々な科学技術人材への需要)
国内の研究者を対象として、科学技術を取り巻く様々な人材について、量と質の両面からの不足感について質問したところ、質・量ともに不足とする意見が大勢を占めており、十分であるとする意見が不十分であるとする意見を上回ったものはなかった(第4図参照)。
これらの様々な科学技術人材について、それぞれに求められるスキルの獲得を促し、実務経験を積み重ねることのできる環境を整備していくことにより、人材からみた我が国の総合力を底上げしていくことが求められている。
第二章 科学技術人材をめぐる内外の動向
1 科学技術人材のストックとフロー
(我が国における現状)
科学技術人材は「国勢調査」においては、そのほとんどが「専門的・技術的職業従事者」に区分されるが、その数は一貫して伸び続けており、また就業者総数に占める割合も拡大傾向で推移してきている。
科学技術人材は増えてきているにもかかわらず、厚生労働省「労働経済動向調査」による、製造業の労働者の過不足感の推移を職種別にみると、「専門・技術」職については、不足感が継続して高い状態にあり、科学技術人材の需要が高い状況がうかがえる(第5図参照)。
(科学技術人材のストック)
国勢調査の専門的・技術的職業従事者(約八百六十四万人)の内訳をみると、技術者(約二百六十六万人)が最も多く、次いで医師等の保健医療従事者(二百三十五万人)、さらには教員(約百三十七万人、うち大学教員が約十七万人)が続いている。また、科学研究者には約十六万人が就業している。さらに産業別にみると、いずれの職種においてもサービス業に就業している割合が高い。
(科学技術人材のフロー)
研究者・技術者等の科学技術人材の養成機関である大学(自然科学系)の卒業者数についてみると、我が国の平成十四年三月の学部・大学院卒業者数は約二十二万人で米国の半数であるものの、人口一万人当たりの卒業者数でみるとほぼ同じである。しかしながら、我が国の場合は米国と比較すると修士以上の割合が低くなっており、米国の方が高学歴化が進んでいる。
我が国の自然科学系の大学・大学院卒業生の産業別就職先をみると、学士卒業者の就職先は、近年、製造業からサービス業にシフトしてきており、一方、修士の場合には工学を中心として依然として製造業が多く、博士課程卒業者ではサービス業(教育、特に大学教員)が多くなっている。
2 科学技術人材の将来推計
我が国社会全体が急ピッチで高齢化が進行している中で、専門的・技術的職業従事者も中高年齢層の比率の上昇が進んでおり、今後もこの傾向が続くものと思われる。
また、第6図によれば、今後、理工系の大学への進学率の向上等の特別の事情がなければ、少子化、高齢化の影響により、研究者、技術者は、数においても、総人口に占める割合においても急激に減少していくことを示している。
第三章 科学技術人材の育成・確保のあり方
第一節 人材を惹きつけ、創造性を発揮させる科学技術活動環境の構築
1 優秀な人材を惹きつける科学技術にかかわる職業の魅力
(科学技術にかかわる職業についての若者の意識)
中学生及び高校生を対象として行われた「どのようなことを目標として生きていくか」という質問のうち「科学の分野で新しい発見をすること」への回答結果について、日本の中高生の多くが否定的な回答をしているのに対し、米国、中国、韓国では肯定的な回答をする中高生も多い。
(研究者の意識)
研究者という職業の選択に対しては、科学技術や科学技術にかかわる職業にどのような印象を持っているかが大きな影響を与えると考えられる。
若年層にとって科学技術が魅力的なものとしてとらえられていない現状を考えると、今後、科学者・技術者という職業の魅力を高めていかなければ、将来の科学技術人材の確保に困難をきたす可能性がある。
(科学技術人材の処遇)
日米における主な職種の平均賃金について、それぞれの国における労働者全体の平均賃金をそれぞれ一・〇〇として、平均賃金に対する比率で比較したものが第7図である。両国において、専門的技能や専門的知識を必要とするほとんどの職種において平均賃金よりも高い給与が支払われているが、「航空機操縦士」、「医師」を除き、日本における専門的技能や専門的知識を必要とする職種の賃金は、平均賃金に比べて特に高い賃金が支払われているわけではない。
このような現状は、優秀な人材を科学技術系の職種に惹きつけることを妨げる要因となると推測される。
現在研究職に就いている人に対し、現在の処遇への満足度を聞いた結果(第8図参照)によると、研究成果に対する特別の報酬や研究費の額といった研究活動そのものに係る事項については不満とする意見が多い。
創造的であることそのものが、研究という活動の魅力でもあるため、成果に見合うだけの処遇が与えられない環境では、創造性を発揮させるための意欲を低下させるだけでなく、研究者という職業に対する魅力をも大きく低下させる原因となる。研究という活動を通じて研究者が報われるような、適切な評価とその評価結果を処遇に反映させる仕組みを構築していく必要がある。
なお、最近の日本人によるノーベル賞の受賞等により、小学生等の間で将来なりたい職業として学者・博士の人気が向上しているとも言われており、実際に身近な事例を通じて、優れた研究成果に対しては、それに見合った処遇や社会的な評価が与えられることが実感できれば、職業としての研究者等に対する魅力が高まる効果があるとも考えられる。
2 女性研究者等の活躍機会の拡大
(1) 女性研究者
(女性研究者数と構成割合)
女性研究者の数は男女雇用機会均等法施行(昭和六十一(一九八六)年)以降、急激に増加したが、ここ二、三年はやや頭打ちの傾向にある。
女性研究者の割合が高いのは大学であり、その増加傾向が続いている。会社等では、構成比率は一九八〇年代後半から大きく伸びているものの、ここ数年は横ばい傾向であり、また絶対数では大学の三分の一程度と、低い水準にとどまっている。
このように、女性研究者の数は増加傾向にあるが、四〇%を超える全雇用者に対する女性の比率からみれば、まだ多いとは言えない。
(女性研究者の働きやすい環境)
女性研究者の少ない理由として特に女性から多く挙げられるものとして、「出産・育児等で研究の継続が難しい」と「女性の受け入れ態勢が整備されていない」があり、せっかく研究者となった女性が、継続して研究ができる環境が整っておらず、辞めてしまうことも、原因となっているとみられる。
女性研究者を増やしていくためには、女性研究者が働く環境を改善することによって、研究を継続できなくなる女性を減らすことが重要であり、女性研究者の増加は、女性研究者というロールモデルの確立につながり、その結果、自然科学系の大学・大学院の門をたたく女子が増えるようになることが望まれる。
(2) 高齢研究者
(研究者の高齢化)
少子化・高齢化が進む中、今後とも優秀な科学技術人材を確保していくためには、これまで研究の第一線から退いていた高齢の研究者の創造性の発揮も期待される。
(高齢研究者の活躍の場)
産学官の研究機関に対して行われたアンケート結果によれば、各機関は、中高年研究者について、業績等を評価した結果適切であれば研究の継続を可能とする処遇を行うことを望ましいと考えている。このような評価が厳正に行われることが重要であり、評価の結果、研究を続けることが適切でないと判断されれば、大学の研究者にあっては学生に対する授業や講義といった基礎的な教育を専任とするか、技術移転などの社会貢献活動を行うことも考えられる。
(3) 外国人研究者
(研究社会の国際化の必要性)
外国人研究者の受入れは、海外における最先端の知見の入手を容易にするというだけでなく、外国人研究者との交流を通じた知的な刺激や他文化への理解の向上によって日本人研究者の能力の向上にも貢献することも期待される。さらに、我が国において研究活動を行う研究者を多くの世界の研究者の中から選択することができれば、我が国の研究環境を一層競争的なものとすることが可能となる。
(我が国における外国人研究者)
日本における外国人研究者数、外国人教員数は、九〇年代を通じて急速に増加している。
一方、先進国から日本にやってくる外国人留学生は、米国をはじめヨーロッパの主な国に比べ極めて少なく、我が国の大学等の国際的な交流度の低さが示されている。
(外国人研究者を惹きつけるには)
ナノテクノロジーのように我が国が世界に誇る分野では外国人研究者が多いことにもみられるように、優れた研究成果を強く世界に向けて発信していくことが必要である。さらには、外国から来た研究者が研究に専念し、安定して生活を送れるようにすることも必要であろう。そのためには、外国人研究者本人だけを対象としたものでなく、その家族も含めた十分なサポートが望まれる。
3 創造性を発揮させる研究環境
(1) 人材の流動性の向上と競争的な環境の構築
(流動性の問題)
日本の研究社会は、欧米に比べて流動性が低いと言われている。流動性の低い研究社会は、創造的な研究者にとって、成果や適性に見合ったより良い処遇と環境を求めた移動が困難であることを意味しており、研究者の創造性の発揮を阻害していると言える。また、広い視野を身に付けた研究者の育成という観点からも、流動性を向上させることは重要と考えられている。さらに、近年における科学技術の学際化の進展などにみられるように、新たな知は多様な知見や多様な専門分野が交錯するところに生じることが多いと言われており、多様な人材が集まることによる研究組織の活力向上の観点からも、流動性の向上は不可欠であると言えよう。
第9図によれば、各経験機関目ごとの「良いと思われる評価項目」を挙げた回答者数のそれぞれの機関目の経験者数に対する比率は、移動を重ね、経験機関数が増えていくに従って減少傾向にある。日本においては、より良い処遇や環境条件を求めて自ら移動するというより、何らかの事情でやむを得ず移動しており、移動すればするほどむしろ満足度が低下していくことがうかがえる。
(大学における内部登用の問題)
米国の大学に比べて日本の大学では、自校出身者を内部登用する割合が高い。
大学における内部登用の多さが大学内の研究者にとって多様な人材との交流を妨げることとなり、結果として創造性の減退につながる可能性があるとの指摘もある。各大学においては、その自主的な判断において、助手等の採用に当たって異なる研究機関において多様な経験を積んだポストドクターの採用を増やす、自校出身者以外からの採用を積極的に行うなどの取組が求められる。
(任期付任用制度の課題)
流動性の向上のため、これまで、若手を中心として任期付任用制度の拡大が図られてきた。第10図は、研究者に対して任期付任用制度の問題点について調査した結果であるが、平成十四年度の調査結果では、任期後の受入先や短期間で成果を出すための環境の未整備が問題点として挙げられている。
流動的であることが雇用不安に直結するような状況では、十分な創造性は期待できなくなる。このため、流動することが不利とならないよう、流動性を更に高めるとともに、流動性を前提として、各人がより良い環境を求めて自己研鑽をするような科学技術システムへと更に変革していく必要がある。
(創造性の発揮を促す競争的環境)
研究者に対し、日米欧の競争環境の比較について聞いたところ、米国との比較では四七%、欧州との比較では二九%が、日本の方が競争的でないと回答している。
米国の大学ではテニュア(終身在職権)制度があり、研究者のキャリアパスは、非常に競争的な環境の下に置かれている。大学教授の処遇も様々で、同年齢・同クラスの教授でも給料は横並びではないという事実が不平等感や不満を生むのではなく、よりよい職場環境を求めて仕事をするという動機付けとなっている。
(2) 若手研究者の創造性の発揮
(ポストドクター支援の重要性)
研究者のキャリアパスにおけるポストドクターという時期は、若手研究者の創造性のかん養のためにも重要な時期である。このため第一期科学技術基本計画(平成八年)では、ポストドクター等一万人支援計画が提唱され、ポストドクター等に対する多様な支援制度が創設・推進されてきた。また、競争的資金によるポストドクターの雇用も拡大している。
一方、第11図に示すとおり、多くの研究者が、ポストドクターについてマイナスイメージを持っていることが分かる。しかし、平成十一年度調査の中で行われた同様の質問と比較すると、マイナスイメージの回答はすべて減少し、プラスイメージが高くなっていることが分かる。このことからも、少しずつではあるが、ポストドクターの存在意義やその担っている役割が重要視されてきていることがうかがえる。また、プロの研究者として独立するためのキャリアパスであるという認識もわずかに高まってきていると言えよう。
(若手研究者を対象とした研究助成金)
第12図は、研究者に対する意識調査の中で、自分自身で裁量できる研究費額を調査した結果を年齢層別に示したものであるが、この図によれば、若手研究者について、比較的多くの者が自由になる研究費を持たず、また持っていたとしても、比較的わずかな額であることが分かる。必ずしもすべての若手研究者が多額の研究費を必要としているわけではないが、自立性を確保する観点からも若手研究者の支援の拡充を図っていくことが重要である。
(若手研究者の国際化推進方策)
我が国の研究者の渡航回数は増加傾向にあるが、海外の大学・研究機関に長期に滞在し、海外の研究者との日常的交流の中で研鑚を積む機会は広がっていない。また、世界レベルの研究を推進していく上で、海外における研究経験は極めて重要であり、優れた研究者養成の観点から、若手研究者の長期海外研究を積極的に推進する必要があるとされている。
我が国の場合、流動性に乏しいため、海外に行っても日本に戻ってくることが容易ではないと言われている。流動化を促進することにより、これらの海外経験者を迎え入れることができ、海外での経験が我が国へ還元される効果が期待できる。
(3) 研究支援の充実
(研究に専念できる環境の整備)
我が国の研究者一人当たりの研究支援者は〇・二九人であり、諸外国に比べ半数以下であり、今後ともさらに、研究支援体制の強化を図っていくことが重要である。
第二節 創造性に富む科学技術人材の育成
1 研究者としての創造性をかん養する高度な専門教育
(1) 大学院教育の充実に向けて
(大学院の位置付け)
我が国の大学院における教育研究の一層の高度化を推進していくためには、量的な充実のみならず、質的充実にも重点を置いた整備を図ることが喫緊の課題となっている。
(大学院における教育の充実)
研究者に対し、理想の研究者が有する素養・能力とは何かについて尋ねたところ、創造性、専門分野の知識、課題設定能力、探究心に多くの回答が集まった。一方、指導的立場にある研究者に対し、最近の若手研究者の能力への評価について尋ねたところ、専門分野の知識と探究心については高い評価を受けているが、創造性、課題設定能力についての評価は低いものであった。創造性や課題設定能力を養うことが、若手研究者の供給源である大学院の教育にも求められていると言えよう。
一方、大学側でも、平成三年のいわゆる大学設置基準の大綱化以降、各大学において教育内容や教育方法の見直しを進めているところである。
教育課程に関する改革については、調査時点で既に約半数の研究科で実施されており、その内容としては「学際的分野、生成途上の分野に対応」が全体の四分の三近くに上り、以下「学部―大学院の一貫教育」、「新たな社会の要請に対応」と続いている。
また、大学改革の一環として検討が進められてきた国立大学の法人化により、国立大学における教育研究の更なる高度化・活性化や国際競争力のある大学づくりが期待される。
(2) 大学院学生に対する経済的支援の充実
(博士課程学生の生活の現状)
研究者養成の中核となる大学院博士課程においては、学生の生活面でも様々な問題を抱えている。居住形態別の収支状況は、自宅や下宿等を問わずアルバイトによる収入を除くと支出額のほうが上回っている。
また、文部科学省が行った大学院博士課程に在籍する学生に対する活動時間に関する調査結果によれば、博士課程の学生は、自らの研究活動に十分な時間を充てられない状況にある。
大学院生に対する経済的支援の一つである奨学金は、日本育英会奨学金の充実が図られてきているほか、公益法人等においても、幅広く奨学金事業が行われている。
なお、大学側としてもRA(リサーチアシスタント)制度やTA(ティーチングアシスタント)制度の導入など学生に対する経済的支援を行っているところである。
先に述べた大学院における教育内容の充実はもちろんのこと、大学院生が十分に研究活動に専念できるための経済的支援といった環境整備も併せて整備・充実させていくことが必要である。また、各種の経済的支援制度について、より柔軟な活用が図られるような制度改革や、各大学における運用の工夫も併せて行っていくことが重要である。
(博士課程進学の経済的期待値)
民間企業においては、博士課程卒業者の初任給は、学士、修士より優遇していると回答した企業の割合より、学士、修士とほぼ同等か差を設けていないとする企業の割合が多くなっている。
もちろん、経済的な期待だけで博士課程へ進学することはないと思われるが、我が国が科学技術創造立国を実践していくためには、博士課程で高い知識、技術、創造力をはぐくみ、磨きをかけた人材が、実社会でその能力に見合った高い収入が得られるようになることが肝要である。
2 社会のニーズに適合した科学技術人材の育成
(1) 企業における人材ニーズの変化とそのニーズへの対応
(企業からみた大学院の評価)
研究開発期間の短縮化や、国際競争の激化によって、企業の人材の育成・確保についても、これまでは企業内教育が重視され、大学での教育が軽視されてきたが、近年は、より即戦力の人材を求める傾向が増えてきたと言われている。
しかし、民間企業の側からは、大学院新卒採用者の資質が期待していたレベルよりも下回るという厳しい意見がみられる。
このほかにも、企業から大学・大学院の学生への教育に望むこととして、知識偏重の教育内容からの脱却を望む声が多く挙げられている。
また、インターンシップ制の拡大や民間人講師の活用など教育面での産学連携にも期待がかかっており、大学、国立試験研究機関及び企業等が連携を図る連携大学院制度の活用もひとつの方策となり得る。
(博士課程修了者等の採用)
専門分野の知識・技術や経験については期待、実績ともに高いものの、独創性については期待に対して実績が伴っていない(第13図参照)。また、企業の中には、「企業における研究活動においては、博士課程修了の研究者やポストドクターを必要とするような高度なものはそれほど多くはないため、採用の必要性がない」や「学部卒業の研究者や修士課程修了の研究者に対する教育・訓練によって社内の研究者の能力を高めるほうが効果的である」という理由で採用を行わない企業も多い。
現在の我が国の企業においては、今後ますます高い付加価値の創造を行っていかなくてはならない状況であり、そのため、博士号取得者のような高度の専門人材を適切に評価し、有効に活用していくことが求められている。
一方、大学としても、企業のニーズを踏まえ、大学院博士課程での教育内容及び方法を、更に創造性をかん養するものへと改革していくとともに、幅広いニーズに対応できる人材を育成するような独自性を持った取組が求められる。また、博士課程に進学する学生自身も、目的意識を持って自らの付加価値を高めていくことが重要である。
(研究分野のニーズ)
人材の研究分野からみた社会ニーズでは、「ライフサイエンス」、「情報通信」、「環境」、「ナノテクノロジー・材料」の重点四分野のほか、「製造技術」分野でも人材が不足している一方で、余剰となっている分野は少ない。
研究者の不足の要因として、「研究者採用の事情等により研究者の絶対数が不足している」が半数近くを占めていることから、企業としては、採用したい人材はあっても、何らかの事情により、思うように採用できないと感じていることがうかがえる。
一方、二番目の要因として、「専門分野が多様化しているため、対応できる研究者が、新規採用者を含め不足している」が挙げられていることから、採用したくとも、それに見合った人材が存在しない場合も多いものと考えられる。一方、大学・大学院に「幅広い分野に柔軟に対応できる適応力」を期待する声が比較的多いことから、企業は今でも新卒者については比較的長期の雇用を前提に、将来的に必要となる研究分野の変化への対応も視野に入れて採用する人材を選抜しており、大学・大学院卒業者には、そのような変化に対応できる基礎的な素養・能力が高く、応用力のある柔軟な人材が求められていると考えられる。
(再教育の重要性)
今後、企業の事業構造の転換や製品・サービスの多様化・高度化に伴って、企業が求める研究開発のニーズと、既存の個々の研究者が保有する能力とのギャップが広がっていくことが予想される。一方では、個人の能力を仕事を続けながら磨いていこうという意識の高まりや、転職の機会の増大によっても、社会人教育へのニーズは拡大していくものとみられ、様々な再教育の機会が提供されていく必要がある。
(2) 科学技術を社会に役立てるための多様な人材の育成
(MOT(技術経営)教育)
MOTとは、技術を事業の核とする企業や組織における、次世代の成長のエンジンとなる連続的なイノベーションによる事業創出を目指した経営であり、MOTプログラムでは、企業経営上に必要な専門領域を横断的に学ぶこととなる。
我が国でも、経済産業省が中心となって、産業界と大学、民間教育機関による技術経営コンソーシアムを形成し、技術経営の普及・促進等の活動を開始しているほか、MOTコースを設ける大学も、急速に増加してきている。
(知的財産専門人材の養成)
知的財産を産業競争力の強化の源泉とするため、「知的財産立国」の実現に向けた国家戦略が打ち出されている。
知的財産戦略大綱においては、知的財産関連人材の養成に関して、
1.法科大学院における知的財産法をはじめとするビジネス関連法分野の教育の強化
2.ビジネスに理解の深い技術系人材の供給
3.弁理士等の専門人材の充実と機能強化
の実施が求められており、法科大学院の設置に向けた制度設計などの施策が進められているなど、我が国の知的財産戦略を担う人材育成への期待が持たれる。
第三節 科学技術人材をはぐくむ社会の実現
1 科学技術人材の確保に必要な国民の関心・理解
(1) 科学技術への関心
科学技術に対する関心について日米両国を比較したところ、我が国は科学技術に関心を持つ国民が米国よりも少ないという結果がみられる(第14図参照)。このような国民の科学技術への関心の低さは、科学技術に対して夢と希望をもつ人材の減少を招き、チャレンジ精神と創造性にあふれた将来の科学技術人材の育成・確保を困難にする可能性がある。
(子どもたちによる科学技術への関心・理解)
日本放送協会の放送文化研究所の調査は、大人になってからの科学技術への関心の大きさは、子どものころの理科への興味・関心に左右されることを示唆している(第15図参照)。
優れた科学技術人材を確保するためには、若い世代が科学技術に対して関心、理解を持って育つことが望まれる。
(小中学生の学年ごとの理科等への関心)
諸外国と比較すれば、我が国は理科や数学の好きな児童生徒の割合が低いと言えるが、平成十三年度に実施された教育課程実施状況調査によると、特に理科については、他の教科よりも好きだと思う児童生徒は、むしろ多い。しかしながら、そのような理科好きの児童生徒の割合は中学三年生までに減少している。また、各教科の重要性を尋ねる質問に対しても、学年が高くなるごとに肯定的な回答が少なくなる傾向がうかがえる。
理科の勉強が好きかという設問に対し「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」と回答した児童生徒について着目すると、ふだんの生活や社会に出て役立つと思っている児童生徒は学年があがるごとに減少しているが、そう思わない児童生徒はほぼ横ばいであることから、ふだんの生活や社会に出て役立つと思う児童生徒の減少が理科の好きな児童生徒の減少に影響していることも考えられる。
学校教育において理科が好きな子どもの減少を食い止めるためには、理科に知的な興味を感じる子どもを増やす配慮を行うとともに、学校現場における様々な機会を利用して、理科の大切さや生活とのかかわりを認識できるような教育が望まれる。
(2) 科学技術に関する基礎的素養
国民の多くが科学技術に対して適切な知識と判断する能力を持つことにより、科学技術人材が我が国にとっての重要な知的資産であることへの認識が広まり、科学技術人材の創造性、独創性への適切な評価が与えられることが期待される。
(児童生徒における科学技術に関する基礎的素養)
OECDの「生徒の学習到達度調査(PISA)」(平成十二(二〇〇〇)年)の調査の結果によれば、我が国の生徒の数学的リテラシーが一位、科学的リテラシーが二位と、国際的に極めて高い水準にあることが明らかになっている。
(大人における科学技術に関する基礎的素養)
一方で、十八歳以上の成人を対象として実施された科学技術に関する基礎概念の理解度に関する国際比較調査では、我が国の正答率は、比較対象である十七か国・一地域の中で低い水準であった。
我が国の児童生徒の科学的リテラシーが国際的に高い水準であるにもかかわらず、成人の基礎的な科学技術に関する素養は国際的に低い水準となっていることは、多くの人にとって、科学的な知識や能動的に学ぶ態度が必ずしも定着しておらず、知識が学校教育の期間のみの、特に大学入試といった受験のための一時的なものにとどまっている可能性を示唆する。
2 科学技術に対する関心・理解向上のための取組
(初等中等教育における様々な取組)
優秀な科学技術人材、とりわけ創造性豊かな研究人材を生み出すためには、初等中等教育の果たす役割が極めて重要である。この場合、一方的な知識の伝達ではなく、基礎・基本を確かなものとしつつ、創造性を伸ばすような教育を提供していくことが求められる。
@確かな学力の定着に関する取組
A理科教育を担当する教員の充実
B科学技術・理科大好きプラン
(高等教育における教養教育に関する取組)
大学等は、科学技術人材を養成する機関としてだけではなく、科学技術と社会との関係について十分な認識をもった国民を育成するという役割を担っている。現代のような知識基盤社会においては、いわゆる理系・文系といった分野の枠組みにある知識をかん養するだけではなく、科学技術についての理解力を有し、かつ科学技術とのかかわり方について国民の立場から主体的に判断できるような、豊かな教養を有する人材を育成することが望まれる。
(生涯学習における取組)
科学技術に対する素養を向上するためには、生涯にわたって科学技術に関する学習の機会が提供されることが重要である。とりわけ、子どもの親、特に子どもとの接触機会の多い母親に対する生涯学習の機会の提供も、科学技術人材の育成という観点から重要である。このため、社会教育の場をはじめとした学習の機会の充実を通じて、科学技術人材の知識水準を維持するとともに、新たな科学技術人材の開拓を図ることが重要である。
(インタープリターの重要性)
複雑化・高度化した科学技術に関する知識を一般国民が何の助けも借りずに獲得することは非常に困難となっている。また、近年の科学技術の発展に伴って生じる社会的な課題を解決していくためにも、科学技術と社会とのコミュニケーション基盤を形成していくことが必要とされている。そこで、専門家である研究者、技術者と非専門家である国民とをつなぐ橋渡し役として、「インタープリター」と呼ばれる役割が重要性を増している。
@マスメディア
A科学館、博物館等
B科学技術に関する活動を行うNPO
C様々な科学技術普及活動(科学技術番組、インターネットによる情報提供、各種科学技術イベントの開催)
まとめ
平成十四年度は、ノーベル物理学賞に小柴昌俊氏、化学賞に田中耕一氏が選出され、我が国にとっては初めてのダブル受賞、さらには十二年度の白川英樹氏、十三年度の野依良治氏に続く三年連続受賞の快挙となって、国民に対しても我が国にも世界に誇れるような傑出した人材がいることを改めて印象付けることとなった。
いきおい、国民の注目は、ノーベル賞を受賞した人物が、どのような途をたどって世界的に評価される業績を上げるような人物となったかということに集まるとともに、今後も引き続き、我が国においてノーベル賞を受賞するような人物が現れるかというところに集まるところとなった。
我が国は、科学技術創造立国を国是として、科学技術基本法の下、科学技術基本計画を策定し、政府研究開発投資の拡充や科学技術システム改革の推進に力を注いでいるところであるが、これらを活かすために不可欠な「人」の面では、職種や専門分野によって程度の差こそあれ、全体的に人材が不足気味であると言える。さらに、現在の年少人口の減少を考えれば、今後科学技術人材の需要が一層増大していくと考えられるにもかかわらず、それになるべき人の数は減少していくことが明らかである。
ひとくちに科学技術人材問題といっても、様々な職業がある中でいかに科学技術人材として優れた人材を集めるかといったマスとしての科学技術人材の確保を図る問題から、まさにノーベル賞級と言えるような人材をどのように育成するのかといった個々の人材の育成の問題、また、現に必ずしも社会のニーズにマッチしているとは言えない博士課程修了者・ポストドクター、民間企業において既に陳腐化してしまった技術に携わってきた技術者などに、どうすれば活躍の場を与えられるかというごく短期的な問題から、子どもたちに科学技術に関する興味、関心を持たせるには何が必要かといった長期的な問題まで、大きな広がりがある。さらに、科学技術人材としては、研究者、技術者のみならず、社会との橋渡しをするような人材を含めた多様な人材が必要であり、そのような人材は今まで以上に創造性があり、かつ、柔軟な適応力を持っていなければならない。
このように人材問題は幅広く、多岐にわたるが、全体としてみれば、研究、人材育成の両面で中心となる大学の位置付けが極めて大きいと言わざるを得ない。しかしながら一つの大学が科学技術人材に係る様々な要請にすべてこたえられるわけはなく、個々の大学が選択と集中により、それぞれ個性をもって、重点的な取組を行う必要がある。今後法人化する大学に求められるのは、まさにこのような経営判断と、実践能力であると言える。
これまで、我が国においては、教育の場においても、民間企業や国においても、あるいは社会そのものが、効率性の追求の観点から、均質であること、一様であることを望んでいた面があったと思われる。今後、多少の手間はかかっても、独創的なこと、多様なことこそ重要であるというように発想の転換を図っていくことが必要である。
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消費支出(全世帯)は実質〇・八%の減少
◇全世帯の家計
前年同月比でみると、全世帯の一世帯当たりの消費支出は、平成十四年五月に実質減少となった後、六月以降四か月連続の実質増加となり、十月は同水準となったが、十一月以降七か月連続の実質減少となった。
内訳をみると、交通・通信、家具・家事用品、教養娯楽などが実質減少となった。
◇勤労者世帯の家計
前年同月比でみると、勤労者世帯の実収入は、平成十三年十二月に実質減少となった後、十四年一月以降三か月連続の実質増加となったが、四月以降十四か月連続の実質減少となった。
また、消費支出は、平成十四年八月に実質減少となった後、九月は実質増加となったが、十月以降八か月連続の実質減少となった。
◇勤労者以外の世帯の家計
勤労者以外の世帯の消費支出は、一世帯当たり二十六万四千九百三十一円となり、前年同月に比べ、名目〇・七%の増加、実質一・〇%の増加となった。
◇季節調整値の推移(全世帯・勤労者世帯)
季節調整値でみると、全世帯の消費支出は前月に比べ実質一・六%の減少となった。
勤労者世帯の消費支出は前月に比べ実質二・二%の減少となった。
【高齢者本人が受けられる特例】
1 老年者控除
所得税は、一年間の所得金額から基礎控除や扶養控除などの所得控除を差し引いた金額に税率を掛けて計算しますが、この所得控除の一つとして老年者控除があります。所得者本人の年齢が六十五歳以上で、合計所得金額が一千万円以下の場合に所得金額から五十万円が控除できます。
2 公的年金等控除
国民年金、厚生年金、恩給などのいわゆる公的年金等は、雑所得として所得税の課税対象となります。公的年金等に係る雑所得の金額は、公的年金等の収入金額の合計額から公的年金等控除額を差し引いて計算しますが、年齢が六十五歳以上の方の場合は、六十五歳未満の方よりその控除額が多くなっています。
3 マル優などの利子の非課税
年齢が六十五歳以上の方は、マル優、特別マル優、郵便貯金の利子の非課税制度を利用できます。
この制度を利用すれば、それぞれ三百五十万円、合計一千五十万円までの預貯金などに対する利子については、所得税はかかりません。
この制度は、平成十八年一月一日をもって障害者などを対象とするものに改組されます。したがって、六十五歳以上の方(障害者などに該当する方を除きます)については、平成十八年一月一日以降、非課税の適用を受けることはできないほか、平成十五年一月一日以降、新たな非課税貯蓄の設定ができないなどの経過措置が設けられています。
【高齢者を扶養している方が受けられる特例】
配偶者控除や扶養控除の対象となる親族が七十歳以上の場合の配偶者控除額や扶養控除額については、通常の一人当たり三十八万円に代えて四十八万円を所得金額から差し引くことができます。
なお、扶養控除の対象となる高齢者が、納税者やその配偶者の父母や祖父母などの直系尊属で、納税者やその配偶者のいずれかとの同居を常況としているときは、さらに十万円を加算した五十八万円を差し引くことができます。
ところで、配偶者控除や扶養控除の対象となるのは、納税者と生計を一にし、その年の所得金額が三十八万円以下の親族です。
例えば、その年の収入が公的年金や恩給だけである六十五歳以上の方は、その収入金額が百七十八万円以下であれば、公的年金等控除額の百四十万円を差し引いた雑所得の金額は三十八万円以下となりますので、そのお年寄りと生計を一にしている納税者は配偶者控除や扶養控除の適用を受けることができます。
【障害者本人が受けられる特例】
1 所得税の障害者控除
所得者本人が障害者であるときは、障害者控除として二十七万円(特別障害者のときは四十万円)を所得金額から差し引くことができます。
2 マル優などの利子の非課税
障害者は、六十五歳以上の方と同じようにマル優、特別マル優、郵便貯金の利子の非課税制度を利用できます。
(注) 障害者のうち六十五歳以上の方としてこの制度の適用を受けている方が、平成十八年一月一日以降も引き続きこの制度の適用を受けるためには、障害者として確認を受け直す必要があります。
3 心身障害者扶養共済制度に基づく給付金の非課税
地方公共団体が条例によって実施する心身障害者扶養共済制度に基づいて支給される給付金(脱退一時金を除きます)については、所得税はかかりません。
また、この給付金を受ける権利を相続や贈与によって取得したときも、相続税や贈与税はかかりません。
4 相続税の障害者控除
相続や遺贈によって財産を取得した方が、日本国内に住所を有する障害者で、かつ法定相続人である場合には、七十歳になるまでの年数一年につき六万円(特別障害者のときは十二万円)が障害者控除として、相続税額から控除されます。
5 特別障害者に対する贈与税の非課税
心身に重度の障害がある特別障害者の生活費などに充てるために、一定の信託契約に基づいて特別障害者を受益者とする財産の信託があったときは、その信託受益権の価額のうち六千万円までは贈与税がかかりません。
この非課税の適用を受けるためには、財産を信託する際に「障害者非課税信託申告書」を、信託会社を通じて税務署長に提出しなければなりません。
【障害者を扶養している方が受けられる特例】
1 所得税の障害者控除
配偶者控除、扶養控除の対象となる親族が障害者であるときは、障害者控除として一人当たり二十七万円(特別障害者のときは一人当たり四十万円)を納税者の所得金額から差し引くことができます。
2 特別障害者と同居している場合の配偶者控除及び扶養控除
1の特別障害者が、納税者やその配偶者、納税者と生計を一にする親族のいずれかとの同居を常況としているときは、配偶者控除及び扶養控除は、通常の控除額に三十五万円を加算した金額を所得金額から差し引くことができます。
【障害者を雇用している事業者等が受けられる特例】
障害者を多数雇用する事業者の資金の負担を軽くし、障害者の方の雇用の安定と拡大を図ることを目的に、青色申告をしている個人事業者や法人で、従業員総数に対する雇用障害者数の割合が一定以上である場合には、一定の機械装置等や工場用建物等の割増償却が認められています。
秋風
北日本など一部の地域を除くと、九月初旬はまだ夏の内。残暑に悩まされる日が続きますが、それでも朝方や夕暮れどきなど、ふと秋の気配が感じられるようになります。
やがて、夜がだんだんと長くなり、朝夕が冷え込み、露の降りる日も現れるようになると、秋気が募ってきます。
そんな秋の訪れを、二十四節気では「白露」といい、新暦の九月七日前後がその時期に当たります。このころになると、それまで生暖かかった風にも冷たさが加わります。
「秋風」とは、文字どおり秋に吹く風を指しますが、夏や冬の季節風のように定まった風向きはありません。俳句の世界では、秋の初風をいう場合もあり、晩秋の身にしみるような冷たい風をいう場合もあるようです。
「秋」と読み方が同じ「愁(しゅう、うれい)」、「飽き」にかけて、うれいを含んだ風の意味で「愁風」、心の破綻(はたん)があるという意味で「飽き風」と詠んだ詩や句が、昔から多くつくられています。
秋風を色に配して白、素風(そふう)と呼ぶこともあります。
石山の 石より白し 秋の風 芭蕉
これは、白露を連想させる白く光った風です。実体のない風に色を与えることで、その特色を浮かび上がらせた句です。
同じ秋に吹く風である台風や、初冬の木枯らしなど、さまざまな風を色にたとえてみるのも面白いですね。
【公売に参加するには】
1 公売公告について
差押財産を公売する場合には、多くの方々に参加していただくため、公売日の少なくとも十日前までに、その公売を実施する国税局や税務署の掲示板等に、公売される財産の内容、公売の日時・場所等が掲示(公売公告)されます。
また、より広く皆さんに公売の情報をお知らせするために、新聞・住宅情報誌等の刊行物への掲載や、国税局のホームページへの公売財産の掲載・情報誌の作成をしている場合があります。
詳しいことは、国税局又は税務署の公売担当へ電話等によりお気軽にお問い合わせください。
2 見積価額について
差押財産を公売するときは、国税局長又は税務署長は、あらかじめ公売財産の見積価額を決定します。
入札に当たっては、見積価額以上で行う必要があります。
3 入札に当たり用意するもの
参加者は、入札に当たって次のものを用意する必要があります。
@ 印鑑
A 公売保証金(見積価額のおおむね一〇%)及び買受代金(不動産の場合は1週間後の支払い)相当額の現金又は小切手(銀行振出のもの)
B 委任状(代理人が入札する場合)
(注) 公売財産によって@〜B以外の書類が必要な場合があります。
例:農業委員会が発行する「買受適格証明書」(農地を入札する場合)
4 入札の方法
買受希望者は、定められた入札時間内に、入札価額等の必要事項を記載した入札書を、公売保証金を納付した上で入札箱に投入します。
5 開札と最高価申込者の決定
入札終了後、ただちに開札が行われ、公売財産について見積価額以上で入札した者の中で、最高額をつけた者が最高価申込者に決定されます。
なお、最高価申込者が入札に際して納付した公売保証金は、買受代金に充当することができ、最高価申込者とならなかった入札者の公売保証金は返還されます。
【代金納付と不動産を買い受けたときの権利の移転手続き】
最高価申込者は、買受代金を、動産や有価証券の場合は公売の日に、不動産の場合は公売の日から一週間後に納付する必要があり、納付したときに公売財産を取得しますが、権利の移転については、農地、電話加入権のように関係機関の許可又は承認等がなければその効力が生じないものもあります。公売財産が不動産である場合の所有権移転手続は、買受人の請求に基づいて、国税局長又は税務署長が行います。
権利移転に要する手数料は無料ですが、所有権移転登記に必要な登録免許税及び登記嘱託書等の送付に要する費用は、買受人が負担することとなります。
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