長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典あいさつ


 長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に当たり、原子爆弾の犠牲となられた方々の御霊に対し、謹んで哀悼の誠を捧げます。
 そして今なお被爆の後遺症に苦しまれている方々に、心よりお見舞いを申し上げます。

 核兵器の惨禍を、人類は二度と繰り返してはなりません。唯一の戦争被爆国である我が国は、「核兵器のない世界」の実現に向けて先頭に立って行動する道義的責任を有していると確信します。私は、様々な機会をとらえ、核兵器保有国を始めとする各国首脳に、核軍縮・核不拡散の重要性を訴えてまいります。そして、将来を見据えた具体的な措置を積極的に提案し、国際社会の合意形成に貢献していく決意です。また、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向け、日本国憲法を遵守し、非核三原則を堅持することを誓います。

 昨年四月のオバマ大統領のプラハ演説を契機に、核軍縮・核不拡散に向けた動きが活発化してきています。
 こうした中、本日の式典には、三十か国を超える国の代表の方々が出席されています。心より歓迎をいたします。日本国民の、二度と核による被害をもたらさないでほしいという思いを受けとめていただくよう祈念いたします。また、焦土の中から立ち上がり、国際色豊かな観光都市・平和都市となった長崎の姿をご覧になってください。

 核兵器廃絶を訴えるNGOである「平和市長会議」に加盟する都市は、長崎や広島を先頭に、世界で四千を超えています。こうしたNGOや市民を母体とする動きは、世界的な核軍縮の気運を高めていく上で、重要な役割を果たしています。
 五月の核兵器不拡散条約運用検討会議の際には、被爆者を始め百人近くの方々がニューヨークに赴き、会場や街頭で、核兵器被害の悲惨さを訴えられたと承知をいたしております。この会議が最終文書採択という成果を収めた背景にも、こうした被爆者の方々とそれを支援するNGOや市民の方々の貢献がありました。
 今後は、被爆者の方々が例えば「非核特使」として日本を代表して、様々な国際的な場面で、核兵器使用の悲惨さや非人道性、平和の大切さを世界に発信していただけるようにしたいと考えております。
 長崎市では、市民が「平和案内人」として被爆の跡を修学旅行生にガイドする活動などが展開されています。若い世代が被爆者の声を聴き、その思いを受け継ぐ取組もあります。
 核軍縮・核不拡散に向けた教育活動を世界に広げるため、長崎・広島の両市や国連と連携し、被爆者の体験談を英語等外国語に翻訳し、各国に紹介する取組を進めたいと考えております。

 政府は、被爆により苦しんでおられる方々に、これまで保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護策を講じてまいりました。
 長く続いてきた原爆症認定集団訴訟については、昨年八月に終結に関する確認書を交わしました。この確認書に基づき、控訴の取下げや基金の創設などを行っています。
 一方、原爆症の認定を待っておられる方々に関しては、一日でも早く認定すべく最善を尽くしたいと思います。さらに、法律改正による原爆症認定制度の見直しについて検討を進めてまいります。
 また、母親の胎内で被爆された方々やご家族のご要望を踏まえ、こうした方々への支援体制も強化いたします。

 最後に、私自身のことを、一言触れさせていただきます。私が大学で物理学を専攻した際、原爆開発にも関わったアインシュタイン博士や日本の湯川博士が、核廃絶を呼びかけた「パグウォッシュ会議」のことを知りました。人類の幸福に役立つはずの科学が、人類の生存を脅かす核兵器を生み出したという矛盾です。この会議の活動を学び、自分もこの矛盾を解決したいという思いが、政治を志す私の一つのきっかけになりました。この初心を忘れずに世界から核兵器をなくすその努力を、全力を挙げて取り組んでまいりたいと思っております。

 結びに、犠牲となられた方々の御冥福と、被爆された方々並びに御遺族の皆様の今後の御多幸を心からお祈りし、併せて参列者並びに長崎市民の皆様の御健勝を祈念申し上げ、私のあいさつといたします。

 平成二十二年八月九日
内閣総理大臣 菅直人