海上保安制度創設70周年記念観閲式及び総合訓練
平成30年5月20日、安倍総理は、東京湾で開催された海上保安制度創設70周年記念観閲式及び総合訓練に出席しました。
安倍総理は、巡視船やしまに乗船し、観閲式に臨んだ後、船上から総合訓練の視察を行いました。
その後、総理は、参加船艇及び乗船客への挨拶で、次のように述べました。
「本日は、北は釧路(くしろ)から、南は石垣まで、全国の巡視船と航空機が集結し、国内関係機関や米国沿岸警備隊の参加の下、6年ぶりに観閲式及び総合訓練が執り行われました。
巡視船や航空機を縦横に操り、ヘリコプターから救助を求める人を目掛けて正確に降下、巡視船から逃走する容疑船に素早く移乗する。隊員諸君の練度の高い動きを目の当たりにし、内閣総理大臣として、大変頼もしく思います。今この瞬間も、海における様々な脅威に対峙し、海の安全確保という我が国の根幹を成す使命を、実直に、そして立派に果たしている海上保安官諸君に、心から敬意を表します。
我が国は、海から豊かな恩恵を受け、時には海からやって来る脅威を防ぎ、海洋国家としての歴史を紡いできました。今年は、海上保安制度創設70周年の節目の年に当たります。先の大戦により灯台が破壊され、機雷によって沈んだ多くの船はそのまま残され、また、密航、密輸などの海上犯罪が横行し、海上の秩序が崩壊する中で、海上保安庁は、平和で豊かな海を取り戻すという使命を体し、船出したのです。海難救助の現場では、荒れ狂う波にもまれ、タンカー座礁の現場では、流出した原油にまみれ、工作船追跡の現場では、銃撃をくぐりながら国民の幸せを願い、海をひらき、海の安全確保に尽力する海上保安官の姿が常にありました。海上保安庁なかりせば、今の海の安全、ひいては、日本の繁栄はなかった。
厳しい環境において、絶え間ない緊張感の下、命がけで我が国の海を守る海上保安官の姿に触れるたび、私は西郷隆盛が詠んだ詩の一節を思い出します。
『耐雪梅花麗(雪に耐えて梅花麗し)』。
梅の花は、厳しい冬の寒さを耐え忍ぶからこそ、春にかぐわしい香りを放つ美しい花を咲かせることができる。苦難や試練にじっと耐え、それを乗り越えた先に喜びが待っている。海上保安庁の徽章(きしょう)に梅の花が使われているゆえんです。どんな困難な状況であっても、梅の花のように忍耐強く使命に当たる諸君を、私は誇りに思います。そして、これからも海の安全の確保という尊い任務を果たし、国民の期待に応えていってほしいと思います。
現在、我が国の周辺海域を取り巻く情勢は、過去に例を見ないほど厳しさを増しています。尖閣諸島周辺海域では、外国公船による領海侵入が繰り返され、日本海では、北朝鮮からと思われる漂流、漂着船が相次いで確認されるなど、我が国の周辺海域は常に緊張に包まれています。
こうした情勢を踏まえ、先日、海洋の安全保障を海洋政策の重要な柱に据えることを決め、政府一体となってこの苦難に立ち向かうことといたしました。
海洋の安全保障は、我が国の平和と安全を自らの力で守り抜くことはもとより、諸外国との連携を通して、国際的な海洋秩序を形成、強化していくことにより、達成され得るものです。
海における脅威に対して、真っ先に駆けつけ、最前線に立ち続ける海上保安庁。白く輝く船体は、力に屈せず、法にのっとり、事を平和裏に解決する我が国の意志を示すものです。海洋における法の支配を率先する、その姿は世界中から注目されています。
海上犯罪の取締り、領海警備、海難救助、海上交通の安全確保、海洋の調査。法の支配に基づく自由で開かれた海の堅守のために、どれ一つとして欠かすことはできません。海上保安官諸君には、国内外からの大きな期待に応え、これに対応するために精励していただきたい。
海上保安庁なくして、海洋立国日本の将来はありません。諸君の70年の歴史に裏打ちされた現場力を力に、これまで以上に多くの重要な使命を果たしていくことを期待しています。
『いつ帰ってこれる?』、『いつになるか分からない』。
海上保安官とその御家族との間で、幾度となく繰り返されてきたやり取りです。昼夜の別なく、また、いつ終わるとも分からない任務に向かう後ろ姿を、御家族は何度見送ってきたことでしょう。その度に、御家族の皆様には、不安と御苦労をおかけしてきました。
御家族の皆様の支えがあるからこそ、海上保安官は全力を出しきって、国民の安全、安心を確保し、平和で豊かな海を守ることができます。この場をお借りして、心から感謝申し上げます。
最後になりましたが、御乗船の皆様方には、常日頃から海上保安庁に御理解と御協力を頂いておりますことに感謝申し上げます。今後とも、一層の御支援、御協力を頂きますよう、心からお願いするとともに、皆様方の御多幸をお祈り申し上げまして、私の挨拶とさせていただきます。」